ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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祝、ソソソ回避記念!!!

いやぁ、千賀君は強敵でした・・・・

さすが最後の大洋戦士!! ベテラン最高!!






第122話 電光石火

スリーランホームランを被弾した降谷に、無情にも交代のコールが鳴り響く。

 

 

『片岡監督が出ます。投手交代です』

 

『序盤はよかったんですけどねぇ。中盤に入ると突然崩れてしまったのは残念ですね。』

 

マウンドを後にする降谷が目を若干赤くしながら川上にあとを託す。

 

 

「――――――――すいません」

顔を伏せ、試合を壊してしまったこと、チームの期待に応えられなかったことを悔いる降谷。

 

 

「謝るなよ、降谷。負けてもないのに、縁起が悪いぞ」

川上はこの状況でも気持ちを切らせていなかった。むしろ、自分がやらねばという思いが強まった。

 

 

―――――俺の役目は、これ以上の得点を許さないこと。

 

 

 

――――――投球でリズムを手繰り寄せること。

 

一つ一つ、明確に、そしてシンプルに。命題を明確にし、集中を研ぎ澄ませる川上。

 

 

「――――――――」

内野陣が離れた後、川上は一人だけになったマウンドを見つめる。

 

 

 

 

夏の決勝、痛恨の被弾をしたからこそ分かる。ここは全員の思いを背負って立つ場所。

 

 

 

ここからは、川上が降谷の思いを背負って、マウンドに立つことが必要になる。

 

 

「――――――ノリ?」

一人だけまだ残っていた御幸は、川上がプレートを見つめるばかりだったので、たまらず声をかけた。

 

「―――――まさか、降谷があんなに崩れるなんて、思ってもなかったからさ」

咎めるつもりはなかった川上。むしろ、あの降谷がここまで崩れるとは正直考えていなかったのだ。

 

 

 

「っ―――――悪い。こんな展開、こんな早い回でお前を出すことになっちまった」

クローザーという役目を与えながら、このビハインドの場面で登板することになった川上に謝る御幸。

 

捕手としての責任を感じているのだろう。明らかに悔しい表情を浮かべていた。

 

 

 

「俺たちは青道投手陣。誰かの調子が悪い時は、ある。」

そんな御幸に対し、川上はなんでもなさそうにそう言い放つ。

 

 

 

 

 

「その時、お互いにカバーできるようにすればいいだろ。俺も、それに先輩だってそうだったろ?」

 

 

 

 

 

 

 

『ランナーいなくなりましたが、4点差ですか。青道にとっては厳しい場面でしょうね』

 

『小川君のように、この川上君が投球で流れを呼び込めるかどうか。そこが重要ですね。彼が止められなければほぼ命運が決してしまいますからね』

 

 

川上の初球。

 

ここでは左の玉木を相手にすることになる川上。サイドハンドには比較的分が悪い左相手に対し、完ぺきな投球を見せる。

 

5番玉木をあざ笑うかのように、川上は外のシンカーで空振りを2つ奪い、インコース低め、ボールに外れたストレートを見せた後の、

 

 

ズバァァァァンッッッ!!!

 

 

シュート回転するストレートがインコース、フロントドア気味に決まり、見逃し三振に切って取る。

 

 

これでひとまずはこの回の成孔の攻撃を終わらせる青道。

 

 

 

「―――――――――っ」

少し涙目の降谷が、戻ってくるナインを見つめていた。

 

 

―――――こんな顔させたまま、負けるわけにはいかない

 

残ったナイン、代わって入った川上は、決意を新たにする。

 

 

その後、沖田が降谷の前に来たが、やはりショックと責任を感じており、降谷を立ち直らせるには、この試合に勝つしかないと彼は考えた。

 

 

 

 

 

 

5回裏の攻撃直前、ベンチ前で円陣が組まれる。

 

「―――――あのスクリューの見極めが難しい。右打者は外の際どいボールは最悪カットし、甘い球が来るまで粘り強く、一人一人が攻めていくべきだろう」

 

「加えて、あのクロスファイアーは威力がある。ここは敢えて内寄りに立つのもありかもしれない」

 

制球にムラのあるタイプだ。少しでも揺さぶりをかけていくべきだろう。

 

 

ここまで劣勢ならば、死球を恐れずに攻めていくしかない。

 

 

