東方大魔王伝   作:黒太陽

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第37話 半分

バーンが神奈子との対話を行っていた頃

 

一人の少女は洞窟に居た

 

「なんて複雑な洞窟……」

 

広大かつ迷路の様に入り組んだ内部を進んでいた

 

「それに……」

 

少女は陰から現れた者を睨む

 

「こんなのがウヨウヨしてるし……」

 

現れた異形な者が少女に突撃してくる

 

「ヴォォオオ!!」

 

「フン……」

 

異形者を払い除けた少女、払われた異形者は壁に叩きつけられ血肉を飛ばし生き絶えた

 

「雑魚に構ってられないわね……」

 

浮いた少女は洞窟内を駆け巡る

 

「!?」

 

地下に降り開けた空間に出た瞬間少女は止まった

 

「キシャアァッ!!」「ヒュヒュヒュ!!」

 

「ゴオォォォッ!!」「ピキィィィー!!」

 

空間には異形が犇めいていた、飛び避ける隙間も無く空間を埋め尽くしている

 

「チッ……」

 

苛立ちに舌打ちが出る

 

(時間が無いのに!!まだ31階……半分も行ってない……急がないと間に合わないのに!!)

 

少女は異形の群れを前に魔力を高める

 

「通して貰うわ……邪魔するなら殺す!」

 

高めた魔力で威圧するが異形は構わず襲い掛かって来る

 

「ハアァァァァ!!」

 

少女は異形の群れへと飛び込んで行く

 

想いを胸に1人孤独に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守矢神社

 

「……呪いが解けるだと?」

 

死の呪いが解ける、その神奈子の言葉にバーンは訝しげに問う

 

「あっ……」

 

バーンの問いにしまったと言う表情の神奈子

 

「本当か?」

 

僅かな期待の瞳で神奈子を見る

 

「それは……」

 

話し辛そうに口ごもる神奈子、何らかの事情が話すのを躊躇わせる

 

「……はっきりと言ったらどうだ神奈子?」

 

口ごもる神奈子にバーンは悟った

 

「気休め……なのだろう?」

 

バーンにはわかった、仮に呪いが解けるとしても今この場で教えるのはおかしい話、解けるならすぐに伝えるはずだからだ、呪いを知る神奈子なら尚更

 

つまり神奈子の呪いが解けると言う意味は本当に気休めなのか若しくは方法はあるが不可能か手遅れの状態に近いのだと考えた

 

「……悪かったわ、一瞬でも期待させてしまって……」

 

「よい……余を思っての言葉だ、すまぬな神奈子……気を使わせた」

 

「ッ!?」

 

謝る神奈子は顔を歪めた、希望から落胆、怒りを買ってもおかしくない事を言ってしまったのに許されるどころか謝られた事は刺す様に心に響いた

 

「解けるのは……!!……本当よ……」

 

言い訳をするように神奈子が話しだした

 

「早苗の能力……知ってるでしょ?」

 

「知らぬ……生憎と守矢の巫女は興味が無いのでな」

 

「そう……早苗の能力は奇跡を起こす程度の能力、本来は天地海を操る奇跡だけど他に応用すればそれは文字通り奇跡を起こせる、強力な呪いを解く事すらね」

 

「で?それがどうした?間に合わん事を言っても仕方あるまい?」

 

「……そうね、私と諏訪子の助力を入れても最低1週間掛かる……それに貴方に魔力を送る為の穴を開けてたりもしてたから……」

 

1週間、それが神奈子が口ごもった理由、3人の力を合わせれば解呪は出来る

 

だが時間が足らなかった

 

ムンドゥスとの戦いの後すぐに始めても間に合わない、呪いは本来6日だったしそれ以前にバーンを起こす為の穴を作るのにも協力して1週間掛かった、永琳が呪いを遅らせながらなら間に合ったがしかしそれではバーンの魂が先に死を迎えてしまい起きる事が出来なくなるから先に蘇生をするしかなかった

 

死を先伸ばしにする無意味とも思える蘇生をしたのはバーンの7人の友に頼まれたからだ

 

 

どうにかして助けてくれないか

 

お願いだから助けて

 

助けて……

 

