ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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あけましておめでとうございます。

とりあえず、新年最初の投稿?

オリジナル要素満載でスタートしたいと思います。


第21話 合宿で強くなろう

夏合宿前、沢村が奇行を繰り返していたが、それは練習での絶叫、オーバーワーク、気負いすぎている雰囲気など、少し危険なこともあった。

 

クリスと御幸が説得し、何とかオーバーワークは控えたが、その気持ちは未だに燻っている。

 

だからこそ、自分も言われた言葉を送る大塚。

 

「気負うなよ。怪我をしたら、それこそ先輩たちの想いを裏切ることだぞ。俺もその言葉は身に染みた」

 

「お! さすが故障経験者! そうだぜ、沢村。怪我をすればチームに迷惑がかかる。そして監督は、お前を戦力として見ている。最後に呼ばれたあの二人も、一緒なんだぜ」

御幸が諭すように沢村を宥める。

 

「だから、俺達に出来ることは、調子を維持して、レベルアップをして、万全の状態で夏を臨むことだけなんだぜ?」

 

「…………御幸先輩………」

 

「御幸は甘いことを言ったから、俺からは厳しめで、効果覿面の言葉を送ろう」

 

「は、はい!!」

敬愛する先輩からの厳しい一言、そう言われ、沢村は身構える。

 

「お前は、俺のようになりたいのか?」

 

「………っ」ぞくっ

震えるような声で、震えるような言葉を言い放ったクリス。そう、怪我で泣かされた選手でもある彼の言葉は、重かった。

 

「とにかくだ。夏合宿前なんだ。調子と体は維持しておけよ」

 

「そういえば、大塚。お前、入学当初に比べて、表情が柔らかくなったよな? それに、その言葉ってことは、だれに言われたんだ?」

少々意地の悪い笑顔で御幸は大塚に質問する。しかし、デフォルトをよく知らない哀れな大塚は、先輩が普通に聞いているのだと勘違いをしてしまう。

 

「えっと、マネージャーの人に怪我をするのはNGと」

 

「そうかそうか。それはよかったな。お前もお前で無茶をするタイプだし」黒い笑み

御幸は意地の悪い笑顔を維持しており、クリスは嘆息しつつも、その後の展開を望んでいるかのように苦笑いをする。

 

「??? クリス先輩? 御幸先輩?」

沢村は、二人の笑みの真意を解っていない。

 

「そういやぁ、お前って長野に彼女いるんだよな?」にやり

 

 

「なっ!? 若菜はそんなんじゃ…………」顔を赤くする。

自分の話を振られ、慌てる沢村。意識していないわけではないので、いざその事実を前にすると、混乱を起こすようだ。

 

「??? どうしたの? 見たこともない顔だよ」

降谷は、そんなライバルの意外な一面を見て、不思議そうにする。

 

「う、うるせぇぇ! 今日は早く寝ます!! 失礼しやした、クリス先輩!!」

そして急いで部屋へと戻るのだが、

 

 

ここからは沢村視点

 

「さ~~わ~~~む~~~ら~~~~!!」

部屋の中では、倉持が彼を待ち構えていた。オーバーワークと、泣いていたことを指摘されるのは仕方ないが、それでも何か違う。

 

「く、倉持先輩!?」

 

「携帯が鳴りっぱなしで、仕方なく処理をしてやろうと思ったが………なんだこれは!!」

悔し涙を流す倉持。練習試合でも、3打数無安打に抑えてはいたが、試合のことを言われると思った沢村は、キョトンとする。

 

それは、若菜からのメールであった。

 

「…………あ…………」

沢村は、去年忘れていたことを思いだす。

 

―――まあ、気をつけろよ。彼女持ちは何かと苦労するし、嫉妬の対象だからな。

 

――――まだ彼女とか………そんなんわかんないっす!!

