ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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遅れました。言い訳はしません。

すいませんでした。


第105話 御幸の葛藤

この秋季大会予選本選3回戦で、死闘を繰り広げた青道高校。幸いなことに、サヨナラ勝ちという劇的な勝利でチームは勢いづいている。

 

特に、エース大塚が完全無欠ではない事実を突きつけられてもなお、チームは一丸となり一つになった。この勝ち方は彼らの地力を証明するものとなる。

 

 

それは当然、あの方たちにもすぐに知る所となるわけで、

 

 

「おうおう、大塚ぁ!! 公式戦で3失点もしたって聞いたぜ。」

伊佐敷が早速煽る。

 

「うっ、面目ありません。」

うへぇ、という顔をする大塚。目が泳いでいる。

 

「まあ、俺に比べるとマシだがな。不調なりにゲームは作ったのだからな」

そして自虐風に大塚を励ます丹波。

 

「いやぁ、まあけど、納得はしていません。秋の大会ではまだ満足な投球ができていませんし。」

 

 

大塚がいうように、それほどの難敵でもあった。

 

「稲実を抑えた実力に間違いはなく、相当手強かったです。」

御幸も、あの軟投派投手、梅宮は今まで対戦したことがないタイプであり、厄介だったと感じていた。

 

「いい勝ち方をしたし、勢いに乗れるな。それで、準々決勝の相手はどこなんだ?」

前主将結城が現主将御幸に尋ねる。

 

「王谷高校です。」

 

 

「王谷―――――確か、昔甲子園に出たっていう――――まあ、油断すんなよ。甲子園を出た高校には何かが残っているもんだからな」

伊佐敷は意味深な言葉を残し、御幸と大塚から背を向けて歩いていくのだった。

 

それに続き、増子や小湊兄、結城も続くのだが――――

 

 

「あの、先輩。」

御幸が結城を呼び止める。

 

「ん。どうした?」

 

 

「昼に少し時間を貰えないでしょうか。その、相談したいことが――――」

その瞳は真剣だが、かすかに揺れていた。

 

その揺らぎに何かを感じ取ったのか、結城は

 

「ああ。俺に出来ることなら力になろう」

 

その申し出を快諾するのだった。

 

 

――――御幸先輩? いったい何に―――――

 

大塚は、御幸の抱える悩みに深く追求することが出来なかった。

 

 

 

教室では、沖田がいつもの元気を失っていた。

 

「うーん、ダメだな」

悶々としながら、スマートフォンに映る自分の打撃フォームを見て唸っていた。

 

「何がダメなの?」

小湊が隣のクラスからやってきたのだ。攻守のかなめの一人でもある彼が悩みを抱える姿に、学べるポイントがあると踏んだのだ。

 

 

「やっぱり足を上げすぎなのかもなぁ。上半身の動きはいいかもしれないが」

彼が注目するのは、下半身の動き。始動が速く、足を上げた緩やかな軌道。

 

だが、沖田はそこが自分の課題でもあると考えていた。

 

「梅宮のパワーカーブだけじゃない。神木投手、横浦のドロップ使い。俺は悉くカーブ投手に弱い。これらのボールを仕留め切れていないんだ」

 

明らかになった沖田の苦手な投手。それこそが、沖田が次の階段を上るための宿題。

 

 

「だから、仕留められるはずのボールをミスショットして、最後に打ち取られている。カーブがチラつくことで、他の球種にも悪影響が出たんだ」

 

そして行き着いた答えが、足を大きく上げない打法。

 

 

「すり足打法を取り入れるんだね? 沖田君は股とパワーもあるから大丈夫だとは思うけど――――」

 

 

「まあ、飛距離はおちるかもな。だけど、このまま課題を残したままじゃ、全国で弱点をせめられる」

沖田は、もっともっと野球がうまくなりたい、いい投手からいい打球を飛ばしたい、そう考えている。

 

 

大塚が試行錯誤を繰り返し、弟子でもある金丸も頑張っている。

 

