ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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タイトルに困るので、これにしました。


第130話 ACE 前編

11月3日。

 

ここに至るまでに様々なことがあった。

 

 

今年の夏を沸かせ、勝負の1年を過ごした選手たちは、ドラフトによってドラマを作った。

 

ビヒダスの優勝が決まった日本シリーズも終わった。

 

 

野球シーズンの終わりごろに近いこの日、

 

 

秋季東京都大会決勝が午後13時より開始される。

 

 

両チーム緊張感を感じさせる雰囲気を出しながら、決戦の地、神宮球場に足を踏み入れる。

 

今年の夏王者、青道高校。

 

 

二大会連続での決勝進出、先発は今大会調子を落としながらも粘投を続ける大塚栄治。初戦の帝東戦で初失点を喫し、鵜久森戦では逆転打を浴びるなど、不安定な投球が続いている。

 

さらに、鵜久森戦以降登板機会もなく、評論家の間では本調子には程遠いのではないかという意見まである悩めるエース。

 

そのうえ前日には、攻守の要である沖田道広が負傷退場。その日のうちに意識を取り戻したとはいえ、この試合はベンチメンバーから外れ、今年最後の出場が準決勝になってしまうことが確定的。

 

不安要素が多い中、打線は成孔相手に打ち勝つ逆転勝利で調子は上向き。早い回で大塚を援護できるかがポイントになる。

 

そんな意見が多くを占めるからこそ、準々決勝で好投し、夏の大会で薬師打線を相手に6回無失点の投球をやってのけた沢村栄純を先発にするべきではないかという意見さえあった。

 

 

この決勝を迎えるまで、沢村栄純の評価が上がり続けていた。

 

 

この決戦に、昨日から集まっていた青道OB、引退した上級生が来ないわけがなかった。

 

「くそっ、沖田の野郎が負傷で出られない。あいつが一番でたかったろうに!!」

伊佐敷が怪我で病院送りの沖田のことを気遣いつつ、苛立ちをあらわにする。

 

「そう言うな。ドクターストップで、命の危険性まで指摘されたんだ。球場で倒れるわけにはいかないだろう」

先代主将結城も、昨日は敢えて誰も指摘しなかった問題に対してついに口を開いた。

 

「噂では、例の彼女と病院で観戦中らしいぞ」

門田が沖田についての爆弾を投下した。

 

「んなっ!? 沖田に彼女ぉぉぉ!?」

当然知らない伊佐敷達は驚く。

 

「聞いてないね。ふぅん? そうかぁ、試合終わったら聞くしかないね」

 

 

「ん。報告することじゃないけど、後で沢村ちゃんに聞こう」

 

 

「―――――確かに、大塚も1年の吉川と、沢村は長野の彼女とまだ続いているらしいな」

 

 

「―――――噂好きなのはいいが、やはり独り身には堪えるからやめてくれ、門田」

切実な言葉を述べる結城。

 

 

「お前達、大塚の投球はどうした? 期待するんじゃなかったのか?」

やや呆れた口調で話すクリス。

 

「「心配していないな」」

伊佐敷と亮介が同じ言葉を話した。大塚なら大丈夫だと。

 

「―――――期待しすぎだろうに」

 

 

「―――――俺はとりあえず、完全試合をするに賭けるな」

ここで丹波が明らかに現実味のないことを話し始める。

 

「――――分の悪い賭けをするとはな、丹波。だが、いいだろう。俺は大塚の完封と予想する」

 

「どちらも無失点な時点でおかしいだろ。」

門田が今度は突込みのポジションに入るなど、上級生たちは、決戦を待ちきれない様子だった。

 

 

 

 

 

そしてその相手、薬師高校。

 

 

夏では好調時の大塚栄治を登板させることもできず、コールド負けを許してしまったが、チームの完成度は段違い。

 

4番轟、5番真田を中心とした打線に、充実の投手陣。それでも、青道投手陣と比べると、どうしても見劣りしてしまう。

 

しかし、大黒柱の真田を先発させず、準決勝では台湾のエース楊瞬臣相手に金星を挙げるなど、いろいろとついているし、勢いもあるといえる。

 

しかも、4番轟は楊相手に鮮やかなツーベースを打ったのだ。ならば、本調子ではない大塚栄治に届く、薬師贔屓の観客はその瞬間を見ようと大勢詰め掛けていた。

 

