孤独と共に歩む者   作:Klotho

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細かい修正を後々入れる予定です。




『蠱毒と封獣』

 

今日会ったばかりでも、先週振りでも、百年経っても。

 

本当に大切な物は決して色褪せる事なくその個人の胸に留まり続ける。

 

 

それじゃあと、そんな気軽な掛け声でひよりと名乗った少女は八雲に別れを――

 

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 

 しようとしたので、私は咄嗟に二人に対してそう口を挟む。不思議そうに此方を眺める二人

を見て、もし私が止めなければ先のまま解散しようとしたのだと気付いて内心で青褪めた。

 

この二人は現在の此処がどんな状況なのか分かっているのか?

 

「……えぇと、少し整理させて下さい。八雲紫、貴女はこの旧地獄を貰いに来たと、そう言い

ましたね?」

 

まずは面倒臭い方からの対処。八雲紫は鷹揚に頷いた。

 

「えぇ、言葉通り。其方の移動が終わり次第、此方の移動をさせて頂きますわ」

 

「待ちなさい。別に此処が無人になるからと言って、お前に譲るつもりは毛頭ありません。

この場所は旧地獄として我々の管轄内で我々が管理するつもりですから」

 

 そもそも、私達が地獄を別の場所へと移動させる情報を手に入れたこいつが可笑しいのだ。

本来ならこの仕事は誰にも気付かれず、また此処も誰にも知られるべきではない筈なのに――

 

少なくとも二人、知っている妖怪が私の目の前に。

 

「存じ上げております。その事も含めて、私は交渉に参りましたの」

 

軽い手土産もご用意していますと、八雲紫はそう言って笑う。

 

「食えない妖怪ですね……しかしまぁ、良いでしょう。話だけは聞いてあげます」

 

 此方の事情を知っているという事は、その土産も少なからず此方に利があるという事。この

時点で私がすべきことは、閻魔として八雲の土産と旧地獄の利害と情緒を掛け合わせた上で吟

味することだ。

 

私は八雲から視線を外し、次に少女を見た。

 

「次に、ひより……さん、ですが。此処に助けたい友人達が居ると、そう言いましたね?」

 

「うん」

 

此方は前者より悪意のない分まだ助かる。私は自身の知る情報を引き出した。

 

「一応、此処に封印されて送られて来た妖怪達は一度も手を触れずに放って置いてあります。

……が、今現在私が保証出来るのは再会の約束だけです。地上への帰還は、少し此方にも考慮

の余地を頂きたい」

 

その辺の倫理は後で説明するにしても、どうやら彼女の用件は至急らしく。

 

「何にせよ、まずはその者達の封印を解いてやると良いでしょう。約束と言っては何ですが、

それ以外の妖怪達にはまだ触れないで下さい。理由は、分かりますね?」

 

 私はソワソワと辺りを見回す少女にそう投げ掛ける。先の会話でも聡明さを見せた少女は此

方を見、暫しの沈黙と共に思考して――

 

「……分かった、ありがと」

 

私に向けて深く一礼し、彼女は翼を広げて飛んでいった。

 

「あら、珍しいわね。お堅い閻魔が情を見せるなんて」

 

少女の姿が見えなくなった所で、八雲紫が気味の悪い笑みを浮かべて近づいて来る。

 

「貴女のような馬鹿一辺倒では分からないかも知れませんが、つい先日面白いことを言ってい

た者が居ましてね。稗田乙女……知っていますか?」

 

「……えぇ」

 

意外なことに、八雲は私の言葉に反応せず神妙に頷いた。

 

「彼女が『妖怪にも妖怪の善悪がある』と、それを雄弁に語ってくれました。お陰で、今私

は妖怪の方の裁判についても勉強する破目になっていますが」

 

本当なら彼女の歩んで来た人生を浄玻璃で覗いてみたいと、そう思ったのだが。

 

それは、彼女が望んでいなかった故に諦めざるを得なかった。

 

「……そう」

 

どうせ興味もないのだろう。何処か上の空で返事をする八雲紫に私は本題を切り出した。

 

「それで、貴女の本当の目的は何なんですか?貴女だって此処がどういう場所なのか、知らな

い訳ではないでしょう。馬鹿だって地獄に落ちるのは嫌がるというのに――」

 

「それを嫌がらない者達が居るとしたら?」

 

八雲紫は笑みを変える。気味を変えて、愉悦に。

 

……気持ち悪。

 

「……では、付いて来て下さい」

 

 私はクルリと踵を返し、八雲に背を向ける形で歩き出す。もう殆どの物や人は新地獄に移し

たが、点検と後釜を探す為に私の家だけは残して置いたのだ。この妖怪を入れるのは癪だが、

それも仕事だと思えば仕方ない……か。

 

……しかしどうにも、不気味な流れである。

 

 

四季映姫は漠然とながら、先の展開を見据えてそう心で言った。

 

 

 

「……来たか」

 

