楽しめるか否か。それが問題だ。   作:ジェバンニ

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物語に於いてティアがどのように振る舞うのかのネタは幾つも思い浮かぶのですが、肝心の前書きと後書きのネタが思い浮かばないと言うコメディ欠乏症に苦しんでいる昨今、読者の皆様方は如何にお過ごしでしょうか。
とりあえず夏の暑さに、木の周りを廻っていないと言うのにバターになりそうですよね。
次話投稿です。

※今回他者視点注意。


祭日

あの授業の後は大変だった。

「私、絶対にあんなになったりしないんだから!」

エロイーズが未だ涙目のまま吠え

「僕は……絶対に」

ザカリアスがいまにも死にそうな顔で、何かを決意し

「……」

そして、ティアは他二人と同様、次の授業に向っている途中だから足は止まっていないのだけど、何処か心此処に在らずのようだった。

「あの、ティア?」

「何ですか、ハンナ」

思わず声を掛けちゃったけどその……

「大丈夫?」

「まあ、一応は」

多分仕方のないことなのだろう。

だって私だってママにあんなことを言われたら、私ならきっと泣いちゃうだろうから。

何人かは分かっていない人が居たけれど、あれは絶対にティアのママのはずだ。

「元気出してね」

「流石に少し難しいかもしれません、少なくとも今すぐには」

笑んだ彼女は少し泣き出しそうで、少し儚い感じがする。

「だ、大丈夫だよ。ティアのママはアズカバンに居るんだから!あんな風に目の前に来て言ったりしないって!」

「それでも絶対ではありません。シリウス・ブラックが出て来たおかげで証明されてしまったじゃないですか。多分、私は何時かあの人と戦うことになるような気がします」

静かに、でも確かにその可能性を口にした彼女に、思わず私は息を呑んだ。

ティアの予感は良く当たる。

その言葉に私は何も言えなかった。

「私が選んだ道が彼女のそれと違っている以上、きっと避けられないでしょう」

「ティアならきっと勝てるよ」

少なくとも魔法の腕前で言えば、ハッフルパフの三年生の中では一番だと思う。

と言っても勢いで口から出た言葉と反対に、相手がどれだけ強いかどうか分からないのだけど。

「まあ、魔法界一怖い母親であるから、対抗するのは私や貴女の想像以上に難しいでしょうけどね」

私のあまり根拠が無かった言葉に、それでも少しだけ元気が出たのか、先ほどまでとは違う微笑みを浮かべていた。

「さて、そろそろ早足にならないと間に合いませんね」

「あ、そうだね」

アーニーやジャスティン、スーザンはボガートが出た後も直ぐに立ち直れていたのか、自分のボガートがどんな姿に変わったのか話しながら早々と先に進んでいたのだ。

彼女はエロイーズに声を掛けて、三人で叱られない程度に駆けて行くことにした。

こうして私達は、自分の抱いている感情を一つずつ教え合うことで、お互いの事を良く知って行けたら良いなって私は思う。

後、ザカリアスは置いて行かれて次の授業に遅刻した。

 

それから暫く私達は何事もなく、ホグワーツでの日々を過ごしていったのだ。

一年生の時から開いていた金曜の夜のお茶会然り、ごく一般的な授業やその課題やレポートを熟すだけの時間に、それからまもなく始まるクィディッチの試合予想。

あの授業の後は比較的マシな生き物たち(と言ってもどれも怖い物だったけど)を相手にする闇の魔術に対する防衛術の授業。

意外に思ったのは日本から取り寄せられたらしい、河童という生き物を相手にしたティアの反応だった。

その醜い鱗の付いた猿のような生き物を見た時、彼女の眼はザカリアスに悪戯を仕掛ける時のようにキラキラした瞳になり、何と河童と会話をし始めたのだ。

ルーピン先生に

「ミス・レストレンジ。そいつが何を言っているのか分かるのかい?」

と問われ

「私、カッパ―マウスでして」

と言っていたけど絶対に嘘だと思う。

河童はティアの話によればキュウリ一本で日本のマグルのお店の見えない部分で働かされているらしいだの、マグルの漫画家が描いたお話の中では魔法生物ではなく妖怪とか言う生き物のカテゴリに分類されているだの、私には正直良く分からないお話だった。

だけどティアが言う様に、後で恐る恐るキュウリを差し出して見たら美味しそうに食べていたところを見ると、多分彼女の河童に対する知識やその言葉が話せると言うのは間違いじゃないみたい。

そんな様子を見て、ジャスティンが少し首を捻っていたけれど、何かあったのかな?