 

3塁側、薬師ベンチでは

 

「―――――あのサウスポーを登板させず、今大会調子の上がらないエースに決勝を任せる。いや、違うな」

轟監督は、世間の評価を否定する。

 

「―――――てめぇら、油断とかはあいつのボールを見るまでするなよ。あの小僧は世間を驚かせることしかしねぇ。不調でフロントドアとバックドアをしてくる変態だ。何かあるとみていいだろうな」

 

 

「―――――そもそも、コールド食らった相手に油断とかありえないっすよ」

真田は、夏の試合があるので、それはないと言い放つ。

 

「ああ。沖田がいねぇ打線とはいえ、成孔投手陣を打ち破ったんだ――――この大舞台こそ、俺が先発でしょうに!!」

三島が何やら先発志願を口にしていたが、オーダー票をもう渡したので変更などできないし、する気もない。

 

 

この試合は最後まで真田で行く。

 

 

「――――――いるんだ。目の前に」

轟雷市は、じっと大塚栄治を見つめていた。

 

「ん?どうしたんだ、ライチ?」

秋葉が声をかける。いつもと比べてえらく饒舌だと不思議に思い、彼は声をかけたのだ。

 

 

「いるんだ、目の前にすごい投手が。」

バカ笑いもせず、落ち着いた、というより闘志にリソースを奪われているといった表現が正しい、今の雷市。

 

―――――凄いな。ライチをこんな風にしてしまう相手が、最初から投げてくるんだ

 

準々決勝の市大三高戦でなりかけて、準決勝で最後の1打席で見せたこの集中力。

 

 

もしくは、彼がそうならざるを得ない相手が、目の前で投げているという証なのか。

 

 

 

両チームの試合前ノックは、決勝に来ることあって、どちらも鍛えられており、引き締まった試合が予想される。

 

『秋季東京都大会決勝戦!! 東西合わせ254校のうち、残ったのはこの2校!!』

 

 

『ダークホースから本命へ! 市大三高、台湾のエースを破った勢いは本物か!? 薬師高校!!』

 

 

 

『夏の甲子園準優勝、二大会連続決勝進出!! 西東京3強からついに抜け出した東都の王者!! 青道高校!!!』

 

 

ベンチから両チームが飛び出し、ダイヤモンドを二分するかのように整列する。

 

オーダーがバックスクリーンに表示される。

 

「やっぱり沖田は欠場か」

 

「あのケガだぞ、仕方ねぇよ」

 

「けど、3番沖田がいないのは痛いよなぁ、青道」

 

「でも、あの上位打線はやばいだろ。2番小湊とか、もうバントする気ないだろ」

 

 

「薬師は頭から真田を持ってくるか、先発が大塚だと、そうなるわな」

 

「ああ。ロースコアの試合展開になるだろう」

 

 

まず守備につく薬師高校。青道の攻撃は、1番打者に定着した東条秀明。

 

 

マウンドは薬師のエース真田。

 

注目の初球はストレート。膝の高さ、外側に決まるカウントを奪われる。

 

 

―――――クロスステップのせいで、球速以上にくるな、

 

右打者には体にボールが向かってくるような感覚だろう。

 

2球目はインコースのストレート。まだ変化球を投げてこない。振り遅れてしまう東条。

 

 

3球目、4球目はボール、そしてファウル。だが、ストレートを狙って前に飛ばない球威は、やはりクロスステップの恩恵のせいだろうか。

 

 

5球目、外のカットボールに空振り三振。これはもう高速スライダーとカットボールの間に位置するボールだろう。

 

『外、空振り三振~~!! まずは先頭打者を打ち取ります、マウンドの真田!!』

 

続く小湊にはストレートで押し切り、ライトフライに打ち取る。が、7球も粘られてしまう。

 

 

 

「なんか、お前に似てきたんじゃねぇか。あいつ」

 

 

「やっぱり兄弟なのかもねぇ。ま、あいつが至った道なら反論はしないけど」

 

「しかし、木製であれだけやれるとなると、俺より打てるんじゃねぇか?」

 

スタンドの上級生たちは、しっかりと上位打線の役目を果たす春市に目を見張っていた。

 

 

 

―――――確かに早い、けど、ツーシームの沈み方、カットボール、シュート。すべて引き出せたかな

 

