鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下します


黒い手

あすなろ市に突入して、早3時間

その間に「敵」からの攻撃はなかった

この結果に杏子は拍子抜けしたが、しかしこの街が相手の根城であることは変わらない

彼女としては今すぐにでも変身して相手を引きずり出したい思いもあるが、その事については織莉子から前もって、厳重に注意されていた

 

― いい?相手はあのほむらさんを無力化した程の実力者よ。おまけに相手の組織規模がどれくらいなのかもわからない。真さんの為にも、できる限りおとなしくして欲しいの・・・・ ―

 

織莉子が彼女に高圧的な態度をとっていれば、杏子はすぐ癇癪を起したに違いない

しかし、その時の織莉子はそういう態度を取らなかったばかりか、杏子に頭を下げて頼んできた

杏子は感情に任せて動くことが多いが、決して話の分からない人間ではない

それに真を救い出すには一人では無理であることは、感覚的に理解できる

それに・・・・

認めたくはないが、織莉子がゆまと真をいかに安全に、かつ確実に奪還できるかを考えている

なら杏子一人がから騒ぎしても状況は変わらないばかりか、さらに悪化するだろう

今はできる限り、計画通りに動くべきだ

暴れるなら、それ相応の時がある

ミチルが言っていた

 

― 命と金は賭けるべき時がある ―

 

少なくともそれは今ではない・・・・

 

 

午前中の探索を終えた四人は、あすなろ市の中心部に近い一軒の喫茶店で少し早い昼食をとっていた

 

「流石は織莉子のお勧めだけはあるぜ。値段の割にボリュームもあるし」

 

そう言うと、杏子はライ麦パンを使ったローストビーフサンドに噛り付いた

そのはずみで、グレービーソースが飛び出て彼女の口の周りを汚すが、それを拭わずそのまま食べ続ける

 

「それもそのはずよ。此処のオーナーシェフは昔、有名ホテルの厨房で働いていたから」

 

「へ~~~。よく知ってンナ」

 

「ああ見えても、キリカは食べ物にうるさいのよ。酢豚にパイナップルが入ってないと怒るし」

 

「普通は逆だと思うぞ」

 

「あら?パイナップルは酢豚に酸味と甘みを出すのと同時に、豚のから揚げを柔らかくする作用があるそうよ」

 

何時もと変わらない杏子の様子を見て、織莉子は優しく微笑んだ

 

「あら?巴さん。今日はあまり食欲がすぐれないのかしら?」

 

「え?」

 

見ると、巴マミの目の前の皿には先程頼んだターキーサンドがそのまま残されていた

おまけに彼女のロイヤルミルクティーは既に冷め切っていた

紅茶にこだわる、彼女らしからぬ行動だ

 

「何だマミ。ダイエット中かい?そういや、むちむちじゃありません!もちもちです!とか言っていたっけ」

 

そういうと、杏子がおもむろにマミの皿に手を伸ばして・・・

 

「てい!」

 

「ぐはっ!」

 

キリカのチョップが杏子の頭天に炸裂する

 

「ったく!お前はホント食い意地が張ってんだな!少しは遠慮くらいしろって!」

 

杏子が頭を押さえながら、涙目でキリカを見る

 

「痛ッ!マミが要らなそうだったから、もったいないしアタシが食べようと・・・・・」

 

「考え事でもしてんだろ?だってホラ・・・・」

 

キリカに言われて、杏子は改めてマミを見る

巴マミはまるで心此処にあらずといった様子で俯いていた

最近のマミはよく考え事をしているが、常に状況を見定めている

さすがに、ここまで無防備な状態になったことはない

それに、直接的な攻撃が今までなかったにしろ、此処は相手の根城だ

敵の固有魔法も、人数も皆目見当がつかない以上、これは由々しき状況だ

織莉子の持つ「相手を疑似空間に閉じ込める魔法」を使われたら、それこそ目も当てられない

 

「お、おい・・・・」

 

「あ・・・佐倉さん、もしよかったら私の分も食べていいわよ。今はそんなにもお腹が減っているわけではないから・・・・」

 

「お、おぅ」

 

― 何かがおかしい ―

 

そう杏子は感覚的に感じた

 

 

「織莉子さん、目的であるデータの収集はどう?」

 

「大分集まっているわ。特に此処の大結界の特性から考えて、魂の欠片の補助が無くとも一時間程なら、通常結界でも活動できるわよ」

 

「そう・・・・」

 

巴マミは静かに呟いた

 

 

「ねぇ、皆聞いて」

 

皆が食事を終えた頃、巴マミが口を開いた

 

「どうしたんだ急に?」

 

そこにいる全員がマミを見た

 

「織莉子さんの情報で、真さんが囚われている場所はわかっているわ。少し危険だけど、より詳しく敵状を調べてみてもいいと思うの」

 

「巴さん・・・・危険だわ」

 

織莉子がマミをけん制する

 

「ええ、だからこそよ。相手もここまで来るとは思っていないはず。その方が更に情報を得ることができるわ。ゆまと真さんの為にも」

 

四人に沈黙が訪れる

それを破ったのは杏子だった

 

「アタシはいくぜ・・・・今の時間を無駄にしたくはないぜ」

 

「あたしもだ。ゆまが心配だ」

 

キリカもそれに続いた

 

「織莉子さんはどうする?」

 

マミが織莉子を見る

 

「危険があったら引き返す。戦闘をしない。それを守るなら私も同意するわ」

 

「なら決まりね」

 

四人は喫茶店を後にした

ただ一人、心にしこりを持ったまま・・・

 

~ なんで・・・マミはあの時笑ったんだ? ~

 

全員が探索を選んだ時、確かに笑っていた

まるで・・・・・

「予定通り」であるというかのように・・・・・

 

 

 

 

 

 




私は酢豚にパイナップル派

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