ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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沢村はやはり主人公。

大塚ノートの片鱗がががが


第9話 伝染する闘志

初練習から数日が経ち、練習に、少しずつではあるが慣れてきた一年生たち。

 

 

「もっとペースを上げようか」

 

「オーバーワークは怪我の元だよ」

 

「お前らには負けねェェェ!!」

 

先頭集団に沢村、大塚、沖田が並び、後続の集団から離れていた。

 

「けど、沢村。去年から見違えたな。何かあったのか?」

沖田が尋ねる。去年はただ曲りが凄いだけの癖球が、今では綺麗なストレートも織り交ぜられるようになっている。あの遠投でも、一年生で4番目の成績らしい。

 

「それな、エイジが俺に色々指南書をくれたんだよ! おかげでスゲェ野球が上手くなったんだぜ」

 

「ストレートだけなのはさすがにね。まあ、フェアじゃないって」

大塚が何でもないように沖田に説明する。

 

「まったく、お前は本当にお節介だな。だが、俺はそのお節介に救われたがな」

沖田もそれを聞いて苦笑いしつつ、大塚の行為を責めるつもりはない。

 

「??」

沢村はあの場にはいなかったので、それを理解していないらしい。

 

 

ランニングで軽く汗を流した後、彼らはいつも通りにメニューをこなすのだった。

 

「凄いね、みんな。あれで息が荒くならないなんて。」

そこへピンク色の髪の毛の少年がやってきた。

 

「おっ、君は確か小湊春市君だったっけ? お兄さんにはお世話になったよ、一日だけだけど」

 

大塚は小湊から彼には出来のいい弟がいることを知り、彼曰く「そいつに追い抜かれないようにするのは苦労する」と笑っていたことを思いだした。

 

そして「この事は内緒だからね」と釘を刺されていることも同時に思い出す。大塚もそのことを言うつもりはさらさらない。小湊先輩とは親交が少なからずある。

 

 

「じゃあ兄貴が言っていた下級生って大塚君の事だったんだ。あ、僕はちなみにポジションは内野手。これから3年間よろしくね」

 

「ああ、よろしく。自己紹介は……まあ、俺達はいい意味でも悪い意味でも目立っているし…………知っているか………」

 

「…………………」

そして降谷がこちらを羨ましそうに見つめていた。さらに見てみると、こちらに入りたそうにしていた。

 

 

「こいよ、降谷! ここはまだ席が空いているぞ!」

沖田が降谷を誘う。

 

「ありがとう」

少し表情を柔らかくした彼は、そのまま彼らの輪に入る。

 

沢村グループこと、この集団はさらに二人を入れて、沢村軍団(沢村が一番目立っているから)となり、仲良くなるのだった。

 

 

 

しかし、野球をするだけが高校球児に非ず。クラス発表が先日に行われ―――

 

「おっ! 俺はC組か! 俺がクラス一番乗りだぁ!」

そして当然の如く目だっている沢村。そして教室へと直行し、一般学生に先を越され意気消沈する。

 

「騒ぎ過ぎだよ、栄純。どうやら俺もC組だね」

大塚が沢村を落ち着かせつつ、クラスメートであることを申告する。

 

「俺もC組だ。」

沖田もそこへ現れ、クラスメートであることを教える。なお、このクラスには金丸信二とマネージャーの吉川春乃がいたりする。

 

他のクラスには小湊先輩の弟の小湊春市と、東条秀明、降谷暁がいる。

 

「意外と固まったね。日ごろの行いがいいからかな?」

大塚がそんなことを言う。

 

「そうだな。そう言うのはあまりわからないが、同じクラスなのは素直にうれしい」

沖田もそれに続き、野球以外での学生生活を楽しみたいと感じていた。

 

 

「(すっっげぇぇ気まずい!! なんであの化け物集団の中にいるんだよ!!!)」

しかし金丸は、一年生でも並はずれているあの集団と同じクラスメートになったことを少し気負っていた。

 

「………………………」

違う教室の降谷は、沢村たちが騒いでいるのを見てなんだか羨ましそうに見つめていた。

 

 

 

そんなこともあり、その視線に最初に気づいたのが沖田なのだ。

 

 

場面はかえってグラウンド。

 

「…………ん? あの子、どこかで見たような………?」

大塚はマネージャーの中で初々しい反応を見せている女子生徒を見て、何か忘れているような気がすると感じる。しかし、記憶にあまり残っていないことなので、大塚はそれを無視し練習を続ける。

