孤独と共に歩む者   作:Klotho

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伏線を播き過ぎて意味の分からない回です。

次回稗田様と幽々子の短編+αを書くことで解決させたいと思います。


『蟲毒と生と死』

 

「到着。此処が西行寺の屋敷、『白玉楼』よ」

 

「っと」

 

 紫と共にスキマから降りる。足元は綺麗に整えられた砂利道。

 正面に見えているのは博麗神社よりも大きな屋敷、紫は白玉楼と言っていたか。空気の感じ

や湿度からして、博麗神社やその周辺とは大分離れた場所にあるようだ。

 

「さあ、行きましょう」

 

 私に手を差し伸べる紫……が、直ぐに引っ込める。その直後、私と紫の間を断ち割る様に銀

に煌く神速の一撃が過ぎ去って行った。視線だけ剣撃が来た方向へ向けると、そこには見知ら

ぬ男の姿――

 

「不法侵入だ、斬るぞ」

 

 長い白髪を後頭部で束ねて一つにしている男は、その鋭く射抜く様な双眸で紫の顔を睨む。

頬に大きな傷があるが、それは寧ろ男の弱さよりも百戦錬磨の人物であるという印象を与えて

いた。つまりは、強面の老人……いや、男という事だ。

 

「紹介するわね、この男は屋敷の護衛兼庭師の魂魄」

 

 紫は意にも介さずそう言って男を指差す。

魂魄とは奇妙な名前だ、そう思って顔ごと男に向けると何故か男はたじろいで刀を引いた。

 

「……『魂魄妖忌』だ」

 

小さく、唸る様に呟く。妖忌と名乗った男は紫へと視線を逸らした。

 

「誘拐か?童子をこんな格好で……」

 

 言っている事に間違いはないのだが、しかし童子と呼ばれると流石に違和感を覚える。私が

口を挟もうと声を上げようとすると、何故か紫が手で制した。

 

「れっきとした妖怪よ。貴方よりも年上のね。――ひより、そろそろ行きましょう」

 

紫が歩き出したので私もその後に続く。妖忌は此方を一瞥し、直ぐに紫を追い始めた。

 

「……分かった、それは良い。それで、どうして()()に連れて来た?」

 

 前方から聞こえる囁く様な声。恐らくは私に気を遣っているのだろうが私も妖怪の端くれ、

一応は聞こえてしまっている。紫もそれには気付いている様で、背中が小刻みに震えている気

がしなくも無い。

 

「彼女は役に立つわ。私よりも『専門』なのよ、こういう事には。……それとも、何か気掛か

りな事でもあるのかしら?」

 

二人が縁側に上がる。私もそれに続き、今度は縁側の上を歩いて行く。

 

「いや、しかし……」

 

「幽々子、来たわよ」

 

 未だ煮え切らない様子の妖忌を無視し、紫が立ち止まって障子を開いた。私は二人の後ろに

立ち……それでは見えないので紫の横から顔だけ入れて中を覗き見る。

 

「今日は妖忌も一緒なのね」

 

中に居たのは女性。

 

 黒く長い髪、白く病的な肌。一瞬だけ輝夜の様な印象を受けたが、しかしこの女性には生と

いう躍動感が感じられない。この屋敷の大きさ通りかなりの名家の生まれなのだろうが、彼女

の着るべき羽織は、しかし着られる事なく床に畳まれている。

 

女性は布団から身体だけ起こして其処に居た

 

「――あら?」

 

 その女性が不意に私の顔を見つめる。そして、手招き。私は少し避けて隙間を作った紫と障

子を抜け、部屋の中へと入った。そのまま歩いて行き、女性の目の前に立つ。

 

「幽々子様!」

 

戒める様な先程の男の声。幽々子と呼ばれた女性は微笑んで私に手を伸ばした。

 

「私は『西行寺幽々子』よ、宜しく」

 

「ひより。一応紫の知り合い」

 

その手を握り返すと、何故か幽々子は驚いた様な顔をした。

 

「……貴方、私の能力が」

 

 

……はて?

