鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下


闇の仔

少女のサーベルはゆまの奥底まで突き刺さった

彼女の身体に射し込まれた刀身、それはまるで氷のようだった

安物の犯罪小説や似非ハードボイルドなどで描写されるような焼け付くような痛みもなく、ただただ自分の中の「何か」が溢れていくような感覚が支配する

そして・・・・

 

「あ・・・・・・・」

 

視界全てが黒い靄に包まれていく

もう何もわからなくなった

身体が凍えるような寒さと共にゆまは目を閉じた

 

 

~ あ・・・れ・・・・・ ~

 

ゆまが目を覚ますと、彼女はみすぼらしいアパートの一室にいた

すぐさま、彼女が自らの身体に触る

何処も刺されたような箇所はない

ではここは?

ゆまが周りを見ると、ヤニが溜まって黒く変色したクリスタルと思しき灰皿には安物のシガレットが山積みになって、吐き気を感じるような悪臭を放っている

床にはおおよそ子供の目に触れるべきものではない種類の週刊誌が投げ捨てられ、足の踏み場のない

 

~ ここは・・・・・ ~

 

ゆまにとってその場所に見覚えがあった

「テレビ」や「映画」で見たとか、そういったものではない

此処は・・・

 

~ 私の家だ ~

 

ゆまがカレンダーを見る

その日付は一年前のもの

そして・・・・

 

~ 今日・・・・・・私は織莉子お姉ちゃんの妹になったんだ ~

 

アパートの奥

窓から離れ、出入口からは見えない死角になっている場所で何か柔らかいモノを殴りつける音が聞こえる

それがなんなのか、彼女はその正体を知っている

そこには髪を派手な色に染め、顏にピアスをした男が幼気な少女を殴りつけている

 

「なんだと!この餓鬼!!!!!俺がウソついてるというのか?」

 

「ゆま、言った通りに鞄を持っていたよ」

 

「じゃあなんだ?なんで財布の中の金がタリネェんだよ!」

 

~ グッ!!!!!! ~

 

彼女 ― 美国ゆま ― がその男を殴りつけようとするが、その拳は男の身体をすり抜けてしまった

 

「出てけよ!!!このクズ!!!!」

 

「・・・・・はい・・・」

 

少女がとぼとぼと玄関へと向かう

もう瞳に希望の光はない

自由もない

ただただ、あの男の言いなりになるしかない

 

~ 畜生・・・・・! ~

 

ゆまが拳を握りしめる

でもそれを振り下ろす相手はいない

声を出してもそれが周りの人間を呼ぶこともできない

ただ「見ている」だけしかできない

ゆまが「少女」の後を追う

それだけだ

今の彼女にできることはそれしかないのだ

全てを知ること

それで何が変わるかなんてわからない

でも知らないければ何も始まらないのだ

 

~ 確かあの子はこのあたりに・・・・・! ~

 

家から少し離れたうらびれた公園

周りには遊具で遊ぶ子供達も、談笑する子供の親達もいない

錆びついたブランコは風に揺られギィギィと啼いていて、その傍らのスプリング式の木馬には張り紙― 管理不備により使用不可 ― で封印され使用できなくなっている

それどころか、清掃も行き渡っていないのかタバコの吸い殻が至る所に散乱していた

明らかに子供が遊べる環境ではない

その遊具の影

一人の少女が蹲っていた

 

「う・・うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 

彼女は泣いていた

大声で助けを求めていた

でも誰も助けることはない

民生委員でも人

厄介事にはしたくない

それで虐待を受けた子供が死んだら、悲愴な表情で嗚咽を漏らしながらその場で「ごめんなさい○○ちゃん」とでも言えばいい

どうせ一週間でも立てば誰も文句は言わない

警官も同じ

連続殺人事件が話題になるが、これは犯人が狡猾だったわけではない

ただ単に警官がめんどくさかっただけなのだ

きっと彼女がこのまま虐待を受け続ければ死ぬだろう

その時だった

 

『どうしたんだい?』

 

~ ?! ~

 

白い、猫のようにもウサギのようにも見える生き物がゆまを見ていた

そのピンク色の瞳はガラス玉のようにも見えそこからは感情というものが抜け落ちていた

 

「あなたは・・・?」

 

『やぁボクはキュウベェ。君の名前は?』

 

「私は千歳ゆまだよ・・・・」

 

柔らかい声

その生き物がどんなに可愛らしい姿であっても、それが人語を解する時点で異形であることは変わらない

それがことさら不安を煽る

 

『ゆまだね。キミは何で泣いていたんだい?』

 

純真な少女はその生き物の存在に不信感を抱くことなく、これまでのことを全て話した

理不尽な理由で殴られる日々

今回も結局はパチンコ屋で財布の中身を見ずに両替したから金額が合わなくなっている

彼女が預けられた鞄の中を弄ることなんて考えたことなんてない

それでも彼女は殴られた

殴る理由になっただけだ

それもパチンコで大負けした腹いせにだ

 

『そうかい。だったら、ボクならキミの力になれるよ』

 

「本当?」

 

『ボクはどんな願いでも一つだけ叶えられるんだよ。でも・・・・』

 

「でも?」

 

『願いを叶える代わりに魔法少女になって魔獣と戦わなければいけない』

 

戦う

その言葉を聞いた瞬間、少女の顔が強張る

 

『でもどんな願いでも叶えられるよ。食べきれないほどのお菓子でも、使い切れないほどのお金でも・・・・・優しい家族でもね』

 

「ねぇキュウベェ・・・・それって」

 

もう美国ゆまは少女が何を言おうとしているかわかった

わかってしまった

喉を枯らしても叫ぶ

でもその叫びは届かなかった

 

「お父さんとお母さんにゆまの苦しみを分かってほしい」

 

ゆまが最後に見たのは

見慣れない服を着た少女が公園に一人立っている姿だった

 

 

 

 

 

 

 

 




パチンコやパチスロってなんでヤル奴がいるんだろうね?
所詮は機械仕掛けの出来レース、公平さなんて全くないってのに

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