小湊は、まず軌道をみんなに見せられたことで最低限は果たしたと考えた。

 

小湊を打ち取るために、球数を費やした真田。さらにツーシームを粘られたのも大きい。

 

 

―――――木製バット君は、やっぱ手強いねぇ。

 

続く白洲はストレートに詰まらされ、ショートフライに打ち取られた。

 

 

「くっ、なんという球威だ」

手首を振りながら、ベンチへと戻る白洲。

 

球速表示にも、147キロと表示されていた。

 

『スリーアウト!! 薬師のエース真田! 初回は3人で片づけました!』

 

『いいですねぇ、球威あるストレートでどんどんコースを狙っています。コントロールもいいので、計算できますよね』

 

 

そして後攻め。大塚栄治がマウンドに上がる。

 

 

 

「――――――すぅ―――――――はぁ―――」

深呼吸をし、マウンドに立つ大塚栄治。

 

緊張が全くないわけでもなく、背負っているものがいつもよりも大きいことを感じる彼の心境は、いかほどのものだろうか。

 

 

「まずは先頭だぞ、大塚!!」

 

「一つ一つ打ち取っていこう!!」

 

二遊間からの檄に手で応える大塚。マウンドで数球ボールを投げる大塚。

 

―――――違和感がない。久しぶりだ、この感覚は

 

 

公式戦で、こんな状態では入れたのがずいぶん昔のように感じてしまう大塚。自然と笑みが零れる。

 

 

そんな彼の様子を見ていた御幸、

 

――――ボールもシュート回転していないし、変化球も前日と同じ調子、きっちり合わせてきたな

 

 

 

『さぁ、今大会注目の右腕、大塚栄治がマウンドに上がりました!! 今日の大塚投手の調子はどうでしょうか?』

 

『マウンドでの投球を見る限り、さほど荒れてはいないですね。ゾーン近辺に放れていますし、ここ最近で一番よさそうですね』

 

 

 

先頭打者は1番キャッチャーの秋葉。

 

 

その初球、

 

 

ズバァァァンッッッ!!!!!

 

 

いきなりインコースにやさしくない速球を投げ込んできた大塚。秋葉はさほど厳しい球ではないにもかかわらず、思わず打席から数歩、三塁側に出てしまった。

 

―――――力感を感じないのに、なんてスピードだッ

 

秋葉には大塚が軽く投げているように見えるだろう。しかし、たたき出された表示は、

 

 

『初球143キロストレート。インコースに決まりましたが、初回から力を入れているようには見えませんね』

 

『ええ。下半身主導のフォームで力感を感じないので、球速以上に速く感じるでしょうね。それにしても、腕の振りがスムーズでいいですね』

 

 

続くボールは縦のスライダー。同じコースから落とされたボールにバット出てしまう。

 

―――――これが噂の縦のスライダーか! 

 

大塚栄治は、複数のスライダーを投げ分けている。これは、鵜久森戦でのデータが物語っている。

 

その試合で確認されたのは、もともとの緩いスライダー、横のスライダー、縦のスライダーの3種類。

 

スプリットはこの試合では投げておらず、スライダー投手の印象が強い。

 

 

3球目は外側に横のスライダーが外れてボール。手が出なかったというべきだろうか。

 

―――――ある程度見切りをつけておかないと、簡単にアウトになる。

 

秋葉はコースに見切りをつけ、ねらい目のゾーンで待つ。

 

 

続く4球目に、

 

「ストライィクッ! バッターアウトォ!」

 

―――――ここでアウトローか、遠いな…

 

 

『先頭打者をストレートで空振り三振~~!! 最後は143キロ』

 

『力感を感じないですねぇ。相当速いストレートに見えるでしょうね』

 

 

完全に振り遅れているし、ボールよりも下側でバットを振っている。

 

 

続く増田に対しては、外の緩いスライダーに当てて内野ゴロ。

 

 

―――――アウトローにすべて違うボールッ!?

