ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

117 / 150
シン ゴジラを3回。

君の名を1回。

楽しかった。まあ、全部一人で見たんですけど。

友人と日程合わないんだもん。


第110話 予感

東西の有力校同士の対決となった準々決勝戦。3回の表が終了して尚、未だに動きすら見えない試合展開。

 

しかし、3回裏、沢村の投球がさらに躍動する。

 

 

7番白河を高速チェンジアップで平凡なセカンドゴロに打ち取る。高速パームよりも安定感があり、尚且つ必ず動いてくれる信頼度の高い球種となったムービングの亜種。

 

――――このボールがフォーシームをさらに速く見せる

 

「ストライクツー!!」

 

8番打者のインサイドを攻めるストレート。球速は130キロ台ながら、見逃しを奪うシーンが多くなってきている。

 

チェンジアップを投げ続けてきたこと、そして、球速をあげるトレーニングをひたすらにやってきたこと。

 

そして最後は、沢村本来の資質。

 

 

指が長く、ボールを離す瞬間も遅いその投球フォーム。ボールを振り抜く時間が長いほど、加速するための力は増し、球持ちは維持される。

 

遅れて出てくる腕の振りが、更なる相乗効果を生んでいた。

 

 

8番打者は内野ゴロ。沢村が崩れない。

 

 

 

 

 

9番若林は、その凄みを投手だからこそ、より一層感じていた。

 

 

――――腕の振りが遅れて出てくるだけで、ここまで速く――――

 

 

しかもゾーン勝負中心の投手であり、制球も破綻していない。

 

 

――――ここで見せるか、スライダー

 

横スラを見せる時。そう判断した御幸。

 

 

右打者のインサイド。両サイドを意識し、狙いを絞ってきた打者には、横の変化で揺さぶりをかける。

 

 

若林は、アウト気味のボールに見えただろう。

 

――――アウトコース!! これだけつづけたら!!

 

 

ククッ、

 

しかし、うちに切れ込む変化球、しかしカットボールよりも遅く、変化の大きいこのボールに手が出ない。

 

アウト気味からインサイドの良いところに決まったボール、スライダー。

 

 

「ストライクっ!! バッターアウトォォ!!!」

 

――――スライダー!? だが、今のは夏予選とは違う!

 

あの圧倒的なスピードとキレを誇るわけではない。だが、程々に質のいいスライダー。それを右打者の内角に投げ込んできたのだ。

 

初見の彼は面食らった。

 

 

「おお!! ここでスライダー!!」

 

「だが、あの横スラは、今までの奴に比べると強烈ではないが」

 

 

「ああ。でも、扱いやすいボールが出来たのは、投球の幅を広げるな」

 

青道3年生たちも舌を巻く投球術。両サイドを意識した打者の思惑を逆手に取った一球。

 

 

序盤戦はお互いにノーヒットに終わる。

 

 

4回の表、白洲が2球目を捉えるが、

 

――――くそっ、タイミングが!!

 

 

チェンジアップ気味にシンカー方向へと落ちるフォークにゴロを打たされ、あっさりと打ち取られる。

 

――――俺は別に落差とかを意識したわけじゃないぜ

 

こいつはな、と若林は心の中で呟く。

 

 

空振りを奪うボール、フォークボール。だが、カウントを取るためにはどうしてもゾーンで勝負しなければならない。

 

 

早く、変化の浅いボール。SFF本来の使用用途を忠実に。

 

――――チェンジアップを投げる感覚で、フォークを投げる。

 

これにより、抜け気味の失投を投げるリスクも減り、内野ゴロを誘発する確率も高くなる。

 

 

「くっ!!」

 

2打席目では、ついに東条を鋭いサードゴロに打ち取り、ご満悦な若林。

 

 

――――あたりが良すぎた。けど、あのボールは初回のフォークじゃない。

 

だが、打った瞬間に東条はあれをSFFと判別する。

 

 

カウントフォークならぬ、カウントSFF。

 

 

だが、この回の関門である小湊。

 

しかし、この落差の浅いSFFに良い様に蹴散らされる。

 

 

「アウト!!」

 

 

セカンド正面のゴロ。簡単に処理されスリーアウト。小湊が塁に出ることが出来ない。

 

 

「―――――――――――――――っ!!」

焦りを覚える小湊。タイミングを外される動きに対応したが、まだまだパワーが足りない。芯を外された。

 

しかし、まともにタイミングを取っている打者が、青道に何人いるか。

 

 

自慢の攻撃陣が完全に封じられ、勢いに乗れない青道高校。

 

だが、この男の勢いはさらに増していた。

 

 

4回の裏。先頭の左打者から外角スライダーで三振を奪い、これで前の回から2者連続。

 

 

続く2番右打者の片岡にはアウトコースストレートで空振り三振。チェンジアップの残像をちらつかされ、カッターで抉られた後のアウトコース。完全な振り遅れであった。

 

 

最後角田に対しても、内角スライダーで見逃し三振。バットが出かかったような形で三振を奪われる。

 