自分も前に行かなければならないと考えているのだ。

 

一方、熱心に試合後の課題の洗い出しを行っている沖田を見ていた同級生たちは。

 

 

「今日はドルオタじゃないな、沖田」

 

「ああ。最後の打席がよほど悔しかったんだろうな」

 

「まあ、あの試合はいいところがなかったし」

 

「けど、真面目な沖田君の方がやっぱりいいかも。」

 

「うんうん。真面目なままなら選び放題なんだけどなぁ」

 

 

と、本人が気にしていることを察してか、彼らの目は温かかった。

 

 

「おうおう!! 次の試合はホームラン打てよ、沖田ぁぁ!!」

 

 

「守備も頑張れよ!! 来年は途中から応援に行けないけどさ!!」

 

 

「ああ、必ず期待に応えてやるさ!!」

 

 

 

 

「いい雰囲気だ。俺もチームも、なんだか吹っ切れたしね」

大塚は穏やかな気持ちで席に座って彼らを見守っていた。

 

―――――本当に、みんなに助けられたからね。

 

 

 

 

 

そこへ、登校したての吉川がやってきて、

 

「あ、おはようエイジ」

 

「うん、おはよう、春乃」

 

何気なく名前呼びで挨拶をする二人なのだが、

 

「ん!?」

その瞬間、クラスが揺れた。

 

「お前ら、いつから名前呼びに!?」

 

 

「ああ、まあ最近だよ。うん、深くは追及しないでほしい、かな」

ちょっと気恥ずかしそうに手を首の後ろに添える大塚。だが、それはある人種特有の雰囲気を醸し出していた。

 

 

「ってことは、」

大塚の様子を見てクラスメートたちは次に吉川へと視線を集める。

 

「―――――――――うん」

顔を若干真っ赤にして、少し目線を外しながら、頷く吉川。

 

「―――――やっぱり可愛いな、」

 

「も、もう!! エイジ君!」

ワタワタと手を振る吉川の仕草に、さらに大塚の頬が緩くなる。恥ずかしかったはずなのに、

 

 

―――ああ、もう見られてもどうでもいいや

 

何かを諦めてしまっていた。

 

そんな新しいカップル特有のお熱な雰囲気に沖田は歯ぎしりする。

 

「―――――羨ましけしからん。マジで沢村といい、降谷といい、なんで俺はもてないんだ」

沖田がぶつぶつと怨念を吐くのだが、今何か言ってはならないことを言ってしまっていた。

 

「でも、ちょっと残念なところがあってもいいと思うよ。」

 

「うん。完璧すぎるのものね―――――」

クラスの女子に励まされる沖田。

 

そして思い立った沖田が、

 

「やっぱり俺ってモテる、ねぇどう思う!? あの子にアタックするには俺は何をすればいい!!」

 

アタックを開始するが、

 

 

 

「「無理だとおもう。」」

 

 

「沖田、気になる人がいたんだ。無理だと思うけど」

 

「まあ、残念だからな」

 

「残念でイケメンで独身貴族がお似合いだろ」

 

 

いつもの扱いである。

 

 

「なぜだぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

弄られキャラになりつつある沖田を放置した同級生たちは、矛先を二人に向ける。

 

 

 

 

 

「え!? 沢村君彼女いるの!?」

 

「それに降谷君女っ気なさそうなのに!!」

 

そして、大塚だけではなく二人にまで飛び火する始末。

 

「うえぇぇ!? 沖田ぁぁぁ!!! 何言ってんだテメェェ!!!」

 

 

「―――――――――――――」

白くなっている沖田が反応しない。

 

 

「沖田ぁぁっぁ!!」

そして激しく揺する沢村。ついに起動したが、沢村はその行動に後悔することになる。

 

 

 

 

「リア充に嫉妬して何が悪い!! 今年の冬も練習でライブに行けないかもしれないんだぞ、どうしてくれるんだ!!」

 