 

――――どうせ、大したことなんかないだろうし。

 

 

「…………俺を見ているのかな? あの子にあったことなんてなかったと思うし」

しかし尚も視線を送る女子生徒を見て深く考え込むが、やはり思い出せず大塚は今度こそ練習に集中するのだった。

 

 

 

 

あの人は、あの時ぶつかった人で急いでいた私が迷惑をかけた人。

 

「あのっ!! すいません! ハンカチを落としたんですけど、それが落としたと思った場所になくて………届けられていませんか?」

初めてはいる職員室に緊張してしまい、声が裏返って顔を赤くしてしまう少女、吉川春乃。

 

「ええ、さっき男の子が届けてくれたわよ。運がよかったわね。もう二度と無くさないようにね」

そこで、春乃の反応を少し微笑ましいと笑いながら、女性教師がハンカチを手渡した。

 

「さっきのって…………」

思い当たる節があった。確かあの男子が通った道の向こうには、職員室があった。ということは―――

 

「あぁ………そんな…………私、なんてことを…………」

さきほど、ぶつかってしまった男子こそが春乃のハンカチを届けた人物なのだろう。紛失物を届けだしてくれたばかりか、自分は彼にぶつかってしまったのだ。

 

「どうしたのかしら?」

そんな彼女の様子に、女性教師―――高島礼は尋ねるのだった。

 

 

それから、「特別にだけどなんだか縁がありそうだから」という理由でその人の事を教えてもらいました。

 

名前は、大塚栄治。あの伝説の投手、沢村栄治と同じ名前を持つ野球選手。補足で、その彼と対を為すように、沢村の姓を名乗る少年も入学予定だという。

 

なんでも、中学2年生の時に大会の決勝戦で大けがをして、そこから這い上がってきた人だという。

 

その話を聞いて素直に凄い人だと思いました。でもその話を聞く限り、私と彼では明らかに釣り合わない、住む世界が違うと感じました。

 

「けど、彼は想像以上にフランクよ。少し黒いところもあるけど、基本はまじめな子よ。」

 

「少し黒いって…………」

何があったのかな……………

 

 

その彼は、すでに一年生の中で頭角を現して、投手としての評価が高いです。けど、私からは声をかけません。

 

彼は野球をするために、ここにきているんです。だから、今は野球に集中するべきなんだと思います。私はドジだから、また迷惑をかけるかもしれない。

 

だから私は仕事以外で声をかけない。あの人は、私の憧れの人でいてほしいから。

 

 

 

そして一年生の練習の密度が徐々に濃くなった頃、春季大会があり見学をしたいものは明日のバスの予約を済ませるようにと言われた。

 

「行かないのか、沢村は?」

沖田は沢村が試合を見に行かないことについて尋ねる。

 

「いかねぇ!! 俺はまだ投げていないし、今は少しでも練習がしたい!! 」

とのこと。自分本位だが、野球本位というべきか。

 

「僕も人が投げる試合はあまり見たくない。」

降谷も同じらしく、課題の体力を鍛えるために走るそうだ。

 

 

「俺達は見にいくよ。少しでも強豪の特色とやらを見ておきたいしね」

大塚はこれから夏で投げるであろう相手チームの打撃を見ておきたかった。全国屈指の実力を誇る市大三高の打線。それに興味がないわけではなかった。

 

 

「キャッチャー!! 誰かキャッチャーいねぇのか!?」

沢村がキャッチャーを呼ぶが、だれもいない。

 

「じゃ、じゃあ俺が………」

そこへちょび髭の一年生が、沢村たちの捕手を願い出る。

 

「お、おおお!!!ここに救世主がいたぁ!!」

沢村はその捕手の手を両手で握る。

 

「ありがとう、ありがとう!! これで思う存分投げられるぜ!!!」

 

「僕もお願いするね」

そこへ降谷も加わり、捕手の人は若干青い顔をしている。

 

「(この人の球を受けることは、間違いじゃない!!絶対にあきらめないぞ!!)」

捕手の人はそのように闘志を燃やし、一年生の中で実力が抜きん出ている3人のうちの二人の投手の球を受けることは、一軍への近道だと考えているのだ。それに、沢村の根性は自分も見直すところでもある。

 

 

その後、大塚と沖田はバスに乗って球場へと向かい、沢村たち3人はグラウンドで自主練習をすることになる。

 