 勇儀が誰に言うでもなくポツリと呟く。本当に囁くような声で言ったにも関わらず、談話

していた鬼達も俯いていた鬼達も一様に黙って洞窟の出口へ視線を向けた。

 

「……」

 

 そこに立っていたのは紅白の巫女服に身を包んだ少女。

少女は一度周囲を見回してから一点で動きを止め、周囲の鬼達の視線にも動じた様子なく近

付いて来る。

 

そして、深く頭を下げた。

 

「伊吹萃香様、ひよりの娘の彌里です。母様の命で――」

 

「よしよし、少し待ってくれひよりの娘。良く来たと言いたいんだが、先に此方から言って

置こう。――萃香はそっちだ」

 

 そう言って勇儀が此方を指す。周囲の奴等が笑いを堪えて口元を両手で抑える中、彌里は

慌てて勇儀に頭を下げ、小走りで此方へと走って来た。

 

「し、失礼しました!……その、ごめんなさい」

 

彼女は私の目の前に来て一度謝り、暫く此方を見てから正座して再び謝った。

 

……私、立ってるんだけど。

 

「……色々と思う所はあるけど、甘んじて受け入れよう。良く来たね、彌里。話には聞いて

いると思うけど一応自己紹介……伊吹萃香、現在は唯の鬼だよ」

 

そう言って彌里の正面に座ると、彼女は背筋を伸ばして真っ直ぐに此方を見た。

 

「博麗の巫女、彌里です」

 

先程までの焦りも緊張も一気に消え、まるで対等な位置にいるかのような雰囲気を放つ彌里。

 

……対応の速さは母譲り、か

 

「よしっ、じゃあ彌里、一応皆にも説明してくれるか?」

 

彌里は小さく頷いて立ち上がり、洞窟の中全体が見えるように後ろへと下がった。

 

「それでは、説明させて頂きます。……今回の行うのは簡単に言えば仮封印です。母さまと

紫様が用意した専用の器に私が術式を組み込み、そこに皆様が入って貰う形となります」

 

暫くの沈黙。同胞の一人が声を上げた。

 

「器の大きさはどんな物なんだ?」

 

「神鹿」

 

 答える代わりに何かの名前を叫ぶ。すると、先程まで何もなかった場所に勇儀ほどはあり

そうな鹿とそれに引かれて連なる幾つもの巨大な壷が出現した。

 

「これが実際の器です。何人で入っても大丈夫ですが、狭くなり過ぎないように」

 

彌里は軽く隣の鹿を撫で、再び此方を見た。

 

「次に、仮封印後の動きです。封印後は外に待機している都の兵士達に風穴まで運んで貰い

ます。此処に来る前に何度か鬼について説明させて頂きましたので、封印を解こうとする様

な者はいないでしょう」

 

そして一旦説明を止める。今度は勇儀が立ち上がった。

 

「一つ良いか?」

 

「はい、何でしょうか」

 

勇儀は彌里と鹿を通り過ぎ、巨大な壷をコンと軽く叩いて此方を振り向く。

 

「道中の妖怪はどうするつもりだ?……勿論、お前さんの腕を見くびっている訳じゃないん

だが、それでも私達全員が入るなら四十は必要になるだろう。流石に、全て見張るのは厳し

くはないか?」

 

半分心配が混じった勇儀の質問に、彌里は緩やかに首を横に振った。

 

「その点も出来る限り対応します。風穴までの道中には白狼天狗四十と鴉天狗二十、大天狗

が五人配備されている筈です。彼等が周囲の妖怪を追い払い、止められなかった場合は私と

この子が相手をします」

 

 この子という台詞と共に左手に現れたのは巨大な銀狼。鹿とは桁違いの神力を放つそれは、

周囲の鬼達が固唾を呑む程の威圧感を放って彌里の隣へと座った。

 

それを見て、勇儀は鷹揚に頷く。

 

「分かった、それも任せよう。……良いねぇ、楽しくなってきた」

 

 確かに私達鬼がこんなにも凝った作戦に参加するなんて滅多にない機会だ。彌里は一度此方

を見て、周りから質問の声が上がらないのを見て頭を下げた。

 

「……以上が、母さまと紫様が計画した作戦内容です。確認は宜しいですか?」

 

 同胞達が軽く話し合い、勇儀も腕を組んで何かを思案する。……と言っても、封印される器

や護衛、その危険性も説明されればもうこれ以上は――

 

あぁ、いや

 

「封印の解除はどうするつもりなんだ?」

 

 まさか下に落下して割れるまで待てとか、紫が開けてくれるまで待てとか言うのではないだ

ろうか?多少の心配を込めた目で彌里を見たが、彼女は特に焦った様子もなく懐から一枚の札

を取り出した。

 

「えぇと、これが紫様から渡された札です。……『蝋燭が消える程度の風を受けると解ける』

と、そう書いてあります、よ?」

 

最後が疑問系なのは、彼女自身把握していなかったからか。

 

……しかしまぁ、良く考える物だねあの二人も。

 

