宇佐美邸別館
当主である蓮助が海外へフィールドワークに行った後は、宇佐美家の次期当主であった一人息子の宇佐美真が一人で生活をしていた
西洋の古い洋館を移築したこの別館は、別館とはいえ本館とほぼ同じ大きさであり、その恐ろしげなバロック様式から付近に住む人々からは「化物屋敷」と呼ばれることもある
おまけに一人息子の真が病院から退院し復学して以来、月のない夜に光の落ちた洋館から白い影が飛び出すという噂まで建てられていた
無論、それは「魔法少女」となった真のことなのだが、それを知っているのははマギカ・カルテットのメンバーと織莉子とキリカしかいない
主無き館には、今数人の少女達が集まり一人の来訪者の到着を待っていた
カンカン!
別館のドアに付けられたクラシカルな真鍮製のドアノッカーが鳴る
ガチャ・・・・
「急に呼び出してごめんなさい」
白いロングドレスと白銀のようなシルバーブロンドをした少女が出迎える
門の前には二十代後半くらいの青年が一人立っていた
「待たせてごめんなさい。暖かい紅茶の準備ができているわ」
「他人行儀な挨拶はいいよ美国さん。いや、三国織矢といえばいいかな?」
「その様子なら洗脳の心配はないわね、立花さん」
「魔法探偵」三国織矢こと、美国織莉子がクスリと笑う
そして立花と呼ばれた青年は苦笑いを浮かべると、宇佐美邸別館へと入っていった
この立花宗一郎という青年は良く言えば実直、悪く言うならば飾りっ気のない人物だ
恐らくは平凡なまま人生を終える、そんなありきたりな存在
そんな彼がこの世の理から大きく逸脱した存在である「魔法少女」に関わるようになったのは、彼が詐欺にあい苦労して手に入れた自分の城である「ビストロ・タチバナ」を奪われそうになったのを「魔法少女」であると同時に「探偵」でもあった「美国織莉子」とその盟友である「呉キリカ」に解決してもらったからだ
彼女達が詐欺師と、その詐欺師と関係がないと言い張る「自称」善意の被害者が結託していたことを証明してくれたおかげで、彼は善意の第三者の救済という名目で店を奪われずに済んだ
それ以来、探偵としてそして魔法少女として活動する二人の良き協力者となった
彼女達が匿名の依頼人と会うときに使用するのも立花の店だ
「キミは・・・・」
織莉子に案内されて別館の中央ダイニングに足を踏み入れた立花は、見慣れた顔ぶれの中に一人の少女の姿を目にした
ユウリとあいりもそして真や杏子も印象深いが、何よりもその少女の印象の方が強かった
レモン色の短い髪と物憂げな表情
見間違いなんてありえない
そう、植物状態になった両親を目覚めさせることのできる魔法少女を探して、世界中を妹と二人で旅していると言っていた「神那ニコ」に間違いなかった
「あの日以来だね・・・・・・」
「ええ・・・その節は迷惑をかけてすみません」
そう言うとニコは頭を下げた
立花は彼女達とミチルの会談の後、どうしても気になることがあった
それは彼女達の両親の安否だ
彼女が一抹の期待に縋って会った和紗ミチル
彼女の魔法は「ハッキング」
ニコやカンナの目でわからなくとも、彼女の固有魔法を解析する魔法ならミスを発見できる可能性がある
彼女達はミチルの「破戒」の魔法に希望を託したのだ
しかし彼女達の儚い希望は砕かれた
彼女の魔法では両親を救えるか救えないかは大きな賭けだ
ミチルがハッキングを行うということは、両親にかけられたニコとカンナの魔法を一旦解除することを意味する
二人同時に救える可能性はない
「あの後両親は助かったよ・・・・・・でも・・・」
ニコはそれだけ言うと俯いた
今この場にニコの双子の妹である「聖カンナ」はいない
それどころか、立花が自分の娘だと思っている「和紗ミチル」も、彼女が連れてきた魔法少女になれる少年「宇佐美真」もいない
ミチルがあの夜以来失踪した時、立花はミチルの死を覚悟していた
魔法少女の辿る道は彼でも知っている
遺体が残ればいいほう、最悪の場合遺体すら残らないこともある
ミチルがいなくなって数日、ああしてやればよかったあれを買ってやればよかった、そんな後悔が立花を責めつづけていた
だから、織莉子からの暗号連絡があった時は普段神に祈らない立花でも神に感謝した
「新聞の広告欄を利用した暗号なんて驚いたよ。昔のスパイ小説ならよくある手だったけどね」
「あすなろ市全体が敵の支配下にある以上、電話やメールでも盗聴される可能性があったから使用したわ。まぁ、そのおかげで敵の裏をかけたわけだけど・・・」
「キミの指示通りにあすなろ市全体を自転車で走りまくったよ。でも、美国さんこれには何の意味があるんだい?」
「その理由は私が話すよ」
シュオン!
ニコが歩きながら、ダークグリーンの外套を身に纏った魔法少女の姿へと変わる
「悪いけど・・・今から立花さんにコネクトを掛けて情報を抜き出す」
ニコの背後から幾つもの輪が繋がった鎖のような触手が現れる
それは見ようによっては蠍の尻尾のようにも見え、立花は知らず知らずに身構える
「安心して、痛みは無いわ」
ニコは澄みきった瞳で立花に語りかけた
「それがミチルを助ける最良の方法なら従うしかないな」
そう言うと立花はニコに微笑んだ
そういえば無印ダンガンロンパの第二章ってアメリカの「パーフェクトワールド」っていう、バイオレンス映画によく似ているよね
脱獄犯と少年の心温まるロードムービーに見せかけて、最後はトラウマからいきなり切れた脱獄犯を主人公の少年が撃つ・・・・・