ベンチにて戦況を眺める大塚は、小川の投球フォームを凝視していた。

 

「―――――――――」

 

「――――栄治? ああ、まあそうだな。いい投手だし、フォームも癖がない。厄介だ」

チームメイトの視線の先にいる小川に対し、沖田はかなり苦戦が予想されるとこぼす。

 

 

「うん、まあね。」

 

「スクリューとシンカーってどう違うんだっけ? いまいちわからん。成瀬の奴が自称していたけど、詳しくは教えてくれなかったしなぁ」

かつてのチームメイトも投げていた決め球。沖田には2つの球種の違いをあいまいに感じていた。

 

「一説には、シンカーはストレートに近い軌道から沈むという表現で、スクリューは逆カーブに近い軌道を描き、落ちていく、といわれているんだ。もしくはチェンジアップに近いかな。ただし、スクリューは回転を多くかけるから、厳密にいうとチェンジアップとは言い難いんだけどね」

 

「へぇ、って成瀬の野郎、高速スクリューが高速シンカーだったのかよ。そして遅いほうが大塚の表現通りスクリューなのかもな。」

憤る沖田。

 

「うーん、夏の甲子園の映像で見させてもらったけど、あれはスクリューだよ、どちらともね。一瞬浮き上がっているからスクリューだと思う。成瀬投手の高速スクリューはそれだけシンカーと誤認しやすいし、キレとスピード、制球もできている。」

 

 

そう言い切ると、大塚は神妙な顔で持論を展開する。

 

 

「うん。彼のスクリューは今まで見た左投手のどの球種よりも、空想に近いボールだよ。唯一無二といっていいほどの。今後、スライダーのレベルが上がれば苦労するし、彼はその課題を理解しているだろうしね」

 

成瀬への賛辞をいったん止める大塚。次は小川のスクリューについて話す。

 

 

「―――――だからこそ、今日の小川のスクリュー。キレこそあるけど、ほぼストライクからボールのコースになっている。」

それはそれで打者を釣れるからいいんだけど、と前置きしたうえで

 

 

「見逃せば大凡ボールというのが、この投手の弱点。」

如何に我慢できるかがポイントになる。大塚は春市と同じことを言っていた。

 

――――そいつが難しいんだが。まあ、大塚と春市はセンスの塊だしなぁ

 

 

沖田が天才共め、と苦笑いをするが、かまわず大塚は続ける。

 

 

 

「タイミングはあくまでストレート。ずれたらほぼボールといっていいだろうね。その時、いかに自分のスイングを制御できるかがポイントになると思う」

確かに制球されている。キレもいい。しかし、ストライクに入れるような球ではない。

 

 

 

「栄治の話は分かった――――――まあ、やるだけやってみるさ」

だが、それなら出来そうだと考えた沖田。

 

そして気になることもあった。

 

 

 

 

「話は戻るが、逆カーブといっても目線やタイミングを外すようなボールには見えないぞ。アレは明らかに、打者を取りに来てるボールだ」

彼らのスクリューは、逆カーブのようなタイミングや目線を外すボールではなく、明らかに打者を仕留めることに特化した決め球だ。だからこそ、沖田は大塚の説明にいぶかしむ。

 

 

 

 

「まあ、利き腕の方向に曲がる変化球の性質上、余程故障を恐れない投げ方をしない限り、変化は小さいよ。」

投手目線で、変化量の増加は怪我のリスクにつながると言い放つ。

 

 

 

 

しかし、それをあえて前置きしながら成瀬の異常性を口にする。

 

 

 

 

 

「だからこそ、あそこまで投げられる、故障歴もない成瀬君が異常なんだ。あそこまでの変化球をノーリスクで投げられる。これは大変なことだよ」

 

 

 

 

 

 

5回裏、先頭の春市が打席に立つ。

 

しかし、ここは敢えて外の球に対応したかのような立ち位置。クロスファイアーの格好の的。

 

 

――――――初球の入り。そこで敢えて表情を変えずに。

 

春市としては、この枡という捕手が只者ではないことはわかっている。

 

敢えて、ここはセオリー通り外の球に対応する。

 

―――――曲者の2番打者、か。こういう単調な読み合いに持ち込んでくる辺り、

 

とてもやりづらい。

 

 

どっちだ。どっちを狙っている?

