ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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ついに神宮決戦。


第137話 その為の咆哮

11月15日。神宮大会決勝は甲子園で激闘を演じた組み合わせの再来となり、その熱気は甲子園に匹敵するほどだった。

 

そして、夏では実現できなかった高校屈指の2年生左腕と、青道躍進を支える1年生右腕の対決に、観客の目は向いていた。

 

夏の甲子園優勝投手柿崎則春に、夏の決勝で離脱した大塚栄治。

 

 

『さぁ、ついに始まります! 神宮大会高校の部決勝戦!! 今年の夏の再現!! 西東京代表、青道高校がリベンジを果たすのか!!』

 

 

三塁側に居並ぶ青道ナイン。先発は背番号18の大塚栄治。

 

 

『それとも、夏の覇者がまたしても勝利をつかむのか!! 光南高校!!』

 

一塁側には光南ナインが円陣を早々に組んでいた。

 

 

 

スターティングメンバーが電光掲示板に発表され、ついにその時が来たのだと、観客は大歓声を上げた。

 

 

1番 右 東条

2番 二 小湊

3番 中 白洲

4番 一 前園

5番 投 大塚

6番 捕 御幸

7番 左 麻生

8番 三 金丸

9番 遊 倉持

 

「ついに来た!! 先発大塚!!」

 

「ついに柿崎との直接対決だ!!」

 

「この大一番で4番抜擢かよ、前園!!」

 

「大抜擢だろ!! それに、3試合連発弾だぞ!! 当然だ!!」

 

「大塚も3試合連発弾だぞ!! 4番前園、5番大塚に、3番沖田が戻ったらとんでもない打線だぞ!!」

 

「6番に御幸がいるのもやばいだろ! 迂闊に歩かせないぞ!!」

 

先発大塚は勿論、4番前園という大胆なオーダーに会場は湧く。

 

 

そして、光南のオーダーも発表される。

 

1番 二 沼倉

2番 中 白井

3番 三 清武

4番 一 権藤

5番 左 岡田

6番 捕 上杉

7番 右 中丸

8番 遊 金子

9番 投 柿崎

 

 

「光南もエース投入!! エース柿崎だ!!」

 

「甲子園王者の投球、期待だろ!!」

 

「4番権藤もかなり打っているぞ!!」

 

 

 

 

 

青道高校、三塁側ベンチ前

 

「今日はお前が声出ししろよ」

 

 

「――――僕ですか?」

御幸に言われ、戸惑う大塚。

 

「いや、今日はお前に譲ろうかなって。アドリブでもいいぜ」

俺みたいに、とケラケラ笑う御幸。

 

 

これは主将の役目ではないのかと、一瞬断ろうと考えていたが、雰囲気が悪くなりそうなので、

 

「わかりました。ならアドリブで、いかせてもらいます!」

 

こうなったらヤケだ。思いっきりエゴを出すと決めた大塚。

 

 

――――勝ちたいと願う、僕たちの想いを

 

心の中で、燃えている大塚。そして、思い浮かんだ言葉を自分の口で言い放つ。

 

今まで、こんなに勝ちたいと考えたことはなかった。

 

今まで、こんな風にワガママを言ったのはいつだろう。

 

 

 

 

「僕たちはまだ、あの歓喜を知らない。」

 

 

 

「目の前で、僕らの眼前で、その余韻を知る奴らがいる。」

 

 

 

忘れたくても忘れられない、夏の悔しさ。そして大塚はすぅ、と大きく息を吸い、

 

 

円陣の中心で吠えた。

 

 

「だからいま、己に問えッ!!!」

 

 

その悔しさをばねに、それぞれが努力し、またここにたどり着くことができた喜びと、自らの信念を問え。

 

 

「俺たちが目指す青道はッ!?」

 

 

王者青道ォォッッ!!!

 

 

「誰より汗を流したのは!!!」

 

 

青道ッ!!

 

 

 

「誰より涙を流したのは!!!」

 

 

 

青道ォッッ!!!