「多分そりゃ、風穴に落とされた直後に解けるようにしてるんだろうね。その為の天狗達だっ

てんなら、多分配備された鴉天狗の中に射命丸って奴が居ると思うんだが」

 

天魔お墨付きの風使いである彼女が居れば、道中は髪一片靡かないだろう。

 

「……た、確かに、射命丸さんという方も配属されているようです」

 

 綺麗に折り畳まれた紙を広げ、此方に見せてくる彌里。その一覧の中には、天狗としての塊

ではなく名指しで『射命丸 文』と書かれていた。

 

……であれば、もう問題は全て解決しただろう。

 

私は立ち上がり、振り向いて勇儀以外の全ての同胞を視線に収めた。

 

「聞いたかお前等?これだけ準備されてんだ、後は私達が大人しーく壷ん中に居りゃ良い。

……地上とは決別することになるが、何て事はない。人妖が私達を忘れるようなら、そん時ぁ

再び百鬼夜行をして回れば良いだけさ!」

 

おぉ!と叫んで立ち上がる彼等に背を向け、私は博麗の巫女へと向き直る。

 

「ありがとう、ひよりの娘。母に似て実に勇ましい姿だった」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

もじもじと肩を揺らす彌里は、まるで母に褒められた娘のようで――

 

「萃香、何考えているか分かるから言っとくが……お前には無理だ」

 

ポンと、私の肩に手を置いてから壷へと入っていったのは一本角。

 

「うるせっ!……お前等も笑ってないで入れ!」

 

何人かの鬼の尻を蹴って怒鳴り、全員が入っていったのを見届けて私は再び彌里を見た。

 

「お前達親子は本当に似ている」

 

顔立ちも性格も全く違っていて、生き方が全く同じ。

 

「昔のひよりと妹紅もそんな感じだったよ。皆が恐れる鬼を目の前にして、堂々と啖呵切って

勝利した。ぐうの音も出せない程に、真っ向から衝突する真剣勝負」

 

「逃げる私が言うのも何だけど、きっとそういう事も紫達の夢に繋がるんじゃないかな」

 

例えそうだとしても、私達鬼は邪魔過ぎると。

 

「……私も、母さまのようになれるでしょうか?」

 

俯いた彌里から聞こえた囁くような声。見れば、そこには見た目相応の少女の姿。

 

「馬鹿、お前はお前らしくやってりゃ良いのさ。親としちゃそれ以上望む事も無いだろうよ」

 

一発、本当に軽く少女の頭を叩き、萃香は彌里に背を向けた。

 

「んじゃ、後は任せたよ彌里。最初で最後だったが、お前と話せて良かった」

 

人生は侭ならない物なのだと、心で痛切に感じながら。

 

 

私は、勇儀が顔を出していた壷の中へと飛び込んだ。

 

 

 

「数百年間探し続けていた友人の為に地の果てまで……驚きましたね」

 

「……八雲紫、貴方が私の口調を真似して何か言うのは勝手ですが、そこに意味がない事

だけは言っておきましょう。というか、止めなさい」

 

反対側に座る八雲はケラケラと笑って私が出した茶を啜る。

 

「『地上への帰還は、少し此方にも考慮の余地を頂きたい』……良い言葉よね。結果を先

伸ばしにしつつ、此方が決して不利にならないような素敵な言葉。私好みよ」

 

「それを責めるのは間違いでしょう、そう貴方も理解している筈。地上で封印された妖怪

を開放すればどうなるか……その意味は分かっていますね?」

 

こいつと長く話すのは精神的に疲れる。私は本題を切り出した。

 

 

「此処から絶対に封印された妖怪達を出さない――これが、我々の譲歩出来る限界です」

 

脳裏に、先程私に頭を下げた少女の姿が過ぎった。

 

 

 

 

「あ……ぅー、?」

 

 全身が痛い。何処か攻撃されたとかそういう話じゃなくて、まるで硬い地面でそのまま

寝続けた時のように痛い。というか、身体が全くと言って良いほど動かない。

 

……えーと。

 

「っ!……あ」

 

身体を起こそうとして、私は自身の真下に見覚えのある座布団が敷かれている事に――

 

『人に当番を任せておいて寝ないで下さい』

 

『いやぁ、どうにも天気が良くてつい……』

 

まるで、誰か別の人の物語を眺めるように。

 

『……何か、ひよりに伝える事は?』

 

『人を、陰陽師を、怨まないで。襲って、退治される……それが妖怪だから』

 

『――分かった』

 

あるいは、自身の走馬灯を他人事のように見るみたいに。

 

「……もし、かして」

 

一度思い出してしまえば、残るのは唯理解と後悔。……そして、疑問。

 

あの封印を、解いてくれたのは――

 

「っ、うぐぅ……ひより、起こしてくれる?」

 

起き上がろうとしてやはり失敗。私は仕方なく親友に助けを求めた。

 

「はいはい」

 