 

 

 

枡は球威で押し切る判断をした。切り込み隊長の東条に対し、スクリューを織り交ぜて抑え込んだのだ。今日の小川は調子がいい。

 

 

――――――読み合いは俺の勝ちだ

 

木製独特の乾いた音ともに、センターから右への意識を明確にした、右打ちが功を奏す。さらに、踏み込んだスイングであったため

 

 

『ライト線~~~!!!! 落ちるっ!!』

 

『球威に逆らわず、初球から良い入り方をしましたね』

 

 

打たれた小川は、春市のヒットに驚きを隠せない。

 

―――――なんだよ、なんであんなに簡単に打つんだよ

 

あっさりと初球から振ってきた。そしてあっさりとヒットにする同学年の選手に

 

――――もう、打たせない。

 

 

「後続を切ってくぞ、ツネ!」

 

多少心が僅かに乱れ始めているように感じた枡は小川に声をかける。

 

―――――2つストライク取られてもいいと、開き直られたか。ツネも少し動揺しているし

 

このままではだめだ。

 

 

しかし、青道の攻撃力に対して打つ手が思いつかない。

 

 

 

 

 

 

青道も負けじと先頭打者が長打で出塁。

 

 

続くは今日2打席連続ヒットの沖田。

 

 

「―――――――――――――――――」

怖いぐらい静かな沖田が打席に入る。直前までは獰猛な笑みを浮かべるなど、表情豊かだったはずだが、打席に入る彼は何か雰囲気が違う。

 

 

 

―――――ごめん。試合を作れなかった

 

 

ベンチでやや目を腫らしながら、それでも目を背けない彼の姿を見てしまえばこうなる。

 

 

―――――フォローしてこそ、チームワークだよな

 

自分たちはここで終わるわけにはいかない。

 

 

打ち気に逸る沖田。しかし、小川、枡のバッテリーもこんな危険な人物と勝負をするわけにはいかないと考えていた。

 

 

―――――まっさん。同学年っすよ。だめっすか?

 

同学年相手にヒットを打たれ、血の気がたまってきた小川は、くさいところを突くにとどまる枡の配球に不満を漏らす。

 

 

―――――今日のこいつの調子を考えたら、やばい。でかいのを食らうわけにはいかねぇ

 

しかも、基本的に沖田は左投手相手に相性がいいのだ。好投手の左投手を多く打っているというのは無論わかっている。

 

スクリューだけしかない小川でどこまでやれるか。

 

夏の覇者光南の柿崎から長打を含む複数安打の男だ。悔しいが、小川と彼では格が違いすぎる。

 

 

 

「―――――――――――」

 

インサイドを厳しく攻められ、クサイところを突くだけに徹する成孔バッテリーに不満顔の沖田。

 

 

ツーツーピッチからの7球目―――――

 

「!?」

顔付近のボールに思わずのけ反った沖田。厳しく攻められるのは覚悟していたが、

 

 

―――――あっぶねぇ、こいつ、当ててもいいとか思ってないよな?

 

少し苦笑いの沖田。マウンドの小川はマウンドで悔しがる仕草を見せる。

 

 

―――――キャッチャーも外寄り、御幸先輩勝負か……

 

 

多少ボール球も打ちにいったが上手くいかず、フルカウントから最後は大きく外に外されたのだ。

 

――――くっ、今日の試合、ソロホームラン打っただけじゃないか、俺……

 

 

彼のフラストレーションはたまる一方だ。一応、全打席出塁だが、沖田は満足していないようだ。

 

 

 

 

しかし、フラストレーションがたまっているのは沖田だけではない。

 

 

―――――そうか、沖田を歩かせても後続を抑えたら問題ない? まあ、道理だよな?