 

 

 

「誰より頂点を欲するのは!!!」

 

 

 

青道ォォッッッ!!!!!

 

 

 

 

「戦う準備はできているか!!!」

 

 

 

おおおォォォ!!!!!!!

 

 

 

「我が校の誇りに賭けてっ!! 狙うはただ一つッッ゛ッ!!! 全国制覇のみッ!!!」

 

 

 

「行くぞぉォォォ!!!!!」

 

 

 

おおおォォッォ゛ッォ゛ォォ!!!!!!!

 

 

 

青道の主将御幸による大塚への無茶ぶりから始まった、彼自身の考えた、アドリブの掛け声。

 

 

 

「中々様になってるじゃないか。エイジ」

 

 

「採点結果はどうですか、主将?」

 

 

「満点だな!」

 

 

ニッ、と笑う御幸だが、その心中は震えるものを感じずにはいられなかった。

 

 

――――今日の試合への意気込みを感じる、熱い掛け声。

 

それだけ、大塚がこの試合に賭ける思いが強いのは理解しているつもりだった。

 

 

しかし、大塚らしからぬ闘志の籠った掛け声を聞いて、その認識が甘いと知った。

 

――――けどな、この試合に強い意気込みをもっているのは、お前だけじゃないぞ

 

掛け声とともに整列場所にダッシュする御幸は、大塚に負けないほどの気迫をもってこの試合に臨んでいるのだ。

 

 

 

1回表、青道の攻撃から始まる。

 

マウンドには夏の覇者、柿崎。打席には、この1年を通して戦い続ける男、東条秀明。

 

 

その初球、

 

 

「……っ」

いきなりのクロスファイアー。インコースを攻めてきた柿崎。判定もストライク。初球から140キロ中盤のボールを投げ込む彼も、当然気合を入れていた。

 

 

――――上回ってやるよ、大塚栄治も! 青道も!! 俺たちの力で!!

 

 

続く2球目、

 

「ファウルボールッ!!」

 

何とか当てたが、とても芯で捉えられたものではない。当てるのが精一杯といった感じの東条。

 

 

――――2ストライクからは、フォークの比率も高くなる。けど、今の僕の惨状を見れば

 

 

「ファウルボールッ!!」

 

 

続く3球目もストレート押し。今日の柿崎はボールが切れに切れている。今のボールも147キロ。かろうじて当てるだけの東条。

 

 

そして、4球目は

 

「ファウルっ!!」

低めのフォークを捉え、レフト切れてファウルボール。甘くはないボールだが、低めは大好きな東条。柿崎の決め球であるフォークを捉えた。

 

 

 

――――さぁ、フォークは打った。ここでスライダーも怖いはず。ストレートが来る

 

 

勝負の5球目。

 

 

『あっと!! ワンバウンド、振らせた!! 三振ッ!!』

 

「――――っ!!」

 

「バッターアウトォォォ!!」

 

振り逃げを試みた東条だが一塁送球でアウト。低めのワンバウンドのボールを振ってしまい三振。

 

 

続く小湊も

 

「くっ(押し負けたっ)」

 

148キロのストレートに打ち負けて、平凡なサードフライ。高めの速球に威力がある。

 

 

そしてツーアウトで白洲も、

 

『あっとスライダー三振!! 1ボール2ストライクからの外へ逃げるスライダーに空振り三振!! 初回三者凡退で締めた柿崎! 盤石の立ち上がりです!』

 

 

『しかし、初回から球速出ていますね、柿崎君は。』

 

『ストレート中心の配球。力でねじ伏せた感じがありますね』

 

 

そして一方、裏の守備を迎えることになる青道。マウンドには大塚栄治。

 

「大塚君、がんばって……」

スタンドの春乃は、祈るような気持ちで大塚の初回を心配していた。

 

 