 

必死に願う7人に神奈子は話さなかった、話せなかった

 

蘇生しても呪いで死んでしまうとはとても……

 

 

そして神奈子は永琳と協力してバーンを蘇生した、何も知らない友の願いを叶えたのだ、罪悪感を胸に秘めて

 

その罪悪感と間に合わないが解呪自体は出来る、それに加えバーンの見せた表情が咄嗟に呪いは解けると神奈子に生ませた

 

「どの道間に合わんのだ、そこを気に病む必要は無い」

 

バーンは何も感じていなかった、確かに一瞬は期待したが聡明過ぎる思考はすぐに悟っていたから心は落ち着いていた

 

それに既に死は受け入れていたから

 

「こんな体たらくで神とは情けない……私にもっと力があれば……」

 

神奈子は本気で悔しく思っていた、魔族など関係無しに救いたかったからだ、バーンを、仲間を……

 

「……余は感謝しているぞ神奈子」

 

目線を下げていた神奈子へバーンが告げた

 

「お前が……そうしてくれたから余は楽しき時を過ごせた、それだけで価値はあったのだ、充分過ぎる程にな」

 

「故に気にするな、死ぬ者にいくら想ってもそれは無駄な事よ」

 

去ろうと障子を開ける

 

「……」

 

しかし立ち止まる、何かを考えている

 

「……神奈子」

 

振り返ったバーンが名を呼んだ

 

「神奈子……!幻想郷の神よ……!!」

 

「……!!」

 

その真剣な表情に神奈子は息を飲んだ

 

「魔族の余が……初めて祈る……!!」

 

「加護が与えれないのなら……!せめてこの幻想郷を守ってくれ……!!自然を!人を!妖怪を!あらゆる災厄から守ってくれ!その限りない慈悲で……!!」

 

「それが死に行く余の願い……頼んだぞ、余の生涯で仲間と認めた唯一の神……」

 

「神奈子よ……」

 

それだけ言うとバーンは去っていった

 

「ふぅ……」

 

去った後残された神奈子は息を吐き、注がれた酒を飲み干した

 

(呪いを解くのは他にも方法があるけどこれも不可能に近いからねぇ……奇跡が起きなければ無意味なくらいだし、それに今のバーンには話せない、そこまであいつには余裕が無い……)

 

何かの事情を知る神奈子だがすぐに思考を切り替えバーンの想いを思い出す

 

「……わかってるわバーン、貴方が守り通した幻想郷は私が責任を持って守る、だから……」

 

(その時は安心して逝きなさい……)

 

例え信仰が無くなり存在が無くなろうともその時まで願いを叶え続ける、そう決意した神奈子は唯一の魔族の仲間に後は任せろと約束した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はこれまでか」

 

妖怪の山の山中で木にもたれて座るバーン

 

(なんとか予定の人数はこなせた……)

 

持たれた状態のバーンは動けない

 

(呪いの痛みを堪えながらなら上出来と言えよう……フッ……やってくれるわムンドゥス……余に辛酸を舐めさせたのは貴様の他にダイだけよ……)

 

バーンは限界だった、呪いの痛みに防御力は関係無いからだ、いくら鬼眼王の肉体、力でも内から蝕む呪いには無力、想像を絶する痛みはバーンの体力を著しく削っていた

 

「フッ……フフ……」

 

自分の今に笑いが出る

 

(似合わん事をしているな……余ともあろう者が……)

 

似合う似合わないで言えば確かに似合わないだろう、かつて世界を震撼させた大魔王が位を捨て、友や仲間の為に奔走しているなどと誰が思うだろう、想像するだろう……

 

(心地は良いがな……本音を語り、笑い合える、余にはあり得ぬと思っていた……仲間……そして友……)

 

木の隙間から夜空を見上げ想いを巡らせる

 

(2日、僅か2日で会いたいと感じている……フフ……そう急くなバーン……上手くいけば明後日には会える、まずは先にする事があるだろうに……)

 

言い聞かせながらバーンは目を閉じた

 

(友よ……お前達は今、何をしている……?)