 

 

 

 

悪夢を見た

 

 

 現実だったのかも分からない遠い昔の話。まだ幼い私を置いて、色々な人が私から離れて

行ってしまう夢。最初に父が消え、次第に他の皆も消えて逝ってしまった。父は自分から、

皆は何者かの手に引き摺られる様にして。

 

其の手が、今度は私の方へと伸びて来る。

 

 手は私を引きずる事無く唯雁字搦めにしただけで留める。代わりに私に近付いた人達に向

けてその腕を伸ばすのだ。そうしてまた持っていってしまう。

 

私には、もう何も残っていない。

 

この命でさえも――

 

 

 

「……」

 

 身体が重い。普段通りだが、何時も以上に重かった。私は瞼を開け、身体を起こして布団

の中から視線だけ外に続く障子に向ける。陽の差し込み具合からして今は昼時に近いのだろ

うか。

 

そんな事を確認して、再び目を閉じる。

 

 また悪夢を見るのは嫌だったが、それ以上に起きているのが嫌だった。私は身体を横に倒

し、一度体制を整えようとした所で――

 

――耳が、誰かの足音を捉えた。

 

「……っ」

 

身体を起こし、恐らくは此方に向かって来ているのだろう誰かを待つ。

 

妖忌だろうか?それとも紫だろうか?

 

程なくして答えは自ずから現れた。

 

「幽々子、来たわよ」

 

 障子の向こうから聞こえた来たのは親友の声。見れば、陽のお陰でその影がクッキリと浮

かび上がっている。……その隣に見える大きい影は――

 

障子が開かれた。

 

「今日は妖忌も一緒なのね」

 

 珍しい事に紫の隣には妖忌の姿があった。普段ならば妖忌が紫に突っ掛かって気絶する故

に基本的に此処に来るのはどちらか一人だけなのだが……そう疑問に思った所で、私は紫の

腰辺りから顔を覗かせている子供の姿を捉える。

 

「――あら?」

 

 即座に理解、手招き。恐らくはこの子が居たから妖忌は紫と戦わずに此処まで来たのだろ

う。子供好きな彼の事だ、きっとこの子を見て現を抜かしていたに違いない。

 

……何故死装束なのかは気になるが我慢、恐らくは紫の趣味。

 

「幽々子様!」

 

 チラと其方に視線を向ければ、普段とは打って変わって焦った表情の妖忌が。その顔でつ

いつい笑いそうになり、既に目の前に少女が来ている事に気付いて堪える。

 

 

「私は西行寺幽々子よ、宜しく」

 

 能力をほんの少し込めて、微笑みながら手を差し出す。本来なら叱るべきは妖忌だが、紫

の知り合いならば多少の間気絶させていても問題ないだろう。少女は何も疑問を持たないま

ま私の手を掴んだ。

 

案の定、私の能力に中てられた彼女は……

 

「ひより。一応は紫の知り合い」

 

何も、起こらなかった。

 

「……貴方、私の能力が」

 

効いていない、全ての生物に平等に働く筈の能力が。

 

 

妖忌の隣に立つ紫が笑った。

 

 

 

 この女性の名は西行寺幽々子。かの西行法師の娘さんで、現西行家の当主でもあるらしい

……のだが、何分歌や俳句にまでは手を出していなかったので私は知らなかった。

 

問題はそこではない

 

 彼女は後天的に、ある日を境に突然能力を使える様になってしまったそうだ。本人も良く

覚えていない程前の話らしく、ちゃんとした原因は分かっていないと紫は言っていた。

 

『死へと誘う能力』

 

 言葉通り、ありとあらゆる生物を死なせる力。この世のどんな存在にも過ぎた力を一介の

人間が持って、しかも制御出来ていないというのが紫が此処に来ている理由だった。その能

力故に、現在この白玉楼には本人である幽々子、多少の耐性がある妖忌、能力で誤魔化せる

紫、そして『一切効かない』私しかいない。

 

 

その内の三人が狭い室内で話をしていた。

 

「まぁ、こんな所よね?幽々子」

 

 説明を終えた紫が幽々子を見る。幽々子は頷いた。平然と説明されたが、つまり私は先の

一瞬で殺されかけたのかと思うと余り良い気分では無い。というか、握手ついでに殺される

なんて思う人妖は居ない筈だ。

 

と、軽く紫に視線を遣る。ウインクされた。

 

「えぇ。後は妖忌の話位しか出来ないわ」

 

 そんな私達の攻防に気付かない幽々子が笑顔でそう言う。

 あの顔で子供好きと言っていたか……少し興味があるかもしれない。私は幽々子から話を

聞こうと彼女を見、そしてその横に座っている紫が此方を見ている事に気付いた。

 