 

御幸の言葉を思い出す。そして、最早直視できない程に、凶悪な顔になっていた倉持。

 

「沢村~~~~!!!」

 

「ひえぇぇ!! 藪蛇だァァァ!!」

 

その後、部屋の中で五月蠅くし過ぎたため、沢村は部屋を飛び出し、その後丁度いいタイミングで隣部屋からの苦情によって駆けつけた片岡監督が登場。

 

沢村は不在で、倉持が下手な言い訳をするのでこってり絞られたそうだ…………

 

さらに、原因を知った時の片岡監督のやや引き攣った顔は、逆の意味でその場に居合わせた部員にとって珍しいものだった。

 

 

視点終了。

 

 

「沢村の話は置いといて、だれなの? 誰にそう言われたの? お前にそこまでいえるのって、貴子先輩ぐらいかな?」

 

「いえ、違いますよ。同級生の人です」

 

「………ん? そうかそうか、それは面白い話を聞けた。今日はもう帰っていいぞ」

 

「??? お疲れ様です」

最期まで何も解っていなかった大塚。降谷もそんな大塚と同様、「何を騒いでいるんだ、あの先輩」と不思議そうにしながら部屋へと戻る。

 

「まあ、…………コホン………程ほどにな」

クリスも、御幸の言っていることを理解できたのか、苦笑交じりに、今年の合宿は楽しくなりそうだという。

 

「苦しいだけじゃ、ダメですからね。合宿なんすから♪」

 

 

その後、元の調子に戻った沢村が授業で盛大に寝て、先生の胃を破壊しつつついに合宿初日が始まる。

 

 

そして合宿当日、

 

「………ここか………」

沖田はいつもの練習場とは違って、何か広く感じた。

 

「……………」ゴゴゴゴゴゴゴッ

大塚は無言のままだ。

 

「………(絶対に強くなるんだ………! 絶対に)」ゴゴゴゴゴッ

沢村も気負いはしているが、気合十分。

 

「(早く投げたい………)」ゴゴゴゴゴゴッ

降谷は投げることを意識していた。

 

そして片岡監督の合宿挨拶が始まる。

 

「これから1週間、一軍の選手をメインに予選前の合宿が始まる。色々伝えたいことはあるが、取り合えず一つ、この合宿で過去に色んな理由で何人かは怪我をしている。だから合宿の練習後に無理な自主練習や投げ込みはするなよ。いや、出来なくなるから覚悟しておけ、一年生」

 

「…………」ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

大塚はその話を聞いて、過酷な練習であることを肌で感じ、闘争心が増す。

 

「因みに今年も他校を招待して最終日と最終日前に練習試合を組むこととなった。もう一度言うが、各自怪我の無いようにこの合宿を乗り切るぞ! それでは結城、声だしを始めろ」

 

その後、ランニングを行う一軍メンバー。アップをして体が温まった後、各自実戦守備練習に入る。

 

バシッ、 

 

「………ッ!」

 

ギュオォォォンッ!!

 

深い飛球を廻り込んでキャッチし、そのままその自慢の肩を活かして、レーザービームを連発する大塚。送球も正確で、日頃投球練習を重点的に行っていた大塚には久しぶりの外野ノック。

 

ポロっ

 

「あ………………ッ!」

飛球を落球し、急いでボールを投げ込む降谷。

 

「当たり前のように落球するんじゃねぇっぇ!!!」

外野ノックを行っている降谷は、渋い表情で守備練習を続行するのだった。しかしその肩は健在で、打力もある彼をベンチで眠らせておくのはもったいないので、

 

「この合宿で外野を様にさせたる!!! 覚悟しぃぃや、降谷ァァァ!!!」

 

そしてもう一人の投手、沢村は

 

パシッ!

 

ギュインっ!!

 

「送球を何とかしろォォォ!! ここで曲げる必要なんてないぞ!!!!」

 

「す、すいません!!」

不規則なムービング送球を繰り返す沢村。捕球は様になっているが、送球が壊滅的に曲がり続ける。

 

カキィィィン!!