 

想いを夜空へ向けて飛ばし

 

眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーンの命、後2日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・図書館

 

「ヤッホー!来てやったわよ!」

 

「おはようございます皆さん」

 

図書館に訪れたチルノと大妖精の挨拶に集まっている4人も顔を向ける

 

「おはよう大妖精……それと親分」

 

「ついでみたいに言うな!」

 

妹紅へ食って掛かるチルノ、二人はそのまま言い合いに発展していく

 

「明日ですよね?バーンさんの用事が済むのって?」

 

「らしいぜ、何やってんだろうなぁ」

 

大妖精の質問に魔理沙が答える

 

「そういえばお姉様も居ないよ?2日前に皆でご飯食べに行くの伝えた後から」

 

「レミィも?」

 

フランの言葉にパチュリーが返した、4人の様に図書館に常駐している訳ではないレミリアだからいつもの事と誰も気にしていなかった

 

「あ、そういえば……」

 

思い出した様に小悪魔が話しだした

 

「レミリア様が宴会が終わった後にここで調べ物をしていましたよ?」

 

「調べ物?何の?」

 

「えーと……あ、コレです」

 

本棚から持ってきた数冊の本を机に並べる

 

「……何コレ?呪いの本ばっかしじゃん」

 

口喧嘩を止めたチルノが覗きこんだ

 

「呪いに関係する本だけど……どれも高度な物ばかりね」

 

パチュリーが本を並べながら呟く

 

「体に制限を掛けたりする類ではないわね……主に殺す方、呪殺に関する物ばかり……呪いを掛ける方法から解呪まで……」

 

「なんでレミリアはこんな物を?」

 

妹紅が不思議に首を傾げる

 

「ですよね……レミリアさんなら呪い殺すなんてそんな事する人じゃないです」

 

大妖精も不思議に思っている

 

「……萃香を呪う気なんじゃないか?あの二人ちょっと因縁があるしさ」

 

冗談気に魔理沙が呟いた

 

「いやいや、それは無い!あのプライドの高いレミリアがそんな陰険な真似するかよ、それに萃香は呪術も得意だろ?弱ってるならまだしも普通にやって効くかよ」

 

「だよなぁ……」

 

妹紅の指摘に首を傾げる魔理沙、いくら考えてもレミリアの意図が読めない

 

「まぁレミィの事だし心配はいらないでしょう、帰ってから聞けば良いしね」

 

同じく意図の読めないパチュリーが考えるのを諦めた

 

「そうだな、明日にはバーンと同じく来るだろうさ……それよりさみんな」

 

妹紅が少し気恥ずかしそうに切り出した

 

「バーンにさ……何かプレゼントしないか?」

 

頬を赤く染めて提案した、バーンへの贈り物を

 

「突然どうした?……って気持ちはわかるぜ妹紅」

 

お前もか、と言う様な魔理沙

 

「貴方達も考えてたのね、わかるわその気持ち、感謝を形にしたいのよね」

 

パチュリーも同じだった

 

「じゃあさ!香霖堂で探して見ようよ!」

 

「バカねフラン!買った物じゃダメなのよ!プレゼントは手作りじゃないと!」

 

「じゃあみんなで作りましょう!」

 

幼い3人をきっかけに何が良いかを口々に話し合う

 

(楽しそうですね~)

 

その様子を見ながら離れる小悪魔は本棚に並べられるある本を見て立ち止まる

 

(あ、確かコレもレミリア様が見てた本だ……)

 

本を手に取り表紙を向ける

 

(神々の遺産……伝承系の本ですか、えー……神の涙……真魔剛竜剣……ミナカトール……最後は……)

 

 

(破邪の秘法……)

 

 

「……うん、どうでも良さそうですね!さっお仕事お仕事~」

 

本を戻した小悪魔は仕事へ戻り、後には友の声だけが響いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山

 

「……ーンさん!」

 

 

「……バーンさん!」

 

 

 

「むっ……」

声にバーンは目覚めた

 

「やっと起きましたねバーンさん!」

 

「お前か射命丸」

 

バーンを起こしたのは文だった

 

(寝てしまっていたのか……睡眠の必要が無い余が眠るとは……それほど体を酷使していたと言う訳か)

 