程なくして声と共に近づく足音。彼女は私の真横に座り、私の身体をうつ伏せに――

 

「……何してるの?」

 

「整体」

 

 声と同時に背中に小さな手が押し当てられる。バキバキと、自身の身体から鳴って

いるとは思えない音と共に手が様々な所を押して叩いて刺激されていくのが分かった。

 

それは、良いのだけれども

 

「いだだだだっ、痛い痛い!」

 

「我慢」

 

一言で一蹴され、私は諦めて彼女に身体を任せた。

 

これはきっと、彼女を一人きりにしてしまった私への罰なのだろう。

 

「ねぇ、ひより」

 

名を呼ぶ。

 

「何?」

 

返ってくる。

 

「……ひより」

 

呼べば

 

「何さ」

 

返って来てくれる。

 

「ひよ――いぅっ!?」

 

「舌噛むよ」

 

呼ばなくても、彼女の方から返してくれる。

 

「……えへへ、良いね。やっぱり」

 

何がとは言わなくても、きっとひよりなら理解してくれる。

 

「……うん、と。終わったよ」

 

 スッとひよりの手が戻っていき、私は幾分か楽になった身体を仰向けにして上半身

を持ち上げる。手を何度か握り、自慢の翼を確認して、そして隣に座る相棒を見た。

 

「――ありがとぅっ!?」

 

 目が合うよりも先に胸に来た衝撃。下を見ると、あの時から変わらない綺麗な黒髪

がそこにあった。

 

「心配、した」

 

「……ごめん」

 

 真下から聞こえてくる声は涙混じり。初めて会った時以来、一度も見ていないひよ

りの姿にぬえは居た堪れなくなって彼女を抱き返した。

 

「どの位探してくれてた?」

 

耳元で彼女だけに聞こえるように静かに囁く。

 

「五百年と少し」

 

 そうか、もうそんなに経っていたんだなと。私は漠然とながらそう思う。

 封印されていたからなんて言い訳が出来ない程ひよりを心配させてしまったのだ。

これからは出来る限り彼女と共に居れたらと、そう決意する。

 

ひよりは此処に居て、私は此処に居るのだから。

 

「……ごめんね。それと、ありがと」

 

「っ、うん」

 

 何時かのように軽くひよりの頭を撫でる。見ない内に付けたのだろう、キラリと金

色に輝く花の髪飾りは彼女にとても良く似合っていた。

 

それを眺めている内にひよりはパッと私から離れてしまう。

 

紅潮、と

 

 ジロリと此方を睨みつけるひより。忘れろという事らしい。私は大人しく視線を彼

女から外して周囲を見渡し……岩と岩しかない事に気が付いた。地上にしては随分生

物の気もない。

 

と、なると。

 

「此処は――」

 

「考えている通り、此処は地底ですよ。ひよりさんの御友人」

 

 ぬえの言葉に重ねる様に、向き合う二人の横から何者かが歩いて来る姿をぬえは捉

えた。一人はひよりと同身長程度の緑髪の子供、もう一人は異国の金髪女性。格好に

ついてはどちらも奇抜としか言いようが無い。

 

一瞬身構えたぬえだったが、隣の友が警戒していない事に気付いて力を抜いた。

 

「成程、どうやら御友人の方も頭が切れるようですね。大変結構です」

 

緑髪の少女がウンウンと頷き、隣の女性は肩を竦めた。

 

「……左が閻魔様。右が手伝ってくれた友達」

 

 ポソリと小さく説明を入れてくれて、漸く私は理解する。何故閻魔と呼ばれる者が

此処に居るのかは分からないが、どうやら隣の女性と共に此処まで来たらしい。私の

視線に気付いたのか、女性は一度深く一礼した。

 

「お初お目にかかります、ぬえ様。私、八雲紫と申しますのよ」

 

「……」

 

よし、分かった。多分こいつとは気が合わない。

 

「……八雲紫、貴方はもう少し他者の視点で自身を見つめなさい」

 

 隣の少女がそう訂正を入れながら此方へと歩いて来る。私とひよりはほぼ同時に立

ち上がり、近づいて来た閻魔と正面から向き合った。

 

「……ひよりさん、先に一つ。単刀直入に言わせて貰いましょう」

 

そう言う閻魔の表情は少し暗い。見ると、後ろにいる八雲の顔も苦々しげで。

 

閻魔は私達を待たずして、その口を開いた――

 

「ぬえさんを含め、この地底に封印された妖怪達を地上へ出す事は出来ません」

 

「そりゃそーでしょ」

 

何を当たり前の事を……あれ?

