鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下


闇に降り立つ

聖カンナの身体はどこまでも流れていった

もうどれくらいの時間が経ったかはわからない

暖かくてずっとそのままでいてもよかったが、そろそろ「仕込み」をする必要がある

 

「そろそろいいかな・・・・」

 

黒い流れの中、カンナがゆっくりと身を起こす

念の為、自慢のレモン色の髪を触ってみるが、服も髪も濡れているようなことはなかった

普通ならもう少し取り乱してもおかしくない状況

しかし彼女はそんな状況に慣れているのか、取り乱すことはなかった

「魔法少女」として戦ってきた彼女にとっては、こういった状況は日常茶飯事

ニコとの旅の中で同じ魔法少女と戦ったことさえある

シカゴで出会った、「アンバークィーン」という魔法少女「のみ」の売春組織を率いていた「強欲」の魔法少女に目を付けられたときはいろいろと大変だった・・・・

 

~ あの時は二人とも少女卒業寸前になったけどね・・・ ~

 

無論、不埒者は即座にボコったがなぜか嬉しそうだったのが印象に残った

 

~ そういえば「ありがとうございます!ありがとうございます!」と連呼していたっけ ~

 

・・・・幾多の「死にそうな目」や「死にたくなるような目」にあったニコは即座にこの状況を把握する

「魔獣」は捕食の際に結界を張るが、曲がりくどいこのような複雑な結界を形成することはない

寧ろ「同業者」からの攻撃を疑うべきだ

この「世界」には同業者はない

それこそ、同じ魔法少女は彼女の姉である「聖ニコ」以外に見たことが無いのだ

そういう「条件」だから

彼女は全てを知っている

この世界の「カラクリ」も何もかもだ

だから・・・・・・

 

ギュッ

 

カンナが手を固く握る

この先にあるのは避けようのない「闘争」

お互いのゆずれない願いを賭けた本気の戦いだ

 

 

イドの闇

久遠の暗闇に包まれるその場所で一人の少女が立っていた

光無き場所であっても、彼女の夏の陽光を思わせる橙色の髪はハロウィンのジャックオーランタンのように目立っていた

 

「・・・・・・・」

 

彼女は静かに掌の上に乗せたソウルジェムを見る

太陽の光を結晶化させたような黄色の宝石

それは何処までも澄んで輝き、見つめる間にその魂すらも吸い込まれるように感じる

少女 ― 牧カオル ― はソウルジェムというものが恐ろしかった

生きている人間の魂を抜き出して生み出された「魂の宝石」

そして魂を抜き出された身体はただの肉の塊となり果てる

ただただ生きているかのように見せかけている

前に海香が話していた「哲学的ゾンビ」のようだ

もう死んでいるのに、生きているように振る舞う

笑いもするし悲しんむことさえできる

でも、私も海香も自分が「魔法少女」になる前と同じとははっきり言い切ることができないのだ

あの日、真が実演したようにリンクが途切れたらそれは「死」を意味する

それこそコンセントを抜かれるように・・・・・・

サキはどうか知らないが、私はミチルの後を追って魔法少女になる気なんてなかった

実際、ミチルもそれを望まずに私達と離れたのだ

私は海香と二人で楽しく過ごしていければいい

死に体になった「プレアデス聖団」なんて無くなればいい、そうとも思った

でも運命は残酷だ

海香は自分から「魔法少女」と関わりあった

思えば海香の旺盛な知識欲を考えれば、こうなる事なんて予想がついたはずだ

わかっている

 

「聖カンナ」と「神那ニコ」

 

二人には何の落ち度は無いし、それどころか海香と私を守ってもくれた

それに私達が「魔法少女」になったのは彼女達の所為ではない

海香のように学はなくともそれくらいわかる

あの日に魔法少女の「全て」を教えてくれた真は、怯えた里見から「化け物」と罵られても怒りを表すことはなかった

ただただ寂しげに笑うだけだ

それに私が夢の世界から脱出した時に八つ当たりで真に攻撃したときでさえ、私に本気で攻撃なんてしてこなかった

 

「いい人過ぎるよ・・・真・・」

 

真はいうなれば「魔法少女」の先輩だ

彼の身体にも「魂」はない

でも彼はそれを「悔やむこと」も「悲しむこと」も、「怒ること」さえもない

もっと感情をぶつけてほしい

もっと素直になってほしい

もっと・・・・・

カオルは一つ年下の真がわからなかった

「さやか」の話によれば魔法少女の多くがソウルジェムの秘密を知らない

真も魔法少女になった時はしらなかったはずだ

ならなんで、そこまで達観しているの?

なんで

なんで?

答えはわからず、その思考は堂々巡りを繰り返す

こんなことは海香にも相談できない

 

「・・・・・・・」

 

カオルのソウルジェムが光り輝く

太陽の光を思わせる陽光が彼女を包み込み、服が粒子となって消える

そして黄色いサマーパーカーのような衣服と手甲、頑丈なスパイクシューズを装着したカオルが立っていた

魔法少女「牧カオル」

望んで得た力ではない

でも、再び世界を取り戻すにはこの力が必要だ

 

カオルがゆっくりと呼吸を整える

呼吸は全ての動作の基本

身体の緊張をほぐし、力を蓄えることができる

そして流れる血潮が身体の隅々を流れるのをイメージする

戦いのイメージを

 

もしも

もしもだが、

この「世界」を脱出したら

そうしたらこの気持ちに答えはあるのだろうか?

 

 

 

 




さてとバイトバイト

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