 

「いったぞ、おらぁぁ!!」

 

「おっしゃぁぁぁ!!」

パシッ、

 

「えっと、にぎりは…………」

そしてフォーシームの握りをし始め、時間をロスする沢村。

 

「なにやっとんじゃぁぁぁ!!! 走者はまってくれへんぞ!!!!」

前園の胃が段階的に破壊されていく。

 

 

「す、すいませんっ!!!」ギュイン

 

「なんでお前の送球は曲がるんじゃァァァァ!!!!」

 

 

「………………ホント、何かをしでかすね、二人とも…………」

大塚は黙々と外野ノックを受けるのだった。

 

一方内野では、

 

「ボールファースト!!」

 

シュッ、パシッ

 

 

「強いの行くぞ!!」

 

キィィンッ!

 

「くっ!!」

沖田はその恵まれた身体能力でその速い深い打球に対し体をホームから横にしながら片手で取り、

 

パシッ、ギュオォォォンッ!!

 

「ナイスボールっ!!」

ジャンピングスローで身体の反動を利用したストライク送球。しかし沖田は今のに対しても、

 

―――反応が遅かった………くそっ………

 

身体能力に任せた守備では上達しないと、悔しがっていた。

 

その後、セカンド小湊とのゲッツーの練習、ホームフォースアウトなど、様々な局面での実戦守備練習を行う。

 

そして狩場もまた二軍からではあるが、初めてづくしの合宿に、ついていくのが精一杯だった。

 

 

「マウンドでおろおろするなぁぁ!!! 迷いながら走るんじゃねぇ!!」

ランナー一塁二塁。外野からのバックホーム。本塁カバーは出来ていたが、動きがぎこちない。

 

一応野球を学んでいたので、どういう時に何をすればいいのかはわかっていた。だが、あの容量の割に、あまり使われていない沢村の頭を回転させるには、熱が足りない。

 

「す、すいません!!」

 

「理屈わかっとるんやから自信を持て!! 判断が遅い!!」

 

 

その後、沢村は頭でわかっている動きを、体でわからせることに重点を置いた投手の実戦守備練習を行った。

 

ポロっ

 

「さっきからぽろぽろし過ぎや!!! 息をするようにエラーすんなぁぁぁ!!!」

 

「すみません………」しゅん

 

しかしセンスがあるのか、投手の守備練習は初日で様になっては来ている。まだ送球と一塁カバーに問題があるが。

 

 

その後、夕方前の休憩が入り、野球部員の大規模な食事が始まる。

 

「美味そう………これ、食べていいんですよね! ですよね!?」

目をキラキラさせている沢村。明らかに整った形に、美味しそうな匂い。沢村はすでに食欲の化身に乗っ取られていた。

 

「おいしそう………」ぽぉぉぉ………

降谷も、日頃は見られない少し嬉しそうな表情。鼻がひくついている。

 

「………適度な食事………適度な食事だ。クールになれ、俺(美味そう………あれならいくらでも食べられそうだ………)」

沖田も、食べることは好きなので、これを見た瞬間に涎を我慢している。喉が何度もゴクリといっている程だ。

 

「…………3人とも………少し落ち着こう…………」

大塚は冷静さを失っている3人に声をかけるも、あまり意味がなかった。

 

そして、沢村が倉持先輩に食べ物を散々恵んでもらっている中、大塚は自分のペースで食べていた。

 

「…………(あんなに食べて大丈夫なのだろうか。夜の練習は基礎中心だし、吐かなきゃいいけど………)」

 

沖田、東条、小湊とともに、食事をとっている面々。

 

そこへ…………

 

「ヒャハハハッ!! 食が細いぞ、一年坊主!!」

沢村の所にいた倉持先輩の登場である。彼も適度に食べている。だが、その彼は一年生たちに何かを言いたそうだ。

 

「夕方の練習はもっときついぞ! 今のうちに食べておかなきゃやばいんだぜ!!」

 

「そ、そうなんすか!? 」ぱくっ

その言葉を信じた東条が食べ始める。

 

