鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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では投下します


管理された「絶望」

カツーン・・・・・カツーン・・・

 

「此処って意外と広かったのね・・・・」

 

巴マミがそう呟く

傍らを歩く真琴は彼女の呟きに笑顔で返した

 

彼女達がいるのはアンゼリカ・ベアーズの地下

廃墟のような外観からは判らなかったが、その地下はあまりにも広大だった

恐らくは何らかの魔法が使用されているのだろう

実際、結界を張る要領で建物全体に魔力を流して、その構造を根本から変えてしまうのも不可能ではない

別の街の魔法少女達の話だが、学校の空き教室や部活動の部室を魔力でもって拡張して、魔法少女としての活動拠点にしていることも珍しいことではない

それを踏まえて考えると、この「アンゼリカ・ベアーズ」があすなろ市全体を覆う大結界の中心であるのなら、並大抵の設備では大結界を維持するのは非常に難しいだろう

そう考えると、この広さも理解できる

正確に測ったわけではないが、歩数と目測で概算した結果だが、この地下施設の大きさは見滝原中学校並みの広さがあるようだ

マミが真琴と一緒に地下を歩いているのは、興味からではない

彼女の「調整された絶望と希望」、その正体を見定めたいからだ

 

「此処よ。私達のラボは・・・・」

 

歩みを止めた真琴の目の前には頑丈な鉄の扉

部屋全体からは何の音も聞こえず、外からはそこがどういう用途で使用されているかはわからない

そのある何者の干渉を受けない佇まいは、その昔映画で見たアメリカの「デス・チェンバー」 - 処刑室 - を思わせた 

ひょっとしたら、真琴はこの場所で私を処刑するつもりではないのか?

マミの不安が募る中、真琴が一歩前に進む

 

ピッピッ

 

真琴が扉の前の壁に手を触れた瞬間、光が灯り様々な意匠のボタンが浮かぶ

それに触れると、一定のスピードである種のコードを打ち込んだ

 

「ではどうぞ、ここには貴方の知りたいことの答えがあるわ」

 

 

音もなく扉が開くと、内部は薄暗く、時折水音や泡が弾けるような音がする

 

「ライトを点けるわね」

 

「!?」

 

カッ!

 

光がマミの瞳を刺激し、一瞬目を閉じた

マミがゆっくりと目を開くと、そこは大小無数のガラス容器が犇めき、その中では捩れた黒真珠のような物体が溶液に浸されていた

ともすると、学校の生物室のようにも見えるが、不快な薬品の臭いはしなかった

 

ゴポッ・・・・・・・

 

ガラスの容器を満たしている溶液は循環しているらしく、先ほど聞こえたのと同じ水音が響いている

 

「これが・・・・これは一体?」

 

ライトに照らされたその物体の色は、形こそ違うがどことなくグリーフ・シードのようにも見える

 

「これはイーヴル・ナッツ。でも今は生育中の物しかないけどね」

 

「イーヴル・ナッツ?」

 

「これが貴方の疑問の答え。なぜ、あすなろ市には瘴気が蔓延していなかったか?その答えよ」

 

真琴が愛おしげにガラス容器を撫でる

ガラス容器の中ではイーブル・ナッツが意思を持っているかのように揺らめいていた

 

「まさか・・・これが瘴気を吸い取っていた・・・・・?」

 

「ええ。これで瘴気を吸い取って魔獣が錬成されるのをを抑制しているわ。もともとこれは、ある魔法少女の集団が人造のグリーフ・シードを作り出そうとした、その失敗作よ」

 

「失敗作?」

 

「これはグリーフシードの穢れを吸い取ることもできたけど、それは微々たる量。それに穢れを吸い込む前に辺りの瘴気を吸い込んですぐに使い物にならなくなる。研究していた魔法少女達はあっさりと破棄したわ。その真の使い方に気付くこと無く」

 

「瘴気を吸って、魔獣を抑制する?」

 

「正解よ、巴さん」

 

確かに理に叶っている

「魔獣」の大本である「瘴気」を無くせば、そもそも魔獣なんて出てくるわけがない

そう考えると、あすなろ市に瘴気が全く感じられなかったことも理解できる

だが、それならば・・・・

 

「じゃあ、あの魔女モドキは一体何?」

 

マミの脳裏に浮かぶのは少女と戦っていた、人の欲の化身のような化け物の姿

不気味で滑稽なその姿は、魔獣とは違ったベクトルで恐怖を感じる

 

「イーヴル・ナッツも完全に無害ではないわ。運悪く取り込まれる人間もいる・・・・」

 

「あれは人間だったのね・・・・・」

 

「でも安心していいわ。イーヴル・ナッツは基本的に人畜無害よ。魔女モドキを倒して人間に戻すなら、魔女モドキに強い魔力でショックをを与えて吐き出させるしかない。でも、死ぬわけじゃない。魔女モドキになった人間は多少衰弱しているけど、命にはまったく別条がないわ。」

 

巴マミと真琴が「魔女モドキの結界」を後にする瞬間

あの少女が肌色の風船爆弾のような魔女モドキを倒した後には、魔女モドキではなく代わりにぽっちゃりとした女性が倒れていた

最初はあの「魔獣」の犠牲者だと思ったが、時間が無くて詳しくは調べていない

様子から見ると、どこにも異常がないようだった

もし本当なら・・・・・・・

 

「理由は一体?」

 

「この世界を呪いから解放するためよ。多くの人間を助ける力があるのに、呪いを解くこともできたのに、それを選ばなかった臆病者の手から・・・・・」

 

ライトが真琴の顔に影を落とす

その表情は見えなかった

 

 

 




愛車の空冷ビートルの調子が悪い・・・・・

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