ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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さぁ、沢村の無双タイムです。




第11話 紅白戦後編 青道の穴

一番小湊 春市 セカンド

二番金田 忠大 センター

三番金丸 信二 サード

四番沖田 道広 ショート

五番東条 秀明 ライト

六番モブ1号  レフト

七番狩場 航  キャッチャー

八番モブ2号  ファースト

九番沢村 栄純 ピッチャー

 

 

 

「(行くぞ、沢村!! お前のボールを見せつけてやれ!!)」

狩場は右打者へのインコースのストレートを要求。

 

沢村はその強気なリードに笑みをこぼす。

 

「行くぜっ」

 

ワインドアップから振り被る。そして足を大きく上げるピッチング。

 

「(こいつ、何だこの投げ方…………!!)」

先頭打者は、その沢村の独特なフォームに戸惑う。

 

そして右手を壁に、左足に体重を乗せ、

 

 

―――その左腕が姿を現す。

 

「!?」

 

 

ずバァァァッァン!!!!

 

「ストライィィィクッ!!」

インコースに内側一杯のストレート。それが決まりワンナッシング。この強気の攻めに、そしてそれに応えた相手投手に、上級生は衝撃を受ける。

 

「(何だ今のは…………体に隠れた腕が、突然…………!)」

 

 

ズバァァッァアンン!!!!

 

「ストライクツーっ!!」

 

そして、今度は一転してアウトコース一杯のストレート。両サイドを上手く使う事で、この沢村のコントロールとフォームを最大限利用している狩場。

 

「くっ!! そうポンポンっ―――」

 

―――ここはあれを使うぞ、サークルチェンジっ!!

 

 

「おらァァァ!!!」

沢村の変則フォームからの投げ込まれたボールは外に、そして―――

 

ククッ!!

 

「なっ!!」

 

パシンッ!!

 

「ストライィィィクッ!! バッターアウトっ!!」

 

「おっしゃぁぁぁ!!!」

 

外へ逃げるサークルチェンジが決まり、三振を奪う沢村。

 

続くバッターへもインコースを続け、

 

「ファウルボールっ!!」

二球目はインコースの高めボール球で上手くカウントを稼いだ沢村、狩場バッテリー。

 

―――インコース、ワンバウンドの高速パームで様子を見るぞ。

 

 

シュンッ!

 

沢村が振り被り、その変則フォームで投げ込んだ高速パームが手元で膝へと縦に沈み、

 

キィン!

 

「うぐっ!!」

 

ボール球を打たされた二番打者はあえなくセカンドゴロに打ち取る。

 

これ以降沢村はテンポに乗り、続く三番打者、初球から振ってきたために、ムービングファーストを打ち上げてしまい、サードフライに打ち取られる。

 

 

「おっしゃぁぁ!! 三者凡退っ!!」

ガッツポーズを決め、沢村は意気揚々とベンチへと帰る。

 

「うずうず………」

降谷は、そんな沢村の様子に、かなり我慢がきかなくなったようだ。

 

「大丈夫だって、降谷にも必ず出番はあるよ」

 

 

そして2回の表、先頭バッターの東条。

 

―――あのカーブは右打者にとっては向かってくるようなボール。コントロールがまあまあいいから、当たる危険は少ないと思う。踏み込みを恐れちゃだめだ。

 

沖田も、ただでは打ち取られず、この丹波のスタイルを、一年生に伝達する。

 

そして―――

 

カァァァン!!

 

低目ボール球の様子見のカーブを上手く掬い上げ、長打を打つ東条。ライト線へと転がるツーベースヒット。

 

「くっ! (あの低めのボールにバットを当てるだと!? どういうセンスをしているんだ!?)」

全ては沢村の強気な投球である。彼が一年生にムードと流れを呼び込んだのだ。

 

「打たせていけ、丹波!!」

 

「バッター集中!!」

バックからの声に少し笑みをこぼす丹波。

 

「ふしっ!!」

 

そして続く6番打者をカーブで見逃し三振に切って取り、

 

「しゃぁぁぁ!!!」

まずワンアウトを取る丹波。カーブの精度も、あの前の試合に比べて上がっており、復調の兆しがみられる。

 

 

しかし、ここで7番捕手狩場航。

 

「(沢村が作った流れ、ここで打たなきゃキャッチャーじゃねぇ!!)」

何が何でも出塁する。その強い意志を持って、狩場はバッターボックスに立つ。

 

シュンッ、ギュイン!!