「練習しろよ!! 俺が言うのもなんだけど、訳分かんねぇぞ!!」

沢村が突っ込む。自分が頭がよくないことを自覚した、謙虚な言葉を続けて。

 

 

 

「体を休めるのも練習だぞ!! 動かした筋肉をケアするのも練習だ!」

妥当な言葉でもあるが、ライブを見に行きたい言い訳に過ぎない。

 

「12月、ダメだったら諦めて練習しよう、沖田」

そこへ、東条が悟った目で残酷な事実を述べる。

 

 

「うわぁぁぁ!! 何としてもライブ行くんだァ!! こうなったら努力して、活躍して監督に認めてもらうしかないな!!」

 

秋季大会で活躍する、と宣言する沖田。神宮大会でも殊勲打を放つと公言する。

 

「そこはホームランじゃないんだ」

小湊が沖田に尋ねる。

 

「大きいのを狙って、凡退するよりかは、打点だろ。打点はチームへの貢献に一番効果的だろ?」

ドルオタ顔から野球人に戻る沖田。至極まっとうな理由で、頼もしい理由でもある。

 

 

「そこは冷静なんだな、沖田――――」

苦笑いの大塚。彼の腕の中には、吉川がいたりするが、沖田はそこまで視野が広くなかった。

 

「なんて不純な動機なんだ。てか、流石にやりすぎだぞ、大塚ァーーーー」

大塚が沖田に突っ込むが、リア充している大塚に突っ込む金丸。

 

「だ、そうだ。ちょっと離れようか。うん。少し正気じゃなかった。」

 

優しい声色で、吉川の耳元でささやく大塚。

 

クラスの女子達は大塚の行動にキャァ、と湧いている。一方男子たちは血涙を流す勢いである。

 

 

「何これ」

降谷は、ポカーンとした表情で周りを観察していた。

 

 

 

1年生の教室の騒ぎは、授業中こそ落ち着いていたが、最終的に落ち着くには昼まで時間がかかった。

 

 

「名前も解らない。けど、とても印象に残ってた」

 

最後に、降谷も同級生の餌食になっていたりする。が、要領を得ない答えなので、獲物は大塚と沢村に絞られ、大塚は堂々としており、沢村が逃げるという構図が出来上がっていた。

 

 

「いや、なんだかもうね。恥ずかしさがどうでもよくなったんだ。世界が変わったっていうか」

 

「お前ッ!! どうしちまったんだよ!!」

 

 

 

一方、昼に相談がしたいと言った御幸は、結城の下を訪れていた。

 

 

「―――――前園とそんなことがな。」

 

「―――――自分の気持ちに嘘はつきたくない。ゾノの言うことも理解できます。でもだからと言って、自分の気持ちを押し殺してまで――――」

 

「自分の気持ちはそうだと思っているのか? キャプテンをやめることが、お前の本音なのか?」

 

「っ」

 

結城の切り返しに、言葉が詰まる御幸。彼は、強い気持ちで主将の座についているのだ。

 

 

アイツらに見せてやりたいという気持ちが根強いのだ。

 

 

 

見せたいもの。今の御幸の夢の一つ。チーム単位の立場で抱いた、強い思い。

 

 

それは、後一歩とどかなかった全国の頂点をとることだ。

 

全国を制した景色がどんなものか。チームで掴んだ栄冠の味を、彼はまだ知らない。

 

 

今でも思い出す。光南が青道を破り、春夏連覇を成し遂げた瞬間を。

 

「入部直後からレギュラーだったお前が、いきなりチームを纏めろと言うのは、確かに窮屈かもしれんな」

言い返せない結城の言葉が御幸に響く。

 

「――――大塚もそうだが、お前たちはチームを背負いすぎている。」

 

 

「―――――え」

 

「あの敗戦、そしてこれまでの経歴が、そうさせているんだろう。もう少し人に頼ることを覚えていけばいい。器用そうに見えて、お前らは不器用だからな」

 

