鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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では投下


四人の敗者

「夜遅くに御出で下さりお礼を申し上げますわ」

 

美国家の長女である「美国織莉子」がニコ、ユウリ、あいりに礼を述べる

その笑みは西洋絵画に出てくる女神のように美しかったが、目の前の三人にそれを賛美する余裕などなかった

織莉子の計らいでこの貴賓室までは特に誰とも出会わなかったが、しかし、壁や部屋の内側から放たれる探るような感覚や、強い殺気は確実に彼女達をターゲットにしていた

彼女とて、認識阻害結界くらいは展開している

それを超えても感じるこれらの感覚は不快だった

今の彼女達の姿は誰にも見えていないにしろ、針のむしろを歩くような不快感は織莉子の待っている貴賓室に入るまで消えなかった

 

「外は冷えていたでしょう。暖かい紅茶を準備しておきましたわ。身体の温まるブランデーもありますよ」

 

今、彼女達が囲むテーブルの上にはウェッジウッド製のアンティークティーセット

西洋アンティークなど、あまりこういったものに馴染みのない三人でも、目の前に出されたこれが非情に値の張るものだとわかる

しかし、そんな高級な一品であっても、三人をおもてなしている彼女 ― 美国織莉子 ― はそれこそ日常に使う食器のようにそれらを扱っているようにも見える

 

~ もし、このカップ一つでも割れたら一体、どれくらい弁償すればいいんだろう? ~

 

根が小市民であるユウリは気が気でなかった

カップを持つ指先が震え、カタカタと鳴る

マナー違反ではあるが、寧ろユウリのようなリアクションをするのが普通

アンティークのティーセットの相場はまちまちではあるが、日本のメーカーが作った戦前の輸出用ティーセットなどはモノによっては50万以上の値がつくこともある

緊張するなというほうが無理だ

ユウリのそんな気持ちを読み取ったかのように織莉子が彼女に声を掛けた

 

「おもてなしで出したものに弁償を請求するほど狭い心はもっていないから、安心していいわよ」

 

そう言うと再び微笑んだ

彼女のその笑顔に下衆な「偽り」なんて見えてこなかった

 

 

彼女が用意したモノは器だけではなく、使っている紅茶の葉の等級も決して低級のモノではなかった

新鮮で、若々しい香り、そして紅茶の持つ複雑な味

それは一緒に用意されているティーサンドイッチの味を引き立たせていた

 

~ 雰囲気に飲まれてはいけない ~

 

彼女達、三人は何も織莉子と茶会をするためにわざわざ深夜に訪れたわけではない

美国織莉子の真意を知るためだ

ニコが見出した情報によると、織莉子も「転生者」で間違いない

 

― 転生者 ―

 

どういう理由か、魔法少女が魔女へと変わる「かつての世界」の記憶を持った魔法少女のことを便宜上そう呼ばれている

なぜ、「記憶」を持っているのか理由はわからないが、転生者の多くが悲惨な末路を辿っていることと殆どの転生者は魔法少女の契約をしたのとほぼ同時に記憶を取り戻している

そのことから、「円環の理」との関連が推測される

もっとも、詳しいことは織莉子の検索でも調べることすらできなかったのだが・・・・

 

「さて、ニコさん私の正体を知りたいのでしょ?」

 

和やかな雰囲気に冷たいモノが差し込む

 

「魔法少女が絶望の果てに魔女に変わる・・・・それは変えようのない摂理だったわ。そうでしょ、あいりさん?」

 

「今」を生きる魔法少女達にとっては織莉子の話をありえないと、一笑に付すだろう

でも、ソウルジェムの構造を知る人間はそれを笑うことはない

魔法少女のソウルジェムはたとえ、魔法を使わなくとも少しづつ穢れを溜める

そして、その穢れが限界まで溜まったら何が起こるか?

インキュベーターは契約の際には、「魔法が使えなくなる」としか言わないが実際は「死」を意味する

それは「消滅による救済」

穢れが瘴気となり、それが魔獣を生み出す

ならば魔法少女が「穢れ」を限界まで溜めたら・・・・・・

察しの良い魔法少女なら簡単にその「結末」を知ることができるだろう

 

~ 希望を振り向いた分だけ人を呪う存在になり果てる ~

 

人の世を守るべき魔法少女が人の世を脅かす存在になるとはなんて皮肉だ

だが、人の身でそれに抗うことはできなかった

それもそのはずだ

これはかつて一人の魔法少女が運命に抗うまでずっと維持されていたシステムなのだから・・・・

 

シュォォォォォ!!!!

 

彼女の白いソウルジェムが光り輝き、豪奢なドレスを身に着けた織莉子が立っていた

その傍らにいくつもの金色の円盤が浮かぶ

 

「・・・・・聞かれたらまずいわ」

 

無言で三人が頷く

 

そして美国邸全体を織莉子の結界が覆い包んだ

 

 

『やれやれ、ここ見滝原の魔法少女はボクに敵意を持っているね』

 

美国邸の見える高層マンション

その屋上に一匹の白いウサギのような生き物が座っていた

見ようによっては可愛らしく、悪意とは別の存在に見える

しかし、それは人間の勝手な思い込みに他ならない

 

― インキュベーター ―

 

彼らに人間で言うところの感情は無い

ただただ機械のようにノルマをこなすだけだ

 

『あすなろ市ではボクらの端末は全滅しているし、佐倉杏子に接触した方がいいかもしれないね』

 

彼の言葉は風に乗って消えて行った

 




公式ガイドブック&BDにて

初見は違和感のあった「マジカルバナナ」シーンも、杏子の言っていた「魔女の使い魔に人を襲わせて太らせてから食べる」ということを暗喩しているそうで・・・・
しかし、うめてんてーの少年が主人公のスピンオフと言うのも見てみたい

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