ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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タイトル変更しました。


第106話 準々決勝に向けて

御幸に何が起きたのか。大塚はたまらず朝練終了後に前園、倉持、白洲に尋ねる。

 

「すいません、主将はどちらに?」

最近迷惑をかけているし、気を使わなければならない相手であり、昨日も様子が少しおかしかったのだ。気になる大塚。

 

 

「すまん、ワイも知らん。御幸の奴が最近難しい表情をするのは知っとるんやが……」

前園には心当たりがなく、歯切れの悪い回答。

 

「確か、結城先輩とともに明大の施設へと向かったが――――」

白洲は一応大まかなことを知ってはいるが、何をするかまでは聞いていない。

 

「監督が言うには、特守の一環らしいが、俺も詳しくは知らねェな」

倉持曰く、特訓に近い何かだという。

 

「てか、なんでお前ら漠然とやけど知っとるんや!!」

前園が二人に突っ込む。

 

「いや、お前自主練の後はすぐ寝るだろ。たまたま監督に会った時に御幸が話し込んでいるのを見たんだよ。」

 

「そういうわけだ。他意があったわけではないぞ、前園」

 

「あれ? 沖田曰く、御幸先輩と口論になってませんでした?」

前園が御幸の事を気にかけるとは思っていなかったので、大塚は不思議そうに本人に尋ねる。

 

「まあ、その――――ワイもワイで、周りが見えていなかったんや――――キャプテンやから周りのフォローをしろと――――キャプテンの重みっちゅうもんを理解できてへんかった。」

前園曰く、伊佐敷に色々と一言一言言われたらしい。

 

御幸がキャプテンとして頑張っているのは理解しているが、それでも渡辺に対する対応に憤りを感じていたのだ。

 

だが、御幸も御幸でキャプテンという立場でチームを纏めようと頑張っていることを理解していなかったんじゃないかと、指摘を受けたそうだ。

 

渡辺の件を糾弾するよりも先に、御幸の事を理解していなかった。監督にも、彼を支えてやってくれと頼まれたというのに。

 

「まあ、そうですね。あの人は勝ちに飢えているし、チームが勝つために何をすればいいのかを知る、そういう努力を怠らないですし。」

だからこそ、あの人に受けてもらいたいと思うし、選手としても尊敬している。

 

「すまんな、大塚。上級生が引っ張っていかなきゃならんのに、ごたごたを起こしてしまって」

 

「欠点がない人間なんていませんよ。3回戦では少し足を引っ張ってしまいましたし」

3失点もそうだが、いいように中盤までやられたことをまだ忘れることが出来ていない大塚。

 

――――夏に鵜久森来い。今度は完封してやる

 

と、本選での再戦を人知れず望んでいたりする。

 

「3失点でそこまで謝られてもなぁ。特に3点目はワイらがもっとケアしてやれたかもしれへんし」

 

雰囲気は元に戻りつつある。前園が少し気にし過ぎているきらいはあるが、それでもチームのムードが悪くなるような予感はもはやなかった。

 

「いえ、でもこれから先、何度も助けられるかもしれません。その時はお願いしますね。」

 

「つうか、終わってみれば、先制タイムリーにサヨナラスリーランの4打点だろ。投打に大活躍じゃねェか」

倉持が大塚を弄るように前日の成績を口にする。

 

まさにひとり舞台。大塚の更なる可能性を予感させる試合でもあった。

 

「出来過ぎです。御幸先輩と東条がお膳立てしてくれましたし。先制打の時も、御幸先輩が塁に出てくれたおかげで、出来たようなものですからね」

凡事徹底。投手の面ではそれが出来ていなかったし、準備が不足していたのを痛感した。打撃面では、周りにサポートしてもらい、お膳立てしてもらった。

 

おかげで、プレッシャーなく打席に入ることが出来た。

 

「謙虚やなぁ。ワイだったら、とんでもなく浮かれているで。」

前園にしてみたら、投打に才能を発揮するだけでも尊敬に値する。だからこそ、大塚の更なる精神面での成長と落ち着きは頼もしい限りだ。

 

「けど、お前にもコンプレックスはあったんだな。大塚和正、雲のような存在とだと尚更か」

白洲は、夏の時からそのことを知ってはいたが、秋で大塚が僅かに崩れる要因の一つとして、その事を気にしていた。

 

「ワイはそれも初耳やで。夏のメンバー以外には話さなかったんかぁ。いや、今更変わるっちゅう訳やないけど」

 

 