 

ニヤニヤしながら打席に立つ御幸。当然心中は穏やかではなかった。

 

 

―――――舐めるなよ、ルーキー。

 

 

御幸は、沖田と大塚の会話を横で聞いていた。

 

 

―――――確かに、東条を仕留めたボールも見逃せばボール。

 

「ボールッ!!」

 

左打者のインロー。自信がなければ投げ込めないコースだが、右打者のアウトローでもあるこのコースにスクリューが集中している。

 

――――スクリューはこのコースだけ。外の見極めが重要になるな

 

 

「――――――」

そして、低めの変化球を見逃され続ければ、ストレート主体のリードに切り替わってくる。

 

 

それをチームで徹底できるか。

 

 

「ボールツー!!」

 

『外のストレート外れる!! ストライクはいりません』

 

 

『アウトローにボールが決まらないと、厳しいですよね。4番打者に甘く入るくらいなら、ボールでもいいかもしれませんが、次の打者へのプレッシャーもあるでしょう』

 

そう、次の打席には大塚がいる。それが小川と枡のバッテリーから余裕を奪っているのだ。

 

 

 

しかし続く3球目

 

 

鋭い金属音を響かせ、一二塁間を抜けるかと思われた打球。

 

 

『セカンド~~!! ああっと、小湊が飛び出している~~~~!!』

 

 

セカンドのダイビングキャッチ。ライナー性の当たりに食らいつく成孔の守備。一塁ランナー沖田が頭から戻るも、春市がまたしてもボーンヘッド。

 

流れが悪い。これでツーアウト一塁となり、ここで5番大塚に打席が回る。

 

『さぁ、4点差を追う5回裏、ツーアウト一塁で大塚がどんな打撃を見せるのか』

 

『苦しい展開ですが、大塚君個人には楽な場面ではあるんですよね』

 

『と、言いますと?』

 

『ツーアウト一塁、これはある意味一番楽に入れる状況でもあるんです。これが二塁だとランナーを返さないといけない、相手は歩かせることも視野に入れることができる。いろいろバッテリーに選択肢がありますからね』

 

『というと、この状況は純粋に勝負以外ではアウトカウントが変動しない、大塚君のバッティングと小川君の投球の勝負になるということですね』

 

『はい、ですので必然的にストライクが増えると思いますよ。ここで歩かせるのも手ですが、それを意図してやると流れが傾きかねませんからね』

 

 

――――初球はボールのインコースでいい。徹底しよう

 

 

枡は、まともにストライクを投げる必要はないと考えていた。

 

この4点差で相手も多少は強引な打撃をしてくるはず。

 

インコースのボール球。強打者相手にはいかにインコースをうまく活用するかがポイントになる。

 

 

枡が内に寄る。

 

――――簡単に勝負できる相手じゃない。けど、初球から逃げると投球にも影響する。

 

沖田に対してもだが、インコースを強く意識させる配球で、手を出してくれれば儲けもの。枡はそう考えていた。

 

 

 

ランナーなしの時ならば迷わず歩かせる判断ができる。しかし、後ろの白洲も本来なら堅実な打者。今日は当たりが出ていないが、油断のできない相手だ。

 

迂闊にランナーを進めてしまうのは愚策以外の何物でもない。

 

 

しかし、沖田にはそれをしなければならないほどの実力と実績があった。対して大塚は、実力こそ警戒されているが、まだ実績が不十分。

 

枡は勝負を選ぶ。

 

 

 

 

 

―――――この状況、外に届く僕のことを考えるなら、インコースのボール、もしくは沖田の足を警戒して外す、ぐらいはしそうだね

 

外のボール球、もしくはインコースの際どいコース。

 

――――僕が見たいのはスクリューの球だけど、それは御幸先輩や沖田の打席で見させてもらった

 

 

ゆえに、自分の中にあったもやもやはすでに解消されている。

 

――――本人たちが気付いているかどうかはわからないけど、スクリューの時はわずかに腕が内寄りになっている。

 

わずかな違和感、わずかな違い。

 

恐らく、球場にいるほとんどの人間が気付かない僅かな違いに気づく大塚。おそらく口で表現してもほかの人間ならば判別することこそできないだろう。

 

内に捻る動作をする以上、ストレートとわずかに違う腕の振り方になる。渡辺先輩も何か引っかかっていたに違いないが、ボールに回転をかける動作の分、ストレートよりも腕の振りが僅かに遅く、角度がより上がっているようにも感じなくはない。

 

高校レベル、プロの二軍クラスならばおそらく見極めは困難。初見で気づくなどありえない。

 

 

大塚も感覚、センスでそこまで至ったが、打席に入るまで確信できなかった。

 

 

大塚は、父親との幼少の頃の思い出を想起する。

 

 

それは、大塚栄治の観察眼を築き上げた柱。培った記録。

 

 

 

 

 

――――ここの間違い探し、栄治は答えられるか?

