突如として、美国邸を覆い包んだ結界
恐らく魔力を持たない普通の人間では、現状美国家で発生している違和感の正体を感じることはないだろう
しかし、美国織莉子と対面している三人の少女は確実にソレを感じていた
織莉子は願いから生み出された魔法からして確かに戦闘向きの魔法少女ではない
しかし、彼女とて決して戦闘ができないわけでも、誰かに守られているだけの存在でもない
織莉子は直接戦闘に長けていない彼女が今まで生き残っていたのには、その戦闘スタイルにある
彼女の戦闘スタイルは「トラップ」
その根幹をなすのが個々の魔法少女が持つ「結界」だ
会談でコネクトを使用してそれを知っている以上、彼女達が警戒することは簡単に想像できる
しかし、彼女達は何よりも秘匿せねばならない情報があることを知っている
特にあの「白い悪魔」たちから・・・・・
シュウィィィィィ・・・・・・・
微かな高周波音が止まり、四人は美国邸の一室から巨大な図書館のような場所に立っていた
「ここは・・・・・?」
ユウリが織莉子に尋ねる
結界はもう少し簡便なものであると想像していた彼女にとって、「現実」と見まごうまでに程まで作り込まれたこのような結界は見たことはない
それこそ、急に「別世界へ転送された」とでも言われてもおかしくはないのだ
「これこそがいつも私が見ている世界だといったら?」
「織莉子さんの世界って?」
「たぶんニコさんから聞いていると思うけど、私は過去現在未来、そして平行する様々な世界の情報を入力するキーワードに応じて見ることができる。それこそ、無限に増える蔵書を持つ図書館と同じようにね・・」
織莉子はそこまで言うと、高くそびえる書架を見上げた
「ニコさんもユウリさんも、そしてあいりさんもこの世界をどう思う?」
エメラルド色の瞳が三人を見る
そこに何の意図も見えなかったが、その一点の曇りもない瞳を前にユウリは圧倒された
「えっと・・・その・・・」
「ユウリさん、私は何も貴方を尋問しているわけでもないわ。そうね・・・・貴方達は魔法少女が使命を全うして円環の理に導かれるのはどう思うかしら?」
「それは・・・・・」
「貴方もこの場にいるということは、かつての世界での魔法少女の末路を知っているということで間違いないわね?」
「!」
かつての世界での魔法少女の末路
それは「魔法少女は魔女へと変わりその使命を全うする」こと
無邪気な少女を喰い物にする、吐き気を催すようなシステム
あの白い悪魔は「真実」を知った魔法少女たちに吊るしあげられてもこう言うだろう
― そうだったら願いなんて持たなければよかったんじゃないか ―
メリットしか口にせず、デメリットを隠す
そして契約は一度結んだら不可逆だ
結局は最初から騙すつもりで契約を結ばせている
見下げ果てた外道だ
しかし、感情のないインキュベーターに善悪はない
この世界に「神」はいない
奴らを罰する存在などはいないのだ
「死ぬのはこわい・・・です。でも・・・・私が魔女になって罪のない他の人を傷つけてしまったらと思うと・・・・・」
「人間なら誰もが死ぬのは怖いものよ。でも貴方は自分の運命を受け入れている。それだけでもこの場にいる意味があるわ・・・・」
使命を心に抱いて死を受容する
それはかつての織莉子も同じだった
「私はかつての世界で最悪の魔女を生まれる前に倒す為に、罪のない多くの人間をその犠牲にしてしまったわ・・・・・・。でも、皮肉なことに、別の世界線で魔法少女となった彼女の願いでこの世界は優しくなった」
「知り合いなのか?」
あいりが織莉子に問いかける
それに彼女は静かに首を横に振った
「彼女は私の友人でもなんでもないわ。私は彼女の歩む未来を見て、予想できる災厄を防ぐために彼女を倒した。」
「魔女で女神?」
「ええ。私の生きていた世界では彼女は最悪の魔女となる運命だった。でも、別の世界では過去現在未来すべての魔法少女全員を救う為にこの世界から消えた・・・・」
「・・・・・証拠はあるのでしょ?」
無言で織莉子が頷くと書架の中の本の一つが空中に浮かんだ
「これから見聞きすることは誰にも話しては駄目よ」
それはまるで映画のようだった
一人の桃色の髪をした少女の元にやってきた黒髪の少女
そして、偶然出会った魔法少女の「先輩」から魔法少女の世界を知る
親友が選んだ「願い」とその「代償」
誰も救われず、誰も幸せにならない
彼女に警告を与えた黒髪の少女は強大過ぎる敵に追い詰められ、そして・・・・・
桃色の髪の少女は願った
目の前で死にゆく少女も、そしてかつて「魔法少女」だった目の前の魔女も救う、そのために彼女は「魔法少女」となった
「彼女は願ったわ、全ての魔女を生まれる前に消し去りたい。すべての宇宙、過去と未来 の全ての魔女をこの手で、とね」
円環の理の女神
それはニコにカンナとの旅路で出会った魔法少女の言葉を思い出させた
彼女もまた「白いドレスを着た桃色の髪の女神」の存在を示している
織莉子は嘘は言っていない
そして・・・・信頼できる
「その少女の名前を教えてくれないか?」
「鹿目まどか。この見滝原に住むただの少女だったわ・・・・・」
そういえば叛逆後の世界ではなぎさは魔法少女ではないんだよね
悪ほむとて多少は良心があったのかな