御幸は1年生からチームを背負うことを望まれ、勝つためには何をすればいいのか、それに貪欲だ。だからこそ、チームに対する思いは強い。それは個に対するモノではなく、チームに対してのそれだ。

 

大塚は、その経歴のせいもあり、周りに期待をされ続けてきた。だから無理をして、弱みを見せないようにしてきた。

 

あの夏で、一番敗戦のショックを引き摺っていたのはこの二人だった。

 

 

「あの時見せたお前の涙を見て、俺は思ったんだ」

 

この男ならば、自分よりもチームを強くしてくれる。精神面でも、実力面でも。

 

 

「お前が、次の主将だと。お前なら、もっとチームを強くしてくれると、一番強く感じたからだ。」

 

 

 

「哲さん―――――――――――」

その激励だけでも、御幸は満足してしまいそうになった。

 

 

 

 

 

「まあ、なんだ。話ならいくらでも聞いてやるぞ。今日の話でもお前はまず人に頼ることを知らないとな。何でもかんでも自分でやろうとするな。」

 

 

 

「俺は不器用で、上手く取りまとめたとは思っていない。それでもチームが一つになれたのは、周りに助けられたからだ。仲間の存在は、本当にありがたいものだと、キャプテンだからこそ、一層感じたよ」

 

 

「――――――はい。」

だが、まだなのだ。これは、主将としての夢。

 

 

キャッチャーとして抱いた悔しさは、かき消せない。

 

 

 

 

 

「浮かない顔だな。まだ何かあるのか?」

それでも浮かない表情をしている御幸。主将関連の悩みにひと段落したにもかかわらず、まだ悩みを抱えている様子だ。

 

 

「―――――大塚のSFF。8回二死に投げた、あの一球。あれを止めてやれば、アイツが崩れることもなかったのかなって、思って」

 

「―――――噂のSFFの進化、か。」

大塚の変化とともに、それは顕著に表れていた。

 

ストレートの球質だけではない、この伝家の宝刀がさらに鋭くなっている。

 

今の大塚のSFFは、鞘のない抜身の名刀。簡単に誰もが扱えるボールではない。

 

だが、確実に高校生では全く太刀打ちが出来ない魔球に変貌しつつあると言える。

 

また、3回戦で投げなかった高速スライダーの存在もある。正直、御幸は大塚の進化についていくのが精一杯だった。

 

ブルペンでも、小野や狩場が後逸するシーンが目立ち、青道の捕手陣が大塚の決め球を止め切れていないのが現状。

 

かく言う御幸も、大塚だけではなく、沢村のスライダーをも後逸するシーンも見られた。投手陣では次々とアマチュア離れが起こり始め、それこそプロレベルでなければ捕球すら困難な魔球を手にし始めていた。

 

降谷のチェンジアップも、ランナーが全くでない展開だったからこそ、あまり目立ってはいなかったが、前でぽろぽろする光景が目に付いたのだ。

 

監督も現状では御幸が正捕手であることに疑念を抱いてはいないが、投手の実力を生かすには、捕手陣の成長が急務であることは明白だった。

 

 

 

 

 

 

 

「キャッチャーとして、投手陣の決め球を受け止めてやれないことが悔しいんです。アイツらが安心して投げ込めるように練習しないといけない。ただそれでも、アイツらのスケールの大きさに、臆してしまう時があります。」

だが、あえて御幸は大塚だけはなく、投手陣と口にする。

 

大塚はエースで、特別な存在だ。だが、沢村も降谷も、そして川上にも言えることだ。

 

 

――――何とかしたい。いい投球をさせたい。

 

 

 

 

「―――――だが、諦める気はないんだろう?」

 

 

「はい。アイツらに全力を出させてやりたい。アイツらの投球を、世間に認めさせてやりたい。そう思っています」

 

だからこそ、あの日から一人捕球練習を行っている。ワンバウンドの捕球練習だけではない。

 

だが、魔球に近い決め球を2つ備える大塚に追い付くには足りない。パラシュートチェンジはこの2球種には及ばない。

 