「………けど、余ったらもったいないし………」ぱくっ

馬鹿食いをしている3人に加え、そこそこ食べ始める東条と春市。倉持の瞳が怪しく光っているのを大塚は見逃さなかった。

 

「すいません、お腹いっぱいです(ここでこの先輩は優しくなるような人じゃない。逃げよう………)」

大塚は、この場を後にするのだった。

 

「頑張って食べているぞ、他の一年生。良いのか、お前は?」

 

「カロリーを計算して、これぐらいが自分の許容量です。投手として自己管理をするのは当然です。それに、夕方の練習は暗くなるし、走るメニューが多くなりそうです。基礎練習中心ならば、エネルギー補給は無論必要ですが、体を動かしやすい適度な食事が必要です。さらに…………(バレルナバレルナバレルナバレルナ………)」

とりあえず、もっともらしいことを言って、何とか逃げることに専念する大塚。自分でも何を言っているかわからない程に、訳が分からない自分の理論に、内心ではかなり焦っている大塚。

 

「わ、わかった…………(なんだ、こいつ………マジで隙がねぇぞ……)」

倉持は、彼を地獄に突き落すことを諦めた。これ以上構っていると、話が長くなりそうだと。

 

「失礼します。それと、合宿を乗り切りましょう、倉持先輩(ごめん、みんな。吐いたらみんなの責任。けど、助けられなくてごめんなさい。)」

 

倉持が去った後、

 

「なんだかこれが合宿って感じですね。あ、これどうぞ」

フルーツ系を取り忘れていた大塚に、吉川が差し入れを持ってきた。

 

「フルーツは取り忘れていたんだよね。助かるよ。まあ、これで済むわけがないだろうなぁ………」

嘆息する大塚。日中の練習を無難にこなしていた大塚だが、夜の事を考えると鬱になる。

 

「大丈夫です!! 練習で死ぬ人なんてほとんどいませんし、大塚君なら大丈夫です!」

 

「死ぬ瀬戸際なのか………」

さらに落ち込む大塚。そんな彼に振った話がマイナスだったことに気づく吉川は慌てて謝る。

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

「いや、まあホント、やるしかないよね………(明日ちゃんと起きれるかな………)」

 

「で、では………!!」

急いでその場を後にしようとする吉川だが、

 

「気をつけなよ~~」

今度は前方を確認しながら走り去る彼女。そんな彼女が学習していることに地味に感動しつつ、自分の定めた摂取量を食べるのだった。

 

そして、まあこの大所帯だ。二人のやり取りを見ている部員はいっぱいいて、

 

「…………」

 

「………二人ってなんで仲が良いんだろうね?」

沢村は地元のガールフレンドを思い出し、降谷は接点がないのであまり気にしていなかった。

 

「ちゃんと気づいているのかな、栄治君」

春市は、そんな光景を温かい目で見守っていた。

 

「というか自然体で女子とあんな風に………うらやまけしからん………」

狩場は、この時だけ大塚に殺意を覚えた。

 

 

 

「アイツ………マネと結構話していたな………」

伊佐敷はリア充であった大塚を凝視していた。

 

「大丈夫だ。問題はない」

結城は何かを勘違いしていた。

 

「へぇ、そういうことね。」

 

「修学旅行で苦労するぞ、あいつ………」

 

「(夜が楽しみだなぁ、うしし………)」

御幸は、そんな大塚と吉川のやり取りを見て、嫉妬の炎と、何もよく解っていない主将が場に流されて燃えているのを見て、してやったりな目をしている。

 

 

そして夕方後の練習に突入すると、

 

ポール間ダッシュ20本。

 

「タイヤは伊達じゃねぇっぇ!!」

沢村は元気よくダッシュをする。インターバルが短いが、それでも足腰は相当この日まで鍛え上げられている。

 

「キツイ………」

降谷はなんだかんだ言いながら、さほどペースはおちていない。

「……………」

 

「……………」

 

