ソードアート・オンライン──投剣──   作:kujiratowa

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Throw-6

ダンジョンマップと自分の位置とを何度も確認しながら、慎重に歩き続けて1時間半。

最上階まであと2フロアというところまできて、そこから突破口を開けずにいた。

マップを確認すれば、T字路になった先を左に折れて真っ直ぐ進むと、次のフロアへと向かう階段があることはわかっていた。

しかし、身を屈め、T字路の淵からそっと顔を覗かせると、階段の付近には3匹のコボルドが固まって、何やら会話をしているようだった。

しているように見えるだけで、ただそこにポップしただけなのかもしれないが、なかなか嫌な位置に構えている。

3匹が3匹ともこちらを向いていないのがせめてもの救いだが、それでも階段を昇るには彼らを相手にしなくてはならない。

攻めあぐねて、そろそろ10分になる。

その間、ポップ位置が変動するようなこともなく、同じような体勢のまま、コボルドは道を塞いでいた。

 

…………やるしかない。

アイテムストレージを確認し、≪トールバーナ≫で仕入れた投げナイフ5本を装備する。

そして、≪トールバーナ≫に来る前に立ち寄った≪ホルンカ≫という村で仕入れた麻痺薬の瓶をストレージから取り出す。

ナイフ5本の刃部分を丹念に瓶に漬け込めば、即興ではあるが麻痺毒ナイフの完成だ。

ナイフホルダーには仕舞わず、左手に4本、右手に1本を持ったまま、深く深呼吸する。

 

勝負の鍵を握るのは、いつだってイメージだ。

 

軽く目を瞑り、一連の動作をシミュレートする。

飛び出し、≪シングル≫……振り切って、≪ツーピース≫、目視から≪ピアース≫──≪アプライト≫…………後詰めは──。

10秒にも満たない時間で目を開き、ナイフを握った手に力を込める。

やってやる、やってみせる!

 

「っ!!」

 

サイドステップでT字の淵から飛び出し、ほとんど勘に任せて一撃目となるソードスキル≪シングルシュート≫を放つ。

15メートルほどの距離を駆け抜けた投げナイフが、手前にいたコボルドの首筋へと突き刺さり、そのまま倒れ伏せるのが見えた。

途端、コボルド特有の甲高い声を上げ、残った2匹がこちらを見やる。

左手のナイフを2本右手で握り直し、柄の部分を人差し指と中指、中指と薬指にそれぞれ挟む。

野球のサイドスローのように構えた右腕を、こちらへと駆け寄ろうと前傾姿勢になった2匹のコボルドに向けて振るう。

複数投擲系のソードスキル≪ツーピース≫は、Vの字に突き進み、一方のコボルドの胸元を穿ち、もう一方のコボルドの持つ棍棒のようなものを弾き飛ばした。

これなら省略していける──確信めいた思いを胸に、もう一度≪シングルシュート≫のプレモーションを取る。

投剣スキルのソードスキルは冷却時間も短く、基礎技だったらやり方次第で打ち続けられるようになる。

≪ツーピース≫というインターバルを挟んだことにより、≪シングルシュート≫はライトエフェクトを猛らせながら、最後に残ったコボルドの右太ももへと吸い込まれた。

麻痺状態の継続時間は、決して長くない。

いつ起きるともわからない彼らを踏み越えていくのはなかなかスリリングでもあったが、幸いなことに攻撃を受けることなく、一息で階段を駆け上がることができた。

 

次のフロアへと辿り着いたところで、思わず咳込んでしまう。

嫌な汗を掻いた。

第1層をいろいろ巡っている最中にコボルドを相手にすることもあったが、奴の使うソードスキルが本当に嫌で、1対多数はとても苦労することが多かった。

ナイフ4本に麻痺薬瓶1つで突破できたのなら、安いものだ。

そう自分に言い聞かせ、再びマップを呼び出す。

ボスフロアも、近い。

 

 

 

「ありがとう! すまない、俺は怖くて、あんたとは一緒に行けそうもない……」

 

申し訳なさそうに項垂れる彼に軽く手を振って、≪トールバーナ≫から迷宮区に向けて出発した。

受注したクエストが、NPCキャラクターの言う通りであったら、本当に第1層のフロアボスが復活したというのだろうか。

とても考えられない──とは、簡単に言えない。

しかし、過去の敵を倒すというある種の王道シナリオは、もっとゲーム後半で登場して然るべきだ、という思いも拭いきれない。

わからず悶々とするくらいであればと、迷宮区へと侵入したのは良いが、流石にボスフロアが近づいてくると、不安も高まる。

ボスを倒せればその分、経験値なども稼げそうだが、一人で相対して戦るものなのか、その辺の理解に乏しいのがネックとなっている。

生き残ることを最優先に、と自分に言い聞かせながら、一歩一歩、ボスフロアへと歩みを進める。

前のフロアと違って、突破の難所となるような敵配置はなかった。

10分足らずで次のフロア──最上層への階段へと辿り着き、噛みしめるようにして昇る。

昇り切ったところで、思い出したようにインスタントメッセージを飛ばそうかとウィンドウを呼び出した。

アルゴに宛てて今回のクエストのことを送ろうと思ったのだが、ダンジョン内ではメッセージを送れないというシステムアナウンスに、肩を落とす他なかった。

途中、鎧を着たコボルド──固有名≪ルインコボルド・センチネル≫と戦闘になったが、やはりこちらから先制で攻撃できたのが幸いし、あまり手こずることなく、倒すことができた。

────そして、最上層フロアの最奥、迷宮区ボス部屋へと、ついに足を踏み入れる。


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