鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

263 / 322
ではでは投下します


陸の魚

最初に海香と一緒にカンナの夢の中に入って数週間ほど経った

とはいっても、夢の中だから時間なんてあくまで感覚的なモノだ

実際、ずっとカンナの夢に入っていたわけではない

海香とカオル

それぞれの夢の中で自分の役を演じながら、こうしてカンナの夢に侵入している

始めの頃は不快感を感じるしかなかった投射だが、彼女達もその感覚に慣れてきた

彼女達自身も「夢の牢獄」に囚われている為、現実世界ではどれくらいの時間が経っているかはわからない

カオルは傍らの少女 ― 御崎海香 ― を見つめる

普段と変わらない冷静な瞳

しかし、カオルにはわかっている

海香が焦っていることに

ある日のことだ

 

― 実は私達は知らず知らずに10年以上経っていたりして ―

 

SFや幻想小説ではありふれた舞台設定

いつもの海香なら、聞きもしないのにながながと講釈してくれるはずだった

正直、カオルは海香を怯えさせるつもりなんてなかった

でも・・・・・・

今でも忘れない

青ざめた表情の海香

誓って言う、本当に冗談のつもりだった

でも海香にはそれが冗談に聞こえなかったようだ

 

小説家というのは競争、常に走り続けなければ忘れ去られてしまう

 

これは海香が常々言っていた

特に娯楽小説の最たるものである「ライトノベル」は特にその点が顕著だ

流行をいち早く察知して、それに見合う小説を書き上げる

例えば、どこぞのエロ漫画崩れがネットで書いたデスゲームもののライトノベルが人気になると、有名どころからニート崩れなど多くの作家がデスゲームものの小説を書き、その流行に追随した

メタ・フィクションを利用した推理トリックを使用した意欲的で面白い物もあれば、ただ単にモンスターに凌辱される等性描写を多用したり、扇情的なイラストで若い特定の読者を釣り上げるだけで、内容は何処かで見たようなストーリーがおざなりなものも山ほどある

 

「全てのものの90パーセントはカスである」

 

あるSF小説家がSFコンベンションの檀上で言った言葉

それは事実だ

自分がその残りの10%になれるかなれないのか、それは誰もわからない

それは小説を書いた作家とて同じ

 

「クリエーターとは加工業」

 

海香がよく言っている

作家にもいろいろなタイプがある

ひたすら自分の好きな分野のみを書く者もいれば、その時々の時流を読んで様々な分野の小説を書き捨てて利益を得る者もいる

だからこそ、小説家は様々な事に挑戦し様々な情報を得なければならない

海香はどちらかというと前者だ

自分の好きな小説

自分の好きなジャンル

それのみを書き続けている

そして世間はそれを受け入れてくれている

でも、いずれは誰にも見向きもされなくなるのではないか?

海香は恐れた

自分が自分の小説が「世界」から忘れ去れることを・・・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

海香は静かに前を見ていた

彼女の進む道はカオルの目指すアスリートよりも過酷で苛烈だ

自分に非がなくとも大衆は冷徹に審判を下す

「飽きられる」

「叩かれる」

「使い捨てられる」

中には内容より人格を攻撃することに悦びを見出すような人間もいるだろう

わざわざ作者が「注意書き」を掲げているのに、「読まなきゃよかった」と罵詈雑言を吐く人間は何処にでもいる

そして、他人を追い落とすことでその人間よりも上の人間であると優越感に浸るような人間もいるに違いない

「努力」が「努力」として認められるスポーツとはわけが違う

そこに守られるべき「ルール」なんてない

痛み、苦しみ、恨み、嫉妬、

人の世の醜い感情が渦巻いている

海香はその時々の流行に左右されるコバンザメのような生き方を選ばなかった

自分の納得する作品を書き続ける

だから何よりもこの世界からの脱出を望んでいる

早く「世界」に戻って、再び競走に参加しなければならない

これが海香の行動の奥底にあった

ずっと走り続ける人生

その過酷さにカオルは同情を感じざるをえなかった

 

 

夜の街

幸いなことにカンナの夢はあすなろ市そのままだった

もし、カンナの故郷であるアメリカなどだったら、海香の計画は初っ端から躓いたことになってしまう

だから普通に隣人として海香とカオルが「存在」している

その役割は・・・・・・

 

「ぐへへ~カンナたんは何時もの黒パンかにゃ~~~~~~」

 

~ 何してんの私・・・・・・ ~

 

この世界の「御崎海香」は聖カンナを同性であることをいいことにセクハラしまくる「変態少女」としての役割が与えられていた

そして・・・

 

「妄想断絶ニコキック!!!!!!」

 

綺麗なフォームのドロップキックが海香を吹っ飛ばす

 

「ニコ!」

 

カンナが同じ顔の少女に駆け寄る

 

「この変態が!」

 

なおも海香を足蹴にするニコ

でも・・・

 

「ニコちゃんのおみ足すべすべ~~~~」

 

恍惚の表情でニコの足に頬ずりする海香

その姿たるや、変態そのものである

しかし、与えられた役を演じながらも彼女は静かに状況を精査していた

 

~ ・・・・・・・・ ~

 

静かにカンナとニコを見る

ここはカンナの夢の世界

彼女は望んだ

自分の片割れであるニコと一緒に居られる世界を

 

~ 根は深そうね・・・・・ ~

 

彼女は見抜いていた

二人が「共依存」の関係であると

 

 

 

 




90年代に流行ったラノベ作家って今何してんだろ・・・・・・

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。