ソードアート・オンライン──投剣──   作:kujiratowa

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Throw-8

≪投剣≫ソードスキルの基本にして他のソードスキルに対して絶対的なアドバンテージを誇るもの────それが、攻撃距離の長さだ。

他の武器──ソードスキル──を扱ったことがないから何とも言えないけれど、第1層に出てきた敵の用いるソードスキルは、お世辞にも攻撃距離が長いとはいえなかった。

システムアシストによって移動速度にブーストのかかる技もいくつかあったが、基本的には武器を相手に接触させてダメージを与えることを第一とするソードスキルばかりだった。

だからこそ、相手がソードスキルを発しようとしながら駆けてくるのがわかれば、その手前でソードスキルを潰すために≪シングルシュート≫による遠距離攻撃を行った。

すると大抵は体勢が崩れてソードスキルが不発に終わったり、うまく発動させるもシングルシュートの迎撃に終わるばかりで、次の一手を打てなくなるというパターンがほとんどだった。

そこから先は遠距離からのヒット・アンド・アウェイを繰り返すだけで、簡単にダメージを蓄積できたし、時間はかかってもほとんど全ての敵を撃破することができた。

ほとんどダメージらしいダメージを負わずに勝利し続ける自分の力を、いつの間にか過信していた…………そんな気がする。

もっとクレバーな立ち回りができていたら、考えるはずだ。

なぜ遠距離からの攻撃が可能なのか、なぜヒット・アンド・アウェイでダメージを稼げるのか──。

 

それらは全て、地の利を生かしていたに過ぎないということだ。

 

 

 

「ぐぅっ……っ!!」

 

避けきれなかった刀の軌跡が、左腕を荒々しく掠めていく。

血飛沫こそ舞わないものの、血飛沫になぞらえたポリゴン体が細かく明滅して消えていった。

被ダメージはおよそ10パーセント。

これまでの累計を合わせると、傷薬による回復がなければ、そろそろゲームオーバーとなるだげのダメージを負っている。

転がるようにしてボスから距離を取り、片膝をつきながら再びナイフを構えた。

相変わらず無音のままこちらへとやって来るボスは、幻影とでも呼べばいいような相手だった。

≪シングルシュート≫を放つと同時に、思い切ってボスに背中を向け、そのまま壁に向かって走る。

もうずっと、こうやって距離を詰められては、距離を取り返す戦闘を続けていた。

戦闘継続時間は、現在15分に差し掛かろうとしている。

もちろん、こんなにも長時間に渡る戦闘は、初めての経験だった。

ボスのHPゲージは2本目へと突入したが、1本目を削るために使った投げナイフは15本を超えていた。

ストックしてあるナイフは、残り40本。

ほとんどミスすることなく投げ抜いて、ようやく倒せうかどうかというところだ。

時間の経過ごとに、撤退の二文字もちらつき始める。

壁際まで走りきると同時に反転し、ボスへと視点を合わせる。

その刹那、右の方向に見えるボス部屋への入り口を眺めた。

大きな扉はここへ入ってきたときと同じように開いたままだった。

 

ボスの刀が、上段気味に掲げられていることに気がついた。

振り下ろしが始まる前に、刀の描く軌道をイメージし、そことは反対方向に向かって跳ぶ。

数瞬遅れて刀が振り下ろされると、開幕でダメージを受けた長距離攻撃が繰り出された。

どうやら、一定の距離を取られると、その長距離技で戦おうとするらしい。

攻撃射程、攻撃範囲共に使い勝手の良さそうな技なので、羨ましくも思うが、近距離での戦闘に比べれば遠距離での戦闘の方がこちらに分があるのは間違いない。

ボスに右腕に向けて、ステップを踏みながら投げナイフを投じる。

ソードスキル≪アプライト≫のシステムアシストによって、体が若干ボスに近づいてしまうが、冷却時間を終えて放たれた一撃はボスに防御されることなく、肩口へと命中した。

耐久値が無くなって消滅したナイフも含めれば、ボスの右腕は今頃剣山のようになっていただろう。

戦闘の途中から狙いを右腕に絞ったのは、少しでも相手の刀の猛攻が止まれば良いと願ってのことだった。

絶大な効果をもたらしているとは思えないが、それでも着実に部位ダメージを与えると信じて攻撃するしかない。

ボスの動きに変化があった。

前傾姿勢になり、刀を両手で握りながら、顔の横で突きでも繰り出すような構えを取る────チャンスだ。

先ほどはどんな攻撃が繰り出されるのか出方を窺っていたため対応しきれなかったが、突進から繰り出されるソードスキルだということは判明したので、突進のタイミングに合わせてこちらから投剣すれば良い。

破壊力を呼び込むため、≪ピアースシュート≫を意識して投げナイフを構える。

声でも聞こえれば猛狂っている様子がわかるのに……と、どこかズレた感想を持ちながら、距離をゼロに縮めるために驀進してくるボスを見やる。

刀にライトエフェクトが灯りかけるその瞬間に、ナイフを投げる。

ただのナイフではなく、麻痺毒を仕込んだナイフだ。

狙い通りに相手の腹部へと突き刺さり、そのままボスが大きく転倒する。

ここぞとばかりに、一度の装備数が多い投げナイフを装備し直し、力の限り投げ続けた。

 

2023年4月1日、ボスのHPゲージ2本目が弾けた。

戦闘は順調に推移している、と思う。


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