 

 

――――うん、この人スライダーを曲げようと思っているね

 

――――大きい変化は確かに魅力的だけど、変化球の神髄は、如何にストレートだと思わせるか。だよね、父さん

 

 

――――なんでこの子はこんなことを言えるのかなぁ。俺のせいか。

 

頭を思わず抱える和正。遊び半分にメジャーの試合を見せすぎたのが悪かったのか、と唸る。

 

 

 

アメリカのベースボールを間近で見ていた。膨大な選手のデータ、癖、傾向。

 

一流とそのほかの違い。メジャーに上がれる投手の共通点と上がれない投手の欠点。

 

――――だから、コントロールも悪いし、フォームで見極められている。

 

 

――――ここは、フォークの時にちょっと力み過ぎてる。腕の振りが速いけど、一目で分かったよ

 

 

野球に興味を持った栄治に対し、遊び半分で映像を見せた和正は、その目利きの良さに戦慄を覚えた。

 

 

――――普通、何回も見直さないとわからないんだが

 

 

 

「―――――――」

昔の思い出を唐突に思い出した大塚。

 

 

―――――父さんに比べれば、まだまだの眼力だけど。

 

まだまだできないこと、見分けがつかないものもあった。すべてのフォームを見分けられるわけではないのは重々承知している。

 

栄治の目で見分けられないフォームの違いを、父親は全て当てているのだから。まだまだ眼力の甘さを痛感する大塚。

 

 

 

――――――もう見えている、何を投げるかは

 

 

 

 

が、運の悪いことに、甘さを痛感している彼にとって、小川のフォームの違いは丸裸同然であった。

 

 

 

 

 

初球は完全なボールゾーン。きわどいが、誰の目から見てもボールとわかるコース。

 

「ボールッ!!」

 

初球は見送る大塚。降谷と同じムラのあるタイプであることから、チーム全体でボール球に迂闊に手を出さない、という指示は守る。

 

 

 

続く2球目はアウトロー。これが決まりワンストライク。

 

 

『内から一転、アウトロー!! コーナーを突く投球でストライクを奪います、成孔バッテリー!!』

 

 

――――反応はしたが、タイミングを明らかに図ってやがる。

 

枡も、じっくりとボールにアプローチする大塚に嫌な感じがした。

 

 

―――――うん、一打席目から長打を打つのは厳しいね。

 

 

大塚はそう判断した。

 

 

球質、伸び、どれをとっても今までの好投手と同じレベルにある。夏の甲子園では、まともにバットをふるうことが怪我によって難しく、打席数自体、あまりなかった。

 

成長した今の自分でも、いきなりこの投手から長打は望めない。

 

 

――――まあ、一塁にいるあのバカは、最初から打つ気満々だったみたいだけど

 

心の中で苦笑いする大塚。降谷の悔し涙であそこまでの威圧感を出せるなら、いつも出してほしいと投手目線で嘆息するものの、それがいかにも彼らしいと微笑ましく思える自分もいる。

 

 

3球目、沖田が動く。そして、大塚に与えられた監督からの指示は

 

 

―――――エンドラン、か。まあ、ストライクほしいカウントだけど

 

ここでボールに投げ込んでくるなら、大塚とは勝負をしない、際どいところを突くだけになるのは目に見えている。

 

 

それに、今はもうツーアウト。ライナーでも何ら問題はない。沖田の足ならば、単独でも二塁に間に合う可能性も高い。

 

 

大塚は、コース別に打つ方向を瞬時に決め、頭の中を整理してバットを構える。

 

 

そして、成孔が投げ込んできたのはやはり自信のあるボール、スクリュー。

 

 

アウトローから沈む、ストライクからボールになる変化球。並の打者ならば空振り、決め球に取っておきたいといえるボール。

 

 

しかし忘れるな。大塚栄治の手足は長く、手が伸び切った状態でそのコースにも悠々と届く。

 

 

 

―――――長打を意識したら、打てなかったよ。そのボールはね

 

 

鋭い金属音とともに、スクリューを軽打する大塚の打球が、右方向に飛んでいく。

 

 

「!!!!」

小川は、ここで冷静にチームバッティングをする大塚に驚愕する。さらに、体勢をやや崩しながらも、しっかりスクリューにミートするリーチの長さに舌打ちをせざるを得ない。

 

 