「いや、対戦しようのない相手の事を考えてることが無駄だったんです。今の俺にとって大事なのは、甲子園で優勝すること、出来たら胴上げ投手になりたいことだけですね。」

 

――――プロの世界へ挑戦したい気持ちはある。

 

だが、それで足元をすくわれるなら、プロの器ではない。

 

―――――焦れるかもしれない。けど、今は

 

目の前の勝負に全力でありたい。継続し続けてこそ、

 

 

――――自分に誇れる日がきっと来る。

 

 

ボールパークで見た、偉大な男の背中が脳裏から引きずり出される。

 

大きい背中だった。あの背番号18は、屈強な大男の中でも全然負けていなかった。

 

 

「なので、これ以上失点すると、本当にヤバいかもしれないですね」

 

「――――ワイらのポジション争いもやが、エース争いはホンマに半端ないな」

 

「沢村は馬鹿だが、野球に関しちゃ最近馬鹿でもねェ。降谷もスタミナはまだまだだが、制球力はだいぶ改善してきたからな。」

 

後ろから迫ってくるライバルの存在。それが大塚に刺激を与える。

 

「ええ。だから沢村の投げる今度の試合で、どこまでできるか。非常に興味がありますね」

 

準々決勝では都立の星とも謳われる王谷高校との試合になる。そつのない攻撃、その常識を疑い、自分たちの野球を貫く姿。

 

それは、中学時代に初めての日本を訪れてきたとき。

 

私立の高校、とりわけ人口の多い都道府県ではその中でも強豪と言われた高校が突出した成績を残し、安定した出場経験を誇っていた。

 

だからこそ、妙に覚えていた。その常識が一瞬でも打ち破られた年を。

 

古豪の帝東を破り、王谷高校が全国大会へと進んだ記事を。

 

それまでの帝東は、強豪であり、東東京の強豪校相手に連勝、向かうところ敵なしだった。そんな彼らを止めたのがこの都立の星だ。

 

帝東のエースは当時、力投派のエースだった。3回までは、無論彼らのペース。リードは2点。無失点を続けていた。

 

だが、4回にそのエースが突如崩れた。いや、あれは投手の調子が乱れたわけではない。

 

 

―――――力投派の最大の弱点。そこを突かれたんだ。

 

 

力投派の投手が9回を投げるには、どこから必ず休む場面を作る。作るものなのだ。だからこそ、恐らくエースは4,5回を流して、6回からまた力を入れてくる。

 

当時の試合映像を見て、それは一層確信できた。

 

球速表示も、ストレートのスピードも2キロ落ち、フォームも躍動感が少し薄れていた。変化球主体の投球。

 

ストレートに力を誇っていた投手だ。ということは変化球のレベルはそれよりも幾分も落ちる。都立の高校はそこで選び、賭けに勝った。

 

 

そのプロも注目するストレートと、おんぶに抱っこの変化球。

 

どちらを狙うべきか、もはや言うまでもない。

 

 

焦った投手はさらに力み、この4回の集中打が試合を決めた。それは帝東の打者にも言えた事。

 

久しく経験していなかったビハインドの展開。エースの大量失点。そして、王谷が細かに研究した各打者の打球傾向。裏打ちされる守備シフト。

 

 

そして、その相手の弱点を突き、相手に合わせた守り方を貫き、練習量の差を覆す快進撃を繰り広げた。

 

 

――――油断のならない相手だ。栄純がもう一段階上に行くにはうってつけ。

 

強打の打線相手に奮闘してきた彼にとって、初めて緻密な野球を行う相手。

 

本調子ではない大塚も、搦め手に次ぐ搦め手で鵜久森に手古摺った。

 

「栄純は俺のライバルの一人だけど、野球人としてどこまで伸びるのかを見てみたい、そういう感情もありますからね」

 

「ぎすぎすしていないなぁ、お前ら」

お互いにいい関係で刺激し合っている。ライバルである以上に、彼らは良き友人でもあった。

 

「純粋に実力を見せつけるしかないですし。お互いに仲が悪くなるのもよくないですから。それに、俺一人で東京予選を投げ抜くつもりなんてないので、一人でも多くの投手が必要なのは、言うまでもありません。」

 

ただ、エースの座は何があっても譲りたくありませんけどね、と大塚は最期に付け加える。

 

いつもとは違うメンバー、御幸不在の為か、早朝練習では先輩とつるんだ大塚。

 

あっという間に始業時間が迫ってきていた。

 

「そろそろホームルームが始まりそうですし。時間に余裕を持っておきたいので上がりますね」

 

「おう。お疲れ大塚」

 

 