 

右打者へ向かってくるように、そして急激に曲がるカーブに、初球手が出ない狩場。

「ストライィィィクッ!!」

 

「くっ………」

思っていたよりも曲り、そのキレに驚く狩場。

 

続く二球目のインコースストレートは外れてボール。

 

「(勝負球は………いや、ここで配球を読むなんて出来ない! 来た球を打つ!! デットボールでも儲けモノだ!!)」

 

「(このバッター。カーブが怖くねぇのか!?)」

三年生捕手のリードする宮内は、この狩場の気迫に気圧される。

 

そして三球目、様子見の外角ボール球のストレートを

 

カキィィンッ!!!

 

「なっ!!」

何とボール球でも当ててきたのだ。打球は強く跳ね上がり、一塁手の頭上を越えた。

 

「ランナー廻れ廻れッ!!」

二塁ランナー東条は三塁を回る。ライトの処理も思ったより打球が転がらず、ボールは転々とする。

 

「バックホームっ!」

 

ザシュッ!!

 

「しゃぁあアァァ先制っ!!!」

 

「いいぞ狩場ッ!!」

 

「ナイスガッツっ!!」

 

まさかの一年生の先制。三年生の丹波、不運な当たりではあったが、それでも結果はタイムリーツーベース。バックホームの間に、二塁を陥れた狩場。

 

しかし後続が倒れ、沢村は三振で、結局は一点どまり。

 

 

 

圧巻だったのが2回裏、同室対決で四番増子との対戦。

 

「増子先輩…………」

沢村は昨日のことをもい出していた。

 

―――あの人、今日は喋ること禁止しているんだぜ

 

 

―――たった一度のエラーで、レギュラーを外されたんだぞ。

 

「…………ッ!」

同室でお世話になった先輩とはいえ、ここは勝負の場、沢村も逃げるわけにはいかなかった。

 

「俺はレギュラーに返り咲くぞ。全力で来い!!」

 

「………はいっ!!!」

 

―――けど、俺だって………エースになるんだッ!!

 

 

「同室対決か。沢村の投球には驚愕の連続だけど、ここでお前の真価が試されるな。」

 

他の一軍はまだ来ていない。今のうちに、彼の全てを見ていたい。捕手としての欲求が、どうしようもないくらいに高まっていた。

 

御幸は最初から沢村の投球を見ていた。去年まではあのムービングボールだけだったのに対し、今年の沢村は速球系の変化球を併せ持ち、チェンジアップをわずか数日で会得したのだ。

 

―――増子先輩、奴は相当のやり手ですよ。

 

 

 

 

―――この人はパワーがある、一球外にボール球のチェンジアップ。

 

「ボールっ!」

まず外してきたのを見て、増子は相手バッテリーがこちらのパワーを警戒しているのを悟る。

 

―――甘いところは持っていかれるぞ、厳しく行け!

 

キィィィィンッ!!

 

インコースへのストレートをファウルにし、ワンストライクを奪う。

 

―――これで、ストレートの軌道を見せた、後はムービングボールで詰まらせるぞ!

 

キィィィンっ!!!!

 

しかしこの打球はレフトに切れてファウル。さすがの沢村も冷や汗をかく、

 

「へっ………(なんつーパワー………さすが一軍…………)」

しかし闘争心は微塵も衰えない。

 

―――これでインコースを意識する。ここは敢えてインコースもあるが、一発もあるし怖い………だが外が広くなったはず、ここは外の高速パームで空振りを奪う―――

 

しかしここで沢村、首を振る。

 

「!?」

 

―――まさか、インコース、カットボールか!?