『さぁ、今年の夏は決勝のマウンドに立てなかった大塚栄治。秋季大会は序盤不安定な投球が続きましたが、決勝戦の薬師戦では復活を印象付ける完全試合を達成。神宮大会でも安定感は変わりません!!』

 

『動くボールとストレートの投げ分けが出来ているのが要因ですね。段々と肘が横になるのが動くボールのデメリットなのですが、大塚君はうまく修正しているようです』

 

 

ミットを構える御幸も大塚の立ち上がりについて、神経をとがらせていた。

 

 

その初球、先頭の右打者、沼倉へのボール。

 

「ボールッ!」

 

まずはドロップカーブから投げてきた大塚。わずかにアウトコース外れてボール。

 

続く2球目。

 

「ストライクっ!!」

 

次は外から曲げてきた横のスライダーでストライクを奪う。沼倉は苦い顔をするが、すぐに表情を変え、打席に入る。

 

 

「ストライクツーッ!!」

 

そして今度は真ん中低めに落ちる縦スライダー。2球目と似た軌道から違う変化をするスライダーに、タイミングもバットも合わない空振り。

 

沼倉はこの軌道の違いについて、

 

――――横と縦を自在に操るのかよ、カッキーにはできない芸当だ

 

と舌を巻いていた。

 

1ボール2ストライクからの4球目。

 

 

「バットクドア、見逃し三振!! 外のツーシームがアウトコース際どいところに入り込んできました!!」

 

『ツーシームというよりは、本人はシンキングファストボール、という名称を使っているようですね。厳密には大きな違いはありませんが、名称にこだわりがあるそうですよ』

 

 

続く左の打者白井は沼倉の打席を見て早打ちに徹するが、

 

『あっと初球簡単に打ち上げてしまった!! セカンドフライ!!』

 

ボール球の内角高めのカットボールに詰まらされ、ボールは力なくセカンドの頭上へ。

 

小湊が難なくつかみ、こちらもツーアウト。

 

3番サード、右の清武を迎えたところでは、

 

『ストライクツーッ!!』

 

消極的な打法の清武に対し、まずはアウトコースのドロップでカウント奪った大塚は、2球目にフロントドア気味のカットボールで内角ストライクコースを抉る。突然ボールコースからストライクコースに入ってきたこの一球に手が出ない。

 

――――際どい場所は全部勝負しなきゃ、見逃し三振コースじゃないか

 

強制的に早打ちを強いる大塚の投球に、焦りの表情の清武。

 

3球目の外へ逃げる横のスライダーに食らいついた清武だったが、

 

 

『ああっ、空振りぃぃ!!! 三振っ!! 高めの速球を振らせてスリーアウト!!』

 

 

4球目は釣り球に手が出て空振り三振。裏の大塚の投球も盤石なものだった。

 

 

 

 

初回の攻防が終わり、東京渋谷の病室では、

 

 

「うーむ、さすがに初回先制は無理だよな」

 

沖田は唸るようにテレビの前に座っていた。

 

「ったく、小湊も東条も力み過ぎだ。東条はうまく釣られてしまったけど」

 

試合前に絶対に勝つと意気込む、金丸を含めた三人のメールを受け取っていた。それにしては力み過ぎだと。

 

 

テレビの前では、柿崎と前園の勝負が始まるところだった。

 

 

 

『さぁ、3試合連続ホームランと波に乗っている、目下売り出し中のスラッガー、前園健太!! 対するは夏の優勝投手柿崎!! 注目の初球!』

 

 

ドゴォォォンッッ!!!!

 

 

「ストライクっ!!」

 

前園も負けじと初球からフルスイング。しかし、当たらない。

 

 

――――ボールの下か。もう少し上やな。せやけど、

 

とんでもないボールを投げてくるサウスポーだと改めて感じた。

 

あの御幸が、小湊が、そして東条が。

 

 

口を揃えて今高校野球ナンバーワン左腕はだれかと聞けば、目の前の男を挙げる。

 

『初球から151キロッ!! アウトコースに決まったストレート!! 前園もフルスイングっ!!』

 

――――こんな場所で、あいつらは戦ってたんやなッ

 

 

ゾクゾクする。こんな好投手と熱い試合を、熱い勝負をしていたことがうらやましかった。

 

 

―――――勝つことに夢中になるはずや、この大舞台は最高や!!

