主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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The other promise - ソードアート・オンライン - ≪完結≫
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「ユウキ~、遅刻するよ!」

 

「うん、直ぐ行くね!」

 

 私、紺野 木綿季は姉である紺野 藍子お姉ちゃんの声にベッドから飛び上がり、階段を降りてリビングへと向かう。リビングにはお姉ちゃんとお母さんがエプロン姿で朝食を用意してくれていた。新聞を読んでいたお父さんから『おはよう』と言われて、それに返答し私はテーブルに置かれてあるパンを口に咥える。

 

「いってきま~~~すっ!」

 

『いってらっしゃい』

 

 お弁当を鞄に入れて直ぐに玄関にて靴に履き替え、家を飛び出す。

 家から歩いて10分の駅にギリギリ間に合い、電車の中で息を整える。寝起きだったため、髪がボサボサしていたので周りに迷惑が掛からない様に鞄から櫛を取り出し、髪を梳かす。

 電車が目的地に到着し、私は電車を降りて再び走り出す。腕時計で時間を確認すると時間には余裕があるので失速させ、歩き始める。

 

「おはよう、ユウキ。今日は寝坊しなかったみたいね」

 

「アスナっ!えへへへ、偉いでしょ?」

 

「毎度自分で起きれば、偉いと思うわよ?」

 

 通学路を歩いていると、背後から親友である結城明日奈もといアスナが声を掛けてきた。笑いながら私の合わせる様に足並みを揃えながらアスナと会話するのが、今では当たり前となっている。昔の私ならば、有り得ないだろう。

 

「ねぇねぇ、今日も皆でフロアボス攻略しようよ!」

 

「いいけど、ユウキとランさんは今日病院に検査を受ける日じゃないの?」

 

「まだ先だよぉ、もう。アスナは心配性なんだから。昨日も一昨日も同じこと言ってたよ?」

 

「『親友』なんだから、当たり前よ。そういうことなら、キリトくんたちにも知らせておかないとね。あ、そうだ。明後日の休日、リズ達と買い物するんだけど一緒にどうかな?女の子だけの買い物なんだけど」

 

「勿論行くよ!」

 

「決まりね。あと、もしよければランさんにも「お~~~い、アスナ、ユウキ!」」

 

「あ、キリト!」

 

 背後から黒髪の男の子、桐ケ谷和人もといキリトがやってくる。

 目に隈を浮かばせ、ゼェゼェと息を荒げて私達の所まで追いついて、息を整える。

 

「あぁ、危なかったぁ。起きたら30分過ぎだったから、寝過ごすところだったよ」

 

「ゲームばっかりやってるからよ、もう。でも、バイクがあるんだから乗って登校すればよかったんじゃない?電車と違って直ぐだし」

 

「ガソリンを入れ忘れたんだよ。それより、おはよう二人とも」

 

「うん。おはよう、キリト君」

 

「おはよう、キリト!」

 

 キリトと合流した私たちは、3人並んで学校へと向かう。

 学校の校門前に着くと、私を立ち止まり学校を眺める。病気のせいで学校へ行けなくなって、転居することになって別の学校に通っていたけれど病気の悪化により再び学校へ登校できなくなった。病院での闘病生活が一番多かったので慣れない。

 

 

 いまは昔の様に自分の足で立って、風を感じてる。

 もうベッドの上で眠っているだけの事しか出来ないと思っていたけど、私や姉ちゃん、お父さんやお母さんはこうして生きている。

 

「ほら、ユウキ。行こう」

 

「うん!」

 

 アスナから差し出された手を取り、私は足を動かす。

 その時、首に下げていた小さな星形のペンダントが零れ出た。

 そのペンダントの裏には―――――――Soraという文字が刻まれていた。

 

 

 

 

 授業終了の合図がなりクラスメイト達は皆、学食や購買部へと向かったり、教室でお弁当を広げるなど各自お昼を摂りはじめる。私の席の周りにいた子達から『一緒にどう?』と誘われたけれど、約束があるといって断った。

 私は鞄からお弁当を取り出すとアスナがお弁当を持って向かい側の席に座る。

 

「学校には慣れた?」

 

「うん。みんなとっても優しいし、私の病気の事を全く気にせず接してくれる。だけど、やっぱり今までこんな事はなかったから、何だか違和感があるかな」

 

「そのうち慣れるよ。それより、おかずを交換しない?」

 

「あ、じゃあハンバーグ貰うね!」

 

「あ、こら!まだあげるって言ってないよ!なら私は卵焼き!」

 

「あぁ、僕の卵焼きがっ!しかも二個とった!」

 

「ふふふふ、勝手に取った罰です」

 