 

そのサインに、沢村は頷く。本気で沢村は力でねじ伏せに来ているのだ。

 

―――OK、乗った。どうなってもしらねぇぞ(笑)

 

しかし狩場は不思議とやられる予感がしなかった。

 

そして―――

 

がきぃぃんっ!!

 

増子も狙っていたかのようにインコースを振り抜くが、カット気味にスライドしたボールにさらに詰まらされ、ボールは高ーく打ち上げられる。

 

 

そして最後は沖田のグローブへとおさまり、増子をインコース勝負で打ち取って見せたのだ。

 

「しゃぁぁぁ!!!!」

 

強気のインコース攻めに、速球を動かす技術。それに応えた制球力と度胸。

 

沢村の気迫勝ちだった。

 

「(沢村ちゃん………気持ちの籠った、いいボールだったな………)」

そして敗れた増子もまた、ここ待っての真っ向勝負をして、負けはしたものの、なぜか気分は晴れやかだった。

 

 

そして―――

 

「合格だ、沢村。今日から二軍へいき、その後の調整で、一軍に上げる。」

 

「うっす………!!! (くっそぉぉ、まだ足りないのかよ………!!)」

二軍行きを言われた。一軍のチャンスは、かなり近づいたが、調整後という制限つきだ。故に、速くても春の関東大会からになるだろう。

 

しかし、2回をパーフェクトに抑えた沢村のピッチングは、堂々たるものだった。狩場のリードもさえ、打たせて取る、三振を奪う緩急自在のピッチングで、つけ入るすきを与えなかった。

 

2回を投げ、被安打0。奪三振2。四死球ゼロ。

 

ただ、難点なのは、

 

「リードして分かったけど、チェンジアップが左打者には浮いて見える。ここは改良点か………」

 

 

 

さらに、3回の表は丹波が上級生の意地を見せつけ、それ以上の得点を許さない。

 

 

そして次にマウンドに上がるのは、

 

「ピッチャー、降谷!!!」

 

そしてここで三回から降谷登場。大塚と沖田は知らないが、昨日彼は上級生と騒ぎを起こしたらしく、「明日の試合、ここにいる全員に打たせる気はない」と言い放ったそうだ。

 

故に、上級生の闘争心を煽っている。

 

さらに、この一年生投手陣を前に、未だに無失点、ヒットはおろか、四死球もゼロ。

このまま終わるわけにはいかない。

 

―――ここはストレートだ、というより、お前はストレートしかない。思いっきり腕をふれ!!

 

ワインドアップから振り被り、

 

ドゴォォォォォォん!!!!!

 

「くっはぁぁ………痛いなぁもう………!」

狩場は監督に当たるはずだった上に外れたボールを何とかキャッチするも、腕に痛みを覚える。

 

「……………合格だ、降谷。お前も今日から二軍へいき、調整を経て一軍入りを果たせ。」

 

「え…………?でもまだ一球しか………」

 

「このまま続ければ、一年生の捕手がつぶれる。取れるのだろうが、まだまだ頑張ってもらわなければ困る。」

 

 

「すまん………降谷…………」

狩場が申し訳なさそうに謝る。しかし、降谷はそんなことを気にしておらず、

 

「大丈夫。僕のボールを短期間で取れるようになったし、まあ、後で御幸先輩に取ってもらうことにするよ」

 

「ああ、(この剛速球をあの人は取れるのか? 取れるのなら、試合後に聞きに行きたいな)」

狩場も試合後の目標が増えた。

 

「監督、絶対にアイツの球を打ちます!! いくらなんでもそれは………!!」

 

「だが捕手の負担が大きい。今怪我をしてもらっては困る。貴重な、奴のボールを取れる一年生だ。そして、経験も積ませたい」

 

「う…………」

 

 

 

そしてマネージャーサイドでは、

 

