人気のない教会に暖かな光と少女達の笑い声が響く
ダルマストーブの周りには美国織莉子、呉キリカ、佐倉杏子が座り、彼女達の前にはカップラーメンやおでんが置かれていた
人気の無い教会とはいえ、周りには民家もある
彼女達の存在が一般人の関心を引いてしまい、警察を呼ばれる可能性も考えられたが、織莉子の持つ「魂の欠片」の魔力を使った高密度の認識阻害結界でこの教会をすっぽり覆っているため、警察も彼女達を探す「敵」の目も欺くことができた
長らく使われていないとはいえ、杏子の育った教会は夜の寒さから彼女達を守っていた
「しっかり驚いたな!キリカが中沢のヤツと付き合っていたなんてな!!」
中沢直人、通称「中沢君」
偶然街中で出会った魔法少女修行の一環として「性転換」した真に一目惚れして、真をストーキングして「マギカ・カルテット」の核心まであと一歩のところまで迫った少年だ
そのそも、呉キリカと中沢が付き合い始めたのは中沢の持つ行動力を織莉子が高く評価して、何とか彼女の協力者にできないかと考えた上だった
しかし、それは「表向き」の理由だ
織莉子がキリカに中沢と付き合うように言った、本当の理由
それをキリカは知らない
~ 思えばキリカはいつも私とばかりといた・・・・・ ~
織莉子が目を伏せる
「かつての世界」での「キリカ」は織莉子の命令に愚直なまでに従った
今、こうして「別の形」でキリカと触れ合う内に、キリカには女の子としての幸せを享受して欲しいと願うようになった
あの中沢という男はキリカを絶対に不幸にはしない
だからこそ、安心してキリカを託せる
「でもキリカ、中沢と付き合って浮気されなかったか?アイツったら、いつもナメ子に質問されてもどっちでもいいと答えているんだぜ?」
「ナメ子って、早乙女先生のことだろ?。ははっ!それは本人から聞いたよ。ついでに真についてもね。真の奴に手痛くフられたことは中沢にとっていい思い出だって、カッコつけながら言っていたよ」
「あの中沢が?カッコつけて?ぎゃははははは!!!!ウケるぜ!!」
杏子が腹を捩って笑いをこらえる
結界の影響で、教会の中の声は外には漏れていない
無論、中でストーブを焚いているがこれも外からは探知は不可能
いつもと同じ、無人の教会にしか見えていない
「そう言う杏子だって、真のことをどう思っているワケ?」
キリカが食べていたおでんを置くと、一転反撃を開始した
目に怪しい光を宿して
「そ、それはだな・・・・」
「まさか肉奴隷とか?そういえば真から聞いたことがあったっけ、平常心を鍛える訓練とかの名目で女性化した後、かなりエグいタイトスカートを穿かせられてダンスゲームをさせられたとか・・・」
「あんにゃろ・・・・・言いたいこと言いやがって!!!」
ちなみにキリカの言っていることは事実である
「ほらほら言いなさいよ~~~!本当は真くんが好きでついつい性的ないたづらをしちゃて・・・・とかなんとかさぁ~~~!」
攻めまくるキリカ
いつもは強気の杏子も逃れるすべはない
「だって此処には許嫁の織莉子がいるし・・・・」
「私は関係ないわ。それに杏子さんが真さんをどう思っているか、それを聞くのも悪くないと思うし」
~ 助けてくれよ真・・・ ~
こういう時に、絶妙のタイミングでフォローにしてくれる相棒の名を杏子は心の中で呟いた
「今はそんなことどうでもいいだろ!」
「そう?あすなろ市で、ミチルさんやほむらさんを襲撃した相手には恐らく、洗脳能力や偽装能力といったかなりトリッキーな魔法を使用する魔法少女がいる。正直、今動ける魔法少女で戦闘経験を積んだ魔法少女は私達しかないの」
織莉子の言うことは正しい
戦闘の要といえる、巴マミが離反してしまった今となっては、新たに計画を練り直さなければならない
~ ・・・・・・ ~
織莉子の手の中には、対の指輪
真の母親「宇佐美命」がその人生の集大成として錬成した魔力の塊「魂の欠片」
これを巴マミの手から奪取できたことは上出来だといっていい
「私は真さんを愛しているわ。できれば契りを結んで子供を成したいと思っているわ」
「オ、オリコォ~~~~!!!!」
杏子が顔を赤らめる
「あら、女性として生まれた以上はそう望むのが当然よ。でしょ?佐倉さん」
「それは・・・・・・・」
杏子が俯く
その表情は見えない
「と、言ったらどうするかしら?」
織莉子がぺろっと、舌をだす
「てんめぇ!!!嘘だったのか!あたしをおちょくりやがって!!!!」
「落ち着いて佐倉さん。これから私達が相手にするのは、巴マミを落したかなりのテクニシャンよ。生半可な気持ちでは、たちまち手玉に取られてしまうわ」
「それとこれとどう関係があんだよ!!!」
「大アリよ。洗脳の基本は相手の弱みを握る事。特に人の色恋は洋の東西を問わず、人を堕落させる。中途半端な気持ちは付け込まれることに繋がるわ」
織莉子が杏子に顔を近づける
「ちょ!織莉子!!」
「答えを見つけなさいよ。私も答えを見つけるから・・・・・」
織莉子が立ち上がる
「今日は此処に泊まる予定だから、準備しなきゃ。キリカも手伝って!!!」
「わかったよ織莉子!」
二人が教会の奥に消え、そこには杏子一人が残された
「答えを出す、か・・・・・」
彼女はそっと自らを抱きしめた
テクニシャンと聞くと、イヤラシイ想像をしてしまいますね・・・・