鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下します


ワン・フォー・ロード

「皆準備できたかしら?」

 

巴マミが、できる限り穏やかな口調で傍らの佐倉杏子に声を掛ける

それは同時に自らの向けられた言葉であった

 

「ああ!」

 

紅い髪の少女 ― 佐倉杏子 ― が一抹の不安など全く感じられない、強い意志の籠った声でそれに答えた

 

「私達も用意はできてるわ」

 

「織莉子に同じ!」

 

白いドレスの少女 ― 美国織莉子 ― と黒髪で眼帯を付けた少女 ― 呉キリカ ― も、その声に応じた

彼らの目の前には一つの街全てを覆う巨大な結界「楽園」

あと数歩進めば、彼らはあすなろ市全体を覆う結界の中に踏み込むことになる

 

「みんな時計出して!時間を合わせるわよ」

 

皆が時計を出してそれぞれ時間を合わせる

普段は時計を持ち歩くことのない杏子も、今回は彼女の父親の持ち物だった古い銀の懐中時計を持参している

 

「あら?ウォルサムね」

 

「うぉるさむ?何だよそれ?」

 

「時計のメーカーの名前よ。懐中時計専門のメーカーで買えば今でも60万円くらいするわ」

 

「ったく、なんで親父はそんな値打ちのあるもんを売り払って金を作んなかったんだよ。そうすりゃ、妹もひもじい思いをしなかったのに・・・・」

 

杏子が俯く

 

「事情は分からないけれど、少なくとも貴方のお父様は利己的な感情では行動していないと思うわ。ひょっとしたらだけど、これは貴方達家族への遺産だったのかもしれないわね・・・・」

 

宗教家は資産を持つことはできない

特に伝統的な宗派となれば、尚のことだ

それ故、杏子の父親は高価な銀時計を「遺産」として家族に残そうとしたのだろう

だからこそ、最後までその時計を売らなかったのだろう

織莉子の能力を使えば、真実を知ることは簡単だ

でも、そんなことをしなくとも、この銀時計をいかに大切に扱っていたかは時計を見れば明らかだ

見た目は飾りのない、蓋をすることのできるハンターケース式の銀時計ではあるが、歪みや凹みはまったく見られず、アナログな手巻き式時計ではあるが、時刻に遅れは全く見られなかった

 

「そうか・・・・・」

 

杏子が言葉少なげにそう答えた

父親のおかげで、彼女、いや彼女の家族がどういった苦境に立たされていたかは杏子自身から聞いている彼女が自らの父親にどういった感情を持っているか

今それを知ることは必要ない

彼女が自らの感情に折り合いをつけるのは、杏子自身だからだ

 

 

軍隊用語における「ハック」

腕時計の秒針停止機能の事を「ハック機能」と言うが、それは作戦行動前に「ハック!」との掛け声で各自の時計を合わせたことに由来している

キリカが持参したハミルトンの「カーキ・フィールドメカニカル」などには元が軍用時計である為か、秒針停止機能がつけられている

因みに織莉子は軍用のロレックス・サブマリーナだったりする

今回の作戦は時間が全て

全員が同じ時間に突入し、敵との接触をできる限り最少にして速やかに撤退する

巴マミの持つ、「魂の欠片」でブーストした結界がどれくらいの障壁になるかはわからない

だが、織莉子が「楽園」の情報を入手する為に必要な時間は30分

それも概算でしかない

現に、織莉子の「検索」でも相手の正体は不明だ

魔法少女というものはあやふやな存在だ

その詳しい情報を得ようするなら、正確な情報が必要不可欠だ

無論、それでも完全に情報を閲覧できるとは限らない

拉致された真は「魔法少女」に変身できる少年というイレギュラーだ

故に彼の情報を閲覧する際はかなり情報が入り組んでいる

今彼女が得ている情報は、彼とゆまがあすなろ市にある「アンゼリカ・ベアーズ」という廃墟になった博物館に連れ込まれたということまで

それも「真」の検索ではなく、「ゆま」の情報を検索した際に一緒に出た情報でだ

何が起こるかわからない

冗談ではない

本当のことだ

でも・・・

 

「私達には進むだけしかない・・・・」

 

織莉子の呟きに皆は静かに頷いた

そして・・・・四人は「ライン」を越えた

 

 

シュォン・・・・・

 

「楽園」の中は見滝原と全く変わりが無く思えた

 

「お、おい!此処って本当にアノ結界の中なのか?」

 

「ええ、まちがえないわ・・・・空を見て」

 

杏子が頭をあげると、大規模な魔法陣が広がっていた

 

「あ・・・ああ」

 

「急ぎましょう。時間は有限だわ。相手が魔法少女である以上、私達の侵入に気付かれているはずだわ」

 

結界は言うなれば魔法少女にとって身体の延長といえる

それこそ、魔力を纏った魔法少女が入り込めば直ぐに対応するはずだ

 

「それなら大丈夫よ。キリカお願い!」

 

「ああ!」

 

眼帯を付けたキリカが自信たっぷりにそれに応じた

 

 

「で、なんで変な粉を撒いてんだ!」

 

「しっ!折角、猫が近づいて来てんのに邪魔すんな!!」

 

キリカが撒いたマタタビに釣られ、野良猫が集まってくる

 

「四匹集まった?」

 

「ああ!ちょうどさ」

 

「ならお願い」

 

キリカを中心に四枚の写真パネルのようなものが浮かび、それが四匹の猫を覆い包んだ

そして・・・・

 

「お・・・おい、これって・・・」

 

四人の目の前には全く変わらない魔法少女形態の四人が立っていた

 

「これで相手を巻くっていうのか?」

 

「当然!魔力を纏っているから私達と変わらないから、相手も手を焼くはずよ」

 

自信満々のキリカを余所に、一人巴マミだけは浮かない顔をしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




デカアツ時計って、買ってからしばらくは楽しいけどすぐ飽きるよね

まぁ、普段使っているグリシンのエアーマン24時間表示モデルも結構厚くて重いんだけど

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