 

「……あら?」

 

「……えーと」

 

困惑の八雲と閻魔。

 

「……ぬえ」

 

 隣に居たひよりが肘で私を小突く。慌てて私が状況を追い始める前に、閻魔が此

方に近づいて来た。

 

「何故、そう思うのですか?貴方は地上に戻りたくない訳じゃないでしょう」

 

「……そりゃ、そうだけどさ」

 

脳裏に浮かぶのは、私を封印した陰陽師の青年。

 

「なんて言うのかな、その……私を封印した相手に顔向けが出来ないって言うか」

 

「……」

 

「封印は人間なりの優しさなんだって、一度そう思っちゃったから」

 

他の妖怪達がどうかは分からないが、少なくとも私はそうだった。

 

私は、隣に立つ相棒へと向き直る。

 

「ごめんね、ひより。態々此処まで助けに来てくれたのに」

 

「……なんで自分から否定していくのさ、本当に」

 

諦め半分呆れ半分で肩を竦めるひよりを見つめ、私は再び閻魔へと向き直った。

 

「ひよりはこれ以降此処には来れなくなっちゃうの?」

 

「……それに関しては私が何とかしましょう。そこの妖怪の手助け無しで来れる

程度には。八雲は兎も角、貴方達は善行も積んでいるようですし」

 

「お優しいのね、閻魔様って」

 

八雲の冗談を無視して、クルリと背を向け閻魔は歩き出す。

 

「時代は変化します。世界も人も妖怪も、それに伴って変わり続ける。もし地上で

人と妖が共存出来るようになれば、この地底に封印された妖怪を留める必要もなく

なるでしょう――それを貴方達が成せば、ですが」

 

 私達三人を取り残し、閻魔はどんどんと遠くへ離れて行く。最後の言葉を聞く辺

り、閻魔様も実は悪い人ではないんだなぁとか私はそんな事を考えて――

 

ガシャーンと、何かが砕けて割れる音。

 

しかも何十回も。

 

「あ」

 

閻魔の足が止まった。

 

 

 

僅か三人しか存在しない筈の地底は、先よりも少し騒がしかった。

 

「八雲紫、貴方は本当に碌な妖怪ではありませんね。死後まともな判決は下されな

いと、今この場で断言させて頂きましょう」

 

悔悟棒を自身の掌でバシバシと叩いてその場を往復する映姫。

 

「「「「……」」」」

 

並べられているのは紫、ひより、萃香、勇儀だった。

 

正座である。

 

「そしてひよりさん、貴女も知っていたなら教えてくれても良かった筈です。地底

に『このような形』で来る事が普通でない事、貴女なら分かるでしょう?」

 

「……ごめんなさい」

 

 そっぽを向く八雲の隣にいたひよりが頭を下げる。映姫は何も言わず、次にその

隣に座っている萃香を睨んだ。

 

「次に伊吹萃香。彼等を扇動したのは貴女ですね?何処かも分からない場所に自分

以外の数十人を巻き添え……罪深い事と知りなさい」

 

「そこに関しちゃ事実だがね、あいつ等の決断も考慮してくれよ」

 

 萃香はクイと自身の背後で騒ぐ鬼達を示す。確かに、萃香は此処へ降りる前に何

度も彼らに確認を取った。彼女が責められるには、少し動機不十分ではなかろうか?

 

そんな四人の視線も地獄の閻魔には通用せず。

 

「それともう一つ、私を仲間のような視線で見ないで下さい」

 

 そう言われて流石の萃香も言い返せず押し黙る。……奇しくも、今この場にいる

人物は皆、そのような分類で分ける事が出来た。

 

紫と勇儀。

 

ひよりと映姫と萃香。

 

何で分けるかは、言うまでもなく。

 

「そして貴女、いい加減自身を雑多のように扱う事をやめなさい。隣の鬼に全てを

任せるのは余り感心出来ません、何時か貴女も周囲を纏める立場になるのでしょう

から――」

 

「ま、そん時ゃそん時。何とかしますよ閻魔様」

 

 説教諸注意を無理矢理中断させて勇儀はそう答える。映姫はその様子を暫く眺め

てから、周辺に居る鬼と岩に寄り掛かって待っているぬえを見た。

 

「……まぁ、良いでしょう。死者以外に割く時間は余りありませんし、貴女達も自

身の行くべき所へ行く様に。良いですね?」

 

映姫がそう言った瞬間萃香と勇儀は立ち上がり、逃げる様に駆けていった。

 

「あれが当然の反応よ、鬼に説法は無駄という事ね。……と、ひより。私達は一旦

地上に戻るわよ、彌里や天魔達にも報告した方が良いだろうし」

 

「八雲紫、貴女は追加でお話があります。ひよりさん、少し時間が取れるでしょう

から、その間にぬえさんと話をしてくると良いでしょう」

 

 ひよりへの気遣いで言ったのか、それとも唯紫に説教がしたかっただけなのか。

映姫の背後で苦々しい表情をする紫に胸の中で手を合わせ、ひよりは二人に背を向

けて歩き出した。

 

 

岩に背を向けていたぬえが立ち上がる。

 

 

 

 

「詳しい説明は聞かなくても良いのかしら?」

 

「状況と会話を思い出せば簡単に予想は付きます。大方、地上で人間側の協力者と

結託して簡単に解ける封印を施して風穴に落としたのでしょう」

 

