鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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突風でバックヤードのトタンが吹っ飛んだ・・・


泡沫に消える・・・・

杏子は非常に直情的な人物だ

今は師匠の巴マミや弟子の宇佐美真のおかげで多少は落ち着いたとはいえ、その「性質」は変わらない

彼女の目の前には恐怖に怯える里見

杏子は明確な敵意を彼女に向けていた

 

「真!お前を!お前の決意を!コイツは否定したんだぞ!!離せぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

杏子が身を捩るが、もともと男性である真の筋力を「魔法少女」化による魔力で底上げをしているのだ

並みの魔法少女に真の身体能力で叶うわけがない

 

「・・・・いいんです。実際僕らは契約した時点で人ではないのですから」

 

「わかったよ・・・・」

 

ドサッ・・・・・

 

杏子が手を緩ませると重力に引かれて里見はその場に崩れ落ちる

 

「ひぃ・・・ひぃぃぃいぃぃぃぃ!!!!!」

 

里見はその場から這うように逃げる

 

「皆さん聞いてください」

 

混乱する控室に真の声が凛と響く

 

「里見さん、それに皆さん。僕が、いや僕たちが怖いですか?」

 

真の問いかけに誰も答えない

 

「怖いと思うなら、どうかその気持ちを大切にしてください。一時の希望に縋って契約なんてしないように・・・・」

 

「私の気持ちは一時の気の迷いじゃない!!!」

 

「サ・・サキ?」

 

激昂する浅海サキを不安そうな顔でみらいが見つめる

 

「ではサキさん。五年しか生きられないと聞いたらどう思います?」

 

「ッ!!!」

 

「僕ら魔法少女は闇に潜んで魔獣を狩ります。でも・・・・何れは終わりがやってくる。魔法少女の平均寿命は5年。それ以上生きた魔法少女はいない・・・・」

 

静かに、感情を交えず真は言葉を紡ぐ

 

「皆さん、結婚はしたいですか?恋人と出会いたいですか?魔法少女になるということはそれらすべてを失うことなんです」

 

皆誰も声を発しない

魔法少女という「非現実」

それを真はオブラートに包まず全てを話した

 

― 砂糖菓子の夢は見ない、か ―

 

「サキ・・・・貴方がどれだけ私のことを思ってくれているか、それは良くわかっている。だが、これとは別の話だ・・・」

 

ミチルは決意を込めた瞳でサキを見る

 

「もし魔法少女となるのなら・・・・・それっきりだ」

 

ミチルは静かにそう宣告した

 

 

プレアデス聖団と別れ、三人は夜の街を歩いていた

 

「ありがとうございます杏子さん」

 

真は傍らの杏子に声を掛ける

 

「アタシはただあの里見ってヤツがムカついただけで・・・・」

 

「でも僕は嬉しかったんです。杏子さんが本気で僕を庇ってくれて・・・」

 

「なら後でなんか奢ってくれよ」

 

「いいですよ。いつものハンバーガーショップに行きますか?」

 

「何かがっつりしたモノが喰いたいな」

 

隣を歩いていたミチルが二人に声を掛けた

 

「なら二人ともウチに来るかい?」

 

「ミチルさん?」

 

「嫌ならいいんだ。今厄介になってるトコが洋食店をしていてね。お近づきのしるしさ」

 

人形のようなミチルが二人に微笑む

 

「敵情視察か。イイね!」

 

「なんで杏子さんはそんなに喧嘩を売ろうとするんですか!」

 

「だってそりゃぁ・・・・・・」

 

煽情的なミチルの魔法少女形態が杏子の脳裏に浮かぶ

 

「大丈夫だよ。君の彼を盗ったりしないさ」

 

彼と言う単語を聞いた杏子の顔が紅潮する

 

「だぁぁぁぁ!!!!〆る!こいつ絶対〆る!!!!」

 

「こんなところで変身しないでくださいよ!!!!」

 

真の懇願は夜の闇へと吸い込まれていった

 

 

NGシーン

 

― マギカ・カルテット ―

 

巴マミが率いる魔法少女達の集団

ネーミングセンスがやや中二的であるが、その実力は折り紙つきだ

ここ見滝原市には魔法少女は多く、またそれに比例するかのように魔獣の発生も多い

そのため、マギカ・カルテットでは当番割を採用している

魔法少女達に疲労を溜めず、常に最良の状態で戦えるようとの配慮だ

つまりは彼女達には休日が存在するのだ

 

 

「佐倉杏子の場合」

 

彼女の生家は教会であるが、現在は此処見滝原の叔母の家に家族ともども居候している

 

「叔母さん!起きなよ!!!!!」

 

杏子の朝は早い

階下で寝込んでいる叔母を起こすためだ

 

「昨日は上客とラブホでオールだったから、もう少し寝かせてよ杏子~~」

 

豪華なダイニングには突っ伏して眠る「叔母」である、一二三美緒だ

本業はレズビアン専門のデートクラブの経営で、こうして朝帰りは日常茶飯事だ

 

「ったく!あたしや母さんならいざ知らず、ももの教育には悪いだろ!!!!」

 

「ははっいつも妹思いだね杏子は」

 

美緒はややふらつきながら書斎へと向かう

 

「あとでコーヒーくらい持ってくるから」

 

「裸エプロンなら最高だね」

 

「もうやだこの叔母」

 

彼女は知らない

本当は美緒は「ある人物」と会っていたことを

 

 

デートクラブ「レスボズ」

レズビアンの語源ともなった、地中海の島の名前をつけられたこの店は美緒が経営しているデートクラブだ

 

黒い幕で隠された個室に魔女のような三角帽を目深にかぶった女性が入ってくる

 

「守備はどうだったかい?」

 

美緒が女性を引き寄せる

女性がその手を払いのけた

その拍子で帽子が落ちる

 

「探偵を紹介してくれたのは感謝している。けど私は対価を支払ったわ!!」

 

「怖いねェ~現役の警察官様は」

 

石島美佐子

あすなろ市に配属になった女性警官で、その手腕は高く評価されている

だが、彼女は真実を知るために汚職に手を染めていた

少女達の連続失踪事件 

上司に取り合ったが、しかし事件性は薄いと一蹴されてしまっていた

彼女が真実に辿りつくには非合法な手段を使うしかない

 

「身体を許す気はないって?ははっ!十分に汚れてる癖に」

 

美緒が嘲るように美佐子を見た

 

「この件が片付いたら・・・・私は警官を辞める」

 

「ふ~ん、なら強請っても無理か。再就職先にウチはどうだい?」

 

「・・・・・帰るわ」

 

美佐子は落ちた帽子を拾い店を後にした

 

 

「杏子が正体を知ったらどう思うのかな・・・・」

 

一人、杏子が淹れたコーヒーを飲みながら美緒は呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コーヒーはブラック。

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