グラウンドを後にする大塚は、マネジャー服姿の吉川とばったり会う。

 

「あ、持つよ、春乃。」

綺麗に洗われた白球の詰まった箱を抱えていた春乃を目撃した彼は、その運び仕事を手伝うとかって出る。

 

一方彼女は戸惑っていた。

 

「え、でも――――」

これは雑用の仕事なのに、と判断を決めかねている春乃を見かねた大塚は、

 

「二人でやった方がすぐに終わるよ。俺も練習終わりだし。このままだと遅刻するよ」

 

 

「でも悪いよ――――これはマネージャーの仕事だもん」

 

 

「一緒にやれば時間短縮。俺が手伝いたいんだ」

 

 

 

「栄治君―――――ありがとう」

迷った末に大塚の申し出を受け入れる春乃。戸惑いを見せつつも、嬉しさをどこか隠し切れない笑顔を見せる。

 

 

――――彼女を目で追うようになって、裏方のありがたさが一層わかるようになった。

 

今までは無心で行っていた道具の手入れの時間も、なんだか落ち着くようになった。

 

野球部は戦う選手たちだけではない。裏方の支えがあるからこそ、万全の状態で試合に臨めることを。

 

 

日ごろの練習だけではなく、その準備のための時間も最近意識するようになった大塚は、彼女の力になりたいと考えたのだ。

 

 

 

そしてやはり二人でやれば、時間は半分に短縮され、あっという間に仕事は片付いた。

 

「―――――もう、翌日から約束を破るなんて―――――」

 

「ごめん。でも仕方ない。幸子先輩でも、唯先輩でも、同じことをしたよ」

 

部内では特別扱いはしないと決めていたのに、と呻く春乃。

 

「え、えぇぇぇ!? ちょっとエイジ?」

 

「―――――裏方の力になりたい。いつもいつも俺達が満足に練習できるのは、みんなのおかげだって知っているから。だから、たまにはね。たまたま春乃が目の前にいたから。うん、そうなんだ」

 

本当はそれ以外の理由もあるが、あえて口を伏せた大塚。

 

 

「もう、ああいえばこういうね。深くは聞かない。恥ずかしくなっちゃうから」

プンプンと可愛らしく怒る春乃。大塚の本音についてはあえて聞かないことにする。

 

 

――――やっぱり見透かされてたか。まあ、そうか

 

彼女には、隠し事は出来ないな、と大塚は諦めた。

 

 

 

「悪かった、以後気を付けるよ」

 

 

教室に出向くと、沖田が神妙な顔で東条と話し込んでいた。違うクラスなのによくやる、と心の中で呟く大塚。

 

 

そして、最近できた野球以外の知人と何やら話し込んでいる。

 

 

「つまり、彼女の恥じらいにこそ魅力があるわけで」

 

「いや、まあ同じような年齢の人は他にもいるだろ」

 

「違うんだよ。そうじゃないんだよ、あれは」

 

「合法ロリではだめなんだよ。ああいう大人な雰囲気があるのに、若さを主張するキャラがいいんだよ。解んないかなぁ、そこ」

 

 

――――ああ、またか。

 

大塚は憂鬱になる。

 

 

「なら、あっちの方がよくないか? あんな神聖なオーラを出しているわけだし、年齢にそぐわない容姿だし」

 

「あれもいいものだが、少し違うな。」

クラスメートの輪の中心で沖田が力説する。

 

 

「けど、なんでそんなマニアックな設定が好きなんだよ?」

 

 

「こう、心にぐっとくるじゃないか!! そう言う女性心理という奴は!!」

 

――――うわぁぁぁ

 

大塚は引いた。それはもう、その傾向に引いた。

 

 

―――――そらそうよぉ……こんなのってないよぉ……

 

大塚は半年前の野球バカの沖田が恋しくなった。

 

 

 

「勉強もある程度で来て、スポーツ万能。なのに、性格だけはホント手遅れだよな、沖田」

 

「仕方ない。自分を偽ることなん出来ないからな」

笑顔で宣言する沖田。イケメンなので余計に破壊力がある。それも全方位に良くも悪くも。

 

 

「まあ、俺らも人のことを言えないか。」

 

―――――アイドル許さないアイドル許さないアイドル許さないアイドル許さない

 

若干目のハイライトが消えかけた大塚。なんだかんだ沖田から目を離さない辺り、彼も諦めていないのだろう。

 

 

 

 

「凡事徹底、一朝一夕、日進月歩、臥薪嘗胆、徹頭徹尾……」

そんな馬鹿騒ぎの中、沢村は4字熟語をひたすらに読みふけっていた。

 