「………二人とも黙々としてるなぁ……」

小湊は、黙々と走る沖田と大塚を見て声をかける。

 

「(俺、ホントに一軍なのかな…………)」

東条は、場に圧倒されていた。

 

まだまだ元気そうな一年生ズ。

 

 

ベースランニング100本。

 

「おっしゃぁぁぁ!! まだまだ行けるぜェぇぇ!!」

 

「沢村は相変わらずだね………」

 

「まあ、奴は体力だけはあるからな」

 

 

「うん。僕もまだまだ(あの時結城先輩の自主練に参加しててよかったぁ………)」

 

「………きつい………」

 

「………ゼェ………ゼェ………ゼェ…………(こいつら、特に沢村と沖田………どういう身体してんだ………)」

 

 

最期のランニング20周で、

 

「おっしゃぁっぁ!! 終了!! 沖田? なんか顔が蒼いぞ?」

沢村はいつもなら余裕な表情の沖田が蒼い顔をしているのを気にしていた。

 

「そのようだな。大丈夫だ、問題ない(ここで吐くな、吐くな、吐くな、吐くな)」

 

「ちょっときついね。これ(ああ。やっぱり吐きそうなんだ……沢村はなんで平気なの!?)」

沢村、沖田、大塚がクールダウンをして上がる中、

 

「」

白くなっていた東条が発見された。

 

「しっかりしろ、東条!!」

狩場に指圧を受けている東条。とにかく動き元気がないようだ。

 

「ゼェ……ゼェ………吐きそう……」

 

「ハァ……ハァ………ハァ………お腹が、苦しい……ウエッ」

 

降谷も小湊と肩を貸し合いながら歩いている。やはり体力に劣る二人は3人ほど楽ではなかったようだ。

 

 

 

そして、その後道端で倒れている二人を発見した大塚は、

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! 誰かぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

慌てて同級生たちを呼び、二人を看病するのだった。尚、沖田はトイレで無事に吐き出した模様。

 

 

そんなこんなで合宿初日が終了すると。

 

「…………俺からの一軍昇格…………ン?」

金丸が沢村にご飯を食べさせようとするが、

 

「おかわりっ!! 」ひょい

金丸から差し出された野菜をあっさりと取って食べ尽くす沢村。

 

「俺は……これぐらいでいいや………」

沖田は、やはり食べ過ぎで気分が悪いのか、食が進んでいない。ノルマは達成しているが、沢村ほど余力はない。

 

「沢村君、二日目も飛ばしすぎでしょ………」

大塚はそんなバカ体力なライバルに呆れる。

 

「……………」もぐもぐ

 

「エア食事するなぁあぁ!!」

 

「…………(これを食べるのか…………)」ちーん

 

「(朝から重いなぁ………)」

東条と小湊は、目の前に出された食事量に、圧倒されていた。

 

「おう、沢村!! 元気そうじゃねェか!! もっと練習量増やすか!?」

伊佐敷が騒がしい一年生テーブルを見て、冗談半分にそんな恐ろしいことを言い放つ。

 

「勘弁です!! 自主練できないほど疲れているッす!!」

 

「余裕ありそうだなぁ、メニュー追加な、マネさん!」

 

「先輩ぃィィ!!!」

 

結局冗談であることを知り、悶々とする沢村であった。

 

 

二日目、外野は送球以外様になっている沢村。大分様になってきているが、プレーが荒い降谷、外野手として最低限問題ない程度の大塚と、投手陣のセンスがいかんなく発揮された。

 

「負けない!!」

 

「負けません!!」

 

しかし上級生にはいい刺激になったようで、長打力のある降谷、ミートのうまい大塚はやはり侮れない。

 

そして……

 

 

「くそっ!! ゴロばっか!!」

内野ゴロを量産する沢村。しかしどこかの世界ではバットにすら当たらない時間軸もあり、凄い進歩なのだろう。

 

「フォローが、それにスイングが滅茶苦茶すぎる。どうやって当てているんだ………」

大塚は、沢村のよくわからないセンスに、困惑していた。

 

その後、フィールディングに難のある降谷と、送球に難のある沢村を差し置いて、大塚は本格的にブルペン練習へと入っていった。

 

カキィィンッ!!

