東方大魔王伝   作:黒太陽

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第41話 前夜

 

 

 

 

 

     最後かもしれないでしょ……?

 

 

 

 

 

         だから……

 

 

 

 

 

      全部伝えておきたいの……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の里

 

(……人が居らん)

 

里の前に降り立ったバーンは視界に映る景色に人間が居ない事に気付いた

 

(何故だ?)

 

里の中に入るも人は居ない

 

(何かあったのか?)

 

考えれるのは妖怪の襲撃、だが戦闘の形跡は無い

 

(……あやつらは!)

 

不審な里の様子に歩みは早くなる、バーンは友との約束の場所へ急いだ

 

「!!」

 

約束の場所が見えたと同時にそれらは見えた

 

(集まっていたのか……)

 

人間の姿を

 

(今日は祭だったか……?)

 

一先ず安心し大勢が集まる場所に近付いて行く

 

 

「あ!バーンだ!」

 

 

集まった人混みの中の一人がバーンに気付き声を上げる

 

「本当だ!」「来たぞ!」

 

「おおバーン!」「早く早く!」

 

バーンを視認した者達がバーンを囲む

 

(な、なんだ!?)

 

その光景に思わずたじろぐバーンを他所に人々は次々とバーンの周囲に集まっていく

 

 

「ありがとうバーン!!」

 

 

誰かが言った

 

 

「幻想郷を守ってくれてありがとう!!」

 

 

次々と浴びせられる感謝の言葉

 

(この人間達は余に……感謝しているのか……?)

 

バーンは不思議だった、何故自分がここまでの感謝をされるのかが

 

わからなかったのはバーンにその気が無かったから

 

 

「すまないバーン、驚かせてしまったな」

 

 

人混みを掻き分けて現れたのは慧音

 

「なんだこれは?」

 

バーンの問いに慧音は呆れながら話しだした

 

「なんだバーン、自覚がなかったのか……お前は幻想郷の救世主なんだぞ?」

 

「余が……救世主だと?」

 

慧音の答えをバーンはまだ信じていない

 

「お前は幻想郷を救ったんだ、だから里の皆はお前に感謝している」

 

「……そんなつもりは無い」

 

「お前にそのつもりが無かろうと結果は幻想郷を救ったんだ、受け入れるしか無いぞ?大魔王は幻想郷の救世主だと」

 

「……」

 

慧音の言葉にバーンは黙り、周囲を見回す

 

 

 

ありがとう!

 

ありがとうございます!

 

ありがとう……!

 

 

 

止まない感謝の言葉

 

 

(まさか余が勇者の様に扱われるとはな……だが不思議と嫌悪は無い……)

 

 

初めての……

 

初めて受けた純粋な心からの感謝

 

軍を率いていた頃は畏怖と上辺だけの感謝だった

 

言葉は有れど心は無かった

 

いつも感謝の中には黒い感情が籠っていた

 

利用や機嫌を伺うだけの感謝

 

 

だが今のは違う

 

本当に心から感謝の気持ちが伝わる

 

打算も計略も無い

 

真に感謝する心を……

 

 

(しかしこれでは……)

 

その様子にバーンは諦める

 

「あ、あの……!!」

 

幼い少女がバーンの前に立った

 

少女は勇気を振り絞りその手を差し出す

 

「握手……してください!!」

 

精一杯の声で叫んだ

 

「……」

 

少女を見るバーンは動かない

 

(余の旅は失敗に終わったか……これでは……)

 

 

スッ……

 

 

少女の手に自分の手を重ねる

 

 

(これでは余の痕跡を残すだけではないか……)

 

 

少女の手を握りながらバーンは旅の失敗を悟り

 

 

微笑んだ

 

 

 

 

 

 

「時間を取らせて悪かった、妹紅に今日来ると聞いたから里の皆に知らせたんだ」

 

里の人間が帰った後に残った慧音がバーンに微笑む

 

「よい……お前は妹紅の友……上白沢慧音だったな?」

 

「そうだ、お前は妹紅の友人だから私にとっても友人みたいなものだ」

 

「そうか……一応礼は言っておこう、余計な事をした礼をな……」

 

バーンの言葉に一瞬キョトンとした慧音だがすぐに微笑んだ

 

「……その割には嬉しそうな顔だぞ?」

 

「フン……戯言を……」

 

顔は笑っていた、人間を蔑んだ頃が嘘の様に

 

「おっと!あいつらを待たせたままだな」

 

思い出した慧音が道を譲る

 

「行って来い、お前の到着を心待ちにしているぞ?」

 

「……さらばだ」

 

店に入るバーンを見送った慧音は首を傾げていた

 

(さらば……?そこはわかった!とかだろ?)