さて、そんなことより重要なのは今日と言う日。

ハロウィンであり、私達ホグワーツの三年生以上の生徒がホグズミードに行ける日だ。

「あっちで楽しめるだろう。そして帰って来てからはハロウィンの御馳走を楽しめるわけだ」

「全くもって最高じゃないか!」

ザカリアスとアーニーは喜び、

「ホグズミードに着いたら何処廻ろうか?」

「事前に聞いた話だと『叫びの屋敷』が遠くから見えるっていうのは、もう何度目の話だったっけ? まあ、とりあえずは『ハニーデュークス』ね。後は『三本の箒』にも行ってみたいわね」

スーザンとエロイーズは具体的な場所の相談をしていて

「一度だけじゃないから全部一日に廻る必要は無いと思うのですけれど」

「イギリス唯一の魔法使いの村ってどんな場所なのでしょうか」

ティアとジャスティンはもう何だかいつも通りだった。

片方は冷静で、もう片方は期待に満ちている様子で。

お互い正反対なのだけど、でも私は知っている。ティアが女子寮のお茶会の時に皆で行けるのを、満面の笑みでとっても楽しみにしていたことを。

突然に思い出した様子で

「ああ、そうでした。ザカリアス、約束は覚えていますね?」

「……勿論さ」

ミステリアスというか蠱惑的、と言って良い微笑みを浮かべたティアに対してザカリアスは苦々しい表情だった。

そう、思い起こせばティアとザカリアスが去年の期末試験で賭けをしていたからだ。

 

「僕が試験結果の点数に於いて君に勝っていたなら、一つ言うことを聞いてもらうぞ、ティア!」

「では貴方が勝つ以外の全ての場合において『私の言うことを一つ聞いてもらう』ということで良いですね?」

「望むところだ!」

「ではそのように」

 

そして勝負は行われなかった。

秘密の部屋の怪物がハリー達に退治され、学校のお祝いで期末試験がキャンセルされたからだ。

つまりはそういうことである。

 

「あまり高い物ばかり頼むなよ、ティア」

「昔の東方のマグルのお妃様は言いました。即ち『民は生かさず殺さずが鉄則よ』と」

「僕から長く厳しく毟り取る気満々じゃないか!」

「ザカリアスが何を願おうとしていたのか、教えてくれたら手加減しても良いのですけどね」

「……いや、うん。僕の力の及ぶ限り奢らせて貰うよ」

 

ちなみにティアがお願いした内容は「今年一年、ホグズミードに行った時にティアの分の代金をザカリアスが持つこと」だった。

多分ザカリアスが勝っていたらティアに付き合って欲しいって頼む気でいたのだろう。

その願いは叶わなかったけれど、ティアと確実に色んな店を回れるからか、ザカリアスも嬉しそうだった。

長くはない道を歩き、ホグズミードに着いた私達は感嘆した。

「これが魔法使いの村なんですね」

「マグルの一般的な建物に比べれば、随分古い印象を受けるのではないのですか?」

「そうです。けど凄いですよ、これは」

辺り一面を魔法使いや魔女が歩いていた。

こう言った「完全に魔法使いや魔女たちだけで運営されている場所」なんて言うのは長い魔法界の歴史で少なくなってしまい、今ではこのホグズミードだけになっちゃったということだそうだけれど。

「ダイアゴン横丁とはまた違った感じがあるよね」

「あそこは買い物とか本当に必要な時にしか行かないわよね。遠いし」

スーザンが同意してくれたように、基本的に魔法族と言うのは自分の家、というか領地に引き籠もっていることが多い。

と言ってもマグルが想像しているような不便さはあまりないのだ。

食べ物なんかは一家族分位なら自前で用意できるところが多いし(家畜を飼っていたり畑で普段農作業をしたりしているか、恵まれた家の人だと屋敷しもべ妖精に任せることができる)、魔法を使えばガスや電気と言ったマグルたちが使う物を使うことなく、快適に暮らせる。

故に魔女狩り(と言っても杖を持っていない状態で迫害された魔法族以外は無害だったマグルの行為)に対抗する時のように群れる必要がなく、段々とその村の数を減らして行ってしまったのだ。