無防備にも寝ていた事が呪いの凄まじさを物語る、襲われかねない山中で寝ていたのだ、いくらバーンの世界より安全だとしても襲われる危険はある

 

もっとも今のバーンを傷つける事が出来るのは極一部しかいないのだが

 

 

「見回りに来たらバーンさんがこんな所で寝てるなんて……カメラがあったら撮ったのに……」

 

悔しそうにしている文

 

「焼かれたいのならそう言え、これが……余のメラゾー……」

 

「あやや!?止めてください死んでしまいます!!」

 

恐れおののく文は後退り逃げようと羽を広げる

 

「逃がさんぞ?」

 

しかし、回り込まれてしまった

 

「甘いですね!」

 

ヒラリとバーンの脇をすり抜け森を駆ける、見知る森だ素晴らしい速さで木々を抜けていく

 

「覚えてなかったのか……?」

 

全力疾走の文の横から声が聞こえる

 

「大魔王からは逃げられない……!」

 

文は捕まえられてしまった

 

「やっぱりダメですか~……フフフ!」

 

首根っこを掴まれている文は笑う

 

「ダメに決まっておろうに……フフフ」

 

バーンも笑う

 

「あの、バーンさん……取材させてもらえませんか?」

 

文は唐突に切り出した、何故か、何故かはわからないが今しか無いと直感したから

 

「……考えさせろ」

 

待つ様に促す

 

(やっぱり何か違いますね……いつもなら即答で断られるのに)

 

バーンの様子が違うと感じながら見ている文、そこに茂みから音が聞こえてくる

 

「誰だよ朝っぱらから五月蝿い……ぎったんぎたんにしてやろうか!」

 

「あ、にとりじゃないですか、おはようございます」

 

「なんだ天狗か……」

 

まだ寝起きで若干瞼が落ちているにとりが現れた

 

「尻子玉抜かれたいの?……ったく気持ち良くきゅうりの夢見てたのに……文だけじゃないだろ?そいつに安眠妨害の落とし前つけてやる、どこに居んの?」

 

文に促すと文はにとりの横を指差す

 

「……お前も尻子玉抜いてやろうかぁ!」

 

横に居る不届き者に凄んだ

 

「やってみろ……このバーンに対して」

 

 

「ひゅい!?」

 

 

不届き者に凄み返されたにとりは飛び上がった、何せ相手はバーンだったから

 

「こんのかにとり?なら余から行くぞ」

 

構えた手刀に力を込める

 

「受けよ……最も強き鬼の剣を……カラミティ……!!」

 

「マテマテ!マッテ!!止めて!いや!止めてください!スイマセンスイマセン!!ごめんなさい!!」

 

凄みから一変、涙目で必死に命乞いするにとり、鬼に支配されていた頃のトラウマに似た感情がにとりを慌てさせた

 

「冗談だ、そう怯えるな河城にとり」

 

バーンは手刀を納める

 

「じょ、冗談でもそ、そんな事するなよ!?マジで三途の川が見えたじゃないか……」

 

「にとりなら泳いで帰って来れるでしょう?問題無いじゃないですか!」

 

文の見下す様な謀る様なとてもうざそうな笑顔が向けられる

 

「ほう……河童とはそんな能力があるのか、知らなかったわ……なら一度くらい問題あるまい」

 

また手刀を構える

 

「んな事出来るわけない……え……?」

 

文に反論していたにとりがゆっくりとバーンへ振り向いた

 

「安心しろ、一瞬だ」

 

 

「ヤメテェェェェェェェェェ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「射命丸……」

 

落ち着いた場でバーンが話しだした

 

「取材だが……止めておけ」

 

「えっ!?受けてはもらえるって事ですか!?」

 

「それでもよいと思ったがやはりよす事にした、辛い記事になるのでな」

 

意味深な言葉に首を傾げる文、そこににとりが口を挟む

 

「取材くらい受けてやりなよ、辛いって何さ死ぬ訳じゃないだろうに」

 

「……」

 

「まさか……本当に……?」

 

無言のバーンに嫌な予感を感じる

 

「……記事を書けばそれは幻想郷に余が居た最後の記事になる、出来るだけ痕跡は残したくないのだ……見知る仲間と友にだけ別れを告げ……何も無かった幻想郷に召喚された時に戻り……」