 

去り際の言葉が気になったが

 

(まぁ気にする事無いだろう!)

 

考えるのを止め

 

(……良い事をしたな)

 

満足に家路を歩いて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たよ!バーンが!!」

 

姿を見つけたフランが席を立った

 

「遅いわよ!!」

 

続いてチルノ

 

「バーンさんこっちです!早く早く!!」

 

大妖精が手招きする

 

(ようやく……ようやくか……)

 

その光景に堪えきれない歓喜を感じる

 

これに比べれば今まで行った仲間との時間が取るに足らないとさえ感じる程に

 

「待たせた様だな」

 

会いたかった

 

 

「用は済んだの?」

 

食前酒を出しながらパチュリー

 

「ああ、済んだ」

 

「そう……良かった」

 

席に座る

 

「嬉しそうだなバーン?」

 

頬杖をついた妹紅がニヤけている

 

「フッ……お前程では無い」

 

「ハッ……言ってろ」

 

互いに笑う

 

「そんで?何してたんだぜ?」

 

魔理沙が尋ねる

 

「そうだな……余が思うままに旅をしていた……と言った所か」

 

「なんだそりゃ……」

 

苦笑に微笑む

 

一通りの会話を行った後、バーンは最初から気になっていた事を聞いた

 

「レミリアはどうした?」

 

一人の友の不在を

 

「もう来るんじゃないか?レミリアもなんかしてたみたいだしな」

 

「そうか」

 

一先ずは来る事に安心する

 

「私達を待たせるなんてふてぇ奴だぜ!」

 

「まぁまぁ魔理沙さん」

 

「お腹が空いてるからって摘まみ食いはダメよ魔理沙?」

 

「えっ!?まだ食べちゃダメだったの!?あたいもう食べちゃったよ?」

 

「ダメに決まってるだろ親分……」

 

「あたしも食べちゃった……」

 

「お前もかフラン……」

 

和やかな食卓

 

「フッ……」

 

自然と笑みが浮かんだ

 

 

 

「あ、レミリアで思い出したけどあいつ恐ろしい本を読んでたみたいだぜバーン」

 

不意に魔理沙が話しだした

 

「恐ろしい本……?」

 

「ああ、使う気なのかはわかんないけどあいつのろ……」

 

その瞬間だった

 

 

「待たせたみたいね」

 

 

レミリアが現れた

 

「あ!レミリア……さ……ん……?」

 

声を出した大妖精はレミリアの異変に気付きトーンが下がり、他の者もそれに気付き席から立った

 

「レミィ!その服は!?何があったの!?」

 

パチュリーが詰め寄る

 

慌てたのはレミリアの服のせいだった、至る所が破れており全てが血に染まっていたから

 

「大丈夫よパチェ……少し冒険してきただけだから……不思議なダンジョンをね」

 

「もう……心配させないでよ」

 

血の割には元気なレミリアに安心したパチュリーは魔法を使い服を修復する

 

「破けた箇所は塞いだわ、ダメよレミィ、あまりはしたない格好で来ちゃ」

 

「ありがとパチェ、たまには私の高貴な肌を見せるのも良いと思ったのだけどね」

 

そう言いながらバーンの隣に座った

 

(!?……この匂い……この魔力は……!)

 

レミリアから感じる匂いと魔力の残滓にバーンは反応した

 

「どうしたの?」

 

「いや……何でもない」

 

だがレミリアの何も言わないでと語る瞳に追求を止める

 

「おっし!レミリアも来たし始めるか!」

 

開始の言葉と共に乾杯し食事は始まった

 

 

友との最後の晩餐が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!それは私のだろ!」

 

「へっへーん!名前書いて無いんだから知ーらない!」

 

「食い物に書けるか!!」

 

 

「ほら、口に付いてるわ」

 

「ありがとうございますお母さん!」

 

「だから違うって言ってるのに……」

 

 

「食べさせてあげる!口あけて!」

 

「しょうがないな……あーん」

 

「美味しい?」「うん!美味しいな!」

 

 

 

 

(これが……そうこれが……)

 

穏やかな表情のまま皆を見つめる

 

(余の太陽達……)

 

それはバーンに与えられた太陽

 

悲願は荒野に変わった後、友と言う名の花を咲かせ

 

太陽に形を成した

 

(この時を永久に刻もう……死して魂が朽ちても永劫に……)

 

 

 

ミシッ……

 

 

 

『フフフ……』

 

 

 

(カッ!?……グゥゥゥ……!?)

