鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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では投下します


ガラス細工の涙

カオルがカンナを静かに見つめる

 

「アンタ・・・それ、本気で言っているの?」

 

「・・・・・・・ッ!」

 

カオルから投げかけられた言葉は正確にカンナの心を捉えていた

 

「私だって・・・・私だってニコと一緒にいたい!一緒に生きていきたい!!」

 

「なら・・・」

 

「じゃあどうすればいい?私がこの事をニコに話したら納得すると思う?きっと納得しないどころか・・・・・」

 

カンナの顔が歪む

彼女とニコとの関係はカオルが思うよりも深い

だからこそ彼女は・・・・・

 

「相手に喧嘩を売りに行くって?」

 

「そうだよ!!!そしたら・・アイツは・・・マコトは間違いなくニコを許さない。私は嫌なんだ!ニコが傷つくところを見たくないんだ!だから・・・・」

 

~ そうか・・・この娘も・・・ ~

 

「魔法少女」になれるのは「第二次性徴期の少女」が多い

無論、少年である「真」のような特殊な「例外」はある

「魔法少女」は既に「人ではない」

魂を「ソウルジェム」に移し替えられた身体は本人が思うよりも頑丈で、例えば生きたまま腸を引きずり出されたり、身体が燃え出すまで高圧電流を流されても、体内を流れる魔力が尽きない限り死ぬことはない

強い痛みをシャットアウトすればソウルジェムが濁ることもないのだ

おまけに魔力を四肢に流せば体力を異常に向上させることさえできる

精神を焼き尽くすような痛みを感じず、通常では再起不能となるような損傷を受けても身体を修復して戦闘を続行できる

そして弾丸や蒼白く光る刃ですら傷つけられない身体

言うなれば、薬物で痛覚を遮断し弾丸ですら傷つかない防弾アーマーをつけた超人兵士、大戦末期のナチスドイツや日本でも研究された「人間戦車」そのものだ

でも、それですら彼女達の前では赤子に等しい

 

「重戦車」のような少女

 

魔法少女を形容する言葉の一つだ

幸いなことは、この世界で魔法少女を兵器として「軍事利用」しようとしている国がいないことだが・・・

しかし

いくら強大な戦闘力を持っていても、「魔法少女」はあくまで少女だ

日々のテストや部活の結果に戦々恐々したり、気の置けない友人たちと笑い合い恋人や夢に想いを馳せる

カンナも「少女」だった

彼女の選んだ選択は最もベストな答えだったのだろう

なぜなら彼女一人の「犠牲」で植物人間だった両親を目覚めさせることができ、そして彼女の魂の同胞である「神那ニコ」から手を引かせることができたのだ

正義というものは人間一人一人によって大きく違う

 

「一握りの人間を必要な犠牲であると切り捨て、より多くの人間を救うこと」も

 

「全ての人間を救う為に自分一人を犠牲にすること」も

 

「世界を安定させる為に悪事に手に染めること」も

 

皆、「正義」だ

それを否定することは「悪」なのか?

否、それも「正義」だ

誰にも渡せない自分だけの「正義」だ

 

「アンタ、やっぱりニコを都合のいい人形だと思っているんだな」

 

「なんだと?もういっぺん言ってみろ!!!!!」

 

カンナが怒りを露わにする

 

「言ってやるよ!アンタはニコを裏切っているんだ!!!ニコの為とか言っても所詮は自己満足じゃないか!」

 

「黙れ・・・黙れ黙れ黙れ!!」

 

「黙らねぇーよ!!!一体全体何だ?眠りからやっと目覚めた家族で余生を楽しく楽しめだと?お前は何様のつもりだ!!!!!!!!」

 

力強くカオルは自らの言弾をカンナに撃ちこむ

 

「本当にニコを姉のように慕っているなら!こんな夢に溺れるなら!」

 

もう逃げない

 

「しっかり前を向いて立ち上がれ!!!!カンナァァァァァァ!!!!!!」

 

ガラスが砕けるような音をカオルは聞いた・・・・・

 

 

カオルの目の前には魔法少女としての姿をといた聖カンナが座っていた

その目は焦点を結ばず、何処か遠い場所を見ているようだった

そして両眼からは涙が止どめもなく流れ落ちている

 

「私は・・・・わたし・・・・」

 

譫言のように繰り返すカンナをカオルは強く抱きしめた

 

「カンナ・・・アンタのやったことを私は許せない・・・きっとニコも・・・・・。でも今のアンタはそれを帳消しにできる力を既に持っている・・・」

 

カンナがカオルを見つめる

 

「私も海香も里見もみらいもサキも、そして真も皆魔法少女でアンタの仲間だ。もし本当に此処を逃げ出してニコに謝まるなら私は、いや私達はアンタに力を貸す」

 

カオルが静かに息を整える

彼女にとって「魔法少女」は「厄災」そのものだった

ずっと続いていくように思えた日常をガラス細工のように粉砕してしまった

でも、何者かに魔法少女にされてその本質に触れた

彼女も人間で私も人間だ

そして・・・・・こうして手を携えることもできる

私は「死んでいない」

確かに魔法少女になるということは身体から魂を抜き出す事

そして抜き出された身体は魔力で動くだけの人形

でも、「そうじゃない」

この身体を巡る血も

自らの脳髄を走るパルスも

「人間」である証

人間の尊厳は「心」に宿る

ならば「魔法少女」は人間だ

此処にいるカンナもカオルも人間だ

明日に怯え

今日を生きる

「儚き人間」だ

カオルは全てを受け入れた

自らの運命を

 

「プレアデス聖団のみんなが!!!!!!!」

 

その宣誓は力強く響いた

 




スペース☆ダンディ

なかなか良質なSF回だったな
しかし寄生型エイリアンというと、「たった一つの冴えたやりかた」を思い出すな~

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