ペルソナ3 The second world with You 作:harbor
「コレ…人、だよな?」
「あぁ。これが象徴化、か。悪趣味だな。」
確認するように呟く伊織。周囲には、知らなければ人だとはわかるはずもない、艶のある光沢を持った棺がいくつか立っている。
流石に終電近くともあり、決して人が多い訳ではなさそうだった。
「この数で助かったね。もし満員だったら…」
「弓は使えないよねー…。」
「俺達の両手剣も無理だろうな。」
「まぁ、ラッキーということで。……ん?」
周囲を見回していた有里だったが、異変に気づく。
岳羽の顔が、真っ青なのである。
よくよく見ると、膝も笑っている。
(うーん、どうしよ。)
前回は余裕がなかったためか気づく事もなかったが、今回は違う。
二週目の余裕のせいか、強くなったシャドウとの戦闘のせいか、有里は以前より仲間の様子に留意するようになっていた。
(まぁ、鳴上に任せるか…)
ただし、基本的な思考パターンは変わらない。
面倒事は押し付けたもの勝ち、である。
「よし順平、行こう。」
「おっ?はいよ。」
斯くして二人は警戒しつつ歩き出す。
ただし有里は、鳴上にアイコンタクトを出しながら。
(有里がかチラチラこっちを…?岳羽がどうかしたのか…?)
気になった鳴上は岳羽を見、全てを察した。
「しっかしまー、歯応えないな?」
「うん、確かに。タルタロスのシャドウよりは殺りやすいね。」
「有里…?やるの字が違うような気がしたんだが気のせいか…?」
「大丈夫大丈夫。っと、また来たね…!」
「おっしゃ、めたんこにしてやる!」
刹那、シャドウは臆したかのように身を翻し、車両の奥へ進んで行く。
「追うぞ、湊!」
{待て!あのシャドウだけが敵前逃亡とは、不自然だ。有里、どう思う?}
「…まぁ、罠ですよね。」
{私もそう思う。だから、追うのは─}
途端に不機嫌そうになる伊織。
しかし、有里は遮るようにニヤニヤと笑いながら、
「まぁ、今回は前後衛分けてますし、敢えて乗るのもありでしょ。鳴上、岳羽、後ろに気を付けながらサポートよろしくねっ!」
{な、なぁっ!?}
「えっ、ちょっ、ば、バカじゃないの!?てかバッカじゃないの!?」
「………任せろ(`・ω・´)」
桐条といえどやはり女性。動揺が見られる。同様に岳羽も狼狽しているが、相変わらずのこの男。
この状況下でこの返しができるあたり、得体が知れない。
と、後衛が混乱している間に前衛は駆けていく。
「岳羽、前に行ってくれ!」
「えっ!?う、うん!」
駆け出す二人。
普通ならば弓は後ろに配置するものだが、罠と分かっているものに突撃するのである。
十中八九、後ろからの追撃が来ると見てのこの配置である。
後ろからの攻撃で足が止まろうとも、弓を使う岳羽ならば仮に前衛が挟まれていても対応ができる。
などとぼんやり考えながら走る鳴上。ちなみにたまに後ろ走りをしている。そして。
「!来たか。岳羽、止まれ!背中を頼む!」
想定通りの足止めである。
{敵4体!的確に対処してくれ!}
「岳羽は、前衛どもの後ろを見ててくれ。こいつらは俺が散らす。」
「わ、わかった!危なくなったら言って?」
「気遣いありがとう。だが、終わった。行こう。」
「…………へ?」
一閃、である。
スキル名、空間殺法。
顕現させたイザナギノオオカミを戻しつつ、鳴上は微笑んだ。
「!止まった、ね。順平、前お願い。」
「お、おう…って、え!?囲まれてんじゃん!?」
返事をしようと振り返った伊織の目に飛び込んだ複数のシャドウ。慌てて前を見ると、いつの間にか三体に増えている。あせる伊織。だが。
「大丈夫、僕と順平でならなんとでもなるよ。」
有里の自信に溢れた声。
幾度となく羨んだ人間から伝わってくる、大きな信頼。
一瞬呆気にとられたが、すぐにいつもの道化で返す。
「……おいおい、俺っち調子に乗るぞ?」
「いいよ、乗って。ミスはカバーするよ?」
「……へへっ。よっしゃ、いっくぜ!?」
そこに嫉妬する少年は既におらず。