 

球場入りをして、一塁スタンド側にて大塚と沖田は試合の状況を眺めていた。

 

「………いいスライダーを持っているけど、それだけだと心もとないね」

大塚は青道打線に捕まっている市大三高のエース真中を見て、やや残念そうな表情で見つめていた。いい変化球とストレートを持っているにも拘らず、このスコアは酷い。

 

「あのスライダーは中々いいと思うけどな。だがお前のスプリット程、絶望感を感じない。」

 

試合は2回途中で7失点。制球が定まっていない初回に得点を重ねられ、二回に完全に崩れている。調子が良ければというのは、驕りであり、慢心であり、自分の実力不足。

 

調子をコントロールできないようでは、全国では安定してやっていけないだろう。

 

「もうスプリットだけの俺ではないけどね。」

だからこそ、大塚は球種の豊富さはその調子を補えるものだと考えている。スプリットがダメでもスライダーがよければそれを軸に、速球が走らないなら速球系の変化球で打たせて取る、どの変化球もダメなら緩急を軸にする。

 

投手は常に最悪を考え、それに対抗する技術と勇気は必要。

 

かきぃぃん!!

 

「だけど、青道のエース不在がどう影響するのか、それが不安だけどね…………」

 

大塚はそれでも、勝負は9回のスリーアウトが取られるまでわからないと気持ちを切り替える。

 

 

 

その頃、

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

スパァァァン!!!

 

「くっ………(さすが、一年生で台頭した左投手…………俺達の年代では、本当に並外れている………それに、制球が悪い印象だったが、それなりにまとまっている?)」

 

「次!! ムービングファーストっ!!」

 

沢村の球種の宣言の通りに、捕手―――狩場航(かりばわたる)のミットへと不規則な変化をするストレートが襲い掛かる。

 

「ぐっ!!!」

ミットでボールを捉える事は出来たが、捕球することが出来ず、ボールは後ろへと転がってしまう。

 

「悪い!! コースはずれちまった!! 大丈夫か!!」

沢村が駆け寄るが、狩場は手で制す。

 

「大丈夫だ!! 次、頼む!!(なんて球だ、キャッチャーが取れないほどのボールなんて………こいつのボール、相当暴れるぞ…………)」

 

「くっ!!」

しかし、ムービングだけが取りづらく、狩場は沢村に申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「悪い。お前のボールを取れなくて………」

 

「ドンマイドンマイ!! 次行くぞっ!! スリーフィンガーファストボール!!!」

 

「!? (スリーフィンガー!? なんだその球は!?)」

聞いたことのない球を聞き、狩場は身構える。見たことも聞いたこともない球。

 

「うおぉぉぉ!!!!」

沢村の雄たけびとともに左の腕からボールが放たれる。

 

「(こいつのフォームも、打者はタイミングを取りづらそうだ。それに、この速球の変化。マジで相当な癖球………!?)」

 

そして、そのボールは不規則に変化し、今度は揺れながら落ちたのだ。尚且つ速度もあり、パーム変化でもあり、ナックルのような不規則に揺れる、まさに魔球。

 

「ぐっ!!!!」

狩場はそれを今度は体で止めた。ミットで止める自信がなかったために、とっさに体を壁代わりにして、ボールを止めたのだ。キャッチャーとして、二度もボールを後ろに逸らしたくないというプライドがあった。

 

「大丈夫か!!」

 

そして沢村の柔らかい肩の関節がさらにムービングのキレと変化を凶暴化させている。

 

「ああ!! 次来い!!」

 

「ねぇ、後一球で僕の番だよね。早くしてくれないかな」

 

「うるせぇぇ!!言われなくても解ってるって!! ラスト!! フォーシーム!!」

 

沢村の本気のボール。フォーシーム。沢村は相手が自分のボールを取れていないことに、何かを感じていた。

 

―――けど、自分から球威を落としたくはねぇ、だったら!!

 

狩場が構えている場所を見る。

 

―――どうなるかわかんねェけど、やってみるぜ!!