 

 

外の横のスライダーで空振りを奪われ、続くボールはストレート。さらにカットボールがファウルになり、追い込まれた後の緩いスライダー。

 

踏み込んでいたにもかかわらず、緩急を使われた増田は腰砕けのスイングで当てるのが精いっぱいだった。

 

 

 

「やっぱ目をひん剥いてやがる。スライダーが複数あることにな」

 

 

「まあ、途中工程の産物なのが信じられんがな」

 

「ああ。心底稲実にいなくてよかったと思うよ」

 

 

 

一方、それを食らっている薬師は他人ごとではなかった。

 

 

「あれが大塚栄治かッ」

3番ファースト三島が憎々しげにつぶやいた。アレが夏の大会で、うちに投げてこなかった青道のエース。

 

 

三島は沢村に対して対抗心を持っていたが、大塚栄治に対しては怒りに似た感情を抱いていた。

 

 

―――――あの野郎、最後までブルペンにすらいかなかった!!

 

大塚栄治は夏予選で薬師と試合をした際に、最後までベンチに座ったままで、ブルペンで一球も投げることはなかった。それがチーム方針といえば仕方がないかもしれないが、エースを背負っているにもかかわらず、ブルペンにすらいかなかった。

 

 

あの時、青道は“大塚栄治を出すまでもない”と考えていたのだと思うのは、ごく自然な流れでもあった。

 

その投手が、ついに秋に出てきた。

 

――――打ち砕いてやるッ!!

 

 

だが、想像を絶するボールがインハイに投げ込まれた。

 

 

「!?」

思わずのけ反る三島。ストライクではなく、ボールではあったが――――

 

 

「――――少し力が入りすぎたか」

 

 

『初球147キロッ!! 3番三島に対し、強烈な初球を投じたマウンドの大塚!! これは意識ありますよね』

 

『ええ。前の打者に投げたボールとは球速が違いますからね。本当にわかりやすい』

 

 

続くボールは外のドロップカーブが決まり、三島のバットが出てこない。

 

 

――――くっそ、外にあんなの放られると、バットでねぇじゃねぇか!!

 

続くボールは縦のスライダーが真ん中内目からボールゾーンに落ち、スイングを取られてしまう。

 

 

そして最後は、

 

「うえぇ!?」

 

外側の際どい場所、カットボールに似た速球?データにない変化球で見逃し三振を奪われてしまった三島。タイミングを微妙に狂わされた彼には難しいボールだった。

 

曲がりは小さく、変化の鋭いスライダー系統。初見のボールだった。

 

 

―――――137キロで曲がりの小さい高速スライダーッ!? なんてもんを持ってんだよ!!

 

『外の変化球見送り三振~~~!!! いいところに決まったぁぁ!!』

 

『カットボール、にしては曲がりが大きいですね。なんでしょう―――高速スライダーあたりでしょうね』

 

球種の少ない自分をあざ笑うかのような多彩な変化球で三島を打ち取る大塚。初回、圧巻の投球でねじ伏せる大塚栄治。

 

「――――――っ」

マウンドをさっそうと去っていく大塚をにらむ三島。

 

一方の大塚は、

 

―――――高校に入ってから、よく人に睨まれるなぁ。

 

そんなに恨みを買っているだろうか、と気になっていた。

 

 

続く2回表は、御幸がツーシームを捉えるも、ライトライナー。

 

「角度つかなかったかぁ。悪い。ちょっと沈ませ過ぎたかも」

凡退した御幸が、これから打席に向かう大塚にツーシームの特徴を述べる。

 

「あれは意識しないほうがいいぜ。シンカー方向に沈むといっても、速球系だ。変化は小さい。右打者の懐に甘く入れば、引っ張れるぞ」

 

 

「なるほど、シンカー気味なので、甘く入る確率も増すということですか」

 

 

――――となると、純粋なシュート、カットボールで横の揺さぶりをかけてくるかな?

 

とにかく、基本外は流して、うちは引っ張る。

 

 

薬師バッテリーも、大塚を警戒していた。

 

 

―――――ピッチャーとしても、バッターとしてもこの秋で極端に伸びている。甘いコースは厳禁。

 

 

―――――エースで5番。対抗心湧いちゃうねぇ。

 

 

初球ストレートにファウルを打つ大塚。やはり前に飛ばない。

 

 

―――――伸びは、外から見たよりもない。浮力は平均より少し上ぐらいか

 

大塚栄治は、ストレートの質を見て高校野球の平均よりやや上ぐらいの浮力で伸びてくると分析した。

 

フォーシームというより、わずかにシュートしている。酷いシュート回転と指摘されるほどではない。

 

2球目はボール、やはり外にカットボールを投げてきた。が、手を出さない。

 

――――追い込まれるまでは、外の厳しいボールは徹底して見逃そう。何より、捕手がしきりにこちらを見る限り、相当警戒しているらしいね

 

 

続く3球目はインコースにシュート。胸元厳しく大塚もスイングできなかった。

 

 

――――そこまで攻められると、手は出せないね

 

これでカウントツーボールワンストライク。

 

 

4球目に外寄りのうち目に速球がやってきた。

 

 

――――基本に忠実にッ!