マグル学を取っていると、そう言った変化は仕方のないことなのだと言う考え方が生まれてしまうけれど、私たちはそれを不幸だとは思っていない。

だって、その気になれば魔法を使ってお互いに会いに行けたり、会話をしたりできるのだから。

「とりあえずまずはエロイーズの行きたがっていたハニーデュークスからですかね」

「そうしましょうか」

そういうことになったのだけれど

「ザカリアス、ほら血の味キャンディはいかがです?」

「待て、僕はそれを食べないからな!」

途中ちょっと良い笑顔で、ザカリアスに怪しげな物を食べさせようとしているティアを止めるのに忙しかった。

「このヌガーは中々いけるわね」

「そうね」

配られていた晋作の試食品に、美味しそうに舌鼓を打っているエロイーズにスーザン。あの、口の周りがべたべたになっているのが凄く気になるのだけど……。

「早く僕は『ダービッシュ・アンド・バングズ』に行きたいな。どんな物があるのか見てみたい」

「あ、そこは僕も興味あります。アーニー、一緒に行きましょう」

お菓子にそこまで興味津々というわけではない、男の子達二人は道具と言うか実際的な代物目当てで目を輝かせているような感じだった。

「私も幾つか廻っていきたいところがあるんですよね」

ティアはそう言って

「とりあえず、今回は分かれない?」

「やっぱり一番行きたいところに行くのが一番よね」

「じゃあ、別行動と行こうじゃないか」

「あ、でも二時間後に集合しませんか?皆で見て来た物を報告し合うのが良いと思うのですけど」

「ジャスティンに賛成です」

「じゃあ、皆。二時間後に三本の箒で落ち合おう」

スーザンの提案にエロイーズやアーニー達も乗っかる形になり、私達はホグズミードの中をそれぞれ別々の三方向に別れて行った。

私とティア、ザカリアスは一緒に行動することになったのだけれど

「まずは郵便局に行きたいのですよね」

「何でまたそんな処に?」

「だって手紙を送りたいじゃないですか」

「何時も君書いているだろう?」

ザカリアスは理解できないようだけど、そう言うことじゃないのよ。

「叔母様やドーラに送りたいのよね?ホグズミードに着きましたよ、って」

「そういうことです」

絵葉書なんかもあるって聞いているし、私も海外に家族旅行に出かけたことはあるから、珍しいポストカードなんかも見ることができるのかもしれない。

「それよりもまあ気になっているのは随分可愛い子たちが沢山いますからね」

「可愛い子?」

きっと女の子じゃないと思うよ、ザカリアス。

「梟です。何羽も居て、用途別に色々な子が使えるそうなのですよ」

嫌に確信的な口調だった。

「まるで見て来たように言うのね」

「情報を集めるということは重要ですから」

そう笑って答えてくれなかった。

上級生たちに聞いたにしては、偉く詳しかったような気がしないでもないのだけれど。

そんな疑問を持ちながらも向かっていった先で

「わあ、本当に梟で一杯ね」

そこに居たのは何種類もの、少なくとも三百以上は居そうな梟たちだった。

「どれもこれも可愛いですね。何羽かお持ち帰りしたいくらいですよね」

「もう、ティアだってメルロンが居るじゃない」

「最近憎たらしく感じているのですよ」

そう、言いながらもこっそり「ふくろう小屋」に居る白くて美しい、愛用のメルロンに餌を遣りに行っていた彼女を、私は知っている。

「ドーラに手紙を送らないといけませんね」

「あ、私もママに送らないと」

お店の梟を使って私達は手紙を届けて貰った。

ママ、今友達と一緒にホグズミードに来ています。とっても良い処ですね、って。

 

その後は呪われた館「叫びの屋敷」を遠くから見て、それを背景にして二人で写真をザカリアスに撮ってもらったり、ゾンコの店に行ってティアがザカリアスに使う悪戯グッズを物色したり、恋人同士の上級生達が集まる「マダム・パディフット」のお店を冷やかしで見に行ったり、集合までの時間をそれはもう楽しく過ごしていた。