「凄いわね、あの子。沢村栄純って、言ったかしら。初練習試合で二回をパーフェクト。狩場君も強気のリードで上級生を抑えちゃうなんて…………」

貴子は、有望な一年生投手の出現に、心を躍らせる。これで三年生の夢がかなう道がまた一つ近づいたのだと。

 

「………凄いですよ。あんなにコントロールがいいなんて………体力テストはそうでもなかったのに………」

春乃は、体力テストでの沢村の制球が並だったことを知っているので、今の沢村の制球力に驚いていた。

 

「実戦で力を発揮するタイプね。強心臓の変則オーバースロー投手………」

 

「これでまだ、降谷君と大塚君が控えているのよね、この世代………」

唯は投球練習での降谷と大塚の球を見ていた。はっきり言うが、やはりこの世代はモノが違った。

 

更に野手では、今日は結果の出ていない強肩強打、守備の名人、ショート沖田と巧打のセカンド小湊の二遊間、サードにはストレートに強い金丸、制限はあるが、降谷の球を取ることのできるキャッチャー狩場。

 

豊作どころではない。黄金世代といっても過言ではない。特に投手陣は三本柱。沖田はあの結城の雰囲気すら醸し出していた。

 

 

その後、二番手の降谷が、一球でマウンドを降りると、

 

「………とんでもないわね、この世代は…………」

貴子は乾いた笑みすら浮かべていた。

 

あの剛速球もそうだが、狩場のあのファインキャッチも見事だった。上体を逸らしながらの捕球で、監督の頭を守ったのだ。

 

「………………凄すぎて、もうわかんないです………」

春乃は、今の球を見てもう驚かないことにした。

 

それに狩場もあの丹波のカーブに粘っていたのだ。ここにきて、結城キャンプの効力が出ていた。

 

そして三番手、ついに大本命登場。

 

「ピッチャー、大塚ッ!!」

 

この三回からの登板だが、いつでも行ける調整はしていたので大して問題がない。

 

「この試合、SFFは一度も投げないよ」

大塚はここで決め球の封印を言い放った。

 

「マジか、まああれを取るには体で止めるしかないしな………」

狩場もアレをキャッチすることは無理でも、体で止める事ならできるようになった。絶対に後ろに逸らしたくない。その強い気持ちが、狩場をまた成長させたのだ。

 

 

「後、スライダーとパラシュートチェンジを使いたいし、実戦でどうなるのかを確認したい。ストレートの球威も確認したいし」

 

「解った」

 

 

そして3回の裏が再開され、7番からの攻撃。カウントは先ほどのはノーカウントとなる。

 

シュッ!!

 

ワインドアップからのテイクバックの小さいフォームから繰り出されるストレートが、アウトローへと決まる。

 

「ストライィィクッ!!」

 

「こいつも取りづらい………!!」

 

バッターの足元を見ている大塚。バッターへのアプローチを怠らない彼は、そのタイミングを外す動きにより、バッターに踏み込ませない。

 

ぐいんっ!!

 

そして、今度は横へと大きく曲がるスライダー。ストレートを待っていたために、アウトローのボールコースを空振りしてしまう。

 

―――遊び球に一球アウトハイのボールのストレート。これで空振るなら丁度いいか

 

ズバァァアン!!

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」

 

三球三振。パラシュートチェンジを投げるまでもなかった。大塚は何でもないように次の打者へと集中する。

 

続く打者も、ストレートに詰まらされ、カウントを整えられると、

 

フワッ、

 

「あ!!!」

沢村はその瞬間に叫んだ。あの球種は自分が投げているチェンジアップと違うことに。

 

しかも打者はまたしても三振。急激にブレーキがかかり、手元で大きく沈むこのチェンジアップの前に、打者のバットは空を切る。

 

「……………………」

沢村も、そして降谷も、そしてこの大塚もまた、上級生相手に寄せ付けない投球。圧倒的な投手を前に沈黙してしまう。

 

この回は三者三振に抑えられ、その裏についに、未だに上級生チームは一年生チームから得点を奪えない。

 