 

 

「エイジ! 正気に戻ろうよ~。」

大塚の手をぎゅっと握る。

 

「あ。ごめん。ちょっと冷静ではなかった。」

恋人に手を握られたことで、正気を取り戻した大塚。

 

――――うん、人の趣味をとやかく言うのはさすがに。でも、こんなの――――

 

――――エイジ。沖田君も分別は出来ると思うし。大丈夫だよ

 

 

 

 

二人は、沖田をスルーしてそれぞれの席に座る。

 

ホームルームが始まるのだが、

 

「そうだな、もう半年たったし席替えをしよう」

担任の教師がそんなことを言い出したのだ。

 

「――――――」

ちら、と一瞬だけ春乃が大塚の方を見た。

 

「――――」

無言で微笑む大塚。どうやらお互い考えていることは同じようだ。

 

 

しかし現実はそう思い通りになるはずもなく、大塚は2列目の席に、春乃は後ろの席になってしまった。

 

「――――――」

無言だが、少し不機嫌な様子の彼女を見て、大塚は思わず口がほころんでしまう。

 

――――ああ、もう愛らしいなぁ

 

少し残念だが、だからと言って今後が曇るという事ではない。何でもかんでもくっつきすぎるのはよくないともいうし、と彼は納得する。

 

「先生、俺大塚と席を変えてもいいと思います!!」

そこへ、沖田のドルオタ仲間の実松がいきなり爆弾発言をしたのだ。

 

「!!!!」

 

「!!!!!」

この発言に目をくわっ、と見開く春乃を見て、一瞬だけビビった大塚。

 

 

「え、まあ本人同士がいいと言うなら――――」

 

「ほい、吉川さん」

実松が吉川を手招きし、自分は荷物を纏めつつ、席を後にする。

 

 

「―――――――――」

顔を、かぁぁぁ、と赤くする吉川を見た同級生たちはというと、

 

 

―――――くそう、大塚めぇ

 

――――吉川さんって、可愛かったんだな。畜生

 

―――――羨ましいなぁ、吉川さん

 

若干嫉妬の感情はあるが、おおむね平穏な席移動が認められた。

 

しかし、今日その日の授業では緊張しっぱなしの彼女を大塚がフォローするという構図が出来上がり、男子学生の思春期な心にハートブレイクの連続。

 

一応、授業や教師の話をちゃんと聞いていたが、時々声が上ずるので、変な声が出ていた。その後、後が続かなくなるので、大塚が彼女の言おうとした答えを代わりに答えたりしていた。

 

 

頭は悪くないし、最近はドジをしていないのに、こうである。

 

さらには――――

 

 

 

「「あ」」

前列の女子生徒が消しゴムを落とした時、大塚と春乃が腕を伸ばした時、手が触れてしまったのだ。

 

 

 

気恥ずかしそうにする二人に、この授業を受け持っていた片岡監督は、

 

 

 

 

「問題が起きないのなら、俺は構わん。だが、教師の前で不純異性行為とはいい度胸だな、大塚」

 

 

「誤解です!!! しかし、すいませんでした!!!!」

ついに片岡監督に目をつけられてしまう大塚。

 

 

 

その授業後、

 

「えっと、まさかああなるとは―――――」

顔を青くしている大塚。雷を落とされると思っていたのだが

 

 

 

「ふっ、まあいい。どうやら気持ちにようやく整理がついたようで何よりだ。あの試合でお前に満足した訳ではないが、粘りを見せたな」

しかしさほど気にしていたわけでもなかった片岡鉄心こと現代文の教師。ちょっと野球部の話が出始めていた。

 

「は、はい」

 

 

「人と人の繋がりは大切にしろよ。今のお前を支えるのは、どうやら仲間だけではないようだからな」

 

 

 

「はい!!」

そして、その問いに対してだけは、大塚は自信を以て断言する。いちゃいちゃと言っても、彼は本気なのだ。

 

野球も恋も、どっちも曲げるつもりなどない。

 

 

 

「ねぇ、目の前でラブコメを見せられた私は? パルパルパルパルパルパル―――――」

前列の女子生徒が嫉妬を爆発させ、

 

 

「監督公認かよ。くそっ、羨まけしからん。後で裏山な」

沖田がしょうもないギャグを言い放ち、

 

 

「寒すぎるよ、沖田君―――――」

小湊に強烈なダメ出しをされる。

 

 

 

 

いつもの賑やかな1年生の教室だった。

 

 

 

 




遅れました。いや、パワプロのやり過ぎでした。


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