 

――――そこが入るのかよ。

 

外れると思っていたボールが決まる。これでより一層外のボールが遠く感じられる。

 

 

青道の打線が爆発することを期待していた観客は、思わぬ投手戦に固唾をのんで見守っていた。

 

つけ入るすきを与えない青道沢村。

 

上手くかわし、老獪な投球でまだ得点を許さない若林。

 

ベスト4をかけるに相応しい、接戦。

 

 

そして、そんな両投手の投げ合いを見守るどちらの応援に来たわけでもない者が二人、

 

 

いや、3人いた。

 

 

「凄いな、これが控え投手の実力かよ」

大京シニアの瀬戸拓馬は、青道高校の沢村栄純の実力に舌を巻きっぱなしだった。

 

「―――――でも、スライダーはあのコース以外に投げられていない。まだ、未完成だ」

同じシニアチームで、捕手でもあった奥村光舟は、沢村が限定したコースにしかスライダーを投げていないことを即座に見抜いた。

 

「けど、右打者はあれでほぼ外と内の狙いを絞りにくいだろ。左打者には逃げる変化。これでもう一段階とか、ランナーが出られなくなるだろ」

もし、左打者の内角低めにスライダーを投げられるようになれば、それこそ手が付けられないという。

 

 

「へぇ。青道は凄い投手がたくさんいるんだね、光舟」

そこへ、えらく背の高い青年が現れる。

 

「――――南沢シニアの赤松晋二か。」

一瞬だけ彼に目を向けた奥村だが、すぐに視線をダイヤモンドへと戻す。

 

「つれないね。相変わらず」

人懐っこい笑みを見せながら、瀬戸に「隣いい?」と尋ねる。

 

「すんません。けど、夢中になりますよ、この試合は」

瀬戸が軽くフォローしつつ、赤松にもこの試合の状況を簡単に説明する。

 

 

「――――今年1年、東京を圧倒するチームの名に偽りはなし、か。大塚栄治の投球は見たよ。凄かったよ、まだまだ余力を感じたし」

 

「おまっ! 鵜久森戦見てたのかよ!! どうだったんだ!?」

 

 

「手足の長さを活かした、怪物ストレート。変化球は後半いらなかったね。鵜久森打線をストレート一本でねじ伏せていたよ。しかも最後はカーブを完璧に捉えて逆転サヨナラスリーラン。大塚栄治はあのチームの中でも抜きん出ているよ」

 

思い出したのか、赤松の表情はえらく楽しげだった。

 

「稲実の多田野先輩の所もいいけど、大塚栄治から学べるところが多いのも事実なんだよね」

 

「赤松、お前――――」

瀬戸が戸惑いを見せた表情をする。本気か、と。

 

確かに、大塚栄治は背が急激に伸び、長身から振り下ろす大型右腕と化している。手足が長く、それを上手く使えている印象。さらには、複数の変化球を操れる能力を兼ね備えている。

 

そして、身体的な要素が赤松と酷似しているのも事実だった。

 

「けど、ギリギリまで判断を保留にしたいね。挑むべきか、それとも近くで見るべきか。」

 

 

「この大会を通じて、見極めたいんだ」

 

 

 

 

接戦、動かない試合展開。今までにない手応え。王谷高校のエース若林は、不思議な感覚だった。

 

――――おいおい、シュミレーションと違うぞ、これ

 

 

失点は免れない覚悟だった。如何にして青道投手陣から点を奪うか。まさかこんな重たい投手戦になるとは思わなかった。

 

 

まさか、沖田道広がフォームチェンジにここまで脆いとは思っていなかった。

 

――――肩透かしを食らった気分だぜ。まだあの3人の方が怖い

 

 

だが、この2打席目で対応してくるのも沖田だということを決して忘れない。

 

 

逆境や厳しい展開で一本を打てるからこそ、沖田道広は甲子園で名を轟かせた。

 

自分よりもはるかに格上の柿崎、妙徳の新見からヒットを打つ辺り、先程の自分を恥じた。

 

 

――――油断するのは、勝ってからだっていっただろ!!

 

「ファウルボール!!」

 

初球から振ってきた沖田。ストレートがレフト線切れてファウル。

 

とにかく先頭。自分が出なければ話にならない。

 

――――早いところ援護点をはじき出さないと。

 

 

大きいのを狙うな、今の自分はまだまだ至っていない。高望みするな。

 

 

――――引き付けて、打つッ!!

 

カキィィィィンッッッ!!

 

2球目の外角SFFを捉えた当たりが、ライトを襲う。

 

 

 

 

理想的な右打ちミスショットをせずに、上手く軸足の勢いをぶつけることが出来た当たり。

 

 

「なっ!!」

流石の若林も、沖田がこのままでは終わらないことは解っていた。だが、驚きを隠せない。

 

 

――――引き付けて打つ。それでこの長打かよ!!