 

大分打撃の調子を上げてきた沖田。左に引っ張る打球と、右に引っ張ったような逆方向への打球の伸びが鋭く、守備も今のところ穴がなく、守備範囲も広い。

 

「へっ! やるじゃねぇか!!ヒャハッ!(ライバル登場ってか!? まけねぇよ!!)」

ショートを任されている倉持は、沖田の総合力に少し気圧されつつも、走塁と小技では負けないと、闘争心を掻き立てる。

 

「沖田!! いつものアレをするのか?」

斎藤ら上級生とともに、トスバッティングを行う沖田。体が動かない他の同級生野手陣とは違い、バランスボールに乗った練習を開始する。

 

 

バランスボールに乗ることで、腰の回転とバランス感覚を養う練習。腰の回転と下半身のバランスがなければ、まともにスイングすることすら難しい練習。

 

あえて彼はこれを選択していた。

 

「奴の練習は相変わらず特殊だよな」

倉持は、そんな沖田のトスバッティングを見て、その原理をいまいち理解していなかった。それに、あの練習を会得するのはそんな短時間で出来るものではないことだけが解った。

 

「アレが、彼の打撃の原点なんだろうね。」

右打ちや、連続ティーなどの練習は行っていた小湊。だが、バランスボールは初耳だ。

 

 

そして、それを見ているのはレギュラー陣だけではない。

 

 

「良く続けられるよな、アレ」

 

 

「ああ。アレを一度やってみたが、短い時間でも相当だぜ、アレ」

 

 

2年生のベンチ外メンバーは、沖田の練習を真似てはみたのだ。だが、やはり今までとは違う練習、地味にきつい練習、バリエーションに富んだこの方法を使いこなせず、未だに彼のようにこの練習の本懐を為し得ていない。

 

 

――――俺はもう迷わない。自分の打撃をするだけだ。

 

結城主将のあの言葉に、自分はどこか救われた。野球に対して、大塚に対してあの時まで引け目を感じていた。

 

―――俺はもう、迷わないッ!!

 

もう一度、自分に言い聞かせるように、沖田はバットを振るい続ける。

 

 

――――自分の打撃をして、期待してくれているみんなの為に、プロを目指す!!

 

トスを地道に続ける事で、あの頃の感覚に戻れた。物事をある意味シンプルに見つめ直すことが出来た。そして自分に正直になれたのだ。

 

きぃぃんッッ!!

 

そして沖田の打球はネットへと叩きつけられる。その打球の鋭さも、一打ごとに上がっている。

 

「ウエッ……やっぱ腹が気持ち悪い……」

青い顔をしながら、沖田は何とかこの合宿の疲労で崩れたフォームの整備を行うのだった。

 

 

「………ふっ(吹っ切れたようだな、沖田)」

結城は、そんな沖田の打撃を見て、笑みを浮かべる。

 

あの試合以降、明らかに好調な沖田。夏予選でも出番が増えるかもしれない。

 

 

「沖田君……どうやら吹っ切れたようね」

 

「ああ。これで内野の争いも活性化されるな」

貴子も結城も、後輩がついに完全に吹っ切れたことを本当に喜んでいるのだ。

 

 

倉持、小湊の二遊間は優秀だ。だが、倉持に比べ、沖田は天性の素質を備えている。ばねのようにしなやかな体。ミート力のある打撃に、一発もある。

 

そして走塁も悪くはなく、足も遅いわけではない。それでいた上半身の強さと、それを支える下半身の粘り。打撃の調子が守備にも影響を与えていた。

 

その頃、東条も打力を上げ、長打も増えていた。低めの球は、ボールでも強引に運ぶ力は持っており、センスもある。これが投手の外野守備に次いで、上級生たちの危機感を煽っている。