 

痛みがバーンを襲った

 

(何故……何故今なのだ……!!)

 

箸を持つ手が震える

 

(この時すら……!?邪魔をするか!!おのれぇ……!!)

 

 

(ムンドゥスゥゥゥ……!!)

 

 

最早殺意すら抱く、もう死んでいるにも関わらず

 

 

最後の友との晩餐

 

心待ちにしていた僅かな一時

 

だがそれすらも許さないバーンを嘲笑う魔帝の無慈悲な呪い……

 

 

(堪えろ……)

 

のたうち回る程の激痛を耐える、堪え忍ぶ

 

(この時を壊さぬ為に……!!)

 

堪えるのは友の為

 

太陽を心配で曇らせない為にバーンは堪え、平静を装う

 

(……くっ!?)

 

だが昨日より更に増した痛みは堪える事を困難にさせ手に持つ箸の片方がテーブルに落ちる

 

「……堪えて」

 

隣のレミリアが皆に気付かれない様に落ちた箸をバーンに渡した

 

「……すまぬ」

 

箸を受け取ったバーンは無理矢理微笑む

 

(バーン……!!)

 

バーンの心の内を察するレミリアは笑顔を作りながらも内心は泣いていた、テーブルの下では拳を握り締めながら……

 

 

 

バーンの最後の晩餐は皆に気付かれる事無く無事に終える事が出来た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー楽しかった!なぁ皆!!」

 

食事が終わり店を出た8人は里の中を歩いていた

 

「そうね!また皆で行くわよ!妹紅の奢りでね!」

 

「お願いしまーす!」

 

「やったー!ありがと妹紅!」

 

「良いわね……じゃあ明日もお願い」

 

「よせ!?貯金が無くなる!!……まぁ良いけどさ……」

 

「良いのかよ!」

 

他愛の無い話をしながら里を出る

 

「……お前達、今日は泊まってゆけ……構わんなレミリア?」

 

「……ええ構わないわ」

 

レミリアの承諾に皆は喜び紅魔館を目指す

 

「なぁレミリア、紅魔館に戻ったらちょっと……」

 

バーンに気付かれない様に小声で妹紅が耳打ちする

 

「……ええ……わかったわ……」

 

内容に複雑な思いがあったが表情には出さない

 

しかし声には滲んでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館前

 

降り立った8人は中に入る為に歩き始める、しかしバーンだけは立ち止まっていた

 

「どうしたバーン?」

 

魔理沙の問いを受けてバーンは話しだす

 

「……明日、明日の朝……図書館に来い、全員だ……必ずくるのだ、わかったな?」

 

そう明日、告げなければならない

 

己の死を

 

言わずともレミリア以外は皆来るだろう、だがこれは大事な事、来ないでは困るのだ……バーンにとっても友にとっても……

 

「ああわかった!私達も明日バーンに用があるんだ!必ず行くよ!」

 

妹紅の返事、レミリアを除きバーンが明日死ぬなど誰も思っていない

 

「トランプするわよ!」

 

「あたしもやるー!」

 

「パチュリーさんもやりましょう!」

 

「いいわよ、やりましょうか」

 

「私もやるぜ!」

 

楽しげに入って行く5人

 

「レミリア……」

 

「ええ……」

 

妹紅に促されレミリアと妹紅も中へ歩きだす

 

「入らないのかバーン?」

 

まだ立ち止まっているバーンに妹紅が聞いた

 

「少し散歩をしてから入る……先に行っていろ」

 

「そうか……じゃあ後でな」

 

 

 

 

二人を見送った後、暫くしてバーンはおもむろに呟いた

 

「出てこい……」

 

だが返事も無く誰も現れない

 

 

「出てこい八雲紫ッ!!」

 

