鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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では投下


境界線

 

暖かな微睡の中、懐かしい声が聞こえる・・・・・

 

― ねぇ・・・・ねぇって・・・・ ―

 

懐かしい声が僕の名を呼ぶ

あの日、結界の中で魔獣に喰われそうになっていた僕を助けて出してくれた「ヒーロー」

風に翻る白いマント

光り輝く剣を手にした少女

彼女は自分よりも強大な魔獣にも臆せず戦った

そして・・・・

 

「立てる?」

 

屈んで白い手袋に包まれた手を差し出してくれた「ヒーロー」

彼女は微笑んでいた

その後はあまり覚えていない

彼女と言葉を交わしたことはおぼろげに覚えているが、正直会話になっていなかったと思う

実際、僕は彼女の微笑みの虜になってしまっていた

それでも僕は麻痺した意識の中で何とか彼女の名前を聞かなければと、勇気を振り絞った

去り際に「ヒーロー」は名乗ってくれなかった

けれど、僕はこの時に決心した

彼女は何も簡単に巨人を倒したわけではない

巨人の拳を喰らうこともあれば、モザイクのように相貌の見えない頭部からの光線で焼かれることもあった

でも、彼女は逃げずに戦い続けた

たった一人の少年

それも絶望に魅入られた少年を一人助ける為だけに目の前の少女は戦った

痛々しくも凛々しい彼女の姿を見て・・・・・・・

僕は・・・・

彼女の痛みを引き受けて、共に戦いたいとインキュベーターに願った

願いは叶った

でも、僕が願いを叶えた時には既に「ヒーロー」は戦いの果てにこの世に居なかったけど・・・・

 

「もぅたら!!!」

 

薔薇色の頬を膨らませ、短く切られた水色の髪が揺れた

 

「さやかさんゴメン。ついボーとしてて・・・・」

 

僕は「いつものように」笑顔の仮面をつけ、目の前の「アバタ―」に微笑んだ

 

 

ここは真の住んでいる本宅に併設された別館

今日は休日

特に何の用事も無かった為、この世界では恋人という「設定」の美樹さやかと一緒に過ごしていた

 

~ ・・・・・・ ~

 

真がさやかを見る

彼が「本物」の彼女と実際に出会ったのは、魔獣の結界での邂逅一回きりだ

確かに今、真の中には織莉子の手で移植された「美樹さやか」の記憶が息づいている

しかし・・・・

 

~ 本当に生きているみたいだ・・・・ ~

 

この「夢の牢獄」は対象の願いや欲望をトレースして、対象にとっての理想の世界を構築して「夢」に縛りつける

そうして「魔法少女」であった時の記憶を塗りつぶしていく・・・・・

目の前のさやかは真の記憶を抽出して再現されている

つまりは真にとっての「理想」、そのものだ

そして・・・・

 

~ 思い直すと結構恥ずかしいな ~

 

彼の秘めたる思い

自分でも知らない、いや・・・知りたくない浅ましい欲望

いくら気の迷いとか吊り橋効果だとか、それらしく説明できる言葉を並べ立てても彼がその思いを抱いたことは変わらない

 

― 痛みを引き受け共に戦いたい ―

 

この言葉に隠された思い

それは彼を救ったヒーロである「美樹さやか」と恋人になること

夢の牢獄はそれぞれの願望が反映される

囚われたプレアデス聖団の皆もそれぞれの願いに溺れていた

それは彼も例外ではない

 

 

 

「・・・・・無理してない?」

 

「そんなことはない・・・・と言いたいけど、最近少し遅くまで勉強しててね」

 

ありふれた当たり障りのない「アバタ―」との会話

「魔法少女」という、戦いの日常から解放された日々

真には決して戻ってこない平和な日常

彼がインキュベーターと契約しなければ、多少の違いこそあれこのような日々だったのかもしれない

真は目を閉じた

「魔法少女」になって以来、付き合いも同じ魔法少女たちばかりだ

彼とて、学校で友達と馬鹿な話をしたりしたい

でも・・・・・

「魔法少女」となることを決めた以上、そのようなこととは決別したつもりだっ

しかし、予想以上にこの世界は居心地が良かった

本当はこんなことをしているヒマなんてない

一刻も早くゆまちゃんを起こして、この世界から抜け出さなければ・・・・

 

「ねぇ聞いてる!!!」

 

振り向くと、さやかの顔が真の正面にあった

 

「?!」

 

彼の唇に感じる柔らかさと温かさ

それは彼に不思議な感覚を与えていた

 

「へっへ~奪っちゃった~~~~」

 

「えっ・・・・・・」

 

咄嗟に唇を押さえる

 

「何がハトが豆鉄砲で蜂の巣のようにされたような顔をして!」

 

「でも・・でも・・・・」

 

さやかが更に顏を近づけてくる

 

「キスしたのがショック?」

 

ブルーホールのように吸い込まれそうな瞳で真を見つめる

不意に真の両腕が彼女の肩を掴んだ

さやかを引き寄せ、顏を近づける

そして・・・・・

 

「ちょ~~~とタンマ!!!!」

 

「へ?!」

 

さやかの声に真は我に返った

抱き寄せて

顔を近づけて

そして・・・・

 

「lくおんじぇいうあじょいえうぁういえlふぃう!!!!!」

 

クトゥルフの真名の如く、おおよそ人間には発音不能な文言を叫びさやかから離れる真

 

「ええっと・・・・」

 

さやかの次の言葉が真を打ち砕いた

 

「真も男の子なんだから~」

 

パキーン!!!

 

「やばいやばい!!!!!やばいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

魔法少女にもなれる少年 宇佐美真

生まれて初めて「雄」に目覚めそうになった

 

~ 早く脱出せねば・・・・・僕の精神は持たない!!!マジで! ~

 

彼の心の叫びを聞くものはいない・・・・

 

 

 




今日マジ寒い
ったく、明日からまた仕事だよ・・・・

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