鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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中途半端に目が覚めたので投下します


骰子は投げられた

魔力障壁を張り巡らせ、「鉄仮面の魔法少女」宇佐美真は魔獣の群れと対峙した。

魔獣の発生はそこにどれくらいの瘴気があるかによる

そのため、悲惨な事件の起こった場所やいわゆる自殺の名所と呼ばれる場所に多く発生する

しかし・・・・

 

「これは・・一体?」

 

真の目の前には白い僧侶姿の魔獣

一個中隊規模の魔獣が待ち構えていた

複数の魔獣が一度に現れることがあることも真は良く知っている

だが、これは明らかに異常過ぎる

まるで特定の誰かが故意に魔獣を呼び出しているのかのように・・・

真の脳裏にそのような疑問が浮かぶが頭を振ってその考えを追い出す

 

「今は倒すだけ!!!!」

 

青い炎をガントレットに纏わせ、真は地面を蹴った

 

 

真が杏子と別れ、単騎で魔獣の群れと対峙した時と同じ頃

あすなろ市を守る「魔法少女」和紗ミチルが後ろの客席で暗い表情をしていた

彼女は思い悩んでいた

自分の秘密を彼女達「プレイアデス聖団」に伝えるべきか、を

かつての自分は彼女達を助け、その秘密を明かし・・・・

彼女達を絶望の淵へと追い込んでしまった

ユウリの例もある

彼女達が魔法少女となるのは回避不能の未来である運命であるかもしれない

だからこそ・・・・闇に潜んで絶望への要因を一つ一つ「砕いて」いった

浅海サキの絶望 ― 妹の自動車事故 ―

自動車事故に遭ってしまっていたが、妹の命に異常は無かった

しかし既に「ミチル」はサキに出会ってしまっていた

事態は急を要していた

 

「宇佐木里美」は飼い猫の病気に気付かず、死なせてしまったことで「絶望」した

魔力で治癒することも考えたが、そうしても里見が病気に気付かず死亡させたら元も子もない

ドアが開いて、猫が逃げ出したのなら探そうとする

その先で飼い猫の死骸を見つけ出しても自分の所為でそうなったと絶望することはないだろう

ミチルは窓を割り、泥棒が侵入したように見せかけた

そして飼い猫「サレ」を遠くの街へ放った・・・

若葉みらいの絶望は友達がいない事だったが、早い段階でこの世界では劇団だった「プレイアデス聖団」に加入していたのでそれでの絶望はない

カオルも海香も絶望から救い出した

しかし・・・・彼女達に秘密を打ち明けるとなると・・・・

彼女が保持している記憶は「彼女が魔法少女となり魔女となるまで」の限られた記憶

既に仲間たちが「絶望」しないように様々な方法を講じてきた

以前のような理由で彼女たちは絶望することはないだろう

だが、それでこれから世界はどう変わるのか、そしてどうなっていくのか、ミチルとて判断はつかない

不意に彼女の周りを違和感が覆い包む

空気がねっとりとした粘着質に変わったかのように感じた

周りの観客の中でそれに気づいた者はいない

 

「これは・・・・!」

 

魔獣

かつての魔女の代わりに世界が生み出した存在

魔女のように自意識をもって行動しないことはよいが、しかしその分機械的に発生する

仲間たちを絶望から救うためにその手を穢したミチルとて、魔法少女だ

人を襲う魔獣を見逃すほど邪悪な人間ではない

彼女は舞台が暗転するのを見計らい静かに席を立った

ミチルのその姿を白い髪の「よく似た」少女が見つめ、闇の中笑みを浮かべていたことに彼女は気付くことはなかった

 

 

 

 

NGシーン

 

「ねぇキュウベェ。キミ達に過去はあるのかい?」

 

宇佐美邸の書架

真は傍らで寝そべるキュウベェに声を掛ける

 

『僕らにとって過去は存在しないよ。人間的に言えば過去は失敗の記録で、僕らにとっては意味のないものだからね」

 

「ならこう言い換えてもいい。キミ達に始祖はいるのかい?」

 

始祖

つまりは全ての根源たる存在

この世に生きるモノ、存在するモノ全てに根源がある

 

『真、それにはもう答えているはずだよ。僕らにとっては失敗の記録だから存在なんてしない』

 

ガラス玉のような赤い瞳に何の感情も見えない

 

「そう・・・ありがとうキュウベェ」

 

 

真がコーヒーを準備している間にキュウベェが消えていた

 

「・・・気づかれちゃったかな?」

 

微かにテーブルに置かれた書物の位置がずれていた

 

 

「根源たる魂の結晶化と魔力を使った肉体強化。それは過酷な環境である、宇宙を開拓するうえで必要になったから・・・・検証するにはまだ論証が弱いな」

 

ソウルジェムと「魔法少女」システム

その関連性を考えていくと、ある仮説がなりたつ

なぜ、「感情がない」と公言するインキュベーターが感情の塊であるソウルジェムを作れたのか?

それはかつて彼らにも「感情があった」から

そして魔力による身体強化は過酷過ぎる環境・・・例えば「宇宙」のような場所において必要となるはずだ

 

テーブルの上には「ロボット」という単語を生み出したヨゼフ・チャペックの著作が並べてあった

 

― 人体を機械に置き換えれば、恋愛という感情もレバーを捻るかのように消え去り、非合理的な感情を捨て人間的で根源的な存在になれるのです ―

 

「その結末が人間性の否定であるのなら・・・・・それはもはや人間とはいえないのではないだろうか?」

 

真の問いかけに答える者はいない

 

 

 

 

 




意外と誤解されているのは「ロボット」と言う単語を生み出したのはカレル・チャペックの兄であるヨゼフ・チャペック
個人的にはカレル・チャペックが最初に考えた「ラボル」と言う呼び名が好きですね
文中の「人体を機械に~」のくだりはハーメルンの規約に引っかからないようにしています
なので、興味を覚えたらググって見てください

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