 

右打者のアウトローのストレート。

 

「おぉぉぉぉぉ!!!」

 

彼の左腕から放たれたボールは、その鞭のようにし為る腕からそれ以上の加速を誇るストレートを生み出し、そのまま狩場の構えたコースへと決まったのだ。

 

「…………(スゲェ…………本気でこいつの球は…………全国が狙えるんじゃねェか………!?)!!!」

狩場は自分のキャッチング技術が足りないことを自覚していた。だからこそ、沢村は最後コースを狙い、且つこの球威を維持したのだ。

 

「じゃあ、次は僕の番」

そこへ今度は自分の番だと言わんばかりに、降谷がマウンドにやってきた。

 

そして今度は彼の投球。非常にオーソドックスなワインドアップのフォーム。そして―――

 

「(タイミングを取りやすいフォームだな。けど、こいつの遠投は―――!?)」

 

しかし次の瞬間、轟音と共にミットを弾き飛ばされたのだ。

 

「!?」

それには見ている沢村も驚く。とんでもない剛球が狩場のミットを弾き飛ばしたのだ。

 

「………あ、ごめん。次は力加減するから」

しかしその発言は狩場の闘争心を掻き立てた。

 

「上等だ………もっとこい!!(絶対に捕ってやる!!)」

 

しかし、

 

ズバンッ!!

 

「くっ」

 

ズバンッ!!

 

「うわっ!?」

 

 

降谷暁は不思議に思った。取れないくせに、この捕手は自分のボールを嫌がらない。むしろ、絶対に取ると意気込んでいる。

 

地元にも取れない捕手はたくさんいた。その誰もが自分を化けもの扱いして離れていった。

 

しかし、強豪校に入れば自分の球を受けてくれる人がいるかもしれないとその可能性にかけた。

 

「怪我するよ。後はいつも通りに壁当てでもするから………」

とれないくせに、彼は気丈に自分に向かってくる。

 

 

「捕手として!! 俺は投手の球を必ず取るッ!!あと、7球!! 絶対に一球でも多くとってやる!!」

狩場は沢村の一生懸命さに感銘を受けていた。あんなに野球を一生懸命出来る人種は少ないと。体力もあり、練習には積極的で、学校では馬鹿で………

 

だが、平凡な自分にはないものを持っていた。あの初日の練習から、いつの間にか彼の声が鳴り響くことに違和感を覚えないでいる自分がいた。あの声があるから安心できる。そんなことを考えていた。

 

絶対に――――

 

ズバンッっ!!!!

 

「…………とっ………た…………?」

そして今、まぐれでもあるかもしれない。狩場は彼の球を一回だけ取ったのだ。

 

「はは………やったぞ………」ふらっ………

 

そうして緊張の糸が切れたのか、尻餅をついた狩場。そこへ慌てて駆け寄る沢村と降谷。

 

「おい、あんな玉取って、手はいたくないのかよ!!」

沢村が急いで狩場の手を見る。すると、やはり彼のボールを受けて、手が赤くはれていた。

 

「どうしてやめなかったんだよ!!」

 

 

「うらやましく、思ったんだ。野球にそんなに一生懸命で、常に本気のお前が」

狩場はうわ言のように言う。

 

「それに俺は捕手だ。投手の球を捕れないなんて、屈辱以外の何物でもない………だから、絶対に捕りたかったんだ………」

 

「狩場…………」

沢村も捕手としての本気と覚悟を見せられ、後の言葉が続かない。

 

「………捕れる人がいるかもしれないと思ったけど、こんなに嬉しいと思った捕手は、初めてかな………」

ぽつりと、降谷はそう狩場に言い放った。彼は捕手に拒絶されてきて、野球をする場所を求めて、ここにきた。そしてここでも、同年代の捕手は自分の球を中々取れなかった。だが、気持ちだけは自分を拒絶しなかった。

 

「………僕がエースになった時、いつか君が受けてほしいな。」

 

捕手にとって、最高の言葉だった。

 

「俺がエースになるんだァァ!!!! 球だけ速くても、エースなんて名乗るのは早い!! せめて一つくらい構えたミットに入れろよ!!」

 

「五月蠅い」

 

「まあまあ…落ち着けよお前ら(………俺はまだそっちにはいけない……だが、いつか追い付いてみせる)」

こうして狩場もまた、彼らに感化され、夏に向けて自主練を積極的に参加するようになったという。

 

 




沢村は生来の癖球に加え、速球系の変化球を持っています。

今回見せた高速パームについて

人指し指、中指、薬指の三本の指を浮かせるのではなく、縫い目にかけて、残り二本の指で支えます。投げ方はストレートと同じ。

ムービングをさらに凶悪化させた沢村の決め球の一つ。不規則変化のパーム。ナックルほど変化量がないのが救い。


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