鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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あともう少しで、春厨が消えてゆっくりできる・・・・



本当に守りたかったもの

 

― 責任を持って世に送り出す ―

 

まだ20年にも満たない彼女の人生経験にとってこの言葉は絶対だった

彼女「御崎海香」はまだ大人の世界を知らない

この世界は子供の世界と大人の世界に分けられている

大人の世界には子供の世界にない、素晴らしいものが多くある

しかし、同時に同じくらい汚れ恐ろしものもある世界

無邪気に喜ぶ彼女に絶望が迫りつつあると感じられるものはいなかった

ただ一人を除いて

 

「・・・・・まだ、地図と手紙とラブソングは発売はされてはいない。急がねば!」

 

猫のような癖毛の黒髪の少女が顔を上げる

彼女の視線の先には大手広告代理店「エレクトロ・コミュニケーション」の本社ビルがあった

 

「今回のプレゼンの要はKGB49のセンターの売出しにかかっている」

 

太った眼鏡の男が声をあげる

今売出し中のアイドルグループ「KGB49」のプロデューサーだ

基本アイドルグループの寿命は短い

3年も生き残れれば上出来

なら、どんな方法をとっても利益を回収しなければならない

そう他者を踏みつけても・・・・

 

「芹沢ナルミの処女作の準備は?」

 

「丁度おえつら向きの作品を確保しました。ネットで調べてもブツを公開していないので盗作だなんてバレませんぜ。」

 

盗作と聞いてプロデューサーの顔が強張る

 

「ホントに大丈夫なのか?」

 

「ええ、作者はしょんべん臭いガキですし、適当に誤魔化せばどうでもできます」

 

「急ぎたまえ。ネットにでも小説をアップされたら面倒な事になるぞ」

 

「もちろん。既に原本は確保済みです」

 

彼らは知らない

その場に招かれざる人物がそこにいることを

 

ギリッ!!

 

黒髪の少女 ― 和紗ミチル ― は自らに認識阻害魔法をかけてあることを忘れ、怒りを噛みしめる

 

~ こんな・・・・こんな身勝手な理由で! ~

 

今すぐこの太った男と軽薄な編集者を縊り殺したかった

だが、そんなことはしない

彼らには相応の罰を与える、海香を救った後で・・・・

 

 

「どうしたんだ海香ちゃん?急に電話して」

 

「・・・・・・やめます」

 

「え・・・・?何を」

 

「小説の出版に決まっているでしょ!!!!!」

 

~ チィ!これだからガキは!!! ~

 

「今出版の準備をしているから急には・・・・」

 

使い古されたセリフ

出版さえすれば後はどうでもなる

それは彼にとってのルーチンワーク、「いつも通り」だった

 

カチッ!

 

受話器の先で何かのスイッチが入れられる

 

― 作者はしょんべん臭いガキですし、適当に誤魔化せばどうでもできます ―

 

「ッ?!」

 

それは彼とプロデューサーとの会話

その場には二人しかいなかったはずだ

男の混乱を余所に海香は淡々と宣告する

 

「原本は返して頂かなくても結構です。もうネットに小説をアップしましたから!!!!!」

 

「おい!!!お前!こんなことをしてタダで済むと・・・」

 

「ごきげんよう!!!!」

 

ダンッ!!!

 

みなまで言わさず、海香は電話を切った

 

「もう甘い夢なんて見ないわ・・・・」

 

一人きりの書斎をすすり泣きが満たした

 

 

数日前、彼女の家のポストに入れられたボイスレコーダー

送り主の名前はなく、郵便番号すらない

廃棄するのがセオリーではあるが、彼女は好奇心に負けて再生ボタンを押した

年配の男と編集者の醜悪な会話

それを聞いて海香は自分が如何に愚かだったか気付いた

彼女の動きは早かった

複数の小説サイトに自分の小説をアップしたのだ

効果はあった

売出し中のアイドルの小説出版のアナウンスは何時の間にか消えていた

彼女にとっての思わぬ誤算は件のアイドルが枕営業をしていたのがバレ、プロデューサーが失脚したことだ

ネットで男性とホテルに入るアイドルの写真がばらまかれたことが原因らしい

しかし、それで彼女の渇きが癒えることはなかった

有名になりたい

金を儲けたい

そんな気持ちがなかったわけではない

でもそれよりも「読んでもらいたかった」

彼女の指は何時の間にか、あるサイトを開いていた

「ストーリーテラーになろう」

彼女が復讐のために小説をアップしたサイトの一つだ

 