 

 

「消えるつもりなのだ……」

 

 

バーンは最後の旅の目的を語った

 

幻想郷の仲間と友に別れを告げ最初に戻る

 

回帰の旅

 

全てを終わらせた後は人知れず、誰にも悟られず

 

死ぬつもりだった……

 

 

 

「それでもよいなら取材を受けよう、余の友を悲しませ、怒りを買う覚悟があるならな」

 

悲しみと怒りを滲ませるバーン、それはしないでくれと言っている様だった

 

「……これで記事にしたら私はブン屋以前に妖怪として終わってしまいます」

 

文は静かに開いていたメモ帳を閉じる

 

「へぇ、意外だね、あんたが書かないなんて……嬉々として書くと思ったのに」

 

「私にだってそれぐらいの分別は出来ますよ、バーンさんや皆が怖いとかじゃないんです、これは書いてはいけない……苦しませる真似は出来ない……そう思ったんです」

 

文も想いを理解していた、記事にしたくないと言えば嘘になる、バーンが死ぬなど特ダネに違いない

 

しかしそれを上回る絆が文に記事を作る事を止めさせた

 

「代わりと言ってはなんだがこれをやろう」

 

異空間を作りだし中から大きな布を取りだし文に渡した

 

「……マントですか?」

 

布を広げた文が聞いた

 

「そうだ、名は無いが名付けるなら風のマントと言った所か」

 

「……ただのマントではないですねコレ」

 

羽織った文がマントから感じる力に特別な細工があると見抜いた

 

「そのマントには余の風の魔力、つまりバギクロスが込められている、それを羽織った状態だと飛ぶ力を助け更に速く飛べよう、風属性の攻撃も高める事が出来る、風を友とするお前には似合うだろう」

 

「凄い……」

 

その効果に感嘆の声が漏れた、効果の体感はまだだがバーンが作った物ならほんの僅かの助力などとは思えない、文は凄い物を貰ったと本気で思っていた

 

「それと忘れ物だ」

 

「あっ!私のカメラ!」

 

投げられた物は文のカメラだった

 

「紅魔館に落ちていたぞ……そして河城にとり、お前にはコレだ」

 

「あたしにもくれるの?……!!こ、これは……!?」

 

目の前に積み上げられた物に目を見張った

 

「部品!!しかも物凄く高度な!!」

 

目を輝かせたにとりが部品を手に取り眺める

 

「キラーマシンと言う魔物が居る、高度な機械のモンスターだ、その部品はキラーマシンの中核を担う部品と装備一式よ」

 

「って事はコレは自分好みにカスタマイズ出来るって事か!」

 

バーンの説明に機械類に察しの良いにとりが声を上げた

 

「そうだ、まさにお前好みであろう?」

 

「そりゃあ大好物だけど……こんな高度な部品どうやって用意したんだ?」

 

「そこは問題ではあるまい?不満か?」

 

「いや!大満足さ!」

 

喜ぶにとりにバーンは内心苦笑する

 

(それは月の文明を解体し作製した物だ、永琳の協力でな……バレぬ様にしておいたがバレた時は知らんぞ?)

 

「売れば金にもなろう……では余は向かう所がある……」

 

背を向けたバーンに声が2つ掛かった

 

「ありがとうございます!」

 

「ありがとう!」

 

文とにとりの感謝の言葉、二人共今悲しみで見送るのは違うとわかっていた

 

「お前達には友を助けられた……それは礼よ……」

 

「また……助けてやってくれ……さらばだ」

 

飛翔したバーンは二人の前から消えて行く

 

「……大きな人を失いましたね」

 

「……そうだね、でも受け入れなきゃ……」

 

遠目のバーンを見ながら二人は話す

 

「やっぱりこうなると問題は……」

 

文が不安気に呟く

 

「あいつらだろうねぇ……」

 

不安はバーンの7人の友、7人がバーンの死を知った時を想像して二人は不安になっていた

 

「不安ですけどあの仲には入れませんね」

 

「そう、コレはあいつらの問題だからね」

 

