~ あ・・・・れ・・・・? ~
何か吸い込まれるような不思議な感覚を感じて、聖カンナは目を覚ました
スキー合宿で身体を激しく動かした所為かいつもよりも寝つきは良かったと思う
思えば少し警戒した方がよかったのかもしれない
気が付けば彼女の身体は神話のステュクスの河を思わせる黒い流れに運ばれていた
彼女の周りを流れるソレは水のように冷たくはなく、今日入った温泉のように暖かく心地よかった
カンナは流れから手を空へむけた
手を見るとそれは確かに液体のようだが、服が濡れることもなく手に着いた黒い液体はそのままスルリと滑り落ちる
その感触はハロウィン等で慣れ親しんだスライムのようだ
~ ハロウィン・・・・か ~
カンナは彼女「達」から最愛の両親を奪った悪夢のことをを思い出した
血の海に沈む両親を見ながら、ただただその場に立ちすくむだけの自分を叱咤してくれた彼女だけの「守護天使」
彼女は聡明で、常に自分とそして「両親」が人生を幸せに生きてる未来を望んでいた
「神那ニコ」
何故ニコはそう名乗ったのか、以前に聞いたことがある
ニコは少し時間を置いて教えてくれた
~ だって「カンナ」が2個になったんだからね。ほら「カンナが2個カンナが2個・・・・・神那ニコってね ~
少し寂しそうにそう言う、私の「守護天使」
正直、私はその名前を言うのには抵抗があった
いくらニコ自身が名乗っていてもその意味を聞いた以上はしかたがない
だって、大切な彼女を「モノ」扱いにしているようだからだ
でも彼女は私にその名前を言うのを認めさせた
彼女はわかっていたのかもしれない
だって、ニコの身体は私の「願い」で作られたニセモノ ― 合成人間 ― なのだから・・・・
人間としての「戸籍」も無ければ「人権」もない
所詮は「紛い物」
確かにニコのその白い肌をホンの数ミリ切れば赤い血が滲むし、合成人間である彼女とてお腹がすいたら食事を摂るし夜になれば眠る
無論女性としてちゃんと「生理」も来る
何から何までニコは私と同じだった
流石に生理の周期も同じってわかった時はさすがにニコも私も苦笑いするしかなかったが・・・・
もしも
「もしも」だが、私が彼女と同じ「コピー人間」だとして、もしそれを知らずにずっと生きてきたら?
そして・・・・・何かの「偶然」で運悪くその事実を知ってしまったら?
きっと「私」にはそれを耐えられないだろう
何から何まで「人間」と同じ
流れる血も身体の隅々まで走るパルスも同じ
でも、コピー人間に「母」はない
愛なく生まれた、誰にも愛してもらえない哀れな「名前のない怪物」
所詮はディスカウントショップのおもちゃと同じ存在だ
それこそ「魔法少女」の力を悪用して全てを壊そうとしてしまうだろう
人も世界も自然から生まれたモノ、全てに敵意を持つ「魔女」のような化け物となり果てた未来もあったかもしれない
ニコは全てを受け入れて「合成人間」となった
それはギャングに撃たれた両親を二人とも助けるにはその方法しかなかった
私一人の願いでは両親の内、一人しか助けることができないとインキュベーターから言われた
ニコは私にある方法を教えてくれた
私がニコの現出を願えば「再生成」の魔法を手に入れることができる
それで両親を治し、ニコが全てを繋げる魔法で両親の魂を定着する
両親は「死ぬことはなかった」
でも代わりに永遠に目覚めることのない眠りについた
アイツはその両親を目覚めさせることを条件に私に接触してきた
彼女達「救済者」は全ての魔法少女を救うことを大願にしている
はじめはただの理想主義者だと私も思った
正直、そう言った手合いはニコとの旅路で見てきた
アメリカのソルトレイクにいた「教化」の魔法少女
白と黒の教父のような恰好をした背の高い少女
彼女は基幹宗教の何処とも違う独自の宗教を標榜していた
― 人界の為にその命を捧げた魔法少女に死の影が迫る時、女神が現れその少女を「いと高き至福の園」へ導く ―
魔法少女は神の代弁者であり、「円環の理」に導かれるのは少女を救済するため
そう彼女は説いていた
誰だって死ぬのは怖い
だからこそ、彼女は死を「救済」と置き換えることで彼女は少女達を救っていた
無論、彼女に異を唱えるものもいる
でも彼女の持つ「やすらぎ」の魔法はどんな酷い苦しみも痛みも消し去った
それは心の痛みすらも・・・・
私達は彼女達と一時期一緒にいた
それでわかったことがある
彼女とて弱い一人の「少女」だったと・・・・
見ていたのだ
彼女は最愛の妹が戦いの末に「円環の理」に導かれる瞬間を
彼女は言っていた
桃色の髪の白いドレスの女神が傷つき倒れた妹の手をとって光の向こうへと消える時、妹は笑っていた
生きる辛さも
戦いの苦しみも
全てを忘れた幸せに満ちた笑顔
それが「円環の理」の女神だった
希望を広め、明日に迷う魔法少女に生きる道を照らし出す
それが彼女が「教化」の魔法少女として生きる根源だった
別れる時、彼女は私を呼び止めた
― 貴方と「貴方」に女神の祝福を ―
悪いが私は彼女のような理想主義者ではない
だから「救済者」と契約した
これなら少なくとも両親は目覚めるし、ニコも魔法少女としての余生を両親と一緒に過ごせる
これ以上ない答えだ
でも・・・・・
「ニコと一緒に生きたかったな・・・・・・」
そう言うと彼女は目を閉じた
すずね☆マギカ
まさか「幻影旅団」の団長と同じタイプの魔法だったとは・・・・