鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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ではでは投下


道化の騎士

予想したようなトラブルもなく、「スキー合宿」は過ぎ去っていった

「カンナ」と「ニコ」がこの世界では「魔法少女」であるため、ありきたりでありがちな雪山での魔獣討伐といったイベントもなく、カンナとニコは極々普通の少女としてスキーを楽しんだ

途中、ニコがアメリカ仕込みのスノーボードを披露し、それを見たカオルが慣れないスノーボードに挑戦するといったこともあったが、それはこの「世界」でカオルに与えられた役割

カオル自身はトリックはできないがそれなりにスノーボード経験がある

しかし、カオルはそれを隠しワザと失敗してみせて「道化」に徹した

この世界望まれる役割

それを「理解」しているカオルはその役割を「演じた」

そしてそんな彼女に付き合うのが「聖ニコ」

自然な形でカンナとニコとの関係を切り離すことができた

無論、カンナはカオルと海香の密約やカオルの想い、そんなことなど全く知らず「穏やかで幸せな」この世界を楽しんでいた

 

 

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!生き返るぅぅゥゥゥゥゥ!!!!」

 

「ちょっと!カオル前隠せよ!!」

 

ニコが湯船で大股開きでくつろぐカオルを窘める

 

「そぉかな~~~~」

 

サワサワ・・・・

 

海香がカオルの下腹部に生えかけの「ヘアー」を撫でる

 

「ヒィッ!」

 

同性異性限らずにセクハラをする「アルティメット変態少女」

それが海香に与えられた「役割」だ

そう、彼女は「演じている」だけなのだ

・・・・・・多分

 

「ぐへへ・・・ニコもカンナちゃんの下の毛って金色だったのねぇ~~~~双子でも髪質はおなじなのかにゃ~~~?」

 

手を妖しく動かしながらニコとカンナに迫る変態少女海香

「演技」としたら大女優級だ

 

「ケ○リンアタック!!!!」

 

コィーン!!

 

日本の銭湯の風物詩「ケ○リン」の風呂桶

それを使ってのアタックになすすべもなく撃沈する海香

頭に拳大のたんこぶを作って伸びる海香の身体を見ながらカンナが一言

 

「・・・・・海香ってパイパンなのね」

 

海香が「剃って」いるのか、それとも「生えて」いないのか

それは神のみぞ知る・・・・・

 

 

宿泊先の宿に備え付けられた露天風呂で冷え切った身体を三人は温めていた

この感触はあくまで「実体」のないモノ

頭脳に蓄積された記憶を引き出して「現実感」を出している

暖かな温泉で温められた血液が、ツメの先まで行き渡る感覚も所詮は「作られたモノ」だ

「夢の牢獄」ではカンナ自身の願望をトレースされた形で全てが成り立っている

この世界に「彼女」を脅かすものはいない

カンナとニコは日々夜の闇にまぎれ「魔法少女」として敵である「魔獣」と戦っている

しかしそれはあくまで彼女の望む舞台

カンナとニコが魔法少女である為に必要となる「疑似的な脅威」

ホラー映画やサスペンス映画における「アトモスフィア」だ

いうなればこの世界の「魔獣」は魔獣の姿をした張りぼて

それっぽい動きをしてみせるが実際の被害者はいない

誰も傷つかずただ怖がらせるだけ

それこそ子供向けのアニメに出てくる悪役のようなものだ

日曜朝のアニメに出てくるようなモブには人格はなく、ただ怖がらせるだけならはなから脅威なんてない

目覚めた両親と自分の魂を分けた「姉妹」と幸福に過ごす

誰も欠けずにずっと終わらない世界

与えられる試練もなく、ただただ萎びていくだけ

それは果たして幸福なのだろうか?

苦しみもなくただそこにいるだけの生

「切り花」と同じく「死んでいる」

生きる意志に痛みは必要だ

無邪気に温泉を楽しむカンナとニコとを見ながら、カオルは一人思索に耽る

・・・・・「おっぴろげ」で気絶する海香はこの際忘れて

 

敵の手によってカオルに与えられた「夢の世界」は彼女が天才アスリートとして成功した世界

彼女は「表の世界」でもそれなりに名の知れた女子サッカー選手だが、この世界では更に名声を得ていた

テレビで眺めるだけの有名プレーヤーが彼女の練習を見てくれたり、トレーニングに参加してくれた

夢にまで見た世界の選手にだ

「夢の世界」に不可能はない

彼女もそれに疑問を感じず「溺れていた」

でも、夢というものはいずれ醒めるもの

彼女の元にも「真」が訪れた

カオルは夢から覚めた時に怒りをぶつけたが、今は目覚めさせたくれた「真」に感謝している

真はカオルに語りかけた

サッカーをするのは名声が欲しいだけ?

違う

私はただサッカーが楽しかった

面白かった

だからずっとやってきた

この思いは・・・・・・

 

「嘘じゃない!!!!」

 

絶対に譲れない想いを得た彼女に偽りの「夢の世界」は必要無かった

 

 

「カオル?!」

 

見ると海香がカオルの肩を揺すっていた

 

「え?!」

 

「湯当たりしたの?急に話しかけても返事してくれないし・・・・」

 

見るとカオルと海香の二人しか露天風呂に居なかった

恐らくは二人はもう部屋に入ったのだろう

今夜はカンナとニコは別々の部屋に寝ることになっている

ラインを繋げるには今日しかない

 

「わかっているよ海香・・・・」

 

偽りの幸福なんて選ばない

真もプレアデス聖団の皆も必死に牢獄からの脱出方法を探している

覚悟を決めるのは今

 

「もう、悩まない」

 

 

 

 

 

 

 

 




外人が下の毛を剃っているのって、体臭予防だそうです

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