なお4回の表、丹波は結局4回1失点で降板し、川上がマウンドに。川上は左打者にヒットを許すも、右打者の多いこの一年生チームをゼロに抑える。

 

 

 

 

そして試合展開を見守るOBたちの間でも、一年生の奮闘が目に映る。

 

「先発の左腕……アイツもいい球を投げていたよな」

 

「あの程度の速度にやられるようじゃ、上級生もまだまだだけどな」

 

「それに、あの剛球右腕。すごいな、一球で終わったぞ」

 

「ああ。150キロは越えているな。」

 

 

そして、彼らの話を聞いていた御幸は心の中である一点を否定する。

 

―――あの程度のストレート、か。左で130は相当早いんだけどな。けど、奴の球質をわかっていないようじゃ、あの結果は残当だな。

 

 

 

 

「けど、やはり結果を出しているな、大塚栄治。」

 

「ああ。アイツは本物だ。青道の弱点が解消されるかもしれないぞ」

 

 

 

カァァン!

 

そして4回の裏。初球カットボールに詰まらされ、一番がファーストゴロに終わり、球数を稼げず、打ち取られると、

 

ククッ、フワッ!

 

ブゥゥゥン!!

「何だ、この変化球………これではまるで…………っ」

上級生の中でも気づいたモノがいるだろう。明らかに普通のチェンジアップではないことに。

 

二番はパラシュートチェンジの後の低めの真直ぐに振りおくれて三振。緩急をつけた投球に掠りもしなかった。

 

 

三番もストレートにタイミングを合わせるも、タイミングを僅かにずらされ、ピッチャーフライに抑えられる。

 

「くっそっぉ!! あの一年生。本当に中学卒業したての坊主なのかよ……!!」

 

「これでまだ、SFFを投げていないだと…………」

そして彼は決め球を封印している。ラストボールはスライダーか、チェンジアップ、ストレート。

 

 

増子はまだノーヒット。だが、あの沢村に食らいつき、次の回で大塚と対戦することになる。

 

「大塚、次の回はいけるか?」

片岡監督の声がかかる。

 

「行けます。リリーフで投げている感覚ではないですから」

 

 

そして、この回。増子対大塚。

 

「―――!」

 

吼える増子。そしてそれを見つめる大塚。

 

――――先ほども沢村にいったが、こいつだけは気を付けていけ。初球インコースのシンキングファースト。外れてもいい。インコースに厳しく攻めろ

 

「ボールっ!!」

 

続く第二球。強気なリードを続ける狩場のリードを読みにかかる増子。

 

「(このキャッチャーならどうするか、これほどの投手、強気になるだろう)」

 

 

しかし、今度は一転して、カーブ気味に逃げるパラシュートチェンジで外へのボール球。しかし益子、何とかバットを止める。

 

「ボールツーッ!!」

 

―――やっべぇぇ。緩急を使いすぎた。いいコースなのに見極められたという事は、そういうこと。

 

――――力押しで行くぞ、狩場

 

――――解った。

 

 

そしてここで、インハイのストレートっ。

 

 

ズバァァァァン!!!

 

「…………ッ!!」

明らかにボールの下を振り、タイミングが遅れた。益子は大塚が相手のタイミングを崩しに行っていると知り、警戒して踏み込みが遅れたのだ。故に、左足の踏み込みが遅れた。

 

―――ここはもう力押しでいい。抑え込むぞ!

 

ズバァァァンッ!!

 

「ストライクツーっ!!」

そしてインロー際どい所へと決まり、ボールツーから益子を追い込んだ大塚、狩場バッテリー。

 

――――封印すると言ったね、あれは嘘だ。この人相手に、手加減はキツイ

 

 

――――解った。俺の練習にもなる。

 

 

「…………………ッ」

増子は二球での状況では上手く見極めていたが、力押しで来られ、後がない状況。焦りが見え隠れしていた。

 

そして繰り出される必殺の決め球。

 

ブゥゥン!!!

