土曜日にも今章の設定をアップしますね
あすなろ空港
管轄としては群馬県となるが、ここあすなろ市には空港が存在する
人工的に海岸を埋めて作られた空港であるが、近年の格安航空会社の受け入れに熱心であったためか当の群馬県の空港よりも乗り入れ便は多い
午後一番のアメリカからの便
英語と日本語のアナウンスが交互に流される
やや明るめの金髪の少女が一人、自分の手荷物を待っていた
よほど大事なものが入っているのだろう
目の前で幾つかの荷物が通り過ぎる度に少女は一喜一憂していた
その背後から声がかけられる
「ちょっと君こっちにきてくれないかな?」
「何!こっちはいそ・・・」
少女が振り向くと、そこには空港の警備員が立っていた
ガチャッ!
警備員の後に続き、少女が別室に入るとそこには少女の荷物である鞄が一つ置かれていた
「これは警備上の問題で、規約にあることなんだ。どうか気分を悪くしないでくれないか?」
椅子には見た目は温厚そうに見える年配の男性が座っていた
彼の言いたいことはこうだ
規約にある以上文句は言わせない、と
「お嬢ちゃんは一人だね?」
~ カンナ・・・心配しないで ~
カンナと呼ばれた少女は無言で頷いた
今この部屋には年配の男性と少女、そして記録係の女性職員だけしかいない
彼女の頭に届いたような声を放つ少女など他にはいない
「これを見てくれないかな?」
机のモニターには手荷物の中にある、円筒形の物体が映されていた
「私達は空港の安全のために荷物を確かめる必要がある。わかるね?」
あらかじめ出発前に登録してある、と少女が反論しようとした時だ
~ カンナ!反論なんてしたら余計面倒なことになるよ・・・・私は大丈夫だから ~
再び少女の声がカンナと呼ばれた少女の脳裏に響く
「ええ・・・・」
少女は鞄を開き、それを取り出した
長さは60センチほどの硬質ガラス製の瓶
そして中には目の前の少女にそっくりな一体の「人形」が浮かんでいた
「これは・・・・・?」
年配の男性が顔を顰める
「人形」をホルマリン浸けにするなど、彼の世代には到底理解できない事案であろう
しかし、少女は顔色一つ変えずそれを年配の男性へ手渡す
「限定商品だから、それ」
彼が手渡された瓶をよく見ると「KidNap Toys」と表記されていた
小一時間後、彼女は自らの手荷物とともに空港を出ていた
「さっきはありがとう・・・・」
~ 気にしないでカンナ ~
「本当は貴方をあんな瓶詰めなんかにしたくはなかったんだけど・・・・」
~ いいって!私には戸籍も何もないんだからカンナは無理をしないで ~
「でも・・・・・!」
~ 私にはニコっていう貴方のくれた名前がある・・・・それだけで私は・・・・ ~
ギュッ!
「カンナ」と呼ばれた少女がガラス瓶を抱きしめた
「ニコはいつもそう!ニコはもっと欲張っていいんだよ!!ニコが居なければパパもママも・・・」
血の海に沈むパパとママ
誰も助けてはくれなかった
ニコ以外には・・・
~ カンナは優しいね ~
「マンションに着いたら一緒にお風呂に入ろう?」
~ うん ~
少女は大切そうに「人形」の浮かぶガラス瓶を抱きしめながら、あすなろ市の光の中へ消えていった
瓶の中で「人形」が顔を上げる
カンナと呼ばれた少女と瓜二つの顔立ち
その顔に浮かぶのもの
それは「慕情」
絶望に命じられるままにその手を血に染めた地
しかし、この地は同時に過去のない彼女にとっての生まれ故郷であった
~ 私は忘れない。あの苦しみも悲しみも・・・・ ~
二人をライトアップされたばかりのあすなろタワーが見下ろしていた
短くてすみません