美国邸
既に月は高く、時間も既に深夜一時をまわっている
この前の織莉子と真の許嫁の披露パーティーで敵に襲撃を受けて以来、普段はこの時間でもメイドが見回りに廻っている
戦闘経験のあるメイドであるとはいえ、「魔女モドキ」に抵抗できるとは思わない
しかし、何ら有効な攻撃を与えることなく、敗退したという事実は彼女達のプライドを傷つけた
だからこそ、今まで以上に戦闘訓練を繰り返していた
だが、今夜は織莉子からの言伝の為に、戦闘訓練はそこそこに皆それぞれ持ち場へと戻っている
とはいえ武装解除はされず、その内何人かのメイドは何時でも「状況を開始できる」ように戦闘の準備をしていた
~ おいニコ。本当に大丈夫なのか? ~
銀髪の少女 ― 杏里あいり ― が魔力で強化した視力で美国邸を見る
彼女の瞳の前では漆黒の闇も強固な壁も全く意味を為さない
その為、あいりには美国邸の全てが見えていた
当主である美国久臣が政治家である為か、ただの邸宅に見えるが、最新鋭の音波探知機や電磁波攪乱システムも装備され、おまけに何人かは戦闘準備をしたメイドもそれぞれの詰所に待機している
政治家とは血を分けた家族でさえ、時には切り捨てねばならない非情な世界
一度地獄を見た久臣は政治の世界からの引退を表明しているが、それとて身の安全を保障されているわけではないのだ
― 腕を血に濡らす覚悟なくして家族すら守れない ―
それこそが、久臣が地獄の底で知った真実だ
久臣が持つ軍刀を含め、戦闘準備をしているメイド達が音の出る銃器ではなく刀剣類を装備していることから、もし戦いとなれば血を流さずには終らないだろう
~ 問題ないわ。それにあんな装備くらいでどうにかなる程、私達は軟かしら? ~
ニコからの指摘は正しかった
人間の持ち得る「科学」では、彼女達「魔法少女」の攻撃を止めることすらできない
それにこの世界の「織莉子」が「かつての世界」のように、何も知らない人間を使い捨てるようなことはしないはずだ
寧ろ、できる限り「ただの人間」を巻き込まないようにするだろう
~ ニコちゃんもあいりちゃんもそろそろ行こうよ。寒くなって来たし・・・ ~
闇の中でも映える背中の開いた赤いドレスとナースキャップ、そして踝まで伸ばした金色のツインテールの少女が二人に念話を送る
彼女達は皆、魔法少女であると言う共通点以外にもある「共通点」を持っていた
~ アイツもあの世界の「記憶」を持っている、それは間違いないかニコ? ~
あいりからのテレパシーにニコは静かに頷いた
中学校屋上で行われたマギカ・カルテットとの会談
その時にニコは固有魔法である「コネクト」を使い、気付かれないように美国織莉子に「接続した」
彼女の固有魔法「コネクト」
それは対象に気付かれることなく、魔法少女固有の魔法を使用したり対象の持つ記憶を覗くことが可能だ
「全知」の魔法少女「美国織莉子」
ニコが調べられる範囲でも、彼女はかなりの実力者だった
それは少女としてでも魔法少女としても、だ
彼女は同志である「呉キリカ」とともに見滝原で魔法少女の起こす事件を解決していた
この二人の手で、鬱屈した闇の中から光溢れる道に踏み出した人々は数多くいる
志を同じくする仲間としては十分過ぎるくらいだ
しかし、それを手離しで受け入れられるほど彼女は、いや彼女達は純真ではない
実際のところ、「救済者」の襲撃からあの夜に逃げ延びれたのは彼女一人だけ
織莉子がニコの母親ともいえる存在である「聖カンナ」と同じように、「救済者」と契約することで生き延びた可能性は否定はできないのだ
ならば実際に「見てみる」しかない
それを可能とする魔法はニコは既に持っている
彼女は「いつものように」織莉子に接続した
~ やっぱり・・・あちらさんも考えるのは同じか・・・・ ~
最初に見えたのは織莉子が呉キリカ、佐倉杏子の二人に神那ニコのあらましを伝えている場面だった
二人はニコが「コピー人間」であることを知り、案の定狼狽していた
ニコとしてはそのような事を気に病むことはもうない
かつてとは違い、全て納得づめでニコはこの世界にいる
寧ろ、消えゆくカンナの両親の命を救えたことに誇りすら持っている
~ 少し潜ってみるか・・・・ ~
あの夜での事件、光に包まれてユウリとあいりが退場させられた後、話の通りミチルとほむら、織莉子は散開して逃げた
それには何の嘘はなかった
織莉子が「救済者」と取引した事実なんてない
少なくとも彼女は嘘は言っていないことは確かだった
ニコがコネクトを解除しようとした時だ
~ 何・・・これ・・・ ~
荒廃した見滝原中学校
使い魔に喰われて死んだ生徒たち
胸を射抜かれた桃色の髪の少女
そして暁美ほむらの一撃で沈む織莉子
― 魔女化した魔法少女 ―
― 人を喰らう使い魔 ―
それが意味すること、それは・・・・
~ 彼女も「転生者」!!! ~
ニコがコネクトを解くと、織莉子が彼女を見ていた
そして、微かにその唇が動く
読唇術に詳しくないが、確実に織莉子はこう言っていた
― 今夜私の家に来て・・・・・ ―
叛逆の物語BD特典のファーストテイク
本編よりもこっちの方が好きなのは私だけ?