ふぅっと息をついた二人は贈り物を抱き締めバーンと7人を想いながら森へ消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠亭

 

「あ、バーンさん」

 

出迎えたのは鈴仙

 

「蓬莱山輝夜は居るか?」

 

「姫様なら自室で居ますよ」

 

「よし、案内を頼む」

 

廊下を歩いているとバーンはふと目に入った部屋が気になり戸を開ける

 

(最後と言ったのは本当だったか)

 

バーンが開けたのは永琳の診察室、今は誰も居ない

 

「師匠ですか?師匠なら宴会の次の日に書き置きを残してどこかに行っちゃいました、10日程遊んで来るって」

 

「そうか……いや、よい、永琳はもうよいのだ」

 

「?……そうですか」

 

診察室を後にしバーンは部屋を目指す

 

「姫様、お客様ですよ」

 

「どうぞ~」

 

許しが出たバーンは戸を開け中に入る

 

「相変わらずだな輝夜、暇を持て余していると見える」

 

「おおっバーン!珍しいじゃない、どうしたの急に?」

 

鈴仙が去った後横になっていた輝夜はバーンに声を掛けられて飛び起きた

 

「約束を果たしに来た」

 

「約束?何かしてたかしら?」

 

覚えが無い輝夜にバーンは置かれてある遊具を指差し答えた

 

「碁を打ちに来た、約束だったであろう?覚えておくと」

 

「あぁ……妹紅の時はルール教えただけだったものね、って言うか覚えてたのね、半年も前だから忘れてたわ」

 

「少し悩んだがな……得意の碁でお前を負かせば立つ瀬が無いのではないか……とな」

 

約束を気にしていない輝夜にバーンの見下す視線が送られる

 

「……本気……の様ね、まさか私に碁で勝てると思ってるなんて……尊大なのは変わらないわね」

 

自信溢れる表情に輝夜は睨み返す

 

「まぁ良いわ、ハンデはあげる、5個ぐらい石を置きなさい」

 

碁盤を持ってきた輝夜が促す

 

「要らん、互先だ……負けた時の言い訳にされるのは迷惑なのでな」

 

「……若僧が」

 

睨み合う二人は石を握り盤に置く、先手は輝夜

 

「……行くわよ」

 

「来い……輝夜」

 

対局は始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っう……!?」

 

表情険しい輝夜

 

「むぅ……!?」

 

バーンも表情は優れない

 

(本当に半年!?強い……初めてよ私と碁で互角なんて……)

 

(輝夜の力量を見誤ったな……まさかこれほどとは…)

 

戦況は互角だった

 

(これで……終局か……)

 

互いの終手でヨセに入る

 

(これは……勝ってる?負けてる?)

 

整地する輝夜にも曖昧だった、拮抗した戦いは戦局を読ませぬ程複雑だったのだ

 

「半目差……勝ちだ……」

 

「お前のな……輝夜」

 

激戦を制したのは輝夜

 

「勝ったけど……ギリギリも良いとこ……素直には喜べないわね」

 

勝ったのは輝夜、だがプライドは傷ついた、自信のあった碁で僅か半年のバーンに敗北寸前まで追い詰められたから……勝つには勝ったが内心はとても複雑だった

 

「喜べ輝夜、これでも余はお前を完膚なきにまで叩きのめすつもりだったのだ、掛けた時間は関係無い、勝った、それだけで充分だろう?」

 

「……そうね、チェスの雪辱は晴らしたからよしとしましょうか」

 

微笑んだ輝夜はすぐに言葉を紡いだ

 

「それで?」

 

それは碁以外の事

 

「察しが良いな……」

 

「乙女の勘よ」

 

一瞬の沈黙の後バーンは話しだした

 

「余は死ぬ、呪いでな……お前には皮肉だろうがな」

 

「そう……寂しくなるわね」

 

そうは言うが輝夜の心に揺らぎは感じられない、死ぬ事も老いる事も無い輝夜は精神が死にかけていた、だからバーンの死を告げられても動揺が無い

 

(余は不老の時を自分で作っていた、止めれば寿命へ近付く……止める事すら許されん輝夜にとっては不老不死は生き地獄に感じるか……)

 