 

怒りを込めた言葉と共に高まる魔力が紅魔館だけを避けて膨れ上がる

 

 

「止めて……結界が壊れてしまう……」

 

 

出現したスキマから声が聞こえると

 

「……なにかしら?」

 

紫が現れた

 

「なにかしら……だと?貴様……余を愚弄するか!」

 

「ッ……!?」

 

圧倒的な威圧感に紫は気圧されてしまい思わず扇子で口元を隠してしまう

 

「何故レミリアを危険な目に遭わせた!!」

 

「……」

 

バーンの問いに紫は答えない

 

グンッ

 

魔力を放ち紫を引き寄せ首を掴まえる

 

「答えよ!レミリアに付着していた匂いは余の世界にいた魔物達の物!そしてあの魔力の残滓は……アバンの物!」

 

「あれだけの血を浴び……傷付き、自らの血に濡れていたのだレミリアは!死んでいた……アバンが回復させなければレミリアは死んでいた!」

 

「貴様が送ったのだろうが!余の考えを知っていて何故レミリアを危険な目に遭わせた!」

 

バーンの怒声に紫はただ震えているだけだった

 

「答えよ!!」

 

言わぬなら殺害も辞さない、そう思わせるバーンの気迫に紫は絞る様に叫んだ

 

「貴方の……貴方の為よ!!」

 

その言葉がバーンの首を掴む手を緩めさせた

 

「レミリアは……貴方の事だけを想って、貴方の為だけに危険な道を行く事を決めたのよ!」

 

頬を涙が伝う

 

「どうすれば良かったの!貴方の想いを汲んで止めるのが良かったの!?レミリアの想いを無下にして!」

 

顔が下を向く

 

「……私にはわからない、どちらが正しいかなんて……想う心に優劣なんてつけれない……」

 

「……」

 

バーンは首を放す

 

「……すまなかった八雲紫、お前はレミリアの想いに応えただけなのにな……」

 

先程の怒りから一変、冷静になったバーンは紫へ謝った

 

わかっていた、レミリアがそう決めたのなら止める権利など有りはしないと

 

 

怒ったのは想いが強過ぎるからだった

 

 

「ごめんなさい……」

 

紫も謝った、バーンの想いを知るが故に紫も苦しかった

 

無下に出来ない想いに挟まれて……

 

 

「紫……これを渡しておこう」

 

異空間から2つの物を取りだし紫へ手渡す

 

「これは私が取ってきたよくわからない葉と……扇子ねこれは」

 

渡された物は何かの葉と扇子

 

「扇子はお前にだ、何の施しもしておらんが余を幻想郷に連れてきてくれたせめてもの礼よ」

 

「私になど……」

 

紫には受け取り難い贈り物、自分の都合で連れてきて責を背負わせた紫にとってこれを受け取るには罪を感じ過ぎていた

 

「よい……もうお前は充分過ぎる程償った、これからはお前の愛する幻想郷の為に尽くせ、それは余との約定の証とでもしろ」

 

「……わかったわ」

 

扇子を握り締め紫はバーンとの約定を深く胸に刻む、二度と幻想郷を滅びの脅威に晒さない様にと

 

「その葉は永琳に渡せ、世界樹の葉と呼ばれる葉だ、死んだ者も肉体が無事なら甦らせる事が出来る、天才と呼ばれるあやつなら増やすなり可能かもしれん」

 

「何から何まで……本当になんて言えば良いか……」

 

「構わん……余が勝手にやっている事だ、気にする事は無い」

 

バーンの言葉にこれ以上の会話と引き留めは野暮だと察した紫はスキマを広げる

 

「ありがとう……貴方を連れてきて良かった」

 

「……さらばだ」

 

別れの言葉を掛けると紫はスキマを閉じバーンの前から消える

 

 

(旅は失敗に終わったが……まだ最後にする事が残っている)

 

消えた紫の後を見ながら数瞬間を置くと振り返った

 

(ここ……紅魔館でな……)

 

最初はここから始まった

 

ここから始まりここで終わる

 

バーンはゆっくりと入っていった

 

 

始まりの場所、紅魔館に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・バルコニー

 

バーンはそこに居た

 

バーンが戻った後、用事を終えたレミリアと妹紅も加わり皆で最後の時を過ごした、幸運な事に呪いの痛みは治まりその時は邪魔されずに済んだ

 