ただ、親友とも言える男のためにその剣を振るう、戦士がそこに居た。
「うん。………頼むよ、相棒!!」
真に信頼しあった二人の前に、敵は為す術もなく散っていく。
「伊織、有里、だいじょ……余裕か、お前ら。」
「もう、心配かけないでよね…」
{全くだ。さて、その先に巨大なシャドウの反応がある。状態を万全にして、進んでくれ。}
「万全に、ね…。皆、大丈夫?」
「「「おう!!」」」
「よし、行こう。」
手を掛け、開いた扉の先には…
なんかスゴい。
一言で言えば、そうなる。
基本的には、白黒で塗り分けられ、紅い仮面で目元を隠した女性だ。
ただ、格好がよくない。
服など着てないし、膝をたて、開いて座っている。
怪しいビデオの人のような格好で、巨大シャドウ─プリーステスは佇んでいた。
「こ、これは…」
「ロマン、だな。」
静かに呟いた鳴上の後頭部に蹴りが入る。
「ば、バカども!!見とれてないで構えてよ!!」
蹴りの主はもちろん岳羽。真っ赤である。
「鳴上、順平、前屈みにならなくていいから。早く構えて?来るよ?来ちゃうよ?」
「み、湊、お前ほんとに男か…?」
「だってシャドウに欲情なんて…ねぇ?」
「欲情とか言うなばか!!」
二発目の蹴り。今度はローキックである。
と。
こちらに気付いたプリーステスは、前頭車両全体に広がる髪を蠢かせ、氷結魔法を放つ。
漫才を繰り広げていたとはいえ、戦闘中。
皆、警戒は解いていない。
……解いていなかったのだが。
「痛ぇッ!?」
「キャッ!?」
「うおっ!?」
「あれま。」
何せ、巨大なシャドウである。
必然的に攻撃範囲が広くなる。
見誤った四人は、直撃とは言わないまでも、ダメージを負った。
ただし…
「嘘…だろ?かすっただけでこの威力かよ…」
氷に耐性のある鳴上と有里以外の二人は既にグロッキーである。
「…ピクシー!メディラマ!」
有里が回復させるが…
シャドウの髪が発光し、突如有里の体を虚脱感が襲う。
(!?これは…吸魔か!?全部持ってかれた!?)
「ごめん、皆…僕もう魔法使えない…」
「なっ!?いまの光か!?」
「うん…全員が食らう前に蹴りつけないと…。順平、行くよ!」
「了解!」
二人は、それぞれ得物を構えて走っていく。
一振り、一振り確実に体力を削っていく。
「岳羽、俺たちは魔法で援護しよう!」
「了解!ペルソナ!ガルーラ!!」
「オルトロス!!アギラオ!!」
炎は風に煽られ、巨大になってシャドウを襲う。
悶えるシャドウ。しかし、その髪が二ヶ所、光ったと思うと…
「ぐっ!?」
「あっ…!?」
岳羽、鳴上の体も虚脱感で満たされる。
「すまん、有里…やられた…」
「えぇっ!?」
振り向いた有里。
その隙をシャドウが見逃すはずもなく。
「ぐぁっ!?」
背中に一撃。
髪を鞭のように動かし、一閃である。
「湊!?」
「はは…やっばい…順平、決めちゃってよ…」
「……くそッ!!早く復活しろよ!?悠!来てくれ!」
「あぁ!!決めるぞ!」
刀を振り抜く二人。
両腕を落とされたシャドウは、髪を振り回して応戦する。
逃げ場もなく、四人は地に臥せった。
{お、おい!大丈夫か、皆!!}
「く、そ…」
「ねぇ、順平…」
「あ…?」
「アギ、撃って…終わらせてくれ…」
「わかった…」
ゆっくり、ゆっくりと召喚器に手を掛け、、引き金を引く伊織。
それを尻目に、止めを差そうと魔力を練り上げるプリーステス。
膨れ上がったそれが、爆発する────
「ヘルメス!!!!!!!」
ことは、なかった。
練り上げられた魔力を呑み込み、なお貪欲にシャドウを襲うその火焔は、まさしく神々を焼いた炎そのもので。
焼かれたシャドウは跡形もなく消え去った。
「終わった…のか?」
{ダメだ!!車両が止まらない!!ブレーキレバーを引いてくれ!!}
「なっ!?」
四人に、そんな余力は残されていなかった。
静かに涙を流す岳羽。
うつむく伊織。
少しでも近付こうと這う鳴上。
そして…。
眼前に前の車両が写り…
四人の意識は、そこで途絶えた。
戦闘描写は…苦手です…