鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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火曜日に観に行ってくるつもりだけど、特典が残っているか心配・・・・・


イドの中

暗いイドの回廊

二人の戦士はその中を歩くでも、飛ぶでもなく進んでいた

ふわふわと浮かぶような感覚は例えるなら、水の満たされたプールの中を進む様な様子だ

真を先導するのは蒼い髪の女騎士

少女はその後に続く灰色の髪をした少女の手を引いていた

その様子は暗い夜道を恐々と歩く、二人の姉妹のようだった

それを裏付けるかのように、青髪の少女 ― 美樹さやか ― に手を引かれている少女 ― 宇佐美真 - の表情ははやや不安げだった

 

「ねぇさやかさん・・・・この夢にはリミットはあるの?」

 

彼自身の本体は別の魔法少女に眠らされていて、彼自身が「現実」だと思っていた日々は幻想に過ぎなかった

今彼がいる場所は「夢の中の夢」、敵の監視さえ届かない「イドの闇」

言うなれば、ここは今いる夢の中の無意識 ― 心理学用語でいうところの集合的無意識 ― ともいえる場所だ

正直、相手がどのような方法で夢を見せて、またそれをどうやって管理しているかわからない以上、活動リミットを知ることは重要なファクターだ

 

「そうね・・・・夢には時間という概念はないわ。真が敵の手に堕ちている以上、余り無理なことや無茶はできないね。私達を閉じ込めている相手が此処の事を知ってしまったら、間違いなく何らかの手段をとるはずだから・・・・」

 

青髪の少女が目を伏せる

彼女の言う「何らかの手段」

それは「彼女自身の消去」、ないしは「封印」をも意味している

目の前の「さやか」は、恭介を救済する為に織莉子の手によって真にダウンロードされた「記憶」

真自身とリンクしていないからこそ、「美樹さやか」は相手の術中に落ちず、冷静に今の状況を理解することができた

そして彼女と接触が無ければ、真は自分が「魔法少女」であったことを思い出す事すらできなかっただろう

 

「・・・・さやかさんは僕が守るよ。絶対に」

 

灰色の髪の少女「宇佐美真」は決意を込めた瞳でそう宣言した

 

 

チュンチュン!

 

頬に暖かな朝日を浴びながら、真はいつも通りに覚醒した

見慣れた真の部屋は、昨日真が眠りに就いた時のままだった

何処も変わったところはない

でも、今は全てが空虚に見えた

 

~ 今、現実の僕は眠りに就いているんだよね・・・・ ~

 

真は柔らかな寝間着を肌蹴け、肌着代りのダークグレーのタンクトップをずらし自らの身体に触れる

変身した時はたわわな乳房に変わる胸は、男性特有の筋肉が息づきその奥底で心臓が力強く鼓動を刻んでいた 

ドクン、ドクンと動く鼓動は彼を安心させた

どれもこれも「夢」の産物には思えなかった

だが信じなければならない

この夢が真の願望が結晶したものであると・・・・・

 

「シャワー浴びよ・・・」

 

キュキュッ!

 

給湯器は一切の故障なく作動し、真は着ていたダークグレーのタンクトップと飾り気のないボクサーパンツを脱ぎ、シャワールームへと入った

この給湯器が故障したことは真が覚えている限り、一度だってない

しかし、それすらも敵の作った夢だったら?

暖かなシャワーの中で、真は知らず知らずその肢体を抱きしめていた

怖い

もし今までが全て夢の出来事だったら?

怖い

本当は狂ってしまっていたら?

あの夢の奥底で出会った「美樹さやか」を夢であると決めつけることができたら!

でも

でも彼女の言ったことに納得できることが多くある

この「世界」ではあれだけ助けようとした「上条恭介」は交通事故で既に他界していた

だからこそ、真は自然に「美樹さやか」の恋人となることができた

真が無意識にそう願ったからだ

同時に、真が関わっていた「マギカ・カルテット」の構成員たちも「改変」を受けていた

巴マミは「交通事故」で

佐倉杏子は「一家心中」で

暁美ほむらは自分の人生に「絶望」して

皆、真と出会う前に亡くなっていた

そしてこの夢の中では「魔法少女」も「魔獣」も存在していない

それがこの夢を理解する鍵だ

もしも

もしもだが、真を夢の中に閉じ込めている敵は何も彼を害する為にそうしているわけではないのでは?

なら敵と和解できるのではないだろうか

しかし、借りにそうだとしても情報は少なすぎる

なら今は自分のできることをするしかない

 

キュッ!

 

真はシャワーを止めると浴室を出た

 

 

「やっぱりあった!」

 

宇佐美邸別館

その中央リビングにあるマントルピースの上に置いてある古ぼけた目覚まし時計

真の父親が入手した「オルフェレウスの目覚まし時計」

これは中に内蔵した気圧計に同期した発条が気圧の変化で自動的に巻かれることにより、半永久的に螺子が巻かれる「半永久時計」だ

真は素早く後ろのノブで針を合わせる

 

ジリリリリリ!!!!!

 

確実にそれは作動した

 

 

真と「美樹さやか」が考え出した方法

それは「タリスマン」を作り出す事

これは真がイドの回廊に至って、繋がった他の魔法少女を目覚めさせる際に覚醒までのタイムリミットを設定することだ

現実、いや作り出された夢の世界で何かが真が目覚めなかったり、何等かのトラブルがあったら間違いなく敵の目を引く

これなら、ただ目覚めただけにしか見えない

 

「頼むよ・・・僕のタリスマン」

 

真はそう微かに呟いた

 

 

 

 

 




文中のオルフェレウスというのは、人類史上初めて永久機関を作ったといわれる人物です。
まぁ、コリン・ウィルソンは超小型のバネを木のフレームに埋め込んでそれっぽく見せたペテンと言っていますが・・・

ちなみに「半永久時計」というのは実在していて、ジャガールクルト・アトモスという名前で今でも買えます

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