そして遊び疲れた皆が寝静まった後にバーンはバルコニーで一人月を眺め待っていた

 

 

今宵は満月だった

 

 

(明日……か……)

 

静寂が時間を感じさせる、もう残された時間は少ない

 

「満月……最後の夜を飾るには御誂え向きだな……」

 

語り掛ける

 

「そうは思わんか……?」

 

それは月にではなく

 

「レミリア」

 

友に向けてだった

 

「そうね……」

 

月明かりに照らされ待ち人は姿を現す

 

レミリアはそう言うとバーンの隣に並んだ

 

「明日死ぬんでしょ?」

 

「そうだ、もう手遅れよ」

 

まるで他人事の様に言うバーンにレミリアは顔を伏せる

 

「……貴方は……それで良いの?」

 

「……これが余の運命、自ら決めた道だ……後悔は無い」

 

バーンは空を見上げる

 

「いや……お前に決められたのかも知れんな……」

 

「何の事?」

 

バーンは続ける

 

「余は……ムンドゥスに成り得た」

 

「……」

 

静かに聞くレミリアに語り続く

 

「お前達に出会わなければ余はムンドゥスと同じく幻想郷を滅ぼすか支配していたかもしれん、そしてその後に余はムンドゥスによって殺されていただろう……」

 

「そうならなかったのは余が最初にここ紅魔館に訪れ……レミリア、お前と出会ったからだ」

 

レミリアに向いたバーンは微笑む

 

「お前は余に友愛を教えてくれた、余の荒野にお前が花を植えてくれたのだ」

 

「……思えばその時からなのだろうな、お前に運命を操られていたのは……」

 

「そんな……私にそんな力は無い……」

 

否定するレミリアをバーンは真っ直ぐに見つめる

 

「わかっておる、しかしな……そう思いたいのだ……」

 

「そう……思わせてくれ……」

 

ここまでこれたのはレミリアのお陰だと、例え終着が死でも感謝していると、そう言った

 

 

「そう……」

 

 

レミリアの様子が変わる、バーンの言葉がレミリアの決意を後押しした

 

 

「私が貴方の運命を操ったと言うなら……」

 

 

レミリアの体から得体の知れぬ紅い力が溢れ、高まっていく

 

「何を……何をする気だレミリア!」

 

その力に混ざっている力を感じたバーンが叫ぶ

 

 

「私が貴方の運命を変えて見せる!!」

 

 

紅い力を飛ばしバーンを覆う

 

「これは……」

 

力を感じたバーンの顔が歪む

 

(これは死の運命を変える為に能力で解呪を……!!だが能力を高める為に正邪と同様に……)

 

(生命を……!!)

 

 

レミリアの決意

 

それは自分の命を使ってバーンの運命を変える事だった

 

自分の能力を把握していないレミリアだったが満月の力を借り、更に生命を使う事によりその名の通り運命を操る力を引き出した

 

だがこれは賭け

 

解呪に使えるかもわからなかったし使えなくても止められない

 

そしてどの道を進んでもレミリアの命が消えるのは間違いなかった

 

 

「止めろレミリア!!」

 

 

バーンは止める様に促すが

 

 

「止めないで!!」

 

 

レミリアは拒否する

 

 

どうしてもバーンを助けたかった

 

自分の命を捧げても助けたかった

 

それはバーンを……

 

 

 

「バーン……今……助けるから……!!」

 

 

全ての力と生命を能力に注ぐ

 

 

 

 

「レミリア!!」

 

 

 

 

 

 

バシュ……

 

 

 

 

 

レミリアの能力は解除された

 

 

「……レミリア……」

 

地に手足をついたレミリアにバーンが寄って行く

 

「なんで……」

 

地に顔を向けたままレミリアが呟いた

 

 

「なんで止めたのよ!!」

 

 

能力が解除したのはレミリアのせいではなかった

 

「お前に……生きていて欲しいからだ……!!」

 

解除したのはバーン、鬼眼王の魔力を使い強引に能力を解除したのだ

 

「余がお前の命を貰って喜ぶと思うのか!!」

 

「思わないわよ!!」

 

バーンの叫びにレミリアも叫ぶ

 

 

「そんな事言われなくてもわかってるわよ!!」

 

 

