鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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ではでは投下


暗号

「暗号」、「符牒」、「ジャーゴン」、「業界用語」

 

これらは特定の身分や職業、集団に属する人間のみに意味が通用する言葉のことだ

使用する理由は様々

効率よく情報を伝達する手段としてだったり、単純に自分達の身内であるかどうかを判断したりだ

なかには、新人に自分が「プロ」であることを意識させるためにこういった言葉を使うように義務付けることもある

無論、実務的な意味以外にも「言葉として口に出すのは奥ゆかしくない」との理由で作られた作法も広い意味では暗号ともいえるだろう

例えば昔はシルクのハンカチは高級品であり、それに自分の名前を刺繍するのは普通のことだった

舞踏会の後、それに自分のつけているモノと同じ香水の匂いをつけて、意中の殿方の前で落して告白を催促することもある意味特定の階級に属する人間以外にはわからない暗号といえる

特異な符牒を用いた例として武器を符牒としたものがある

戦争の影が迫る第二次世界大戦前夜の上海や香港などでは、暴力団や胡散臭い宗教家に数多くの政治結社が影日向なく跳梁跋扈していた

そして結社に属する構成員は「指標武器」と呼ばれるモノを符牒替わりにしていた

 

九つに切った鉄棒をリングで接続した「九節鞭」

 

4フィートの鎖の先に先端を解いた短い紐を付けた「麒麟鞭」

 

両端を鋭く研ぎあげた針に回転するリングを付けた「峨嵋刺」

 

これらの暗器は見た目以上にかなり強力な武器であると同時に要求される武術型も難易度は高い

素人がちょっと見ただけでは完全にコピーするのは難しい

故に、武器を持たせて疑わしい構成員に武術型をさせれば、その人物が他の組織からのスパイかどうかを判断するのは簡単だ

実際の所、その当時の政治結社のバックに武術団体が居たのは事実

義和団事件の義和団も国を思う政治結社であると同時に様々な伝統的武術を教える武術団体でもであった

今日の高度に発達した情報化社会では、それらの用語は「用無し」になったと思われがちだが、実際の所は今も現場レベルで使われている

例えば、医療関係における「拾う」

これはドイツ語が元になっていて、その意味は「自分の当直で死人が出る」ということだ

理由は様々

組織の一員として認められたとか、飲み会や合コンで話の種にすることもあるだろう

無論、非合法組織では現役で使われている暗号もある

簡単なものは「タバコの吸い殻」を使ったものだ

詳しいことは組織のよって違うが、タバコの吸い殻の本数で大まかな時間を表しその残されたタバコの種類で細かな指示を与える

珍しい輸入たばこが三つ置かれていれば、「三時間後に輸入モノの取引をする」という意味になる

タバコの吸い殻なら街のどこにでもある

そんなものに関心を持つ人間なんてまずはいない

それが薬物や拳銃の取引の指示なんて、恐らくは公安ですら知りようがないだろう

街中を見てみるといい

電柱や古びた自動販売機

ただのタバコの吸い殻だと思ったら、観察すればある程度の規則性が見えてくることもある

しかし、それを弄るのはお勧めできないが・・・・・

日本の自衛隊、特に旧日本海軍の影響を強く残している海上自衛隊も戦時中のジャーゴンを残していると言われている

 

 

「黒崎さん・・・西の窓を開けておいてくれるかしら?」

 

美国家を守護する「ガード・メイド」の一人である、「黒崎綺麗」はわが耳を疑った

この言葉は彼らの使う古い符牒の一つだ

「西の窓」というのは月の沈む方角であることから、今日の夜更け過ぎに「来訪者」がこの邸宅に来ることを表わしている

そして「開けておいてくれ」というのは、その人物たちがこの邸宅に入ってきても「知らない」ことにして欲しいということ

明らかに、美国織莉子のような少女が使うべき言葉ではない

 

「ですが・・・・・!」

 

真のメイドならここはただ了解するだけでいい

いくら戦闘経験を持つガード・メイドであっても、その存在はあくまで主人に所有される「家具」であり「道具」だ

そこに意思を持ってはならない

指示に口を挟むなどもってのほかだ

しかしながら、美国家の長女である美国織莉子は聡明であっても所詮は「少女」だ

先程の符牒は「何があっても手出ししてはならない」という厳命でもある

つまりは「危険」があっても彼女を助けることができないのだ

 

「黒崎さん・・・貴方が私のことを思ってくれているのは痛いほど良くわかっているわ。でも、こればかりは私の指示に従って」

 

黒崎は先の戦いで、織莉子とその許嫁である「宇佐美真」を一人残して離脱することになってしまった

人ではない化け物

例え訓練された彼女が一命を賭してもその侵攻を暫し止める事しかないだろう

でも、戦いの為に存在するガード・メイドにとってはそれは誉れだ

 

「私は・・・・・・・」

 

黒崎は織莉子の瞳を見た

その瞳はエメラルド色の輝き、こう告げるようだった

 

~ 私は心配ないわ。安心して ~

 

「・・・・・・わかりました。他のメイドにも連絡しておきます」

 

「助かるわ。ありがとう黒崎さん」

 

窓の外の満月は高く美国邸を照らしていた

 

 




相変わらず、さやかのブレイクダンス変身に笑ってしまう・・・・

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