―――――なんで、そこに届くんだぁ…

 

 

打球は絶妙にも一塁手の頭上を越え、ライト線に落ちる長打コースにたどり着く。

 

 

 

打者走者の大塚は、一塁を回ると緩慢な曲がりで速度を落とさずに二塁へ殺到する。

 

 

「!!!!」

それを見ていた沢村が思わず立ち上がり、苦い顔をする。

 

――――大塚!? ベースランニングで荒さをだすなんて

 

 

明らかな走塁ミス、そう思えてならない大塚の走塁。おそらく、ほかの野手メンバーも大塚が打撃では冷静だったとしても、打った後にそれを失っているのではないかと訝しんでいるだろう。

 

 

「――――――」

そんな中、片岡監督、御幸、倉持は黙ったまま大塚の走塁を観察するように見ていた。

 

 

 

 

「―――――不味いッ!!」

枡は、沖田がスタートを切っていることに舌打ちをする。沖田が走ったということは、これはエンドラン。ツーアウトからのリスクなしの作戦。大塚が空振りして沖田が刺されても、次は大塚からの打順。大塚を歩かせる選択肢の成孔に、プレッシャーをかけることもできる。

 

 

沖田の足は、ライトに打球が落ちるころには二塁を回り、三塁にたどり着きそうな勢いだった。

 

 

『一塁ランナースタートぉぉ!! 打ったぁぁぁぁ、打球ライト線!! 落ちるっ!!』

 

 

『これはいくのか?』

 

 

ライトが打球を捕球する頃には、すでに沖田が三塁を回っていた。大塚も当然打球と守備の様子を見て、迷わず二塁へ向かっている。ツーベースは必至だろう。

 

 

「「っ!!??」」

しかし、二塁手玉木、遊撃手山下の目の前で、驚くべき事態が起きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『バッターランナー二塁蹴る!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暴走、蛮勇、無謀。このビハインドの場面であってはならない走塁ミスにつながりかねないギャンブル。

 

 

「「「!!!!」」」

これにはさすがの御幸たちも驚いていた。ほかのメンバーも、無謀といえる大塚の走塁にくぎ付けになる。

 

 

だが、大塚の走塁には明らかな特徴があった。

 

 

 

それに瞬時に気付いたのは、走塁、盗塁のスペシャリストの倉持。

 

 

―――――まじかよ。一塁を直線に走り、二塁には楕円形に近い走路でスピードを落とさないばかりか、さらにギアが上がってやがる!!

 

 

このリズムの走塁の時は迷わず、自分ならば三塁を果敢に挑む場面。

 

 

そして遅れて御幸と片岡監督も気づく。

 

 

―――――三塁を目指すときには、もうすでに―――――

 

 

 

二塁を回る大塚の姿は、成孔の二遊間にどう映ったのだろうか。

 

 

――――――三塁に行くスピード、半端じゃねぇ…

 

―――――同じ人間かよっ!? 意味が分からねぇ!!! なんだよこの化け物ッ!!

 

 

驚異的な走塁テクニックに、驚異的なストライドを武器に、大塚栄治はダイヤモンドを駆け抜ける。

 

 

しかも大塚は尚も加速を続けている。この走力、このスピードならば――――――

 

 

 

『一塁ランナーホームイン!!! 一点返す青道!!!』

 

 

『バッターランナー悠々と三塁に!!!! 4点差ビハインド、ツーアウト一塁の場面で、一年生コンビの攻撃的な走塁で1点を返します!!』

 

 

ライトからの好返球すら意味をなさず、大塚はすでに三塁ベースで止まっていた。しかも、スライディングの後にゆっくりと立ち上がる余裕すら作って見せた。

 

 

『一年生沖田をホームに返す、大塚のタイムリースリーベースでスコアを3対6にします、青道高校!! なおもツーアウト三塁のチャンスでバッターは白洲!!』

 

 

「うおぉぉぉ!!!! ギャンブルなはずだったのに、なんで悠々セーフなんだよ!!」

うれしそうにしている沢村だったが、なぜこんなことになっているのかがわからず、いらいらしていた。

 

「打球は完全にツーベースの当たりやった。なのに、大塚の奴はさも当然のように三塁に行きよった…」

前園も大塚の信じられない走塁に目を白黒させていた。

 

 

「まあ、大塚だしな。今更驚いても」

金丸はある意味落ち着いていた。

 