「……」

 

「……」

 

ほんの一瞬の遣り取り

 

「それじゃ、私は少し用事を片付けて来るわ。十分もせず戻るから」

 

紫が幽々子の背中を軽く叩いて立ち上がる。今度は私の頭を撫でた。

 

「その間はひよりと話していて頂戴。久し振りに私と妖忌以外の人に会えたのだし、幽々子

も聞いてみたい事があるでしょう?」

 

その手を払い退け、私は紫だけ分かる様に睨みつける。彼女は肩を竦めて私から離れた。

 

「あら、良いのかしら?」

 

幽々子が此方を見る。その目には期待の……生きた瞳をしていた。

 

「……ま、良いよ」

 

 今度は私が幽々子の隣へと座る。近くに座ったのでもう一度幽々子を観察してみたが、遠

くで見た時よりも生気の感じられない身体をしていた。これでは、もう――

 

「それじゃ、お願いするわね。ひより」

 

 

紫は私達に手を振って部屋を出て行った。

 

 

 

 

 部屋を出て障子を閉める。程なくして聞こえ始めた小さな笑い声と話し声を聞き届け、私

は縁側を歩いて目的の場所へと移動し始める。まぁ、移動と言っても――

 

八雲紫は部屋を出て数十歩、立ち止まって真横にある障子を開いた。

 

「……」

 

 中に入り座る。恐らくは昔此処に住む誰かが、もしくは此処に来た誰かの為の部屋だった

のだろう。最早誰の生活感すらも無くなった部屋で、私は暫くの間()()を待った。

 

不意に、音も無く目の前を通り過ぎる一匹の鼠。

 

「魂魄はあれで意外と厳しいのよ。此処には鼠一匹居ないわ」

 

私がそう呟くと、鼠は二足になって鼻を小さく動かした。

 

「顔見たら厳しいって分かると思うけど」

 

 ついでに口も動かす。これで唯の鼠だったら……なんて私の不安は解消された。ひよりは

姿を人に戻して私の正面へと座る。彼女は壁の向こう側――幽々子の居る方を見ていた。

 

「……うん、上手くやってるっぽい」

 

「便利よね、その体質。萃香も顔負けしていたようだし」

 

 彼女は現在私の目の前と幽々子の隣に居る。偽者や分身ではなく、本当にひよりが二人居

るのだ。最初知った時には萃香と三人で驚いたものだが、結局この力についてはひよりが中

に居る彼等に聞く事で解決した。

 

器を妖力で作り、その中に彼らの内一人が入って『ひより』となる。

 

 当然の事ながら互いの自己は確立する、が、記憶の共有は本人に戻った時にのみ行われる

そうだ。しかも一人しか入る事が出来ないという欠点もある故に戦闘力も低い。それを考え

るとやはり分身と言った方が良いのだろう。

 

それでも、他者から判断出来ない身代わりは充分に脅威だ。

 

「それで、どうかしら?」

 

 思考を中断してひよりに尋ねる。今は幽々子の事が優先だ。ひよりは暫く考え込む素振り

を見せ、渋々といった様子で口を開いた。

 

「最初に言って置くけど――もう永くはないよ」

 

「……えぇ、分かっているわ」

 

既にこの屋敷に居る誰もが、本人さえもが気が付いている事実。

 

西行寺幽々子は、もう何時死んでも可笑しくはない

 

「能力は如何かしら、一応は貴方にも働いたんじゃないの?」

 

 能力は何故か時を経つ毎に強力になっている。多少なりともひよりに影響を及ぼしたので

はと思い聞いたが、ひよりは軽く首を横に振る事で問いに答える。

 

「あの程度じゃ無理。こっちは殺害特化の害悪専門だから」

 

西行寺幽々子の能力は蠱毒程強力ではないと、彼女はそう言った。

 

「……原因は?」

 

質問を変えて思考を切り替える。幽々子の能力についてだ。

 

 西行寺幽々子が能力を発現させた原因、私にも大体の予想はついている。ひよりは一度周

囲を見回し、一点で動きを止める。妖忌が居る場所でも、幽々子とひよりが話している場所

でも無いそこは――

 

「この方向に、多分だけど」

 

私の予想と、全く同じ方向に。

 