 アスナと私がそんなやり取りをすると、周りいた子達がこちらを見てクスクスと笑う。こんなやり取りは此処に入学することになってから誰もが見ている光景なのだ。本来この学校は、SAO生還者の修業年齢者の通う学校は独自のカリキュラムを施行していて中学生、高校生だった人たちを集めている。本来僕が通えるわけがない学校なのだが、この学校は学年というものはなく、高校卒業程度までのカリキュラムが終われば、高卒資格で卒業できる。

 私は病気でまともに学校に通えることが出来なかったので、そのため入学することが出来た。私は首下げてあるペンダントを手に取り、見つめる。

 

「ねぇ、ユウキ。前からずっとそのペンダントを弄ってるけど、もしかして家族からのプレゼント?」

 

「ううん、違うよ。私の手に握られていたけど、誰のものか分からないの。分かるのは、この『Sora』っていう名前らしき文字だけ」

 

「そのSoraって名前に覚えはないの?」

 

「ないはずなんだけど………………でも、とっても大切な人だった気がする」

 

 お父さんやお母さん、お姉ちゃん達でも知らないペンダント。

 裏側に『Sora』と人の名前らしき文字が彫られてあるけど、身に覚えがないのに胸が締め付けられる。いったいこの胸の痛みはなんだろうか。

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 紺野 木綿季もといユウキという少女は前向きで明るい少女だった。

 自分の身体に病があったとしても、学校に毎日通ったり、友達を沢山作ったり、学校を休むことなく病気が治ると信じて生き続けてきた。薬剤耐性型のHIVだと知らされた時も絶望せず、毎日与えられた大量の薬を前に涙を流さず、文句も言わず投与し続けてきた。

 しかし、現実は酷いものであった。

 

 

 ある日、ユウキがHIVキャリアだという事が同学年だった子供の保護者に知られてしまい、ユウキやユウキの家族は差別や嫌がらせを受ける様になってしまった。法では差別などは禁止され、学校や企業側などの健康診断では禁止されている。

 しかし、人間というものは存外数百万の人間を殺した神よりも酷い生き物である。ユウキの通学の反対の申し出をしたり、電話や手紙による嫌がらせが始まった。せっかく出来た友達と別れたくないという我儘が通じないことはユウキ自身も分かっている。

 一家が転居することになったとしても、ユウキは笑顔であり続けると決め、何も言わずに別れを告げた。

 

 

 新しい学校に転校を余儀なくされたユウキは新しい学校でも休むことなく学校に通い続けた。前の学校と同じように友達を沢山つくり、授業なんて一度も休まなかった。

 また頑張ればいい、病気なんかには負けないと頑張って頑張って、只管頑張ってユウキは自分の病と向き合い、闘病するのだった。

 だが、前の学校の事が原因かリンパ球が急速に減少し始めたのである。免疫力が低くなり、ついにユウキはエイズ発症となってしまったのだ。

 

 

 エイズ発症後、学校を休むことになり検査と更に増えた薬剤の投与の毎日だった。

 免疫力低下が原因により、日常生活において通常では撃退できるはずのウイルスや細菌に冒される危険性があったためユウキとその両親は医療用ナーヴギア………メディキュボイドに寝かせるのをユウキ達の担当医である倉橋から提案されたのだ。

 

 

 メディキュボイドは試験機であるため、長期間安定したテストを行う為にクリーンルームい設置されることになった。

 クリーンルームは空気中の塵や埃の他に細菌やウィルスなどを排除された環境下である。中に入れば、日和見感染のリスクが大幅に低下される利点がある。

 

 

 しかし利点も存在するなら勿論、欠点も存在する。

 エイズにおいて『QOL(クオリティ・オブ・ライフ)』が重視されている。

 メディキュボイドの試験者になれば、治療生活における充実した生活が必ず満たされると言えないのだ。クリーンルームから出る事も出来ない、誰とも直接触れ合う生活を送る事になるのだ。

 

 

 だがユウキはヴァーチャル世界という未知の世界の憧れもあり、受諾した。

 不幸なのか幸なのか、それで生きていけるのならば安心だった。

 だがしかし、どこにも出られない。何時しかずっと寝たままの生活に耐えられるかどうかと考えてしまい、不安があったりもしたため思わず涙を流した。

 もしかしたら、このままずっと死ぬまでメディキュボイドでの生活を余儀なくされてしまうのかもしれない。病気が治らないかもしれないと初めて不安を感じてしまったのだ。

 だが―――――――――――

 

『頑張れ、ユウキ!!』

 

 一人の少年のお蔭で、ユウキは再び頑張る事を決めたのであった。

 もう顔すらも覚えていない、一人の少年にユウキ達は救われるのである。

 

 


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