 

「ボールッ!!」

 

そして2球目は低めに外れるチェンジアップ。前園はタイミングが合わなかったが、コースが外れた。

 

大塚や沢村と比べて、チェンジアップの精度はいまいちな柿崎。しかし、ボールの圧力は、降谷と同等。

 

しかも、渡辺が指摘していた前足をひっかく動作も見受けられた。その理由は言うまでもない。

 

 

 

マウンドの柿崎が不敵な笑みを浮かべている。

 

 

――――アンタには、全力でねじ伏せるしかないでしょ!!

 

目が語っている。前園健太をねじ伏せにきている。あの王者光南のエースが、自分に。

 

 

力勝負を挑んできている。

 

 

 

「ファウルボールッ!!」

 

『ファウルっ!! 3球目150キロ!! 2回、最初の主軸との対戦で剛速球を投げ込んでいる柿崎!! 食らいつきます前園健太!!』

 

 

「ファウルっ!!」

 

続く4球目もストレート。149キロを計測し、これも威力十分。前園も得意のインコースをフェアゾーンに落とすことができなかった。

 

 

打球はわずかにレフト線から切れてしまった。

 

 

―――――アンタには全力で行かせてもらう。3戦連発だ、フルコースでねじ伏せてやるッ!!

 

 

勝負の5球目は、精度がいまいちなチェンジアップ。

 

 

「っ!!!」

 

ここで前園にとって、タイミングのあっていなかったチェンジアップ。しかもこの勝負所でコースに決めてきた。

 

 

「ストライクっ!! バッターアウトォぉ!!」

 

バットは空を切り空振り三振。前園は悔しそうに打席を去る。

 

――――くっ、ホンマに凄まじい投手や

 

 

『空振り三振~~!!! 外のチェンジアップで空振りを奪い、まずは先頭を取った柿崎!! いい抜けしていますね~~!』

 

『あのボールが決まってくると、外は本当に厳しいボールになるでしょう』

 

 

続く打者は5番大塚。

 

――――レフト線に切れた当たりをされた瞬間、ボールゾーンのチェンジアップ。

 

それが強く残る。

 

『そしてこちらも3戦連発中の大塚栄治!! 投球だけではない!! 神宮大会では野手としても活躍する彼の打撃が、柿崎にどこまで通用するか!?』

 

 

その初球、

 

「ストライクっ!!」

 

 

ここで初球から落としてきた柿崎。空振りを奪われる大塚。追い込まれたら、不利なことを予感した大塚の打ち気を誘う、フォークボール。

 

 

『初球から落としてきた!! 空振りぃぃ!!』

 

 

――――追い込まれるまでは、ゾーンに来たボールを仕留めなきゃいけない

 

「ボールッ!!」

 

続く内角低めに外れるスライダー。ここも大塚の打ち気を誘ってきた。

 

 

3球目

 

「ボールツーッ!!」

 

ここで、スライダーの連投。低めに外れて2ボール。力んだのか、コースから外れた。

 

 

――――2ボール1ストライク。3ボールにはしたくないはず

 

 

狙うは外目、真ん中気味ストレート。しかし――――

 

 

「ストライクツーッ!!!」

 

『2ボール1ストライクで抜いてきた柿崎。空振りで並行カウント!』

 

外のチェンジアップで空振りを奪われる大塚。表情が歪みそうになったが、それを悟らせないように無表情を貫く。

 

――――打者心理を突いてくるクレバーさ。打ってもタイミングが合わない

 

「ファウルボールッ!!」

 

ここで150キロのストレートがさく裂し、かろうじて当てるもボールはバックネット裏に吹き飛ぶ。

 

