月光に照らされ、銀の砂を敷き詰めたかのような砂漠
そして「恋人」の美樹さやか
目の前のさやかの手をとった瞬間、真の見ていた世界は崩壊した
鏡が砕け散るように、世界が砕けそこから湧き出したかのような暗闇に包まれる
彼が居るのは暗闇
目を開いても、そして閉じても暗闇は「暗闇」のままだった
例えるなら、原初の闇
所謂、「イドの闇」の中に真は居た
闇は人間を追い詰める
そしてその恐怖が狂気に変わるのは時間の問題だった
ギュッ
暗闇が真の手のひらを握った
「?!」
姿のわからない何者かに触れられることは恐怖以外の何物でもなかった
しかし不思議なことに恐怖を感じることはなかった
目には見えなくとも、真の手の平にさやかの体温を感じていた
それはどこか、ひどく懐かしい感触だった
~ 僕は・・・・・この感覚を知っている・・・ ~
真の脳裏に先ほどと同じ光景が浮かび上がる
「魔獣」を倒し、自分を助けてくれた「青騎士」を
そうだ
そうだったんだ!
「そうだ!僕は一度さやかさんに助けてもらっている!!!!」
その瞬間だった
急に闇が晴れた
目の前には闇に包まれる前に見た、青い騎士のような「美樹さやか」の姿
否、彼女はその手に冷たい光を放つサーベルを握っておらず、その代わりに優しい笑みを浮かべ真を見ていた。
そうだ
僕はあの白い巨人に襲われて・・・・それでさやかさんに助けられた
そして・・・・・
― キミは男の子だけど、魔法少女になれる素質があるよ ―
「その直後にキュウベェに出会って・・・」
真は自らの指を見る
そこには装飾の施された銀の指輪が嵌められていた
― キミの願いはエントロピーを凌駕した。解き放つといい、その願いの力を ―
「オパールのような宝石を手にしていて・・・急にそれが輝いて・・・・・」
そして「魔法少女」になったんだ!
「もう迷わない!だって僕は正義の魔法少女なんだから!!」
指輪が卵型の宝石 ― ソウルジェム ― に変わった
そしてそこから海の泡のようなものが彼の身体全体を包み込み、その泡の中で自らの魔法少女形態 ―「鉄仮面」の魔法少女 ― へと変わった
それと同時に目の前の「美樹さやか」の正体も知った
彼女は「円環の理」に導かれた美樹さやかを思い続ける、幼馴染の上条恭介を助ける為に、知り合った「全知」の魔法少女「美国織莉子」の手によって真に移植された「記憶」のみの存在
彼女は正確に言うなら、真の一部ではない
記憶を共有していないのだ
だからこそ、彼女は「影響」を受けずに、こうして真の目の前に現れることができたのだ
「教えてさやかさん・・・・今の状態を・・・」
知るのは怖い
でも、そうしなければならない
「目覚めてしまった」以上、再び微睡の世界に戻ることはできない
「ああ、わかってるよ真」
さやかの声は柔らかく、そして優しかった
「最初は真がダウンロードした記憶でしかなかった。でも、真が捕まって、他の魔法少女の魔法で眠らせられてしまったんだ・・・・」
さやかは目を伏せた
真はあくまで「さやか」の記憶をダウンロードしたのみで、そこに意思はないはずだ
でも、真がさやかの出てくる夢を見たことにより、「記憶」に疑似的なパーソナルを上書きすることにつながった
それは端的に言うのなら、美樹さやかの記憶をベースにした人工知能といえる
「あたしは真が愛してくれたから意思を持てたんだ。でも、あたしは真の一部で・・・こうして夢の中でしか干渉できなかった」
「じゃあ、佐倉杏子さんは」
「それはあたしが真に魔法少女だったことを思い出してもらいたくて干渉したんだ」
唐突に現れ、急に消えた「紅い髪の少女」
そう言われれば納得できる点も多かった
「ねぇ・・さやかさん・・・この夢から目覚めることはできる?」
真がさやかを見る
「今は無理。真を夢に閉じ込めている奴は相当に強い魔法少女だよ。でも方法はある・・・・」
「方法?」
「うん。真は共有的無意識って知ってる」
「ああ」
「それなら早い。あいつらは真だけじゃなくて、他の魔法少女も同じように夢に閉じ込めている。それを・・・」
「共有的無意識で一元管理してるってこと?」
「そう。だから、真がこうして目覚めることができたように、他の魔法少女も目覚めたら・・・この夢は終わる」
「でもどうやって?」
「あたしが真の夢に出てこれたように、他の魔法少女にも同じように干渉してみる」
理論上は可能だ
姿の見えない相手が夢を一元管理しているのだとしたら、真と同様に目覚めさせる可能性がある
「・・・・僕にも手伝わせてください」
「だめだよ!あたしは記憶から生み出された複製品だけど、真は違うんだよ!もし何かがあったら・・・・」
真はさやかの手を握った
「もう・・・・さやかさんを死なせたくないんです・・・」
そうだ
真は「美樹さやか」と出会ったのは一度きり
魔獣から助け出された「あの日」だけだ
真は一人きりで戦う彼女の痛みを引き受けたいと願い魔法少女となった
でも、彼がマギカ・カルテットと邂逅した時には彼女はもう・・・・
「私はただの記憶だよ?」
「それでも僕にとってはさやかさんです」
さやかは彼の灰色の髪を優しく撫でた
「なら一緒に戦おう!真!!」
「はい!!!」
二人は手を繋ぐと、無明の闇を走り出した
「SPEC」を見た後、「叛逆の物語」か・・・
ハードな一日になりそうだ