ドンドン!!
「ゆま!朝だよ!!」
白い家
その一室にエプロンを付けた一人の少年が立っていた
低い背格好と短く切り揃えられた柔らかな灰色の髪
そしてややハスキーな声
変声期はまだなのだろう
聞きようによっては女性の声にも聞こえる
もし、彼に女性の象徴たる乳房があればそのまま女性として通用するであろう姿
それが、この美国家の「長男」である「美国真」だった
「朝からうるさいよお兄ちゃん!!!ホントデリカシーが無いんだから!!」
少女らしい丸味を帯びた身体
白い脚がクィーンサイズのベットから伸びる
「ったく、こっちは寝不足だってのに・・・・・」
バサッ
「っっっっゆま!また下着だけで寝て!!!!!」
ゆまと呼ばれた少女の身を飾るのは、寝間着ではなく下着のみ
下品にならないようにレースを施した純白のショーツとブラのみだった
年ごろの少年なら、彼女の姿でそれなりにドギマギするだろうが、真とゆまは兄妹
特に、彼女のずぼらさは筋金入りだ
以前なんかは、風呂から上がったらそのまま全裸でリビングを闊歩していたことさえある
「だってよー、夜にパジャマに着替えるのがメンドくさくて・・・・」
「ったく、姉さんみたいに慎みをだね・・・・」
ゆまの言う「姉さん」とはこの美国家の長女である「美国織莉子」のことだ
中学を卒業した現在、彼女は父親である「久臣」のススメで海外留学している
彼女はこの美国家の長女であり、当主代理である
気品があり聡明
それでいて、古流柔術の技を修得した麗人であり「文武両道」とは彼女の為にあるといっていい
「ま~た始まったよ、兄ちゃんの救い難いシスコン。ったく、中学一年生のまさに食べ頃の妹が下着姿でいるのにな~何ならアソコが透けているパンツでも穿こうか?」
そう言うとゆまはわざと足を開いて見せたりするが、真も慣れたものでそんなことに同時たりはしない
「悪いけど、一っこ下の実の妹に欲情するようなド変態思考は持っていない!」
真が毅然と否定する
「ふーん?その割にはリビングから豪勢な匂いがするけど?今日の朝ごはんはちょっと頑張っちゃったとか?」
ニヤニヤ笑いながらゆまが近づく
「それはだね・・・その今日は織莉子ねぇさんが帰ってきているからで・・・・ボクとしては兄妹姉妹全員が揃っているから・・・」
頬を染めつつ説明するが、しどろもどろになる真
兄の真の憧れの人が実の姉である織莉子であることをゆまは知っている
だからこそ、彼女が帰ってきているから兄は普段よりも奮発して料理を準備したのだ
いつもそうだ
誰よりも家族を大切に思う頑張り屋の兄
いつもだって妹を心配してこうして起こしに来てくれるし、朝ごはんも用意してくれている
義務ではない
美国家の長男として家族をまとめようと日々頑張っているのだ
その様子にゆまは言いようのない感情を感じる
~ かわいい・・・・・か・わ・い・い!!!!!! ~
そして・・・
「かわいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
ルパンダイブ
「ヒィィィィィィ!!!!」
瞬時に間合いを詰めたゆまが真を抱きしめる
無論、下着姿で
下着姿で
とても大事な事なので二回言いました
「かわいい!かわいい!中学2年にもなってボクって言っていることがかわいい!エプロンかわいい!!!くんか!くんか!!!!」
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「げへへ~~~~!このまま全裸に剥いて裸エプロンにしたる!」
「いやぁぁっぁぁぁ!!」
通常は男性である真の方が体力があり、ゆまを振りほどいて逃げ出すことくらい可能なはずだが、正面から抱きつき、相手の体を足でくわえ込みロックする体勢、所謂「だいしゅきホールド」でがっちりと固められている
おまけに真の股間とゆまの股間が当たる位置でホールドされている為、下手に動くことはある意味「死」を意味する
「くんか!くんか!」
ゆまが真のエプロンに顔を埋め、変態親父の様に匂いを嗅ぐ
~ 何とかしなければ・・・・!もし今の姿を見られたら・・・・・!!!! ~
間違いなく「社会的」な「死」が待っている
「駄目だよゆま!こんな姿を誰かに見られたら・・・・・・」
「見られてもいいじゃない!!!!」
ゆまが真のシャツに手を掛けようとする
その時だった
「見られたら・・・・どうなるのかしら?」
「「へ?」」
ゆまと真の声が重なる
二人の目の前には白い寝間着
白銀の豪奢な髪
そしてエメラルド色の瞳
美国家の「家長代理」であり、真とゆまの姉である「美国織莉子」が立っていた
「真、ゆま。・・・・・今日はゆっくり寝させてって言っていたよね?」
聞くものを凍えさせるような、織莉子の声が響く
「・・・・・お話しましょうか?」
「ボクは・・・朝食の準備を・・・」
真が逃げようとするが、その首元を織莉子が掴む
「私は言ったよね?兄として、ゆまを教育しなさいと・・・・?」
織莉子の声は淡々と処刑を告げる死刑執行人の声にも似て、それは真に絶望を運んでいた
「さて、朝ごはんにしましょうか?」
「「ヴァ・・・・・・・」」
灰になった二人がそこに骸のように座っていた
シリアスは疲れる・・・・・