クリスマス用の「アスティ・スプマンテ」ゲット
高いシャンパンを飲み残すくらいなら、自分の好みの酒を飲むのが本道でしょ?
カルフォルニア
中流の世帯が多く住む住宅街
そこに「奇跡」の家族が住んでいる
ギャングに頭部を撃たれたことによる「遷延性意識障害」、所謂植物人間となっていた夫婦
しかし、丁度一年後に奇跡的に目覚めた
このことは全米中のテレビジョン・ケーブルネットワークに取り上げられた
一時期はハリウッドセレブの様にパパラッチに追い掛け回されていたこともあったが、今は普通の家族としての日常を、一人娘の「聖カンナ」とその家族は謳歌していた
まぁ、時折怪しげな宗教団体からの強引な勧誘もあるが、そういった宗教は決まって後日「反社会行動」がバラされて崩壊することが常だった
彼女の家は「あの不幸な事件」が起こる前と比べ、全く変わっていなかった
チリひとつなく、日本人である夫の趣味で置かれている古いマッチロックライフル ― 夫の話では先祖が作った回転式の収束銃身の火縄銃というらしい ― も飾ってあった
一人娘のカンナが全て掃除をしてくれたらしい
全てのモノが完璧な状態だった
広いダイニング
妙齢の女性が金色の髪を揺らしながら、一人夕食の準備をしていた
彼女が永い眠りから、夫とともに目覚めた時、あの日から既に一年以上の時間が経っていた
担当の医師からは彼女と夫が目覚めたのは正に「奇跡」であると告げられた
幸い、夫も私もその後の精密検査で身体には何の障害もないことがわかった
今でも思い出す
目覚めて最初に見た愛娘の「カンナ」
目に大粒の涙を浮かべながらも、嬉しそうにぎこちない笑顔を私達に見せてくれた
カンナは私達が目覚めるのをずっと待っていてくれた
夫ともども、何の障害のない健康な身体で目覚めることができた
それに夫は銃を持ったギャング達にも怯まず、銃を持って私達を必死で守ってくれようとしてくれた
私が目覚めて最初にしたこと
それは「愛すること」
もう迷わない
母国である「アメリカ」に忠誠心も愛着もあるが、しかし何よりもあのような形で愛する家族と別を告げる可能性もあった以上、既にこの国を離れる覚悟はできていた
日本でも危険はあるだろうが、少なくとも見知らぬギャングに銃で撃たれる心配はない
幸い、娘のカンナと夫は日本の国籍を持っている
日本への移住は問題なく済むだろう
当座の生活費は保険やいくつかの株券で賄えるだろうし、日本の「あすなろ市」には夫の名義になっている家が残っている
住めるようにするには、多少は改築が必要だろう
でも、隣県の見滝原市には世界的に評価の高いホテルや学校も多くある
娘のカンナに不自由を感じさせないはずだ
聖カンナの母親であるダイアナがダイニングを見る
此処にはカンナが生まれ、育った思い出が詰まっている
心の隅ではこの国を離れたくない思いも少なからずある
しかし、あの不幸な事件でカンナは一人残された
気丈に振る舞っていてもカンナはまだ子供だ
目覚めるまで、どんなに寂しい思いをしていたのだろう?
そう考えると胸が締め付けられる
だからこそ、私は故郷を捨てる
それが一人娘のカンナにしてやれる罪滅ぼしなのだから・・・・・
~ 起きたくない・・・・・・ ~
昨日、ジョーイの誕生パーティーから帰ってきて、カンナはそのままシャワーを浴びずにベットに横になった
今日が休日でよかった
こんな気分ではとても学校に行ける状態ではないし、当然何もする気も起きなかった
ジョーイが話した事実
―「私」はピクルスが食べられない ―
ジョーイとアマンダとはずっと一緒だった
だから、ジョーイが覚えていて自分が忘れていることなんてありえない
ましてや食べ物の好き嫌いなんて、忘れようとしても忘れられるはずがない
なら・・・・・・
カンナがクローゼットのに自らのソウルジェムをかざした
パキッパキッ!ガシャッ!
何かが砕ける音と歯車が噛み合うような音が響き、クローゼットの奥に小部屋が開いた
― 「ニコ」の部屋 ―
そこは彼女の現身である「神那ニコ」が使っていた部屋だ
スリーサイズも髪型も全て同じ彼女だが、衣服はカンナのものを使用できても、下着や生理用品などは共有できない
その為、両親が植物人間になって以来、こうして二人分準備していた
ニコが戦死してそれらはこの部屋に封印してある
それは残されたカンナにとってつらい記憶を思い出すことにつながる
だからこそ、此処へは来ていない
そう、ここにはカンナとニコの思い出が詰まっている
白い壁には、まだ幼かったカンナが「ニコ」を描いたクレヨンの絵がかかっていた
これはエレメンタリースクールでカンナが書いたニコの肖像画だ
まだ実体化する前だったから、このニコの姿は本人の言葉通りに描いたもので、その姿はカンナそのままの姿だった
結局はこれは「ニコの肖像画」ではなく、「カンナの肖像画」として扱われることになったのだが・・・・
「気のせいだよね・・・・?」
今はもういないニコに語りかけるように、カンナは呟いた
カンナを覆うぼんやりとした不安
その正体はわからない
幼い頃の話だ
何らかの記憶間違いとも考えられる
でも、なぜか心の奥底に引っ掛かる
答えを見出そうとして、カンナはその部屋へ踏み込んだ
クーポンの客に安発泡ワインを出すホテル
・・・・・客がアスティ・スプマンテを頼んだらどうするのかな?
まさか安発泡ワインに砂糖やシロップを混ぜんのかな?
*アスティ・スプマンテ
イタリア産の発泡ワイン
完全に発酵する前に瓶詰めする為、通常のシャンパンやプロセッコにない「甘さ」がある