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」

最期は落とすボール。SFFで三振に打ち取った大塚。空振りを取られた増子は、悔しそうにするが、彼にだけ、あのSFFを投げたという事、そして、あの大塚に投げさせたという事を片岡監督は評価した。

 

―――大塚を本気にさせた増子………奴の打撃は捨てがたいし、守備でも好守を連発した。一軍に戻す頃合いか………

 

その後、3イニングを投げてパーフェクトの大塚もマウンドを降り、試合は終了となった。

 

その後、大塚と降谷の一軍昇格が決まった。沖田と沢村は二軍で調整し、折りを見て一軍に上がることになる。他にも小湊春市、東条秀明、狩場航の2人も二軍でも一軍に近い選手として見られ、金丸、金田もそれに続く。

 

「おい、秀明! 今日はどうして投手をやらなかったんだよ!!」

金丸は、試合後に東条に尋ねた。

 

「……あいつらに比べると、俺の実力は及ばない。俺だって投手は諦めていないけど、まだその時じゃない」

 

東条は、ベスト4が自分のおかげではないことを知っていた。アレは先輩がすごかっただけ。投手をしているから解った。

 

―――やっぱりあの3人は凄い。いつか俺も……

 

 

 

 

そして青道OB。一年生の台頭が印象強かったこの試合での感想は

 

「一転して投手王国じゃないか、今年の青道は」

 

「ああ、大塚があんな投球をするのは想定内だが、沢村、降谷と、いい投手が複数見つかった。これで夏予選の投手層が厚くなるぞ。」

一年生投手の台頭を喜ぶ声が多かった。

 

「これで丹波、川上、大塚、降谷、沢村………凄いエース争いになるな」

 

そして、これで青道のエース争いも混沌としてきた。

 

「野手陣も沖田がいい守備を見せていたし、第二打席は逆方向への流し打ちのヒット。小湊も1打数1安打。狩場は先制打、いいキャッチングとリードをしていたな」

 

打撃陣も小粒揃い、青道の黄金世代であるという認識で一致した。

 

試合は1-0で、まさかの一年生チームの勝利。投手陣の差が出た形となった。

 

 

「ふぅ…………まあ、初実戦で出来過ぎかな…………」

大塚はアイシングをした後、クールダウンをしていた。

 

「お疲れ様。はい、これ」

そこへ吉川が飲み物を差し出した。

 

「ありがとう。(あれ、この子は………うーん、どこかでやっぱりあったのかな……?)」

大塚は、何か忘れているような気がすると思いだそうとする。

 

「あのさ、俺と君、どこかであったことがある?」

渋い表情をしながら、大塚は敢えての覚悟で聞いてみた。

 

「え………? うん………」

 

「そうなのか? (やっぱりあったことがあるのか…………女子、うちの学校でこんな人はいなかったけど………あ)」

そして、やや薄っすらと汗でTシャツが濡れており、そこからうっすらと見える桃色の下着を見て、

 

そしてここで大塚は思い出した。

 

 

「あの時オープンキャンパスでぶつかった人だ。」

下着を見て、思い出すという破廉恥極まりない思い出し方をする大塚。

 

「あの……あの時はすいませんでした。」

 

「いいよ。でも、何で焦っていたの?」

 

「えっと、ハンカチを落としちゃって、それで職員室に………お祖母ちゃんから貰ったハンカチだから、無くしたくなくて………」

そしてすべてが繋がる。

 

「ああ、あのハンカチかぁ……そうか、君のだったんだね。いやぁ、見つかってよかった、よかった。」

 

「今日は、今日は凄い投球だったね。あの上級生を寄せ付けないなんて、すごいです!」

 

 

「まあ、そんな俺を見出してくれた青道には感謝、感謝だね。だから、この恩にはこの学校を全国大会に出場させなきゃいけない。スカウトがこの高校しか、こなかったわけだし」

そして、青道への恩を語る大塚。

 

「けが、ですか………」

 

「女性というのは、噂に聡いね。でも、沖田の事は責めないでくれよ。アイツも好きでああなったわけではないから。けど、運命を感じちゃうね」

人懐っこく笑顔を見せる大塚。その笑顔にドキリとしてしまう春乃。

 