 

 

しかし、ここでわずかにシンカー気味に沈む。

 

 

―――――コース的にそう思っていたよ!!

 

 

 

カキぃぃンッッ!!

 

 

ポイントを瞬時に修正し、軽打に切り替えた大塚が低めのツーシームを拾ってセンター前に運んだのだ。

 

 

バットとボールが見事にミートした、ツーシームを打ち返す手本となった。

 

 

――――フォーシームならスタンドインなんだけど、やっぱり動いてる

 

大塚は、さほど沈まないと御幸がいったのが間違いであることを知る。

 

――――低めになればなるほど変化が大きくなる。あの人センスで修正するからなぁ

 

 

オフに先を見据えて、前足で間を取り始めようかと考えた大塚。そのために必要なのは、スイングスピードとインパクト。

 

――――まあ、次だね

 

 

『センター前ぇぇぇ!! 5番大塚がツーシームを運んで塁に出ます!!』

 

 

片岡監督はすかさず、ここで盗塁のグリーンライトを与えている大塚に積極盗塁の指示を出す。

 

――――ここで、ゲッツーだけは避けたい。2ストライクまでに何とか走れ

 

 

広大なリードを取る大塚だが、真田は警戒が薄いように見えた。

 

 

 

――――考えても仕方ない。体で走ろう。

 

うだうだ考えずに、自分のスタートで走ることにした大塚。

 

 

しかし、やはり大塚の足の速さは耳にしているのか、1度けん制が入った。

 

 

しかし、難なく帰塁し同じリードを取る大塚に対して真田は、

 

――――手足の長さはここでも活きるのかよ

 

 

――――スタートをとにかく簡単に切らせない。クイックで投げ続けてください。真田さん!

 

 

バッテリーも、大塚に走らせたらまずいのは、準決勝でよく見ている。

 

 

 

 

真田がクイック投法をする刹那、大塚が仕掛ける。

 

 

『一塁ランナースタート!!』

 

一歩目が大きく俊敏な大塚があっという間にスピードに乗り、秋葉が送球したとしても、

 

 

―――――くそっ、間に合わない!!

 

 

『初球スチールッ!! ピッチャーの大塚が盗塁を決めてチャンスが広がります!! これで一死二塁!! この後輩のお膳立てを活かせるか、バッターボックスの前園!!』

 

 

 

 

しかし、ここで真田得意のツーシームが効力を発揮する。

 

「あかん!!! やってもうたぁあぁぁ!!!!」

 

浅く沈んだツーシームに芯を外され、痛恨のレフトライナー。進塁打でもないので、大塚は二塁にくぎ付けとなる。

 

 

――――まずいな、序盤でここまでツーシームを投げてくるなんて。

 

 

個人によって異なるが、ツーシームの多投にはリスクがある。それはフォーシームの伸びを阻害するなどのデメリットがあるからだ。

 

それを行う、この試合に賭けている真田の意気込みは尋常ではないと感じた大塚。

 

 

 

続く金丸も内野ゴロに打ち取られ、スリーアウト。結局ランナーを進めることができなかった。

 

 

「ゾノの奴、力みすぎだろ」

伊佐敷が、予想通り過ぎる前園の凡退パターンにため息をついた。

 

「ああ。空回りとムラさえなければ、いい打者なんだろうが」

結城も、自信を上回るパワーを備えながら、力を発揮できていない彼に歯がゆさを感じていた。

 

「けど、芯を外されてもあそこまでいい打球を飛ばせるようになったのは成長だよね」

小湊亮介は、前園の打球は悪くないと考えていた。

 

――――ミート力がつけば、化けるんだよね、あいつ

 

前日から調子が上がってきている。この試合を決めるのは彼かもしれないと。

 




さて、秋季大会で初の「調子がいい」と言われる大塚の投球が始まりました。

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