「・・・・新着メッセージがあります?」

 

どうせ何時もの根拠のない嫌がらせだろう

彼女はそう思いながらも、メッセージボックスを開いた

 

「イチゴ炊き込み御飯?誰それ?」

 

彼女はその「イチゴ炊き込み御飯」というユーザーのことを知らない

だが、彼女のアドバイスや感想は彼女の励みになった

まるで「昔からの友人」のように・・・

 

 

「ねぇねぇ今度の小説の出来は?」

 

「80%と言ったところね。結構修正が入っちゃったから・・・・」

 

無邪気な笑顔を見せるみらいに海香は答えた

あの一件以来、海香は小説を書くのを辞めようと思った

でも、何度心折れようとしても「イチゴ炊き込み御飯」が励ましてくれた

きっと貴方の才能を評価してくれる編集者がいるからと

戯れで参加した同人イベント

そこで今の編集者と出会い、今の自分につながっている

「イチゴ炊き込み御飯」には感謝してもしきれない

 

「同人でやってきた時とは違うから大変でね」

 

「同人って男同志でいくらヤっても痔にならないアレか?」

 

「杏子さん・・・・・いくら僕でもヒきますよ」

 

「私がやっていたのは文学系の同人よ。そこで今の編集者と出会ったの。BLもちょっと気になるけど・・・・・」

 

「でもすごい才能ですよ。海千山千の同人作家の中でプロになれるなんて」

 

真が感嘆の声をあげる

 

「私なんて実は弱いのよ」

 

「いやいや、そんなことはないですよ。この脚本もよく練られていますしね」

 

「真さんは優しいのね」

 

海香は微笑んだ

 

「さあて休憩終わり!!!今日から海香も参加するからね」

 

サキが号令を出す

 

「海香さんも劇に出るんですか?」

 

「ええ。じゃなかったら、血の通った脚本なんてかけないでしょ?あ、ちなみに私は教会の拷問係役だから・・・・イイ声で鳴いてね?クラレット」

 

海香が妖艶な笑みを浮かべる

そこには大人の世界を垣間見た少女特有の艶があった

 

 

 

 

NGシーン

 

「丸美はガンで死んだ・・・・・助けてくださぁぁい・・・・・グランドキャニオンに不法投棄って、こんなの出版できるかぁぁぁぁっぁ!!!!」

 

大手出版社「公弾社」

このオフィスの一室で一人の若い男が頭を掻き毟る

絶賛売出し中のアイドルグループ「KGB49」

そのセンターである「芹沢ナルミ」の処女作

うまくゴーストライターを確保できた、と思いきや土壇場でキャンセル

おまけに当のナルミの枕営業発覚でプロジェクトは中止となった

さらにご破算にした元凶である「ゴーストライター」は今や押しも押されぬラノベ作家

不運は続く

芹沢ナルミが再起を賭けて作家になると言い出したのだ

そして話は最初に戻る

 

「ったく!今時恋愛小説なんて流行んねぇんだよ!!!どうせ枕営業してんなら、ちっとは色気を出せよ!!!!!!」

 

男はナルミから渡された原本に手を入れていく

鬱屈や怒りを込めるように一気に書き上げる

 

チュンチュン・・・・

 

「朝か・・・・・」

 

画面には完成した「地図と手紙とラブソング」があるはずだったが・・・・・

 

 

「何で消えてるのォォォォォォォォ!!!!!!!」

 

 

「フフフ・・・・このミチル容赦せん!!!!!!!」

 

絶望に飲まれる男の背後で和紗ミチルが某ストレッツォのポーズを決めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当にジョジョ第三部「スターダストクルセーダース」をやるんだろうか?
やって欲しいな~ジョジョの古本の売り上げがいいんで(現役古本屋バイトの本音)

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