見滝原の南東に位置する河川敷
昼間は野球を楽しむ子供やゲートボールを楽しむ老人たちがいるこの河川敷も、日が落ち夜ともなると訪れる者はなく車さえも通らない
今、真闇の中で一人の少年の命が危機に瀕していた
眼帯をした黒い少女 ― 呉キリカ ―
その猫を思わせる彼女の鉤爪は少年 ― 宇佐美真 ― の首筋にしっかりと当てられ、彼女がほんの数ミリ横に動かすだけで少年は痛みすらわからずに死を与えられるだろう
そしてその眼前には白い少女 ― 美国織莉子 ― がその結界を兼ねた攻撃手段を展開していた
このような状況であるのなら、慌てふためくのが道理であるが少年は平然としていた
その根底にあるのは彼女達に対する信頼
上条恭介の「救済」の時に見せた他者に対する優しさ
そんな彼女達が理由なく人の命を奪ったりしない
彼、宇佐美真は静かに目を瞑った
― 今僕は試されているんだ ―
「おや?怖くてビビってんのか?」
ねっとりとした声でキリカが真を嬲る
鉤爪の冷たさに折れそうな心を奮い立たせる
「・・・・・話してください。真実を」
「テメェ!今の状況がわかってんのか!!!!」
激昂したキリカが真の首筋へ更に鉤爪を当てる
ツー・・・・
真の首筋から赤い雫が流れる
「ゆまちゃんは僕と杏子さんと別れる際に、また遊ぼうと言ってくれました。彼女の命を危機に晒した僕にですよ?でも、彼女は僕を責めることはなかった・・・・」
真は目を閉じる
脳裏に浮かぶのは少女の裏表のない笑顔
「僕は・・・・彼女の笑顔を守りたい!!」
織莉子は静かに彼を見つめていた
そして・・・静かに瞑った
「キリカ・・・もういいわ・・・・」
真の背後からキリカの気配が消えた
「真さんあなたの覚悟、確かに受け取ったわ」
「貴方が推理したようにゆまは魔法少女よ。でも彼女はそれを知らない」
真と彼女達以外、誰一人いない河川敷に織莉子の声が響く
「知らない?」
「彼女は私の能力を使って両親の記憶と契約の記憶を消去・プロテクトを施したわ。・・・・・ゆまを守るために」
「両親の記憶をですか?」
「・・・・・彼女の両親は最低の屑だった。生まれてから、ずっと彼女を虐待していたわ。それを奴らが・・・・インキュベーターが見逃さなかった」
インキュベーター
彼らは願いと引き換えに、人間を「魔法少女」に組み替える
彼らは正義ではない
たとえ、他人の不幸を願って契約してもそれを叶えてしまうだろう・・・・
「彼女は他人に自らの痛みを引き受けてもらうことを対価に契約した。そしてその最初の犠牲者は・・・・両親だった」
真は絶句した
彼女「ゆま」の壮絶な人生に
真には母親がいない
父である蓮介からは、真を生んでから亡くなったと聞いた
母親のいないことで涙で病床を濡らしたこともある
父親をなじったこともある
しかし、父は真にとって最大の理解者であり続けた
では両親すら自分を守ってくれなかったら?理解してくれなかったら?
「考えてみて。ゆまが生まれて、今の年齢になるまで味わった苦しみ、痛みを全て普通の人間が引き受けたらどうなるか?結果は・・・両親の自殺だった」
「そんな・・・・・!」
「私が因果の糸を辿り、ゆまの元にたどり着いた時全ては終わっていた。私にできることは彼女を絶望させないために、記憶を消して美国家へ向かい入れることだけ。ただそれだけだった」
織莉子は泣いていた
「全知」であっても「全能」ではない
彼女は自らの手を見つめる
全てを知ることができても、その小さな手で助けられる命にも限界がある
「やはり・・・あのトランクに入っていたのはゆまちゃんのソウルジェムですね?」
「ええ。私の能力でも、ソウルジェムから彼女の魂を解放することは叶わなかった。できることはゆまに薬が入っていると言って、トランクを持ち歩くようにするのが精いっぱい・・・」
ゆまは言っていた
遊園地や映画館に連れて行ってくれるけど、外で遊ぶことはあまりないと
トランクとゆまのリンクが切れたらその瞬間、彼女の身体はその活動を止める
「彼女の歳で魔法少女や、その過酷な運命を理解することはできない。だから・・・・!」
「泣かないでください織莉子さん・・・・」
「真さん?」
「織莉子さんがゆまちゃんの事を大事に考えていることはわかりました。僕にも・・・」
真は織莉子の白い手に自分の手を重ねた
「その重荷を背負わせてくれませんか?」
真が織莉子に微笑んだ
「ゆまのあっがりぃ!!!!」
「強いなゆまちゃんは」
「ちぇ~またビリかよ!」
数日後
宇佐美邸別館にて、再び真と杏子、そして美国ゆまがボードゲームを楽しんでいた
「ったく!このノモポリーってゲームは難し過ぎんだよ!!」
杏子が不平を並べる
「杏子さんは目先の利益で投資するからいつも大損するんですよ」
「ったく!インテリが!!」
真に毒ずく
「杏子おねぇちゃん・・・真おにーちゃん・・・・喧嘩するの?」
ゆまが泣きだしそうな顔で二人を見つめる
「そんなことはないぜ、な?」
「そうですよゆまさん!ハハッ・・・・」
織莉子からゆまの秘密を聞かされて以来、ゆまはこうして週に何回か別館に遊びに来るようになった
彼女は危惧しているのだ
自分がもしいなくなったらゆまはどうなるのか?
ふとしたはずみで記憶が戻ってしまったら?
だから真はゆまの傍にいる
それが織莉子の「共犯者」として、共に重荷を背負う宿命を選んだ彼の意思なのだから・・・・
NGシーン
ここは美国邸
二人の少女が優雅にお茶会を楽しんでいた
白髪の少女 ― 美国織莉子 ― が香りのよい紅茶をテーブルに置く
「キリカの鉤爪の有効活用を考えてみるわ」
黒髪の少女 ― 呉キリカ ― が手にしている砂糖を入れ過ぎてペースト状になった紅茶を置いた
「なんだい藪から棒に?」
「真さんはガントレット、佐倉さんは可変槍、巴さんはマスケット銃。それに対して私達は・・・・」
金色のレコード盤を展開する
変身して背後から鉤爪で攻撃する
「・・・・地味だね」
「そう!地味なのよ!!!」
ダン!
織莉子がテーブルを叩く
「このままじゃ、いない子扱いされている原作のカバーの如く作者から要らん子扱いされてしまうわ!!!」
「そうだね・・・・二次創作界隈でもあすなろ組に追いやられつつあるし・・・・」
「特訓よ!特訓しかないわ!!!」
いつもの河川敷
「偉大なる鉤爪使いの先人から学ぶのよキリカ!!!」
「・・・・・なんでボウリングの玉みたいなヘルメットとフェイスマスクをするのかさっぱりわからないよ」
「それは筋肉男の戦争男をリスペクトした姿で・・・どうでもいいわ!」
ピシィィイィィ!
「うわっあぶない!」
織莉子はどこから出したのか、鞭を地面に打ち付ける
「優しさなどの感情を捨て去り冷酷・冷徹・冷血の氷の精神を身に付ける事・・・・・!」
数日後、片手の鉤爪を突き出し、錐揉み回転しながら魔獣をに突っ込み刺し貫く呉キリカの姿が見られたという・・・・
キン消しってすごい人気があったそうですね・・・・
なぜに?