――――稲実の成宮投手以上のスピード。これにあの沈むチェンジアップは厄介だ

 

ここまで体感差があると、打つのは至難の業だ。

 

 

そして、

 

『変化球振らせて空振り三振!! 最後は内角に落ちるフォークボール!!』

 

ここで内に落ちる変化球で大塚のスイングを崩した柿崎。

 

 

――――いいコースに決められた。

 

苦い顔をする大塚だが、切り替える。試合が終わったわけではない。

 

 

続く御幸早打ちでライトフライに倒れ、スリーアウトの青道。主軸が一巡目は抑えられた。

 

 

「一筋縄ではいかないな」

御幸がマスクをかぶりながら大塚に白状する。

 

「ええ。そう簡単に攻略できる投手じゃありません。」

 

高校生特有の脆さを悉くついてきた。それで崩れる投手ばかりだった。序盤で攻略できなかった投手を思い出す。

 

楊瞬臣は得難い難敵だった。向井も序盤で攻略できる投手ではなかった。

 

鵜久森の梅宮は、自分には無い強いハートを持った選手だった。

 

目の前の男は、このライバルたちすら上回る。

 

 

 

2回裏、大塚の投球も負けてない。

 

4番権藤豊との初対決。決勝戦で川上からホームランを放った主砲。

 

この相手に、力配分を考えることはできない。

 

 

剛速球がアウトコースに決まる。唸りを上げる剛球が御幸のミットに収まる。

 

――――これが、大塚のストレートか

 

アウトコースに決まったストレートを打席で体感した権藤はから笑みが消えた。

 

「ストライクっ!!」

 

『アウトコース決まってストライク!! 初球151キロのストレート!!』

 

 

続く2球目。

 

『落ちた! 空振りっ!! ここで伝家の宝刀スプリット!!』

 

 

2球目は同じコースに落とすスプリット。切れ味鋭い変化に、コントロールも完ぺき。ここに投げ込まれれば、さすがの権藤もバットに当てることができなかった。

 

 

続く3球目は高めの速球が浮く。インハイ僅かに外れて1ボール2ストライク。強気にインコースを攻める大塚と御幸。何が何でもこの打者を抑える必要があった。

 

『147キロボール!! これはわずかに外れてボールッ! 強気のリードの青道バッテリー!!』

 

大塚が望んでいたのは、インローに落ちる高速縦スライダー。しかし、御幸が鼻息荒い大塚を制す。

 

――――高速縦スライダーを一巡目に使うわけにはいかない。

 

 

御幸が要求したのは、外の縦スライダー。振ってくれれば儲けもの。勝負を急いではならない。

 

 

しかし、首を振る大塚。ならばと高速スライダーを要求。変化の小さい、凡打を誘いやすく、バックドアのできるシチュエーション。

 

相手は左打者。甘くいけば痛打の可能性もある球種。

 

しかし、これも却下する御幸。あくまで縦のスライダーを指示する。

 

頷く大塚。御幸は外に寄る。

 

 

『外のスライダーを見た権藤!! これで並行カウント!』

 

 

バットが出かかったが、ここで止まるのが権藤。やはり一筋縄ではいかない。

 

 

そして5球目のサインは瞬時に決まった。

 

 

―――――外低めの、パラシュートチェンジ。

 

 

『空振り三振!!!! 先頭の権藤を抑えます、マウンドの大塚!!』

 

ストレート待ちだったであろう権藤の裏をかく配球。低めの変化球を我慢していた権藤は、速いストレートに張っていた。だが、その裏をかく御幸と大塚の判断。

 

 

ベンチでその勝負を見ていた上杉は、

 

 

「やるな、あのバッテリー。」

完ぺきとは言い難いが、息の合ったコンビだ。これは相当手強い。

 

 

その上杉は、5番岡田が打席に入るので、ネクストバッターサークルに入り込む。

 

 

 

続く5番岡田は早打ちで早々にファーストゴロに打ち取られた。内角へのカットボールに詰まらされ、しかもこれはストライクからボールになる球。

 

