一人の少女の話をしよう・・・・・
その少女は幼い時から誰よりも好奇心が旺盛だった
おもちゃが買い与えられても、彼女はそのおもちゃで遊ぶよりはそれが内部ではどのような構造をしているのか、どうしてイキイキと動けるのか、それを知りたいがために三日後には大概のおもちゃは分解されてしまっている
未知に興味を覚えた子供がおもちゃやガラクタを分解することはありえないことではない
それくらいならよくあることだが、彼女の場合は少々異なっていた
彼女は分解しそれをもう一度組み立てることにのみに飽き足らず、それを元に新たなアクションを盛り込んでいた
少女の手にかかれば、単純にシンバルを叩くだけのブリキのサルの人形も、内部のギアに刻み目をいくつか増やすことで意図的にリズムを外して猿が首を傾げる動作を組み込むなどよりリアルなアクションが可能となった
子供らしからぬ卓越した技術
「異能」を目にした人はその能力を押さえつけるか、その異能を伸ばそうとするか二つに別けられる
彼女の父親は彼女の最大の理解者であり、その「異能」をより伸ばそうとした
その少女の父親は親から相続した小さなおもちゃ会社を世界的な企業として成長させた実績がある
モノづくりの遺伝子は確かに受け継がれていたのだ
彼女が新しい動作や機能を持ったおもちゃを作り、それを彼女の父親が製品にして売る
それがずっと続いていく
愛する家族と一緒にずっと・・・・
そうなるはずだった
アンゼリカ・ベアーズの地下階
薄暗い通路を豪奢な金色の巻き髪が揺れ動く
かつては見滝原でマギカ・カルテットを率いるリーダーであった「巴マミ」だ
自信と英知に満ち溢れていた彼女は、しかし今はそのようなオーラは影をひそめ何処にでもいるただの少女として振る舞っていた
未来への不安から仲間を裏切った彼女は、「救済者」の一員となりこのアジトの全ての階に立ち入ることがリーダーである宇佐美真琴から許されている
カツン・・・
「ここね・・・・」
巴マミが自らのソウルジェムを眼前の扉の前に翳す
緑色のレーザーが彼女のトパーズ色のソウルジェムを撫でるように動く
ソウルジェムに契約した少女達の「魂」が封入されているとはいえ、ソウルジェム自身には感覚は全く存在しない
とはいえ、気持ち的にややくすぐったいように思える
― 認証完了 巴マミさんお入りください ―
合成音声が静かに認証が終わったことを告げる
プシュゥ・・・・
圧縮空気が抜けるような音が響き、ゆっくりと扉が開いていく
正面には彼女の目的である釣鐘状の装置が据えられていた
今「箱庭」という大結界内のあすなろ市では魔獣も瘴気も存在しない
その代りに「魔女モドキ」が現れるが、これは「茶番」だ
魔女モドキは魔獣よりも弱い存在で、魔力を付与した武器でも十分に対処可能だ
おまけに取り込まれた人間も多少は衰弱しているが命に別状はない
魔獣という「天敵」がいる人類にとっては、その発生が根絶されたことは喜ぶべき事態ではある
しかし、魔法少女にとってそれは死刑宣告に等しい
なぜならば、魔法少女の魂が封入されたソウルジェムは例え魔法を使わなくとも穢れを溜めてしまう
穢れとは人間の精神的なダメージが目に見える形で顕在したもの
思春期の少女の魂であることを考えればそれは無理からぬことだ
学校で
家庭で
悩み苦しむことがあるだろう
実際、魔法少女の契約をする少女はそれなりに因果が溜まっている
ある少女は腕の動かなくなった幼馴染の少年を助ける為に魔法少女となった
しかし、少女は自らの潔癖さ故に同じ少年を好きになった幼馴染の少女が告白したのを黙って見ているしかできなかった
結果としてそれが穢れを呼んでしまった
限界まで穢れが溜まったソウルジェムは消滅してしまう
では、なぜ「救済者」は今でも健在なのか?
それにはこの装置が関わっている
「メーターには異常はなし・・か・・・・」
マミが真鍮製のメーターを見る
針は丁度中ほど、使用するには十分だ
ガチャッ・・・
バーを操作し重々しい扉を開くと、中には台座のようになっていた
彼女はソウルジェムをそこに置くと再び扉を閉める
後は壁に据え付けられた仰々しいレバーを下すだけ
~ まるで電気椅子の電源スイッチみたいね・・・ ~
正直、この装置に自分自身の命を委ねるのは気が引けるが、ソウルジェムを浄化するにはこれが一番の方法だ
ガチャ!
重々しい音と共に電源レバーが下される
痛みはなく、むしろ身体が軽くなっていくように感じる
プシュッ・・・
「あらら~~先客がいたか~」
明るい声にマミが振り返ると、この装置の製作者である少女「秦愛華」が立っていた
ソウルジェム浄化装置「グロッケ」
ドイツ語の「釣鐘」と言う名前は見たままだが、「救済者」はこれを活用することで消滅を免れている
「マミさん浄化終わってるよ?」
「え?」
見ると、赤いランプが緑色に変わっていた
マミが扉を開くと、ソウルジェムは穢れなく光り輝いていた
誰も傷つくことなく、助け合っていける世界
それがこのあすなろ市では実現していた
「愛華さん・・・・時間はあるかしら・・・・?」
マミの問いかけに少女は暫し考えるとうなづいた
韓国で新築のビルが倒壊寸前
私、「ニダの斜塔」ってキャッチで死ぬほど笑ったよ