鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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愛、震える愛~~~

いや、すみません・・・・


愛するということ

 

うち捨てられて久しい、ショッピングモール

そこに似つかわしくない、色とりどりの衣装を着た少女達が立っていた

彼女達の目の前には一人の少女

かつては自信と美しさに彩られた彼女からは、全ての生気が抜けきっていた

 

「杏子さん・・・・貴方には話したことがあるわよね?私が魔法少女になった理由を・・」

 

「ああ・・・・でもそれは今言うことじゃ・・」

 

杏子は口をつぐんだ

彼女 ― 巴マミ - は交通事故に遭い、瀕死の重傷の中「偶然」現れたキュウベェと契約することで魔法少女となり、生還することができた

見滝原を根城にしている「マギカ・カルテット」、恐らくその中で一番長く巴マミといた杏子は当然その事を知っている

しかし、その事が杏子の口から語られることはない

巴マミが常々、自らの選択を後悔していることを知っているからだ

 

― なぜあの時キュウベェに「家族全員を助けて」と願わなかったのか ―

 

そしてその後悔が「魔法少女」の巴マミの原動力になっていることも・・・

杏子は、それを「助けられなかった両親への償い」であると考えていた

しかし・・・・・

 

「助けられなかった両親への償いの為?ふふっ・・・本当は早く魔獣に倒されて、両親の元に行きたかっただけ・・・・」

 

杏子はマミの瞳を見た

光は消え、ただ云いようのない闇が広がっていた

 

「笑いなさいよ・・・・自殺しようと考えても、怖くてできない臆病者の私を・・・・」

 

「でもマミは逃げないで魔法少女をずっとやって来たんじゃねーのか!魔法少女になりたてで右も左もわからなかったあたしに戦い方や魔法の使い方を教えてくれたし、あの真を仲間に入れたのもマミじゃねーか!!!なんで・・・・なんで・・・あたしたちを裏切ったんだ!答えてくれよマミ!!」

 

杏子が絞り出すように叫ぶ

 

「ええ。杏子さん・・・それは私が寂しかったからよ。一人でずっと・・・ずっと戦い続けるのはつらいもの。だから私はマギカ・カルテットを作った。杏子さんにはきっとわからないのでしょうね、ずっと周りに家族や友人のいた貴方には!!!」

 

「ッ!」

 

「答えられないでしょ?そうよね!貴方は貧乏だった時のことは自慢げに話すけど、貴方は家族も何も失っていない。だから、本当の寂しさなんて知らない」

 

杏子が巴マミに圧倒される

杏子は本当の意味での「絶望」を知らない

杏子が「インキュベーター」と契約して魔法少女になったお蔭で、食べる物さえない貧乏生活から抜け出すことができた

父親が急に海外修行へ旅立ってしまうことがあったが、ほどなくして親戚のところへ身を寄せることもできた

まぁ、引き取ってくれた親戚は「レズ専門のデートクラブ」という、かなり「ボーダー」な仕事をしているが、杏子達家族を厄介モノ扱いせずに本当の家族のように考えてくれる

確かに思い返せばつらいことも何度もあったが、その都度家族が支えになってくれた

だからこそ、杏子は「絶望」に落ちることはなかった

 

「この歳まで、魔法少女をしているとだんだん将来が不安になってくるのよ・・・隣町の○○さんが円環の理に導かれたとか、魔獣に潰されて戦死したけど、遺体が結界に取り残されて葬式さえできないとかね。貴方達に誰一人おかえりなさいと言ってくれない、自分一人だけの冷たい部屋で泣いている気分はわかる?ある日、突然消えて・・・・誰も悲しんでくれず、誰も知らず、後に何も残らない恐怖で眠れなくなった経験は貴方達にある?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

もうそこに佐倉杏子が知っている「巴マミ」は居なかった

そこには生き延びる為には魔法少女となるしか選択肢はなく、慰めてくれるべき家族もなく、「師匠と弟子」や「先輩と後輩」ではなく一緒に笑いあってくれる友人すらいない、一人ぼっちの傷つきやすい「少女」が立っているだけだ

 

「だから貴方は・・・・・」

 

織莉子がマミに話しかけた

彼女とて、「かつての世界」で「厄災の魔女」を防ぐために無実の人々を虐殺した

マミの行動は許せないが、心の底では彼女を憎み切れなかった

 

「あの娘は約束してくれたわ、私を普通の少女にしてくれるって!だから・・・・!」

 

沈黙が訪れた

願いがどうであれ「魔法少女」である以上、戦いの先にあるのは孤独な死しかない

「女」の悦びも知らず、ただただ「魔獣」を狩るだけの孤独な日々

なら、どんな手段をとろうとも、生き残ろうとした彼女を誰が責めることができるだろうか

誰もがマミの心情に同情していた

 

「ならなんで私達を裏切った?」

 

「キリカ?!」

 

沈黙を破ったのはキリカだった

その瞳は怒りに満ちていた

 

「杏子は黙っていて!」

 

キリカの迫力に杏子は黙るしかなかった

 

「あんたの話なら、あんた一人が行けばよかった。何で私達を巻き込んだんだ!!!」

 

「そ、それは・・・・」

 

マミが口ごもる

 

「口では悲劇のヒロインを演じても、あんたはただの卑怯者だ!不幸な自分に酔っているだけだ!だから・・・・・だから誰も愛してくれないんだ!!」

 

キリカの脳裏に浮かぶのはたった一人の少年

 

~ 戻ってきたら、答えを聞かせてください。本当の答えを! ~

 

いつまでも待っているって言ってくれた・・・彼女の恋人の幼いながらも凛々しい面影だった

 

 

 

 

 

 

 




あれは誰だ 誰だ

あれはデビル デビルほ○ら デビルほ○ら


正直、すまん

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