「……そう、有難う。これで頼み事は終わりよ、幽々子の話が終わったら神社に戻すわね」

 

 そう言って立ち上がる。取り合えずはアレと幽々子が能力を発現させた原因とやらを調べ

る必要があるだろう。スキマを開いて中に入ろうとした私は、しかし背後から私を呼ぶ声に

足を止める。

 

「紫」

 

勿論の如くひよりだった。

 

「……何かしら?」

 

 背を向けたまま答える。別に後ろめたい事がある訳ではないが、何故か彼女を見てはいけ

ない気がした。

 

ひよりは暫くの沈黙の後、ポツリと呟く。

 

「三代目の稗田は言っていたよ、『私は転生を繰り返すヒトだ、人間ではない』って」

 

「……」

 

「人として死なせてあげるのも、一つの助けだと私は思うんだよね」

 

幽々子の寿命を待って楽にさせた方が良い、ひよりはそう提案する。

 

「……そう、ね」

 

 振り返る。ひよりは苦笑を浮かべていた。一昔前の私なら激昂しただろう……が、今は

違う。ひよりの元人間としての意見は尊重すべきであり、事実であり、私達妖怪には理解

出来ない気持ちだ。

 

「勿論私はこうなって良かったと思ってる。妹紅は……どうかな、分からないや。でも、

誰しもが全員そうって訳じゃないんじゃないかな」

 

 長く生きる事が良いという訳ではない、幸せでなければ意味が無いとひよりは言う。そ

の言葉の重さがズシリと私の肩に掛かった所で今度は彼女が立ち上がった。

 

「何をするつもりかは分からないけど、何かしようとしてるのは分かるよ。稗田に転生の

任が無かったら、多分()()してたんじゃない?」

 

「……」

 

当たっている、気付かれているから、反論出来ない。

 

ひよりは障子を開けてから再び姿を鼠に変える。

 

「その救いの手が幽々子を引き摺らなければ良いね」

 

一言、そう言って居なくなった。

 

 

 

 

私しか居なくなった部屋、開きっぱなしのスキマを前にして私は佇んでいた。

 

『その救いの手が幽々子を引き摺らなければ良いね』

 

「……」

 

 圧し掛かるなんてレベルではない、貫いて穴を開ける勢いで私に向けられた言葉。

……が、彼女の遠慮の無さは子供の頃に教育出来る者が居なかったということだけで我慢出来る。……それでも、私の心は間違いなく揺らいでいた。

 

西行寺幽々子を人にするか、ヒトにするか――

 

『誰しもが全員そうって訳じゃないんじゃないかな』

 

 人間は誰しも大抵死を恐れ、不老長寿を願う。実際になった者が殆どいない故に、彼等

のその願いは太古の昔から不変の物として存在していた。ならばそう為った人間は一体何

を想って生きていくのだろうか。

 

長く生きるのではなく、幸せに生きた方が良いとひよりは言った。

 

 

「……もう少し練り直した方が良さそうね」

 

私はスキマに足を踏み入れた。

 

 

 

 その後は実に何事も無く進んでいった。幽々子と話している私と合流し、幽々子との会

話に興じ、紫が戻って来た所で今度は三人で妖忌の話へと突入した。どうやら彼が子供好

きというのは本当らしく、今度からかってみる話まで纏まってしまった。

 

それでも、私も神社に帰らなくてはならなくて――

 

残念がった幽々子と妖忌(も残念がっていた)は、門の前まで私と紫を見送ってくれた。

 

 

 

 

「それで、この話どう思う?」

 

相も変わらず見た事の無い機材の並ぶ部屋。私は部屋の主に問い掛ける。

 

「知りません、不老不死にその話は無駄でしょう」

 

 溜息を吐いて此方を振り返る永琳。私は今永遠亭に、しかも珍しい事に輝夜抜きで永琳

の部屋に遊びに来ていた。……と言っても、何かを書いたり考えたりする永琳に一方的に

私が話し掛けているだけなのだが。

 

それでも彼女は天才、何かの結論を出してから此方の問いにも答えた。

 

「私も輝夜も自分達の意志で蓬莱の薬を飲んだのよ、後悔はしていないわ。……でも、他

の人にそれを体験させようとは思わないわね。永遠は、余りにも重過ぎる」

 