 詳しい説明も聞かずに簡潔な解説。その全てが当たっているのだから、やはり彼

女は閻魔であると。

 

「えぇ、その通り。流石ね閻魔様」

 

「……貴女達は地獄の考えた制約を何だと思っているんですか?」

 

 呆れ顔で溜息を吐く映姫。初めて出会った時と比べて、やはり何処か疲れている

ようにも見えた。彼女からすれば想定外の出来事が二つ三つ、予想外の人物が数十

人も降って来たのだから無理もない。

 

「本当、貴女達生者には迷惑しますね。もう少し死者を見習って沈黙して下さい」

 

「それは周囲の怨霊を見てから言って欲しい言葉ね。これで良いのなら私はこんな

風になるけれど?」

 

紫は偶然通りかかった怨霊を掴んで映姫に投げ付けた。

 

「……結構。生物は生物足るべきですね」

 

悔悟棒で振り払い、怨霊は何処かへ飛ばされた。哀れ。

 

「それで、私を呼び出した理由は?ひよりとぬえに時間を与えるため?萃香達に聞

かれたくない話?それとも私を怒る為かしら」

 

「その全てですよ。再会した二人に時間は必要、あの者達に説明をするのは少し早

い話、そして愚かな隙間妖怪に少しの注意を」

 

 そう言って騒ぐ鬼達と二人で話すひよりとぬえを見る映姫。今彼女の脳裏には、

人間の身でありながら妖怪の善悪を語っていた稗田の姿が浮かんでいるのかも知れ

ない。

 

「この地底は貴女達……強いてはあの鬼達に任せましょう。封印も解いて貰って構

いませんが、地上への進出は禁止して下さい。破った場合は、貴女にそれなりの罰

を課す事になりますよ」

 

「……私に?」

 

「えぇ」

 

 楽しそうに頷く映姫を見て紫は一度身震いした。地上に行こうとする妖怪を留め

る事は造作も無いが、それでも失敗した時にこの閻魔から再び説教を受けるのは辛

過ぎる……というか死ぬ。

 

「……まぁ、良いわ。それ位の代償は覚悟の上よ」

 

だが此処で退く訳にもいかないと、紫は頷く。

 

「ならばこれ以上言う事はありません。この後此処がどうなるのか、影ながら応援

させて貰いますよ」

 

 映姫はそれを見届けてから紫に背を向け、今度こそ自身の家へと歩き出した。

その家も薄れかかっている事から彼女はもう此処には戻って来ないのだろう。

 

「応援してくれるのかしら?」

 

その小さな背に紫は問いかける。

 

「別に妖怪が嫌いという訳ではありませんから、私個人としては」

 

一度だけ立ち止まってそう答え、映姫は再び歩みを進めた。

 

 

地獄は、旧地獄へと。

 

 

 

 

つまり、私が長年をかけて捜していた物は全て見つかったと。

 

そう判断するには、少しばかり早いようだ。

 

「……封印されてるね」

 

 まずは隣に居るぬえ。地底まで来て封印を解いたのは良い物の、どうやら地上へ

戻ってはいけないらしい。実は本人も地上に戻る気は無いらしい……が、私として

は戻って来て欲しいと、そう心の中で思っている。

 

「……」

 

そして、正面。

 

「元は空を飛んでたよ」

 

「良いね、それ。見てみたいかも」

 

 巨大な舟。一度見たら忘れる筈もない、村紗の愛舟聖輦船。嘗ては彼女が毎日水

をかけては磨いてを繰り返していたから輝いていたが、今は誰もそれをしない故に

所々黒ずんでいた。

 

「うわっちぃ!?……やっぱ駄目、私じゃ無理」

 

そして先程からぬえが封印を解こうと頑張ってくれていると、それが今の状況だ。

 

「……」

 

 一応私も半透明状の壁に触れてみる。バチリという音と共に無理矢理腕が仰け反

り、暫くしてからジンジンと手が痛み始めた。良くもまぁ、ぬえはこれを何度も繰

り返す物だ。

 

「流石に、こっちは解けないか」

 

「うーん……私は専門外だなぁ」

 

逃がす為に封印した彼と、二度と目覚めないように封印した人間達。

 

どちらが正しいのかと、問われたならば――

 

「ひよりー、私の封印ってどんなんだったの?」

 

……と、下らない思考を止めて思い出す。

 

「『剥がせば解ける』って書いてあって私でも剥がせた」

 

暗号や術式ではなく筆書きで。良くもまぁ、見つからなかった物だ。

 

「……逆に、どうして誰も解いてくれなかったんだろう?」

 

「解いてどうするのさ、地獄の手伝いでもするつもり?」

 

 ぬえは少し何かを考え、やがてフルフルと首を振って笑った。笑って、私の目の

前にまで近づいて来る。

 

「いや、ひよりの顔見るまでは多分何があろうと地上に行こうとするよ。そんな元

気な姿見ちゃったから、なんか戻らなくても良いなんて思っちゃったけどさ」

 