 

高いレベルを見せつけた沖田の打撃に、感想を言わずにはいられなかった。

 

 

フェンス直撃のツーベース。今日初めてのヒットが長打。しかも先頭打者。

 

 

「おお!!! 初ヒットは沖田!!」

 

「やっぱり頼りになる!!」

 

二塁ベース上で拳を突き上げ、声援に応える沖田。

 

 

続く御幸に対しては、

 

「ボールフォア!!」

 

 

――――振らねェか。けどここまでは許容範囲。

 

 

尚もノーアウト一塁二塁で、6番前園。

 

 

――――たぶん、フォークを意識している。ストレートを高めに見せて、スイングの仕草を見極める。

 

 

 

「ファウルボールっ!!」

 

 

だが、若林の予想を覆す、初球からのスイング。ボールになると思われたコースを、前園は振ってきたのだ。

 

 

――――おいおい、そこ振るか、普通。

 

呆れた表情の若林。

 

 

――――次はボール気味のアウトロー。ゾーンで仕掛ける必要がねェかもな。

 

「ボールっ!!」

 

思いっきり踏み込み、バットが出かかる前園を見た若林は確信する。

 

――――強く振ってきている。なら

 

内側による角田。インコースへの厳しいボール。

 

 

――――まだこの打者にはシュートを投げていない。

 

この打者がインコースに強いことは解っている。だからこそ、ボールからボールになるシュート。徹底的に厳しく攻める。

 

――――ここでカウントを取るつもりなんてない。残像程度になれば

 

「ボールっ!!」

 

 

「くっ!」

得意のインコースだが、ここまでボールゾーンでは前園もふる事が出来ない。

 

 

――――よし、ここでセオリーならアウトロー。けど、それじゃダメだ。ここでほしいのは三振じゃない。

 

 

 

真ん中寄りに構えた角田。

 

 

――――手を出してこいよ、そこに投げた意味がないんだからな

 

 

外側で、真ん中気味の低め。遠すぎて手が出ないのではなく、程よく手が届きそうなコース。

 

 

――――甘い球!!!

 

 

ストンッ

 

しかしここでSFF。完全に芯を外された打球がショートへ。

 

 

「!!!」

 

飛び出していた沖田が、まず捕球した瞬間にショートにグローブを叩きつけられる。

 

 

そしてセカンドベースに入り、一塁走者の御幸もフォースアウト。

 

「っ!!」

 

 

そのまま一塁転送。

 

 

「アウトォォォォ!!!!!」

 

 

 

 

一瞬にしてチャンスが消し飛んだ。王谷高校のビッグプレイ。最悪の凡退をしてしまった前園は一塁を回ったところで呆然としていた。

 

 

「―――――――――」

 

 

ノーアウト一塁二塁のチャンス。強硬策に出た青道が、拙攻に終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁ、やっちまったな。」

瀬戸が目も当てられないと呻く。

 

「調子の出ない6番打者。7番が大塚であるだけに、無理に行く必要はなかったかもしれない。」

冷静に結果論ではあるが、最善策を述べる奥村。

 

「けど、中軸だし、あれも一つの選択だと思うよ。」

赤松はそうは言いつつも厳しい表情のまま。

 

 

5回表が終了。初ヒットと四球でチャンスを迎えるも、トリプルプレーで攻撃が終わる。

 

青道は東条と御幸の四球、沖田のヒット1本に抑えられる苦しい展開。

 

 

だが、王谷高校は沢村の前にヒットが出ない。

 

レフトの守備位置にいた大塚は、ここまでヒットが出ていないことで、心がざわめいていた。

 

―――まさか、な

 

その難しさは、一番よく解っている。3度挑戦して、いずれも失敗している身としては。

 

 

4番春日をチェンジアップで三振に打ち取り、5番山里も三振。

 

 

止まらない。かつてない安定感を手にした沢村が止まらない。

 

6番打者は手打ちのような状態で打たされ、サードゴロ。連続三振は途切れたが、ヒットの匂いが出てこない。

 

 

 

中学生組3人組が観戦する中、ここにも青道に浅からぬ因縁を感じるものが一人。

 

 

「―――――厄介な投手だ。」

 

結城将司。前主将、結城哲也の弟。そのガタイの良さに、パワフルなスイングを武器に、強打のイメージを定着させた可能性を秘めるスラッガー。

 

――――打線の組み替えに失敗しているな。6番だけではない。

 

御幸、東条、大塚、沖田以外に、可能性が感じられない。

 

そして数少ないこの打者がそれぞれ分断されてしまっている。

 

 

しかし将司は知っている。この状況を打破する唯一の手段を。

 

 

「ここで勝負に出られるか。最長イニングが7回の投手が、どこまでもつかわからない中、早めに先制点を取らないといけない」

 

 

その唯一の手段は、飛び出してくるのか。

 

 

6回の表、先頭打者は大塚栄治。その打棒で打線を目覚めさせられるか。

 

 

 




冬のオフ。巻き込まれる事が確定されている沢村。

もう一人は言えませんが、多分その時になると驚くと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。