バーンの怒りすら凌駕する叫び

 

 

 

 

 

  もういつからだったかなんて覚えて無い……

 

 

 

 

 「でも私は!!貴方を救いたかったから!!」

 

 

 

 

  気付いたらその想いは既にいっぱいだった……

 

 

 

 

   「貴方に生きていて欲しいから!!」

 

 

 

 

  死ぬにしてもこの気持ちは伝えたかった……

 

 

 

 

        「貴方を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        愛してるから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

その想いにバーンは言葉が出なかった

 

愛していると言われたから

 

 

王の時代にも同じ言葉は何度も聞いた

 

だがそれは感謝と同じ偽りの愛

 

少しばかり上品になっただけでバーンに取り入ろうとする事に変わりなかった

 

 

しかし今のは違う

 

本当に、心の底から愛してると伝わった

 

真の愛を受けた

 

 

(今わかった……お前に対する感情……それが友とはまた違う物になっていた理由が……)

 

バーンも理解した

 

いつの間にかレミリアに対する感情が変わっていた理由を

 

感情が込み上げてくる

 

 

「レミリア……!」

 

 

手繰り寄せ

 

 

「レミリア……!!」

 

 

抱き締めた

 

 

 

王は位を捨てた代わりに、友を得て、仲間と絆を手に入れ

 

 

 

最後に愛を知る

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くの間抱き合った後、バーンはレミリアを離すと懐から真紅に輝く宝石を取りだし差し出した

 

「レミリア、これをお前に受け取って欲しい」

 

「綺麗な宝石ね……」

 

「それに魔力を込めてみろ」

 

促されるままにレミリアは宝石に魔力を込める

 

「これは……曲……」

 

宝石から曲が流れ始める

 

「お前を想って作った」

 

「……良い曲ね」

 

流れる曲は優美なれど気高さを感じさせ、その中に悲壮を滲ませる曲だった

 

「なんて曲名なのこの曲は?」

 

曲が流れ終えた後にレミリアが曲名を聞く

 

「曲名は考えていなかった……だがお前の想いを知り、今……曲名は決まった」

 

レミリアを見つめたままのバーンは言った

 

「亡き王女の為のセプテット……だ」

 

「……亡き王女……?」

 

聞かされた曲名にレミリアは疑問だった

 

「私死んでないわよ?」

 

バーンが自分の為に作ったのなら生きている自分を死んでいるとする曲名の意味がわからなかった

 

「……死後の世界と言う言葉がある、死んだ後に向かう世界だ、冥界もその内の1つ……」

 

「死を生とするなら明日……お前は死ぬ事になる」

 

「王の妃としてな」

 

 

バーンが語ったのは死生観

 

死後に生きるとするなら生きるレミリアは死ぬ事になる

 

死後も愛するレミリアを想い続ける

 

だからこれは、明日亡き王の女レミリアにバーンが贈る、亡き王女の為の……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        セプテット……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~……」

 

弱々しい声でバーンに抱きつく、目から涙がポロポロと落ちる

 

それはレミリアがバーンにだけ見せた弱さ、自分の想いが叶った事への嬉しさと死んでしまう悲しさが吸血鬼の誇りを砕いた

 

「なんで死んじゃうのよぉ……」

 

バーンの胸で泣きじゃくる、想いを遂げた今、バーンが死んでしまう事だけが納得出来ない

 

「すまぬレミリア……許せ……」

 

バーンも抱き締めただ詫びる事しか出来ない

 

 

 

 

 

 

「今夜だけは……一緒に居て……」

 

「よかろう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月は雲に覆われ二人の姿を闇に隠した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩んだ道は美しくも残酷に彩られた

 

運命のその先は何も無い

 

何も無い場所に進むしか無い

 

もう充分に救われた

 

虚無だった心に花と太陽が与えられ愛すら得た

 

 

想いを残した後、王は今最後の時を迎える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーンの命、後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




レミリア編終幕です。

東方に恋愛を混ぜるのはどうかと思ったんですがどうでしたか?レミリアのテーマ曲亡き王女の為のセプテットをどうしても使いたくてバーンとレミリアをそうする事を考えました、不快に思われたならすいません。

また余談ですがバーンの友があの7人なのは完全に私の好みです、仲間もしかり……


次回最終回です、更新日は未定です……頑張ります。

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