「生まれ……」

 

「ん……?」

 

不意に呟いたバーンを輝夜は見つめる

 

「生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く……死に死に死に死んで死の終わりに冥し……」

 

「妹紅ね」

 

「そうだ、あやつと違いお前は生と死の境界が無くなった事で精神が衰弱し死に向かっている……このままではお前は生き仏と相違無くなる」

 

「そうね……でもどうしようもないの、それでも良いとさえ最近思ってるしね」

 

「なら余がお前に生の実感を与えてやろう」

 

「……?どうやって……わっ!?」

 

魔力を放ち輝夜を手繰り寄せたバーンは懐から取り出した薬を見せる

 

「これは永琳の協力で余が作った薬……如何に余でも蓬莱の薬を中和させる事は出来んが……死を与える事ならば出来る」

 

「これを飲めば永久に覚めぬ眠りにつける、何をされても、殺されて転生しても眠りは覚めぬ……」

 

「飲むが良い……」

 

口に捩じ込もうと薬を近付けていく

 

「!?……あっ!……ちょ!ま、待って!」

 

バーンの手を抑えた輝夜、焦っている

 

「どうした?もう不死に飽きたのではないのか?遠慮するな余が飲ませてやる」

 

輝夜の手を押しながら薬は口へ更に近付いていく

 

「い……嫌っ!!」

 

手を払い除けた輝夜、はっきりと出た

 

死を拒絶する言葉が

 

「……死ぬのは嫌らしいな」

 

「……そうみたいね、何百年?何千年振りかしら……死にたくないって思ったのは……」

 

バーンの手から離れた輝夜は床に落ちた薬を拾い上げる

 

「……まさかただの薬なんて事はないでしょうね?」

 

「そんな下らん真似はせん、それは飲めば本当に死が訪れる」

 

「そう……」

 

薬を持つ手が震える、死を目の前にした輝夜は恐怖を感じていた

 

「薬1つで……たったそれだけでこんなにも死が恐い……生きていたい……」

 

「死にたくなったらいつでも飲むが良い……」

 

バーンは真っ直ぐに輝夜を見つめる

 

「余は逆にお前が羨ましい……」

 

「……でしょうね」

 

バーンの羨望の眼差しに輝夜は言われずともわかった

 

(生きたいのよね?そうでしょバーン?皆と……一緒に……)

 

暫しの沈黙の後バーンは身を翻した

 

「輝夜」

 

「……何?」

 

「妹紅はお前を越える為に努力している、そう易々と越えさせるな……」

 

「……ふぅ」

 

バーンの言葉に呆れた輝夜の溜め息が出る

 

「わかってないわねバーン……もうあいつは私なんて眼中に無いの、戦ったって能力がないと絶対勝てないくらいあいつは強くなってる」

 

バーンの背に近付く輝夜、僅かな空間を空けて二人は並ぶ

 

「あいつが越えたいのはバーン……貴方……」

 

「……」

 

バーンは何も返さない、返せない、それが不可能だから

 

「今なら私も……貴方と一緒に……幻想郷で……」

 

「……さらばだ」

 

「あ……」

 

バーンは去っていった、掴もうとした輝夜の手は虚しく空を切る

 

(そうよね……いくら想っても……いくら止めようとも……もう……)

 

 

(行くしか無いのね……)

 

 

バーンの向かう先を思い、決着の着いた碁盤を眺め続けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(次は……白玉楼か)

 

道中バーンは次の場所へ向かう前に止まった

 

(もうここまで予定が狂ったのだ……今更なぞる必要もない)

 

そう考えたバーンは次なる場所を思案する

 

(香霖堂にするか)

 

気紛れに決めたバーンは飛んでいく

 

 

 

気付けば残る時間は半分を切っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 




遅くなりました、仕事が忙しくて忙しくて……忙しいのは良い事だけど2週間休み無いのは辛い……お陰で眠くて書きたいのに書けなかった……

バーンの旅はいよいよ半分を切りました、今回は神奈子の続きと文、にとり、輝夜です。

あ、それとお気に入りが200行ったのはすごく嬉しいです!ありがとうございます!!

仕事が忙しいけど次回も頑張ります!

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