大塚のフロントドアとバックドアは、投げなくても効力を発揮しているのだ。きわどいボールがストライクに切り込んでくるかもしれない。もしくは甘い球だったのに、見逃してしまうことにもつながりかねない。

 

 

だから、大塚の術中にはまっている。

 

続く6番上杉には、

 

 

『外のカットボールに当てるだけ!! セカンド正面、力のない打球、捌いてスリーアウト!! この回も三者凡退の大塚!』

 

 

投球で流れを呼び込もうとする両者。互いに譲れないものを背負い、強豪校のプライドをかけて、マウンドで存在感を放つ。

 

 

 

 

 

最初にチャンスをつかんだのは、青道だった。

 

 

 

3回表、ツーアウト。

 

 

『ラストバッター倉持バントヒット成功!! ツーアウトから塁に出ます!!』

 

ここで、ファーストストライクをセーフティバント。不意を突かれた光南内野陣はその処理に手間取ってしまったのだ。

 

外角のスライダーを上手く転がした倉持は、快足を飛ばして悠々セーフ。

 

 

 

『彼は塁上では屈指の走力を持っていますからね。しかもサウスポー。チャンスは広がるのか?』

 

 

広いリードを取る倉持。何度もけん制を入れる柿崎だが、

 

 

――――くそっ、なんてリードだ。相変わらず、足お化けな奴だ

 

 

この塁上からのプレッシャーは相当なものだと感じる柿崎。

 

 

――――ツーアウトだ。ランナー放置はダメだが、打者勝負でいこう、カッキー

 

上杉が打者集中のサインを送る。

 

 

 

打席の東条は、広く空いた一二塁間に狙いを絞っていた。

 

 

――――右打者の外側にカウントを取るスライダーは、ランナーを置いた時、初球はほぼないとみていいかも

 

狙い球は、外のストレートを右方向に。

 

 

カウントを取るために、2球目に外のスライダー。ストレートへの反応を見て、捕手が判断するはずだ。

 

 

ランナーには俊足の倉持。ツーアウトとはいえ、変化球は投げづらいはずだ。

 

 

 

『さぁ、ツーアウト一塁、打順は先頭に戻り、切り込み隊長の東条!』

 

 

そして、その時は訪れる。

 

 

 

―――――外目のストレートッ!!!

 

 

やはり外角に投げ込んできたストレート。しかし、きわどいボール。クサイところをついたボール気味。

 

 

しかし、この初球を見逃したところで東条に打てるボールはない。

 

 

カキィィンッッッ!!!

 

 

強引に外のストレートを流した打球が、その目論見通りに一二塁間を抜ける。

 

 

スタートの構えだけだった倉持も、東条の打球に驚きつつも、

 

 

――――やるな!! この打球なら十分だぜ、東条!

 

 

一二塁間を抜ける打球を見ながら、自分の武器を最大限に活かす倉持。

 

 

『一二塁間抜ける~~~!!! 一塁ランナー倉持は俊足飛ばして二塁蹴る!!』

 

 

『完全な狙い撃ちですね。外のストレートを流すイメージが出来ていたんでしょう。』

 

 

 

打たれた柿崎は、ボール気味のストレートに食らいついた東条に驚きを隠せない。

 

 

「まじかよ。アレを運ぶかよ」

 

 

 

そしてこれで―――――

 

 

『三塁セーフ!! 三塁セーフ!! きわどいタイミングでしたが、倉持が三塁を陥れる!! これでツーアウトながら一塁三塁!! そしてここで好打者小湊を迎えます!!』

 

 

「うおっ!! 早い回でのチャンス到来!!」

 

「当たるぞ、まったく敵わないわけじゃないぞ!!」

 

「当たれば何か起きるぞ!!」

 

 

柿崎相手には数少ないチャンスを大事にしたい青道高校。

 

 

先制のチャンスを活かすことが出来るか。

 

 

 

 

 

 


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