 

だが三日目、一年生たちは、限界が近いことを身を持って知る。

 

「ハハ………ちょっと疲れてきたな………けど、まだまだァァ!!!」

少し息の荒い沢村。ここでほんの少しだけ、苦しそうな顔をするようになる。

 

「…………………(体力だけは、勝てる気がしないね)」

無駄口を叩かなくなった大塚。沢村と同様に、何とかついていくことは出来ているが、3年生の中心には及ばない。

 

「楽な顔をしているな、先輩たち………」

沖田も、少し顔をゆがめていた。青い顔が進化して、白い顔になっている模様。お腹さえ万全ならば。

 

 

 

「(足が動かない………!!)」

 

「(くそっ………下半身に相当来てやがる………)」

 

東条と小湊は疲労から、プレーにばらつきが目立つようになる。

 

「もう終わりか、一年生?」

 

「練習は続きますよ?」

坂井と白洲から声をかけられる東条。

 

「(俺はまだ負けない。負けたくない………!!)畜生っ………!」

東条はその日、これが極限状態なのだと思い知った。だが、やっとつかみ取った感触をこのまま手放したくない。あの時の一打を放ったからこそ、東条はまだ倒れることを拒絶していた。

 

――――ここで止まったら、あの時の俺は何だったんだ……だからッ!!!

 

 

 

「まだ、僕は出来る………ッ!」

苦痛に顔を歪め、春市は尚もノックを受ける。

 

「(主将と自主トレしていたからかな? 多少は粘るね)」

そんな弟の姿に、小湊は笑みをこぼす。

 

「ッ!!」

そして未だ衰えない沖田。打撃も無駄な力が入らないせいか鋭さを増し、打球の質も上がってきていた。

 

―――これだ………これが打撃の極致なのか?

 

沖田はまるで、自分の体が扉を開いている感覚に陥る。今まで力んでいたコースも、力まずに適度な力で振り抜き、スイングによどみがない。疲労から崩れていたフォームが息を吹き返したのだ。

 

 

「この感覚だ………あの人に近づくには………これを………!!」

ちらりと、沖田は打球を澄ました顔で飛ばす結城を見た。

 

「打球もよくなってきたな。沖田」

 

「はいっ!!」

 

―――あの人の前か後ろ………そのどちらかを打たせてもらえるような、そんな強打者になってやる!!

 

「け、けど、もう限界……」バタン

お腹を抑え、沖田がその場でダウンし、

 

「うわぁぁぁ!!! 沖田が倒れたぞ!!!」

 

「マネージャーを呼べェェェ!!!!」

 

 

疲れが見える中、この合宿三日目も終了。成長著しい若き野手陣達。

 

 

そして、若き投手陣の中で外野守備がまともになった大塚は、監督命令で別メニュー、例のフォームの試行錯誤を行ってたが――――――――――

 

 

ドゴォォォォォンッッッッ!!!!!!

 

 

「――――――――――ナイスボール………」

 

 

屋内練習場に響き渡る轟音。唸りを上げるストレートが、クリスのミットに収まる。

 

「――――――っ」

その隣にいた、川上は何も言えなかった。その横で行われた極限の集中力をぶつけ合う投球練習。

 

「おいおい。マジかよ」

その川上のボールを受けていた御幸は、クリスのミットに収まった彼のボールを見て、乾いた笑みを漏らす、そうせざるを得ない。

 

 

――――彼の持てるすべての力が、この瞬間にすべてつながった。

 

 

 

彼らの視線の先にいるのは、エースを狙う者。

 

 

 

今年の夏の頂を、欲する者。

 

 

「ようやく、掴んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・・・・・いろいろとやらかし過ぎな大塚。ボケ役の沢村がああなるほどの失態。通常なら凹られても文句は言えない。

沖田もお腹には勝てなかった。他の一年生はお察し。

大塚の危険察知能力(物理)は伊達ではない。

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