沢村のスライダーは、見分けがつかなくなり、さらに球速差がなくなっている。特に低めのワンバウンド気味のボールは捕球がかなり難しい。

 

降谷のチェンジアップも、キレがあり、同じくワンバウンドとなると、同様だ。

 

 

現在の練習では限界を感じているのが実情だった。

 

 

 

 

「―――――そうか」

結城はただそうか、と答えるだけ。御幸も解っていた。この問題は誰かにいって解決できるものではない。かといって、放置するわけにもいかない。

 

「すいません。無茶なことを言って。」

 

 

「遠慮するな。それに、出来ないと決まったわけではないぞ」

笑みがこぼれる前キャプテンの顔に驚きを隠せない御幸。本当に何とかしてくれるのだろうかと、まだ半信半疑だ。

 

 

「え―――――?」

 

 

「そうだな。俺が監督のいた大学に進学しなければ、こうも上手くはいかなかっただろうな。片岡監督がいなければ、俺も何もできなかっただろう」

意味深なセリフを繰り返す結城。

 

 

「――――――今から監督に会いに行くぞ、御幸。お前の悩み、何とかできるかもしれないからな」

 

 

後に、御幸は語る。

 

人の縁は、何よりも大切なもので、得難い財産であることを。

 

 

 

 

 

 

そして今夜、ミーティングに集まる部員たちの前で、今日も渡辺が相手高校を分析する。

 

「都立王谷高校。エースの若林は、現代野球では珍しいフォーク主体の投球です。」

 

テイクバックの小さいフォームで、テンポも速く投げ込んでいることが分かる。

 

「球速は速くて130キロ後半。でも、フォークとの球速差があまりないから、低めの見極めが肝心ですね。カウントにもフォークを多投してくるので、かなり厄介です。」

 

 

「3回戦ではクイックの計測を行いましたが、かなり速い部類ですね。今年の本選3回戦の新見投手を連想させるほどです。」

 

甲子園3回戦で対戦した妙徳義塾のエース新見に匹敵するクイックの早さだと評する渡辺。

 

違うのは、新見はサウスポーで、二盗をするのにかなり厄介な部類であったこと。

 

三盗が二盗に比べ難しいのはもはやセオリーだが、左投手への三盗は、背後が全く見えない。その為、右投手よりもマシという風潮もあったが、新見投手のクイック自体が早く、それすら許さなかった。

 

それに比べれば、難攻不落とまではいかない。厄介なことには変わりないが。

 

 

「フォークの連投、怪我のリスクがありながら、それを行うというのは、理想的な投げ方を会得しているのかな」

大塚は、フォーク主体の投球ではない。だからこそ、これだけフォークを投げ込めるという事は、怪我のリスクはないと推察する。

 

 

「カウントにもフォーク使うのは厄介だな。」

倉持が冷静に分析し、低めの見極めが一層大事だと痛感する。

 

「打線の要は、4番ファースト春日、5番ライト山里あたりですね。両バッターは、他の打者に比べ、反対方向への打球が伸びるので、打ち取るのに苦労しそうですね。」

 

逆方向への打球をよく飛ばすことに、沢村、降谷が反応する。

 

「(逆方向ってことは、最後までボールを見てくるのか)」

冷静にバッターを分析する沢村。

 

「当てさせない。低目に変化球を集めれば――――」

降谷も、自信をつけた変化球の精度を見せつければ、必ず抑えられると考えた。

 

「後、思い切った守備シフトを敷くことが多く、相手打線を研究してきているのは確実と言えます。つまり、こちらの打者の打球の割合を考えて、効率の良いリードをしてくることも当日には予想されます。」

 

 

「効率のいいシフトと言っても、マジックじゃない。力む原因にはしない方がいいな。」

 

 

「相手はデータを主体とする野球をしてくる。だがそれを踏まえた上で、我々は我々の野球をするだけだ。走塁、攻撃、守備の全てにおいて、相手を圧倒しろ。」

 

 