「戻って来て欲しいって言ったら?」

 

「勿論戻る努力はするよ。でも、それはひよりが望んでいないから」

 

 確かにそうだ。戻って来て欲しいとは思っているが、ぬえ自身の意志を尊重する

事を私は望んでいる。だから私は地底に行かないし、ぬえは地上に戻らない。

 

お互いがお互いを尊重して、故に一緒には居られない。

 

「でもさ、閻魔様の言う通り地上で人と妖両方が共存出来るようになったら――」

 

 そこまで言って、ぬえはしゃがみ込みながら私の首に両腕を回した。先に私がし

たよりも強く、まるで確かめるかのようにぬえは私に抱きついて――

 

「……なったら?」

 

「その時は、私絶対ひよりと一緒に住むから。同じ部屋で、食事当番は交代で、あ

の座布団も使って、偶に人を驚かしてさ。その為にも、まずは私の秘密を教えて置

くね――」

 

 唯一家を焼き払った時に取って置いた座布団は、今はぬえの手元にある。私が此

処を訪れる度に用意してくれるそうだ。二月に一度位は出したいと、そう呟いてい

たのを私は聞いている。つまりは来いと。

 

「――――――――」

 

最後の言葉は、背後に居る紫に届かないように囁いて。

 

「……分かった」

 

ぬえが首に回していた腕の力を緩めた。

 

「きっと、ひよりの為にもなるよ」

 

 お互いに離れて再度向き合う。こうして見ると、私もぬえも数百年経っているの

に見た目は全く変わっていないようだ。……いや、私とぬえの身長が同じくらい伸

びた可能性も捨て切れない――

 

「諦めなさいひより、帰るわよ」

 

私の肩に置かれた手が微妙に悲しかった。

 

「ひよりっ!次来た時には友達の話も聞かせてよ!」

 

 そう叫んで手を振るぬえに私も手を振り返しながら考える。彼女と相性が良いの

は誰だろうか?妹紅は微妙、命蓮寺の皆は平気、彌里は悪戯されて――よし、輝夜

が良いだろう。というか輝夜とぬえは絶対に合う。

 

不意に、肩に置かれたままの手に力が篭った。

 

「帰るんでしょ、紫」

 

「えぇ」

 

手を置いている当人は何処か上の空というか、哀愁。

 

「帰ったら、地上で沢山友達作れば良いじゃん」

 

「……えぇ」

 

哀愁ではなく、悲哀。

 

 萃香が地底に来たことで紫は数少ない友人の一人が減ったとか考えているのだろ

う。それはまぁ事実で、私としても否定の仕様がないが、それでも紫は一人ではな

いと声を大にして言いたい。

 

藍と彌里と私と幽々子。

 

ほら、四人。

 

「……帰ったら覚えて置きなさい」

 

紫が物凄い形相で此方を睨み、踏みつける様にして隙間に入って行った。

 

「……」

 

 私は背後を振り返り、聖輦船を背後に未だ手を振り続けているぬえにもう一度手

を振り返してから――

 

 

スキマへと飛び込んだ。

 

 

 

「で、終わり。先月見に行ったらぬえと萃香達は上手くやってたよ。封印されてた

妖怪達は気が立ってたけど、それも萃香達なら多分大丈夫」

 

 妹紅との訓練で焦げた彌里の巫女服の裾を小さく切り、そこに新品の真白い布を

充てながらひよりはそう言った。その正面には興味深々といった表情の彌里と、そ

れを遠巻きに眺める妹紅の姿。

 

「ぬえさんですか……会ってみたいかも」

 

会えば弄られるだろう彌里がそう呟く。

 

「話聞いた限りだと私でも仲良くなれそうだけど……なれないの?」

 

 意外としっかり話を聞いていたらしい妹紅がひよりに近づきながら問う。ひより

は暫く思案し、やがて巫女服に針を通しながら緩やかに首を横に振った。

 

「悪戯され易い性格の人は全員駄目。逆は全員大丈夫かな」

 

 私は多分丁度中間辺り、とひよりは言う。彌里が「はうっ」と自身の胸を抑える

のを尻目に、妹紅は自身が過ごした師弟生活を想起した。

 

『ひより、この依頼の目的地蝦夷なんだけど』

 

『知らない』

 

 

『ひよりっ!この依頼場所が宋なんだけどっ!?』

 

『知らない』

 

……なんだか気が合わない予感がしてきた。

 

「軽い悪戯を流せる位だったら平気、意外と向こうも悪戯に弱いから――ほら、出来たよ」

 

「ありがとうございます母さま!」

 

 すっかり元通りになった巫女服を彌里に手渡すひより。彼女はそのまま立ち上がり、

周囲を隅々まで確認してから大きく頷いた。

 

「じゃ、これから旅行に行って来るから」

 

「えぇ!?」

 

「……それって完全に私を神社に縛り付ける事が前提だよな?」

 

