鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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これにて今章は終了となります
次章にはあすなろ組の大盤振る舞い!
ますます影が薄くなる真!




マダムとグランマ

カタカタカタ

 

薄暗い部屋

照明らしきすらつけず、黒髪の少女がパソコンのキーボートの上で手を動かしていた

 

 

『う~かさん、今回のイノセント・マリスも最高でした!!!特に敵の首領の正体が、ユズルの死んだはずの恋人であると知ったところが!そしてユズル自身がオリジナルの母胎を使って作られた・・・・』

 

 

「おーい!今日の分の帳簿をつけたいんだがな」

 

閉店準備を終えた立花宗一郎が少女に声を掛けた

 

「ごめんなさい立花さん。もう少しで書き込みが終わるから」

 

 

『次回も楽しみにしています 苺炊き込み御飯より』

 

 

パソコンの画面には「ストーリーテラーになろう!」と表示されていた

 

「ストーリーテラーになろう?」

 

「ごめんなさい。・・・・知り合いが参加しているから感想を書いていたの」

 

黒髪の少女は顔を伏せる

 

「いや。咎めているわけじゃない。帳簿の記入は明日でもできるからな」

 

少女に青年は声を掛ける

 

「引き取ってもらったのに迷惑かけて・・・」

 

「ミチル・・・・あの日、俺はお前を引き取ってもらうようマダムから頼まれて以来、お前を実の妹と思っている。だから・・・・」

 

―『マダム』― 

 

立花はミチルの祖母のことをいつもそう呼ぶ

前の「世界」では立花とグランマとの接点はなかった

無論、彼女 ― 和紗ミチル ― が立花に引き取られるという未来すらも・・・・

 

「・・・・ねぇ、グランマの話をして」

 

少女 ― 和紗ミチル ― が声を絞る

 

「なんだい藪から棒に?」

 

「忙しいならいいよ・・・」

 

「そうだな・・・・あれは俺がマダムの店でボーイとしてバイトした時だ・・・」

 

青年 ― 立花宗一郎 ― は昔を懐かしむように話始めた

 

 

「ミチル、マダムが昔イタリアで服飾関係のデザイナーとして働いていたって知っているだろ?」

 

「昔、グランマがよく話してくれた。昼食を食べにたまたま入ったトラットリア(軽食屋)で修行中のグランパと出会ったって・・・」

 

「ああ。二人は結婚して、夫の故郷のここで一軒のイタリア料理店を開いた。本場イタリアの料理が安価に楽しめ、サービスも一流。たちまち人気店となった」

 

立花は着ていた料理服を掛けた

 

「俺は高校三年の夏、ボーイとしてバイトしていた。その時は料理人になるなんて思わなかった。切っ掛けを作ってくれたのは一皿のパスタだった」

 

棚から一冊の古びたノートを取り出し、それをミチルに渡した

料理人自身の魂と言える手書きのレシピ集

その一番最初のページが開かれていた

 

「パスタ・イン・ビアンコ?」

 

「白パスタって意味さ。ある日、中途半端にパスタが残ったんだ。処分もできず、ちょうど中途半端に残った材料を使って前にレシピ集で見たこの料理を作ったんだ。その時は、本気じゃなくて・・・・言い方は悪いが、遊びみたいなものさ。それをマダムと料理長に見つかった。」

 

「怒られた?」

 

「いや。逆に褒められた。この料理はパスタとバター、パルメザンチーズしか使わない。でも、茹でる塩加減やらバターやチーズの量を変えるだけで味も変わる。俺は正直怒られると思っていた。ボーイは料理人じゃないからな」

 

「グランパって優しい人だったんだね」

 

「その日から俺は料理人見習いとして修行さ。結構しごかれた。でも、目的のなかった俺に料理人になるって目的を見つけさせてくれたマダムと料理長には感謝している」

 

遠い目をしながら、在りし日の思い出を語る立花

その姿はとても気高くあった

友と呼ぶ少女を絶望から救い出すためにその手を血に汚した彼女にとって、立花の白い手は何よりも輝いているように見えた

 

 

「また・・・行くのかい?」

 

宗一郎の目の前には、エプロンを模したような魔法少女形態となった「和紗ミチル」が立っていた

 

「うん・・・。私の助けを待ってくれている人がいるから」

 

本当は自分の満足のために他者を害しても「彼女達」を絶望の魔の手から救い出しているだけに過ぎない

 

「ミチル。今日見たあの二人に打ち明けたらどうだ?自分も魔法少女だって。そうすれば・・・・」

 

「立花さん・・・・これは私がしなければならないことだから」

 

立花は彼女の表情を静かに見つめた

 

「無事に帰ってこいよ!たとえ血が繋がっていなくてもミチルは家族なんだからな」

 

「うん!いつか・・・・立花さんのパスタ・イン・ビアンコを食べたいな」

 

「ああ!」

 

道化師の仮面を被ると、ミチルは青白い月に照らされるあすなろ市へ飛び立った

 

 

「魔法少女」となり、天に召されるその時までグランマは彼女の知るグランマだった

だからこそ、この世界でグランマがどう生きてきたかを知ることは彼女にとっては禁忌ともいえる

グランマがイタリアで服飾デザイナーだったことは同じ

グランパが元料理人だったことも同じ

でも、グランパがあすなろ市で料理人として働いていた事実は違う

全てが全て同じではない

だったら・・・

自分が「世界」にとっての異物だったら?

私は何者?

私の父も母も本当に私の親?

誰も教えてくれない

誰も知らない

「世界」からはぐれた野良猫は今日も踊る

誰かに救われるのを夢見ながら・・・・

 

 

 

 




文中の「パスタ・イン・ビアンコ」は私の得意料理だったりします・・・

レシピは
茹でたパスタ、バター(マーガリンでも可)、パルメザンチーズ、
全てを混ぜたら完成

嘘だろ?
本当です。こんなレシピなんです!


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