「準々決勝の先発だが、3回戦に大塚、2回戦に降谷を使った今、この試合は沢村に任せることにした。」

 

 

「!!!!!」

思わず歓喜する沢村。

 

降谷は2回戦で先発。大塚は初戦に続き、3回戦も先発したのだ。出番のなかった沢村にとって、ここは絶好のアピールチャンス。

 

「川上には、後ろで待機してもらう。僅差の場面になるかもしれない。リリーフとしての経験はチーム一だ。恐らく最も厳しい場面を今後も任せることになるだろう。しっかりと心・技・体の準備をしておけ」

 

「はいっ!!」

 

 

クローザー川上。この男が後ろを任されていないかいるかでは、大きく投手事情が変わってくる。

 

初戦では、3点差の9回をパーフェクトに抑え、3回戦では1点ビハインドの場面で最終回に登板。流れを呼び込む投球を齎した。

 

 

 

 

その後、王谷への対策は翌朝から行うとして、ミーティングが終了するのだが、

 

 

「――――――――――御幸先輩?」

大塚が帰宅途中に御幸と結城が太田部長の車に乗ってどこかへ行く光景を見たのだ。

 

 

「――――――まあ、いいか。次の試合まで日があるし、準決勝と決勝に至ってはまだ2週間ちょっと。」

 

御幸も馬鹿ではないのだ。きっと何か自分の為になることを行うはず。

 

 

大塚も、今日は左投げのトレーニングをして、就寝するつもりだ。これはもう帝東戦後の日課である。

 

「ただいま。」

 

「あら、エイジ。今日も遅いのね」

出迎えたのはいつもと違い、サラが出てきた。そういえば、自分だけには秘密で、サラが居候になる話はあったな、と昨日聞いていた。

 

ビースターズもまさかマッケンローの一人娘をスカウトするとは思っていなかった、と苦笑いする。

 

「まあね。いつもこんな感じだよ。」

 

「規則正しい睡眠、休息はしてる?」

 

「う、うん。まあ、ストレッチなら――――」

 

「フフン、特別に私がしてあげようか?」

自信満々に語るサラ。そういえばトレーナーの資格を一通り持っていましたね。アメリカでも複数持っていたし。

 

「――――いや、やっぱりプロのトレーナーが肩入れするのは少し卑怯というか」

他の高校球児はそんなことにはなっていないだろう。ましてや日本の数年先を言っているアメリカの最新技術込だ。

 

流石に悪いと思ったのだが、

 

「ばれなきゃいいのよ。」

 

「サラ、さらに図太くなったね」

 

 

数年ぶりに受けたサラのマッサージはまさに極楽で。風呂上がりに受けていたために、大塚はそのまま寝てしまったのだった。

 

 

翌日、

 

「とても気持ちよかった。翌日なんか体の感覚がいいんだけど。」

 

「ツボをいくつか押したのよ。筋肉がちょっと張っていたし、特に下半身あたりに疲れが少したまっていたわ。体が柔らかいからそんなになかったけど、シーズンを過ごすなら、少し見過ごせないわね」

 

 

「うん、助かった。じゃあ、今日も行ってきます。」

 

 

「早朝の練習にも行くのね、本当によくやるわ」

 

まだ美鈴と裕作が起きていない時間帯に起床し、そのまま登校する大塚。

 

「もう慣れたよ、母さん。サラの事を頼みますね」

 

「ええ。まだアメリカと日本の道交法に慣れていないしね。」

 

「アハハハ、面目ない」

アメリカと日本ではかなり道交法が異なっている。その為、あちらで免許を持っていたとしても、日本の道路に戸惑う面があるのだ。

 

その他細かな手続きもあるが、話が長くなるので切り上げる。

 

 

そして、大塚はいつもならいる御幸がいないことにいぶかしむ。

 

 

―――――先輩、昨日から一体どこに。

 

 

早朝練習に、主将の姿がなかった。

 

 

 




パワプロ2016が面白い。

今永選手のアップロードはよ。

自分で作ってしまったけど……

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