 彌里が非難の声をあげるのも無視してひよりは縁側へと出る。まさか今直ぐ出るという

事もなかろうが……嫌な予感がした妹紅は此方に背を向けて佇むひよりに声を掛けた。

 

「ちなみに行き先は何処だ?」

 

「ちょっとぬえに頼まれてね、都よりも遥かに東へ。大丈夫、妹紅が行ったあそこよりは

近いよ。細かく言うなら都から少し北東、海を越えた先――」

 

「――佐渡島」

 

 

『……そこに、私の名付け親が居る。私が情けなかった頃の話しかしないから教えたくなかっ

たけど、きっとあの人なら今も人間と一緒に暮らしてる。私が人を驚かす方法を教わった師匠

でもあるんだ』

 

名を、二ッ岩(ふたついわ)マミゾウと。そう言うらしい。

 

「ふっ……」

 

 それに対する妹紅の反応はとても格好の良い物だった。鼻で笑い、前髪を掻き上げ俯く。

その前髪に隠れて見えない顔は感情を押し殺す聖人か、或いは噴火寸前の火山のようにも――

 

「ふっざけんなぁぁぁぁぁっ!!!」

 

噴火した。

 

「母さまもう居ませんよ」

 

 

二度噴火した。

 

 

 

「それでも、私はやっぱり納得いかないよ」

 

「……?どしたのさ萃香?」

 

 何処かから指示を飛ばす声が絶え間なく響く旧地獄で、鬼の頭領こと鬼の『棟梁』伊吹

萃香は首を捻りながら木材を担いで歩いていたぬえを見る。

 

「顔向け出来ないとか、何とかってさ。そんなの本気じゃないんだろう?お前かひよりが

無理を言えば地上に出る事だって出来ただろうし、お前だってそれ位気付いてた筈だ」

 

 ブスリと拗ねたように口を尖らせる萃香を見てぬえは苦笑する。彼女は鋭い勘を真っ直

ぐ思った風に使う人物だと、そう気付いたのは最近だった。

 

ぬえは担いでいた木材を降ろし、萃香の座っていた岩に座る。

 

「……今、本音言っていいかな」

 

 何故か萃香になら話せそうな気がする。実の親友にすら言えなかったことが、何故か知

り合って間もない人になら言えると……そう感じたのだった。

 

萃香が頷くのを確認し、ぬえは地底の天井を――その、先を見た。

 

「ひよりには迷惑かけちゃったんだ。一人で都に取り残しちゃって、そのまま私は地底に

飛ばされて、きっと何日も都の中で待ち続けてくれたんだと思う」

 

「……」

 

 まだその時の話は聞いていないが、それでもきっと情報収集出来るような状況ではなか

った筈だ。下手に動けば陰陽師に見つかる、その恐怖感がぬえにあった様に。

 

「……もし私の封印を解いてくれたのがひよりじゃなかったら、私はきっとひよりの前に

は出られなかった。置き去りにした私の事を恨んでるんじゃないかって、怖くて」

 

真っ先に会いに行くといったのは本心で、これも本音。

 

「でも、ひよりは封印を解いてくれた。五百年もの長い間、私を探し続けてくれた。そう

してあの子の目の前に立った時、私は初めてひよりの瞳に光を見たんだ」

 

出会った時から一度も見せなかった光が灯っていた。

 

「『きっと今ひよりが目指しているもののお陰なんだ』って、そう思った。本人は私を探

す為に成り行きでって言ってたけど、きっとあの夢がひよりの心を救う気がする」

 

 だから、遠慮した。二月に一度で我慢した。本当は毎日話して、遊んで、寝て、笑いた

かった。謝って泣いて、彼女に縋り付きたかった。

 

「分かってるだろうけどさ、そりゃ本人に言うべき言葉だろ!」

 

萃香は半ば呆れたように頭を抱えて叫んだ。

 

「……分かってないなぁ。こういうのは、後で酒の肴にしながら笑い飛ばすから良いんで

しょう?『実はあの時こう思ってたのに――』なんて、さ」

 

そう言ってぬえは笑った。笑って誤魔化して、もう一度木材を担いだ。

 

「それじゃ大将!私これ運んで来るから!」

 

「……全く、素直じゃないねえお前等は」

 

 萃香はそう言いつつも腰の瓢箪から酒を煽る。理由があるのなら、それを無理に知らせ

る必要もないだろう。どうやら他者では分からない事が、あの二人にはあるようだし。

 

「どうっ?似てるでしょ、私とひよりっ!」

 

 居なくなる間際、ぬえはそう叫びながら振り向いた。……その結果動いた木材が見覚え

のある一本角に直撃したとか、そんなどうでも良い事は見えていない。

 

『人と妖が共存出来る世界を紫と一緒に作る……それをきっと、ぬえも望んでるから』

 

全く、こいつ等は――

 

「……あぁ」

 

 

「――お似合いだよ、お前達は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




しかしどうだろう、紫に友人を増やすというのはありなのだろうか。


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