第六章 他人の双子
私の中には私の知らない「もう一人」の私がいる
もう一人の私は博識で色々な事を教えてくれる
彼女は私の「守護天使」だ
パパとママが「あんなこと」になっても一緒に居てくれた・・・
初めて「もう一人の私」が私に話しかけてきたのはアメリカで幼稚園に通っていた頃だ
~ 聞こえる?カンナ ~
「え・・・だれ?」
周りを見ても友達のジョーイとアマンダしかいない
カンナと言うのは私の名前だ
それに話しかけてきた声は間違えなく私だった
おばけ?
宇宙人?
それとも・・・・
私は恐ろしくなった
だって周りに居もしない人間の声が聞こえるのだ
10歳にも満たない、その頃の私にそれを受け入れることができるわけがない
私は両親に泣きながら「声」のことを話して、一緒に精神科医へ行った
診断結果は「自意識の萌芽による他者理解のプロセス」、つまりは成長期における「イマジナリ―フレンド」であると認定された
噛み砕いて言えば「全く異常が見られない」ということだった
でも・・・
「聞こえない!あなたの声なんか聞こえない!!!!」
私は耳を塞ぎ、大声を出す
でも声は聞こえ続けた
宥めるような優しい声
でも私には私を狂わせようとする「悪魔」の声にしか聞こえなかった
「声」との関係が変わったのは家でジョーイとアマンダと「カウボーイごっこ」をしていた時だ
「ねぇピースメーカーはないの?ほあんかんには銃がひつようだよ!」
ジョーイの言葉に私は何も考えずにパパとママの部屋に銃が一丁あることを思い出した
銃は恐ろしい
なんの殺意がなくとも「トリガー」を引くだけで人が殺せる
そう幼児であっても・・・・
私は銃弾が装填してあることを知らず、その銃を持って行こうとした
~ 駄目だ!カンナ!!!!! ~
普段は優しかった「声」が強い口調で私を叱った
その声に私は怯え、泣きだした
「声」は教えてくれた
もし、あの時銃を持ち出していたらどうなっていたかを
私は「声」の言うとおりに銃から弾丸を抜いた
重い銃のスライドを引くのは大変だったが、私はテーブルにスライドを押し付けて薬室に残った残弾もエジェクトさせ無力化させた
~ これで大丈夫・・・・ ~
それ以来、「声」は「悪魔」ではなく、私の「守護天使」になってくれた
小学生の頃、ジョーイと遊びでキスしたこと
アマンダと喧嘩してしまった時、仲直りの方法を一緒になって考えてくれた
私は幸せだった
「声」は優秀な教師であり、最高の友人だった
親にも言えないことでも相談できた
ずっと
ずっと
この幸せが続くと思い込んでいた
あの日が来るまでは
ハロウィン前夜 10月30日 デビルズナイト
その日はいつもと変わらない日のはずだった
私は12歳になっていた
「声」はいつも聞こえてきた
以前ほど頻繁ではなかったが・・・
その日、私はいつもの2階の私の部屋で明日のハロウィンに着る兵隊の衣装の傍らで眠りについた
いつもはすぐ眠れるのに、その日はなかなか眠れなかった
「ミルクでも飲も・・・」
階段を下りる私の耳に知らない男の人の声が聞こえてきた
― けっ!年増の癖にいいケツしてんなぁ ―
― これ以上妻に近づくと撃つぞ! ―
パパと知らない男の人の声がリビングから聞こえた
その刹那だった
ダァーン!ダァーン!!!!!!!
耳が引き裂かれるような銃声が2発聞こえた
― よぅおっさん!銃は弾を入れなきゃ撃てねぇんだよ!!! ―
― おい!そろそろズらかろうぜ!!! ―
― ああ!まだまだ夜はナゲェからな ―
私がリビングに行くと胸から血を流したパパとママの姿が目に入った
「いやぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁっぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
助けなきゃ・・・・・パパとママを助けなきゃ!!!
私はパパとママの首筋に手を当てた
かろうじてパパとママは生きていた
「早く・・早く救急車を呼ばなきゃ!!!!!」
私が電話しようとした時だ
~ カンナ・・・話を聞いて! ~
「声」が私に囁いた
~ 悪魔に魂を売ってもパパとママを助けたい? ~
私は答えた
「魂でも何でも売る!!だからパパとママを・・・助けて!!!!」
~ わかったわ・・・あなたが消えるまで一緒よ!!! ~
あの日、私は・・・・いえ「私達」は魔法少女となった
ちなみにハロウィンの前日は「デビルズナイト」と呼ばれるギャングの祭日だったりします。
・・・・映画「クロウ ― 飛翔伝説 ― 」の受け売りですが