それにしても彼女が、カップル同士の喫茶店を見に行った時に、顔を赤くしていたことが私には意外だ。

「ティアがそんな顔をするなんて驚いたわ」

「……私だって苦手な物くらいありますよ?」

未だ顔の赤みが引かないのか、口元を覆ったままの彼女がそう応える。

ザカリアスも随分と落ち着かない様子だった。

「貴方もこう言った処に行きたいの?」

からかうように口にしてみると

「いや、僕は別に……その、未だ」

しどろもどろになっていた。

エロイーズやスーザンはジャスティン。私とアーニーはザカリアスに賭けたのだけれど一体どういうことになるのやら。

ジャスティンも本人に自覚は無いようだけれど、間違いなく何か彼女に惹かれている物があると思う。

恋なのかどうか、までは正直分からない。

ただ、三人の間で結論が出るには、未だ未だ長い時間が掛かりそうに思える。

その後、ようやく私たち七人全員が合流できた三本の箒で、私達全員がバタービールをジ

ョッキ一杯に注いで貰い、乾杯することで一息付くことになった。

皆自分が行った処の自慢話を盛大に始めている。

エロイーズにスーザンは何か気に入った物があったのか皆に勧めていたけど

「あまり食べ過ぎると夕食が入らなくなってしまいますよ」

「でもそう言うティアは、何時もかぼちゃパイばかり食べているわよね」

「ちゃんと料理やお肉も食べていますよ」

「私はお菓子ね。好きなだけお菓子が食べられる日ってそこまで無いし」

浮かれているのか珍しくお菓子に目が向いたスーザンに、ティアが注意して、丁々発止の議論を交わしていた。

アーニーやジャスティンは自分たちが実際に買った道具を見せつつ

「今度はお金を貯めて……」

「よろしければ貴女達もどうですか?」

と本当に充実した時間を過ごしたようだ。

 

ハロウィンの宴会が始まる時間直前まで後何杯かのバタービールで粘って、ようやく今がどんな時間なのか気が付いて、私たちはホグズミードを出ることにした。

「絶対に鬼婆もさっき居たわよね」

「後は人食い鬼も居ました。ハーマイオニーやロン達も見かけたような気がしますよ」

走りながらホグワーツの校門を私達は潜る。

 

その後ギリギリの時間になって私達は大広間のハッフルパフ寮の席に着くことができた。

毎年恒例のかぼちゃパイ、それからフライドチキン。

その他色とりどりの御馳走、それは例えばキドニーステーキ・パイだったり、皮付きポテトだったり、が並んでいる食卓で私たちは豪勢な料理を味わっていた。

思い掛けないホグワーツのゴースト全員、私達の寮の太った修道士も参加していた、出し物が終わり、私達はそれぞれの寮へと向かい、後は寝るだけの段階になっていた。

のだけれど、いきなりスプラウト先生がハッフルパフ寮にやって来て、全寮生に対して集合を掛けたのだ。

「いきなり何事なのかしら?」

「しっ、これから説明があるわよ」

混乱している私達に対して、スプラウト先生は今夜起こったことに対する説明をしてくれた。

シリウス・ブラック、魔法界の最悪の犯罪者の一人が、今夜グリフィンドールの寮に忍び込もうとした、と言うのだ。

私達ハッフルパフ生もその煽りを受けたのか、今夜は他の三寮の生徒たちと共に大広間で一晩を明かすことになった。

「もう、何でグリフィンドールに忍び込もうとした犯罪者の為にわざわざ大広間なんかで寝ないといけないのかしら」

スーザンは不愉快そうだったけれど

「何だかキャンプみたいでワクワクしますね」

ティアは逆に嬉しそうだった。

「ティア、怖くないの?」

「え?何故?」

彼女の眼には動揺なんてまるで無かった。

と言うよりも

「何か凄く嬉しそうね」

「いえ、私学校と言う物にホグワーツ以外では通った経験が無くて、こういうのは初めてなのですよ」

そう言えばそんなことを以前聞いたことがあった。

「星空が本物ではないとはいえ、見えますし寝袋もありますし、何だかちょっと嬉しいのですよ」

満月が雲の隙間から見える大広間の天井(ごく当然のように考えていたけれど、この場では本当の空に見えるよう、魔法が掛けられているのだ)は普段寮の部屋で見ている天井とは違っていた。

不安がる私達に対して励ますような声を暫く掛け続けた後で

「ティア?」

「……」

彼女はと言えば、私達の誰よりも早く、そして健やかに寝ていた。

幸せそうなその寝顔だけは天使みたいだったことを、後で私の日記に書いておこうと思う。

 




アツゥイ!
脳みそが蕩けそうですよ、本当に。

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