 

「――――――即実践で使うあたり、あいつやばすぎだろ。てか、いつあんな走塁を身につけた!?」

 

倉持が乾いた笑みを浮かべる。いつも彼の走塁を見ていたわけではない。だが、

 

 

狩場だけが神妙な顔をしながら心の中で、

 

――――夏あたりにはもうすでに出来上がっていたんだよなぁ。

 

怪我をしていなければ、夏の甲子園でお披露目もあっただろう。公式戦前の地獄の合宿、それに、明川学園戦でも少しだけ楕円形気味に走っていたのだ。

 

 

フォアボールで出塁した一塁ランナー時に、二塁ベースに向かう際だ。二塁ベースを踏んだ大塚は一気に三塁まで陥れたのだ。

 

敢えて二塁へ向かう時に楕円形に走り、三塁を陥れる際には直線に殺到し、明川学園の守備を置き去りにした。

 

その走塁が結果的に春市の犠牲フライにつながったのは、記憶にも新しい。

 

 

 

まあ、その時は誰も見ておらず、東条のヒットにくぎ付けになっていたが。

 

 

 

 

 

そして今回見せたこれは一塁を目指すときは直線、二塁へ向かう時はその加速を失わせず、無理に曲がろうとしない。二塁へ向かう際も加速し続ける。

 

最後に三塁を目指すために、二塁ベースを通過した時点で一気に直線に走り、走塁で相手にプレッシャーをかける常識外の走塁。

 

―――――効率、思いつき、良さそう、いろいろ考えた結果だよ。

 

 

本人の気軽な、子供の言葉かよ、と思える気楽発言からのこれである。

 

 

 

 

 

「ああ、まったくスピードを落とさず、成孔の守備を計算に入れ、打球の方向を理解した瞬間に判断しなければ、ああはできないだろう」

御幸も、規格外の打撃をしたばかりなのに、規格外の走塁を見せつけた大塚に、心の中で興奮を覚えずにはいられなかった。

 

 

―――――大塚の奴、自分が簡単に歩かされるとわかっているからこそ、この走塁でプレッシャーをかけたな!

 

これではもう、簡単に大塚を歩かせることもできない。そして、大塚の陰に隠れがちだが、沖田の走塁速度も無視できるものではない。

 

 

エンドランとはいえ、一塁にいて、ライトが数バウンドで捕球できる打球でホームに生還するスピードは、塁上でも沖田の脅威を再確認させる強烈なものとなっただろう。

 

 

 

興奮冷めやらぬ中、試合が再開される。続く打者は白洲。

 

―――――動揺しているときに畳みかける。流れが変わりつつある中でのファーストストライク。

 

 

無論、白洲の目論見通り2球目、外寄りの甘く入った速球がやってきた。

 

 

『三遊間~~~~!!!! 抜ける~~~!! 白洲がファーストストライクをきっちり狙い撃ち、追加点をもぎ取ります!! これで差は2点!! 4対6!!』

 

『三遊間空いていましたし、速球を引っ張るのではなく、センターから逆方向への軽打でヒットの確率を上げていましたね。ナイスバッティングです』

 

 

明らかに沖田と大塚の走塁で流れが変わってきている。前のイニングで圧巻の投球を見せた小川に襲い掛かる青道攻撃陣。

 

続く前園には当たりが出なかったが、逆転を許した直後のイニングで食らいつく青道の攻撃で、流れは完全にわからなくなった。

 

 

5回裏が終了し、スコアは6対4。成孔2点リードのまま、試合は終盤に。

 

 

追撃の機運を見せた5回裏を無駄にしないために、

 

 

「――――――頼もしいよな、こんなに援護してくれるんだから」

 

笑みとともに川上が次のイニングもマウンドに上がる。

 

 

 

1年生の陰になる気などない。2年生投手は昂っていた。

 

 

 

 

 




上書きはネタです、むかついた人がいたら謝ります。

けど、情念は抑え込めないんだ!!

タフなゲームだった(柴田使ってくれよぉぉ)

倉本選手も上向いているんで、悩みどころです。サードはプニキがいるし、ファーストは神助っ人・・・・セカンドはモップとピロヤス・・・・あとソロアーティスト



追記

中日強い、オリックス強い・・・・どうしたんだいったい・・・


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