まさか、自分と再会した事? そんな少し自意識過剰なことをつい考えてしまう春乃。だが、

 

「沖田と巡り合えるなんて思っていなかったし」

 

「……う、うん………そうですね………」

望んでいた答えとは違っていたが、それも運命だと思う春乃。不思議と苛立ちはなかった。女子として、望んでしまうシチュエーションだったが、それでも大塚の言葉は許してしまえる雰囲気だった。

 

「ん? どうしたの………えっと………」

そして大塚はまだ彼女の名前を知らない。故にそこで言葉に詰まる。

 

「同じ一年生の、吉川春乃です!えっと、今年の夏、絶対に甲子園に行きましょう!!」

そして春乃は自分で言った言葉を改めて数秒間考え、そしてしだいに顔を赤くしてしまう。

 

「………!!」

 

「…………はっ!!  あわわわわ…………」

 

「危ないッ!!」

気が動転して、慌てて走り去ろうとする春乃。だが、大塚がその手をつかみ彼女を逃さない。

 

「ふえぇ!? え、えぇぇぇ!?」

いきなり掴まれたことに、さらに混乱する春乃。しかし彼の力は強く、抜け出すことは出来ない。

 

「危ないじゃないか!!! それにその先は階段で、踏み外して怪我をするかもしれないぞ! それにまた、誰かにぶつかる気か?」

大声で怒ったような口調で言い放つ大塚。それを聞いて大人しくなる吉川。確かに冷静になれば、その先は階段で前方不注意な自分は、大怪我をしてしまっていたかもしれない。

 

「………まったく、何というか、見ていて飽きないね、君」

身長差の為か、やや見下ろす形にはなるが、春乃はそんな言葉を大塚にかけられた。

 

「え…………」

 

「今時珍しいよ、君のようなタイプ。まあ、嫌いではないね」

 

そして彼女を掴んだ手を離し、彼女を自由にする。

 

「あ…………」

少し名残惜しいと思ってしまった春乃。あんな風に手を掴まれたのは初めての経験だ。それになんだか背の高い男子にこういう風に見下ろされ、手を掴まれ、安心してしまったのだ。

 

「じゃあ、また明日。もう誰かに迷惑をかけるなよ」

そう言って、大塚はその場を後にしていった。彼の姿が見えなくなった後、力が抜け、軽く放心状態の吉川。

 

「………………………………」

 

その後、他のマネージャーが声をかけても、しばらく反応がなかったのであった。

 

 

 

5月中旬での、降谷、大塚、沢村のデビューが決まった。

 

そして、沢村はこの知らせを聞き、速球とチェンジアップ系などの変化球の精度を上げる練習に励み、小湊春市以下、その他の一年生は、課題の体力を鍛えることに邁進するのだった。

 

そして、そんな将来性豊かな、タイプの違う投手陣を見ていた上級生………

 

「……………今年の一年は、中々見所があるようだな………」

彼はこの練習試合を見るまで、淡々と野球をこなし、リハビリを続けていた、悲運の選手である。

 

しかし、レギュラーに戻ることが出来なくなった彼を慕う選手が多く、あの片岡監督に自らお願いされ、選手として諦めることを引きとめられ、マネージャー兼、記録員として、チームに残ることをお願いされるほど、彼の野球センスは並外れていた。

 

それこそ、怪我さえなければ、彼が今頃は不動の、扇の要だった。

 

―――まだ粗削りな投手二人と、かつての己を追い求める投手か………

 

「そんな未完の大器たちを導く、か…………監督も無茶を言う」

そしてそんな彼らを目の当たりにし、指導することをお願いされ、彼―――滝川…クリス…優は苦笑いを浮かべていた。

 

 




沢村の無双タイムだと聞いていた。

しかし、大塚もなんだかんだ活躍していた件について。

降谷には悪いことをした。変わっているのは、捕手がまともに捕球できたぐらいか。




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