ソードアート・オンライン──投剣──   作:kujiratowa

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Throw-2

何十年も昔の、大作と呼ばれたRPGを小さかった頃にプレイした。

序盤、一人の仲間もいないプレイヤーキャラが、最初の街から出た直後に、夥しい数のモンスターに囲まれて、ゆっくりとダメージを積まれていくことに、苛立ちを覚えた。

前作までは一対一じゃなかったのかよ、卑怯な。

そんな感想を持ちつつ、それでも初期の街の付近で戦い続け、経験値を積んだ。

そうすることが、結果的には冒険を続けていく上で楽になる。

それがわかっていたから、苦労だとは思わなかった。

真剣に画面を見ずとも、コントローラーのボタンを連打していれば、戦闘は終わる。

適当なところで回復を入れながら、漫画だかテレビだかを見ていた。

片手間の経験値稼ぎだった────しかし、アインクラッドでは、そうはいかない。

 

「よっ、と」

 

相変わらず突進してくばかりの猪≪フレンジーボア≫に、今日も今日とて投剣スキルを振るう。

こんなことを、もう数週間も続けてきた。

地道な作業ではあるが、ボタン連打で済まないのが非常に辛い。

何せ、本当に反復の戦闘だ。

手持ちの投げナイフを大事に使おうと考え、攻撃のほとんどを石で行っているのも、その要因の一つではあるが。

 

地道な作業で得たものは、いくつかある。

まずは、投げナイフ──というか、投擲アイテムの特徴。

武器には耐久値が設定してあり、その耐久値が底をつくとアイテムロストになってしまう。

投擲アイテムは耐久値の減少速度が比較的早く、プレイヤーの手元を離れてからロストするまでの時間はおよそ1分30秒。

手元にある投擲アイテムが投げナイフだけなので、他のアイテムが同じかどうかはわからないが、基本的に投げっぱなしが主となる投擲アイテムなのだから、他も似たような感じではないかと考えている。

数週間の苦労もあってか、今は猪くらいのスピードなら外さずに攻撃できる自信がある。

とはいえ、何があるかわからないし、戦闘の最初に使ってしまってから、1分30秒で倒すのはなかなかシビアなところだった。

連続で5本も使えればかなりタイムアタックできそうなのだが、今の店売り投げナイフが3本までしか装備できないという謎な仕様のため、結果として、あとで回収できるようナイフは止めに取っておき、その間のダメージは石でコントロールするということになっていた。

3本投げ切った後に新しくナイフを装備し直したら猪に刺さったままだったナイフが儚く砕けていったのを、勉強に。

 

ナイフの特徴だけではない。

投剣や索敵のスキルについても、理解を深めた。

モンスターについて、といった方が正しいのかもしれないが。

というのも、猪にはいくつかの弱点があった。

単なる石飛礫でも効果を出すためのいくつかのウィークポイント、その一つが猪の眼球部分だ。

基本的には避けてから攻撃を加えるため、なかなか狙えない部分ではあるが、動きを先読みして突進の出始めに投げておけば、その後の戦いを優位に進めることができた。

視界が不良になる、というバッドステータスは、どのゲームでも同じように効果が高そうだ。

それから、後ろ足。

あまり長くないその足は、突進力を高めるための根幹部分のようで、そこに一定量のダメージを与えると、突進中によろけたり、その場でへたり込んでしまうことがあった。

それらを理解してからは、なるべく弱点特攻できるよう、気をつけて攻撃を繰り返したし、相手の動きを捉えようとした。

おかげで、スキルの熟練度も高まってきた。

≪索敵≫の方は≪索敵距離ボーナス≫を取得できたし、≪投剣≫の方も≪命中補正ボーナス≫や≪ソードスキル冷却タイム短縮≫、≪応用能力:貫通付与≫などを得ることができた。

少しずつではあるが、強くなってきていることを自覚する。

これならもう、食うには困らない。

 

「久しぶりに、街に戻ってみるかな」

 

突進直後の猪に喋りかけるような軽い気持ちを持ちつつ、右手に構えた投げナイフで≪シングルシュート≫のモーションを取る。

 

あ、なんかいい感じだ。

 

この頃知覚し始めた、クリティカルになるであろう一撃。

そう思ったとき、右手のライトエフェクトがいつもよりも強く瞬いた。

 

システムに後押しされ、ほとんど≪シングルシュート≫と同じモーションのまま、技を繰り出す。

放たれたナイフは、予想外のスピードで、予想していた通りの軌跡を描き、そのまま猪に突き刺さり────突き刺さり?

 

「…………うそ」

 

そのまま、猪を突き抜けて、真っ直ぐに飛んで行った。

直線状にあった少し大きい岩のオブジェクトに突き刺さったらしく、甲高い音が聞こえてきた。

少なく見積もっても、この射程は≪シングルシュート≫の倍はありそうだった。

≪ピアースシュート≫────偶然にも、新剣技を習得した。

 

新しく技を覚えたら、試したくなるのが冒険者なわけで。

街に戻る予定を先延ばしに、それからしばらく、試し打ちを続けた。

 

 

 

2022年12月13日、夕焼けの眩しい草原。

知らない間に、第2層もクリアの目途がついているらしかった。


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