永遠を生きる彼女が永遠を語る。体験談は、現実味を持って。

 

「……」

 

「不老不死者の観点から見た時よ、参考にはならないでしょう」

 

 それでも彼女と輝夜は何とかこれまでやってきている。噂の絶えない辺り、きっと妹紅

も何処かで上手くやっているのだろう……そう結論を出して私は立ち上がる。何時までも

此処に居ると永琳が輝夜に怒られてしまうからだ。

 

「充分、ありがと」

 

再び何かの研究に没頭し始めた永琳の背中にそう声を掛ける。

 

「こっちも助かってるわ、また新しいのをお願いね」

 

 

彼女は私が持って来た妖怪の特徴や性質の書かれた本を片手にそう言った。

 

 

 

 

「それで、この話どう思う?」

 

パチリと飛車を前に進めて私は正面の相手を見る。

 

「簡単よ、本人の好きにすれば良いじゃない。生きたければ生きれば良いし、死にたけ

れば勝手に死ねば良いでしょう?こっちは一択なのに贅沢よね」

 

パチリと輝夜が桂馬を動かす……あ、飛車取られた。

 

「生きたければって、難しくない?」

 

しかし圧倒的だ。既に私と輝夜の持ち駒の数は十二倍……最後に残った王将を逃がす。

 

「どーせその辺は人外的にどうにかするんでしょう?ならやっぱり選択よ」

 

哀れ、最後の王も討ち取られて盤面は輝夜の国になった。

 

「もし生きるとするなら……」

 

「その時はその時、人外の辛さをたっぷりと教えてあげなさい。普通の食事が出来ない身

体か食事の必要が無い身体、多分どちらかにはなるでしょうから」

 

 そう言って輝夜はケタケタ笑う。私や紫よりも永く生きた存在としての余裕がそこにあ

った。

 

輝夜は自分の駒と私の駒を全て回収し、今度は一箇所に詰み始める。

 

「生きる意味が無いなら死んでも一緒。楽しくないなら無理に頑張る必要も無し」

 

でも私達は何度死んでも楽しくはならない、と輝夜は言う。

 

「『自分で楽しみを見つけなさい』と、これが私から出来るそいつへの助言ね。友人、趣

味、食事、睡眠、なんでも良いわ。勿論ほら、これだって――」

 

 積み立てられた将棋の駒を輝夜が指を使ってそっと抜き取る。自慢げに駒を持ちながら

此方を見る輝夜の真下で残っていた駒達が崩れ落ちた。

 

「こんなに楽しい」

 

「……そうだね」

 

 

まぁ、見ているだけで楽しいので良しとしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして過ぎていく日常、博麗神社で彌里に修行をさせながら過ごす日々。

 

たまに幽々子の元へ遊びに行くという予定が加わっただけの毎日に――

 

 

一陣の変化の風

 

 

 

「ひより様ぁ!?」

 

里の中に驚愕混じりの大声が響く。女性の声だった。

 

「えっ、えぇ、そうですが……」

 

 発声源の真正面にいた若い男、里長は両手で正面の女性を抑えようと突き出す。女性が

突っ掛かって来ている訳ではないのだが、何時肩を掴まれても可笑しくはない勢いがあっ

たのだ。

 

周囲を行き交う人々の視線が彼女へと突き刺さる。

 

「そ、それってこんな感じか?」

 

 それに気付いたのか白い髪の女は漸く身を引き、自身の手を平らにして腰の辺りに当て

る。一見意味の分からない行動に、里長は思い当たる形を当て嵌めて頷く。

 

「そんな感じです」

 

「……伸びてないんだな」

 

 白い髪の――妹紅は苦笑しながらそう言う。一見まだ十五、十六といった見た目の妹紅

が、里長には何故か自身の祖父と同じかそれ以上に老練な気配を感じた。

 

「お知り合いなんですか?」

 

 思わずそう尋ねる。ひより本人からこの様な見た目の女性が知り合いだという話は聞い

ていないが、先の言動や身長の話、それに『妖怪退治の仕方』がひよりと幾分重なる所が

あったからだ。

 

「んー、まぁ簡単に言うなら――」

 

妹紅は遠くを見る。里を越えて、湖も越えて、その先にある博麗神社の――

 

 

「師匠、かな」

 

四百年振りの邂逅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




輝夜と妹紅をどうするのか悩んでいます。


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