鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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アイソン彗星、蒸発しましたね・・・・

文中の彗星が原因で集団自殺したカルトと言うのは、実際に起きた事件だったりします


「凍り」の魔法少女

カルフォルニア

太陽の陽気に溢れるこの地も、その裏には汚れた暗い闇を奥底に孕んでいる

いくら行政が銃器の弾数制限や銃の所持に規制を行っても、アンダーグラウンドの住人達の手には依然として強力なタクティカルライフルや多弾数のピストルが握られている

そして大人の勝手な事情で不運に見舞われる子供達も多くいる

彼女もその一人だった

 

― アレン・クリスト ―

 

母親がキリスト系のカルト組織に属し、その教義の一環で「生んだ」子供、それが彼女だ

彼女も、そして彼女の母親も父親が誰であるのか知らない

でも母親はそんなことはどうでもよかった

決められた日時で、決められた場所で生まれた子供が次代の「神の子」であるとする歪んだ教義

アレンは物心ついた時から、この歪んだ教義の中、彼女の母親の所属するコミュニティーで生きてきた

幸い、彼女が教団の「教義」に参加させられることはなかった

しかし、彼女が「女性」になればいずれはそうなるだろう

そう「決められていた」のだから

そして・・・彼女の目の前にあの白い悪魔が現れた

リスクなんてどうでもよかった

ただただ、つらい思い出しかないこのコミュニティーから去りたかった

彼女が目の前の白い悪魔に願ったこと

それは「コミュニティーから離れても、一人で生きていけるほどの金」

もうアレンは母親の所属するコミュニティーに居たくはなかった

教義という名目で、愛してもいない不特定多数の同性や異性と交わる「あの女」を母親と呼びたくもなかった

そしてコミュニティーから離れて、全てのしがらみを捨てた彼女が辿りついたのが「カルフォルニア」だった

短い夏と、長い冬に包まれる故郷とは違う空気にアレンの胸は高鳴っていた

 

 

その日は何時もと同じく、アレンはカンナと夜の闇に紛れて魔獣を狩っていた

アレンは薄々は感づいていたのかもしれない

カンナと別れる日が来るということを・・・・

 

~ ・・・・・・・ ~

 

アレンがカンナを見る

レモン色の髪に清廉な面立ち

いつもと変わらないカンナの姿

でも、その心の奥底には隠しきれない感情が渦巻いているようだ

 

 

私がアイツと出会ったのも、今日と同じ都会の暗闇の中だった

生活していたコミュニティーから離れて以来、私は「契約」で手にした金を使って一人で生活してきた

金は望めばいくらでも出せた

その金で身綺麗にしていれば、おせっかいな警察の目を引くことはない

まぁ、身代金かカラダ目当てに私を誘拐しようとした連中はいたが、そんなのは「魔法少女」の力の前では全く無力だ

死なない程度にボコボコにして、財布を抜き取ってから記憶を消して放置すればいい

無論、その日のうちに場所を移動しておくのが前提だ

最近は長距離バスでも身分確認が必要だが、そんなものは金をある程度積めば楽だ

そういったことを何度も繰り返し、気が付くと私が「あの女」から離れて、もう三年も経っていた

滞在していたデトロイト

その街のギャングの手から一人の少女を救い出した所為で、私はまた移動を余儀なくされた

私自身は「家族」というものが嫌いだ

でも、他人の不幸を見て見ぬ振りをするほどには腐ってはいない

少なくとも、自分の手の届く範囲で不運に見舞われているのなら助けるのはやぶさかじゃない

まぁ、そのおせっかいでこの「カルフォルニア」に流れてきたのだが・・・・

何時もの屋台で、大して美味しくもないホットドックを幾つか頼む

安い牛肉のソーセージを焼く匂いがあたりに立ち込める

人ではない「魔法少女」は、人間の様に食べなくても寝なくても死ぬことはない

しかし、少なくとも人間らしく振る舞わなければ人目を引く

人目は厄介な人間を引き寄せる

特に魔法少女だとバレたらことだ

噂によると、CIAには「ヘックス」と呼ばれる魔法少女がいるらしい

本当なら、今以上に目立たないようにしなければならない

その時アレンの目にがホットドックを待っている間、近くのベンチに置かれた新聞が映った

低級なタブロイド紙

何処にでもあるありふれたものだ

その見出しにはこうある

 

「カルト教団、謎の集団自殺!理由は接近する彗星か?」

 

何故見ようと思ったのか

今になってはわからない

彼女は吸い寄せられるようにその新聞を手に取った

・・・・・そこには聞き慣れたコミュニティーの名前と犠牲者達の名前

その犠牲者の中には・・・

 

「ママ・・・・・・」

 

アレンが知らない感情が噴出した

自分を神の子と信じない馬鹿な女

教団の聖なる教義と信じているが、実態はただの売春宿だった「コミュニティー」

全てをアレンは否定した

でも、自分の「母親」の自死を笑えるほど彼女の心は「凍えて」いなかった

フラフラとした足取りで、アレンは屋台を後にした

ホットドックの代金と、手を付けていないホットドックをそこに残して・・・

その夜も魔獣を狩りに出かけた

でも、その日は違った

 

「何・・・これ・・・・?」

 

思い通りに身体は動かず、そして魔法の効力は弱かった

アレンが見ると、ソウルジェムはどす黒く変色していた

穢れが溜まっていた

 

「・・・・終わり・・なの・・かな・・・・」

 

私がコミュニティーから離れず、母親の元に居れば自殺を食い止めることができたのだろうか?

今となっては答えはわからない

薄れゆく意識の中、アレンが見たのは魔獣の前に立つダークグリーンの外套を着た少女の姿だった

 

 

「アレン・・・話がある」

 

「え・・・?」

 

彼女を助けてくれた「聖カンナ」が見つめていた

 

「私はこの街を出る」

 

「そう・・・・・・」

 

カンナとは長い付き合いだ

本当は行かないでほしかった

でも・・・・・

 

「ここは私が守っているよ!後で縄張り寄越せって、言ったって遅いからね!」

 

できる限り、気丈に振る舞う

でも、アレンはその瞳から流れる涙を止めることはできなかった

 

 




そういえば使い魔は魔女になるんだよね?
ということは「偽街の子供達」も魔女化するってこと?

教えてエロい人

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