鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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ではでは投下


チェス盤上の女王

 

「・・・・・・・」

 

アンゼリカ・ベアーズ一階 集会場

 

金色の巻き毛の少女 ― 巴マミ ― は静かに周りを見る

油汚れの染み付いた青いツナギを着たポニーテールの少女と動きやすいブラックレザーのショートパンツを履いた少女

この二人のことは既に知っている

微かにオイルの臭いがするポニーテールの少女はこのアンゼリカ・ベアーズ地下のラボ、その全ての機器の管理・運営を任されている「秦愛華」だ

そしてブラックレザーのショートパンツを履いた少女の名前は「水華ジュ二」、彼女とは真琴に紹介された時の一度しか見たことはない

 

~ でも・・・・・・・ ~

 

しかし、見れば見るほどジュ二はある少女によく「似ていた」

ここあすなろ市で活動しているはずの魔法少女「和紗ミチル」に

マミとミチルの関係は、マミの知り合いの劇団のピンチヒッターとして呼ばれた真さんや佐倉さんがあすなろ市で一時期劇団に所属していた頃に彼女と出会ったことがきっかけだった

聞けば彼女の他に二人の魔法少女しかなく、彼女の戦い方も全くの自己流だということだった

そこで見滝原で魔法少女としての「研修」をしてみることになった

彼女に戦いを教えた師匠はおらず、ミチルさんは魔法少女になったばかりだと言っていたが、彼女の動きや魔力の使い方は戦闘技術にもとづいた熟練した魔法少女のそれだった

料理が上手くて、それなりに社交性もあった

でも、彼女には私にも見せない「顔」を隠しているように思えて仕方がなかった

それを無防備に表に出すことはなかったが、恐らくは間違いないだろう

私にそれを見せる機会はついぞ訪れることはなかったのだが・・・・

私はジュ二を静かに観察する

無論、ジュ二に気付かれないようにしながらだが・・・・

背丈も同じ

特徴的なガーネットのような真紅の瞳

髪の色は違うが、そこさえ同じだったら恐らく和紗ミチル、その人としか思えないだろう

此処にいるのはマミと件の二人だけではない

見たことのない少女が一人同席していた

少しくすんだ金色の髪

背丈は私よりも若干低い

彼女はあからさまに私を警戒していた

恐らくは魔法少女としての技量はそれほどではないと判断して間違いない

現に彼女の立ち位置は入り口側

この場を離脱することや救援を即座に呼ぶには最高の位置だ

それに彼女はあまりにも自分の感情を表に出し過ぎている

これでは「腹芸」などできはしないだろう

無論、魔法少女の実力はそれだけで決まる理由ではない

個々の願いによる「固有魔法」も実力の内だ

安易に直接的な戦闘能力のみで実力を判断するのは早計

彼女自身の戦力は全く脅威ではないが、しかし固有魔法がハッキリしない以上混戦では明らかに厄介だ

それは敵であっても味方であっても

自分自身の感情をコントロールできない人物は常に火種になりやすい

「真琴」は何故彼女を?

彼女の戦術は読めない

マミは静かに目を瞑った

思い出すのは昨日の午後

彼女は真琴とチェスを楽しんでいた

 

 

見慣れたホテルのスィートルーム

もうマミの自室と言ってよかった

食事も、ルームサービスで摂るし、他の時間では真琴と一緒にアンゼリカ・ベアーズに居ることもある

その日は、部屋に備え付けてあるピューター製のチェスセットの前でマミは真琴とチェスの対戦をしていた

あまり使われた形跡がないことから、ホテル側はこれをインテリアとして扱っているようだ

でも、真琴はお構いなしにそれをテーブルに置いた

マミは少し退屈していた

テレビやインターネット環境も整っていたが、今のマミはそのどちらも楽しむ気にならなかった

「ジュウべェ」がいれば外に出ても問題ない

でも、もし「マギカ・カルテット」の皆に出会ってしまったら?

彼女達は私を決して許さないだろう

それが、彼女をこのスィートルームから出させなかった

だからなのか、時折真琴が訪れるようになった

 

「・・・・・追い込まれてるわよ?」

 

盤上では明らかに劣勢なのは真琴の方だ

しかし、顔色が悪いのはマミだった

彼女達が楽しんでいるのはルージング・チェス、別名はギブアウェイ・チェス、ミゼール・チェスとも呼ばれ、キングを含めてすべての駒を相手に取らせると勝ちになるというルールだ

取れる駒がある場合は、絶対に取らなくてはいけないし、ポーンがキングに変わってもいいという特殊なルールだ

相手に駒を取らせずに相手の王を獲るのが通常のチェスだが、これは逆に敵に自分の駒を敵に獲らせなければならない

そのルールの逆転にマミは手こずっていた

既に真琴はクィーンとビショップをマミに獲らせている

真琴はポーンをキングに変えてはいるが、その移動距離は狭い

マミはポーン全てを失ってしまっている

これでは既に負けが負けが決まったようなものだった

 

「投了だわ」

 

マミは静かに宣言した

 

「ルールが変われば全てが変わる・・・・・それは全てに当てはまる」

 

「え?」

 

「明日の午後、会議を開くわ。そこで貴方に全てを教えてあげる」

 

マミにとってそれは願っていたことだ

でも

でもなぜこんなにも不安なんだろうか?

 

「ルールが変わる瞬間を見せてあげる」

 

真琴は口元を隠し笑顔を見せた

 

 

 

 

 




タツノコを日テレが買収
これってクラウズがヒットしたからなのかな?

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